作家生活20年を迎えた山田詠美の短編集である 装丁は可愛いキャラメルの絵
わたしは本を読むとき たいてい あとがきから読んでいく
「・・・ とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである。
ある人のすっくりと立った時のたたずまい。 その姿が微妙に歪む瞬間、
なんとも言えぬ香ばしさが、私の許に流れつく。」
この文章を読んだだけで 作者の豊かな言葉の情感が感じられて 物語への期待がわく
「日頃から、肉体の技術をなりわいとする人々に敬意を払って来た。・・・」
この本は 肉体労働の男たちを主人公にした恋が6編収められている小説集である
間食・・・自分を高所恐怖症かもしれないと思う鳶職の男が年上の女と若い女を行き来する
「落ちるのが恐い人は落ちないよ。 それに、下で退屈する人は、必ず登れる。」
こういうことをさらりと言う変人扱いされてる仲間寺内に 自分の三角関係を話す
「で、加代さんて人は、誰に可愛がられてるの? そう? でも、前にはいた筈だよ、
加代さんをうんと可愛がっていた人。きっと、どこかで断ち切られてしまったんだろう。
きみも溜まっていたから、 花ちゃんって人に行っちゃったんでしょ?」と寺内が言う
夕餉・・・堅実な家庭を捨てて ごみの清掃作業員と同棲をする女
「好きな男に極上の御馳走を食べさせてやる 料理欲は私の愛の証し」 と言う
「彼の体は、私が作るんだ。 私の料理から立ちのぼる湯気だけが彼を温める。」
手際よく料理の下ごしらえをしていく描写に 作者山田詠美の料理好きを窺わせる
「ゴム手袋をしているとは言っても、危ないものが沢山出されている。
もしかしたら、彼の手にした一番危ないものは、私だったかもしれない。
寄る辺ないひとりの女の人生を、 彼は、いつの間にか引き受けてしまった。
私の心は、ますます彼に傾いている。 憐れみに肉体が加わると恋になる。
そこには、かけがえのない もの哀しさが生まれ出づる。 」
「それまで、私は、自分の体がそうなるのを知らなかった。
きちんと下ごしらえをされれば、私の体だっておいしくなる。
欲しがられてると感じる。 なんだか泣きたい気持ち。 」
風味絶佳・・若い恋人がいる70歳の祖母と ガソリンスタンドに勤める20歳の孫のお話
横田基地のそばでバーを営む祖母 若い頃アメリカ人と大恋愛をして
捨てられたらしい祖母のアメリカかぶれした視点や言動がユニーク
私の脳みその皺は、このキャラメルのおかげで増えた。 キャラメルが恋人。
それでは恋人とはなんなんですか 必需品に決まってるじゃないの と祖母が言う
好意を持っていたガソリンスタンドの女の子に振られた孫が叫ぶ
「あんな女、もう顔も見たくねえよ!!」
「良かったじゃないか、ようやくそういう人が出来て」と祖母が言う
海の庭・・母と作並くんは幼馴染だ。 私の高校入学が決まるのを待って両親が離婚した時、
母の実家に身を寄せることになった私たちの引越しの際の作業責任者が彼だった。
あの引越し以来、30年ぶりに再会した彼は、たびたび、この家にやって来る。
二人は、縁側に腰を下ろし、言葉少なにお茶を飲む。
二人は、初恋をやり直しているのではないか、と推測する。 あの年齢だもの、
それなりの経験は積んできた筈だ。 それなのに、少年少女みたいな風情でいる。
もっと、年相応の男女として振る舞ってはくれないものか。
ひとり身の寂しい女とそこにつけ込む男という構図の方が、まだ腑に落ちる。
「作並くんは、昔のママが好きなんでしょ?」
「おれが見てるのは、年取った今の彼女だよ。 おれの戻りたい場所を
ちゃんと隠してる。 おれは、もう一度そこに辿り着きたいの。」
「それって、やっぱ、初恋やり直すってことじゃん。」
「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」そうだったのか、と腑に落ちた。
二人は、子どもの純粋さを取り戻そうとしていたのではなく、 大人の淫靡さを
作り上げようとしていたのか。
アトリエ・・排水槽清掃や貯水槽の清掃や設備のメンテナンスの仕事をする私は
悲惨な過去を持つ麻子と出会い 同情し 惹かれ結婚する
「私は、一日を終えて、麻子と二階に上がって行く瞬間を心から愛しました。
階段が軋む音は、前奏曲のように期待を抱かせます。」
妊娠をきっかけに 麻子が壊れていく
春眠・・・章造が、大学時代に恋心を抱いていた同級生弥生は 章造の父親と結婚してしまう
父梅太郎は 斎場総合メンテナンスの会社に勤務している 火葬の業務委託
「親父は、弥生のこと全部解ってるって言うの?」
「当たり前じゃん。 私が側にいるだけで、おとうちゃんには全部お見通しなんだよ。」
「へえ、そんなに親父って頭良かったっけか。」「そういう時に使うのって頭じゃないんだよ。」
弥生は、突然、父のかいた胡坐の上に倒れかかった。そして、膝頭に頬をこすり付けて言った。
「にゃーにゃー」「こういうふうにしてると、色んなことが解って来るんだよ」
親父たち、見るに耐えないと思わないか? と章造は妹に尋ねる
「お父ちゃん、若い奥さんもらってタガが外れたのよ」と妹が答える
「悪い意味で言ってるんじゃない。 弥生ちゃんに外してもらったのよ。
お父ちゃん、 やっと本当の自分になったんだよ。」と妹が言う
本の中のいいなぁと思う文章を抜粋してたら きりがない
作者の人物たちへのあったかい視線を感じる 恋の真実がきらりと光っていて感激する
うんうん そうだよね そういう感覚だよね と思い当たる
愛したい人 愛されたい人 そのときの自分にとって最良の人との出会い
出会えた縁を大切にしたいと思う
わたしは本を読むとき たいてい あとがきから読んでいく
「・・・ とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである。
ある人のすっくりと立った時のたたずまい。 その姿が微妙に歪む瞬間、
なんとも言えぬ香ばしさが、私の許に流れつく。」
この文章を読んだだけで 作者の豊かな言葉の情感が感じられて 物語への期待がわく
「日頃から、肉体の技術をなりわいとする人々に敬意を払って来た。・・・」
この本は 肉体労働の男たちを主人公にした恋が6編収められている小説集である
間食・・・自分を高所恐怖症かもしれないと思う鳶職の男が年上の女と若い女を行き来する
「落ちるのが恐い人は落ちないよ。 それに、下で退屈する人は、必ず登れる。」
こういうことをさらりと言う変人扱いされてる仲間寺内に 自分の三角関係を話す
「で、加代さんて人は、誰に可愛がられてるの? そう? でも、前にはいた筈だよ、
加代さんをうんと可愛がっていた人。きっと、どこかで断ち切られてしまったんだろう。
きみも溜まっていたから、 花ちゃんって人に行っちゃったんでしょ?」と寺内が言う
夕餉・・・堅実な家庭を捨てて ごみの清掃作業員と同棲をする女
「好きな男に極上の御馳走を食べさせてやる 料理欲は私の愛の証し」 と言う
「彼の体は、私が作るんだ。 私の料理から立ちのぼる湯気だけが彼を温める。」
手際よく料理の下ごしらえをしていく描写に 作者山田詠美の料理好きを窺わせる
「ゴム手袋をしているとは言っても、危ないものが沢山出されている。
もしかしたら、彼の手にした一番危ないものは、私だったかもしれない。
寄る辺ないひとりの女の人生を、 彼は、いつの間にか引き受けてしまった。
私の心は、ますます彼に傾いている。 憐れみに肉体が加わると恋になる。
そこには、かけがえのない もの哀しさが生まれ出づる。 」
「それまで、私は、自分の体がそうなるのを知らなかった。
きちんと下ごしらえをされれば、私の体だっておいしくなる。
欲しがられてると感じる。 なんだか泣きたい気持ち。 」
風味絶佳・・若い恋人がいる70歳の祖母と ガソリンスタンドに勤める20歳の孫のお話
横田基地のそばでバーを営む祖母 若い頃アメリカ人と大恋愛をして
捨てられたらしい祖母のアメリカかぶれした視点や言動がユニーク
私の脳みその皺は、このキャラメルのおかげで増えた。 キャラメルが恋人。
それでは恋人とはなんなんですか 必需品に決まってるじゃないの と祖母が言う
好意を持っていたガソリンスタンドの女の子に振られた孫が叫ぶ
「あんな女、もう顔も見たくねえよ!!」
「良かったじゃないか、ようやくそういう人が出来て」と祖母が言う
海の庭・・母と作並くんは幼馴染だ。 私の高校入学が決まるのを待って両親が離婚した時、
母の実家に身を寄せることになった私たちの引越しの際の作業責任者が彼だった。
あの引越し以来、30年ぶりに再会した彼は、たびたび、この家にやって来る。
二人は、縁側に腰を下ろし、言葉少なにお茶を飲む。
二人は、初恋をやり直しているのではないか、と推測する。 あの年齢だもの、
それなりの経験は積んできた筈だ。 それなのに、少年少女みたいな風情でいる。
もっと、年相応の男女として振る舞ってはくれないものか。
ひとり身の寂しい女とそこにつけ込む男という構図の方が、まだ腑に落ちる。
「作並くんは、昔のママが好きなんでしょ?」
「おれが見てるのは、年取った今の彼女だよ。 おれの戻りたい場所を
ちゃんと隠してる。 おれは、もう一度そこに辿り着きたいの。」
「それって、やっぱ、初恋やり直すってことじゃん。」
「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」そうだったのか、と腑に落ちた。
二人は、子どもの純粋さを取り戻そうとしていたのではなく、 大人の淫靡さを
作り上げようとしていたのか。
アトリエ・・排水槽清掃や貯水槽の清掃や設備のメンテナンスの仕事をする私は
悲惨な過去を持つ麻子と出会い 同情し 惹かれ結婚する
「私は、一日を終えて、麻子と二階に上がって行く瞬間を心から愛しました。
階段が軋む音は、前奏曲のように期待を抱かせます。」
妊娠をきっかけに 麻子が壊れていく
春眠・・・章造が、大学時代に恋心を抱いていた同級生弥生は 章造の父親と結婚してしまう
父梅太郎は 斎場総合メンテナンスの会社に勤務している 火葬の業務委託
「親父は、弥生のこと全部解ってるって言うの?」
「当たり前じゃん。 私が側にいるだけで、おとうちゃんには全部お見通しなんだよ。」
「へえ、そんなに親父って頭良かったっけか。」「そういう時に使うのって頭じゃないんだよ。」
弥生は、突然、父のかいた胡坐の上に倒れかかった。そして、膝頭に頬をこすり付けて言った。
「にゃーにゃー」「こういうふうにしてると、色んなことが解って来るんだよ」
親父たち、見るに耐えないと思わないか? と章造は妹に尋ねる
「お父ちゃん、若い奥さんもらってタガが外れたのよ」と妹が答える
「悪い意味で言ってるんじゃない。 弥生ちゃんに外してもらったのよ。
お父ちゃん、 やっと本当の自分になったんだよ。」と妹が言う
本の中のいいなぁと思う文章を抜粋してたら きりがない
作者の人物たちへのあったかい視線を感じる 恋の真実がきらりと光っていて感激する
うんうん そうだよね そういう感覚だよね と思い当たる
愛したい人 愛されたい人 そのときの自分にとって最良の人との出会い
出会えた縁を大切にしたいと思う