華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

クジラアタマの王様  伊坂幸太郎 著

2020-03-18 20:20:47 | ★本
図書館に予約していた本の順番がやっと回ってきて 昨日から読みはじめた
なんという不思議なタイトル 
あらすじも知らずに読みはじめ ところどころコミックパートが挟まれていて 
いよいよ わけのわからない小説だなぁと読みはじめた
黒澤の登場しないお話
こういう小説も書くのだなぁと読み進めるうち チョーびっくり
2019年7月の書き下ろし作品なのに たった今の新型コロナウイルスのことを書いてるのかと驚いた
感染症の広がり方 世間の反応 人々のパニック デマ 排除 パンデミックが起きるという言葉さえも書かれている
伊坂幸太郎って予言者かしらンと思ってしまった
作家の想像力と創造力 比喩って 偉大だなと思う
ご本人は たった今のこの新型コロナウイルスの状況を どう見ておられるのかなぁ



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ぎゅっと縮こまって 考える

2019-10-13 11:47:17 | ★本
大きな台風が去って 空が青くひろびろと晴れ渡る

天気予報が台風の襲来に繰り返し注意を促し 誰もが予防 備え 守りに動いたと思う

友人は 外出できないなら この際だから家の大掃除するわ と言っていた

わたしも本など読む気にもなれず なんとなーく家のなかを見直し 片づけていた

やって来る大きな自然の脅威は わたしを内省的にする

もしも大きな被害にあったら わたしは どう行動するのだろう

何を持って 何を諦めて逃げるのだろう

これでおしまい と覚悟しなければならないとき 越しかたを悔いなく振り返れるだろうか

誰に会いたいと思うだろう

台風の迫らない平穏な日常にも きりりとした緊張の意識はもっていたいなぁと思う


台風のさなか 働いていた人たちのことを思う

避難所で 夜通し働いていた人たちは 自宅に家族を置いての出勤なんだよね

外で報道の様子を送る人たちも 電気 ガス 水道 交通機関 ダムの仕事の人たちも…


川の氾濫の状況が判明してくる

台風一過の晴天を喜んでばかりもいられない 


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” 火山のふもとで ”   松家 仁之 (まついえ まさし)著 

2013-01-20 14:52:45 | ★本

数ページを読みはじめて  読みごこちのいい文章だなという印象を受けた

端正な文章  言葉のスッキリした積み重ねが  読む者の気持ちに素直に馴染んでくる

高原の景色の描写に 風を感じる

道を歩いているときの木立の葉ずれ 聞こえてくる鳥の鳴き声には  わたしもこの風景の中を歩きたいと思わせる

建物の描写を読んでいると ぜひ 写真で見せてほしいと思う

実在の建物ならば  訪ねてみたいと思う美しさである


登場人物たちも 慎み深く穏やかで 個性的だ

誰もが 先生を敬愛し大切にしてるのが 夏の家の和を作ってるのだろうな

建築学のことには門外漢だけれど 緻密な丁寧な仕事は きれいだ

仕事への誠実な姿勢は 自分を育てるのだと思う

わたしも この夏の家のスタッフに加えてほしいと思う心地よさである

国立現代図書館の設計コンペへ向けて 所員たちが仕事をしていく

一つの建物を作るのに こんなにも過程を踏むことに 畏敬の念を覚える


「夏の家」の時間は ほんとに素敵だ

畑で丹精した野菜たちは朝の食卓に豊富に並べられて  なんて美味しそうなんだろう

建築をする人たちは さりげなく食通らしく さっとお菓子を焼いたり ローストビーフを作ったりする

クルマやオートバイも外国のもので  豊かな暮らし方をしてるなぁと その嗜好を羨ましく思う

暖炉で薪を焚く様子も 燃え上がる火の様子がきれいで  爆ぜる木の匂いがわたしの鼻にも届くような気がする 

わたしは 京都やかつての城下町を訪ねて 古い家を見て歩くのが好きである

長く人の住んできた家や ある時代の洋館なども 眺めてて楽しい 

静謐という言葉を思い浮かべる



おりしも代々木の新国立競技場建設案へ 世界中から46のデザインが応募されて ザハ・ハディド氏の作品が選ばれた 

スポーツの躍動感を思わせる流線型の斬新なデザインには 意表をつかれた

このザハ氏たちも たくさんの時間を費やして 設計プランを作ったのだろうと思うと

いま  この本に出会えて とても よかったと思う







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好きな本

2012-09-21 20:42:04 | ★本

 梨木香歩の” 家守綺譚 ”を はじめて読んだとき  読み進みながら 頭の中が透明になっていくようだった

 小説のなかに醸し出される雰囲気が とても気持ちよくて  読み終えたくないと思ったほどである

 初めて出会った作家であり  絶対に 作者は男性と思いこんでしまったが  女性なのでした

 一読して わたしのココロのなかの好きな本の棚に並んだけれど  初読以来  読んでいない
 好きな人に会いたいけれど 会わないでおく・・っていうあたりかなぁ 

 某誌に ” 続・家守綺譚 ”が 掲載されている

 じっくり ゆっくり 情景を想像しながら  惜しみつつ 読んでいる 

 至福なひとときです 



 ある人がエッセーのなかで  幸田文の本を大好きだ と書いてあった

 そういえば  しばらく読んでないから ひさしぶりに読んでみようとて  図書館から 数冊 借りてきた

 図書館の書棚に並んでいたので すぐに借りられたけど  それもまた なんとなく 一抹の寂しさがある

 想いを文章に書き連ねるのに 迷いなどありようもないと思うけど  幸田文の文章は  はきはきしている

 実際に会ったら  その場に居るだけで 圧倒されてしまうだろうか
 いやいや 強い人は 強ければ強いほど  深く優しいのである  ・・・と思う 


 わたしは  どうにも 断固として ものを言いきれない

 高校生の頃  嫌な人の行動に腹が立ち  その人の弱点に まっすぐ ぎりっと矢を放つことを言った

 まともに当たり  彼女は 深く傷ついたようだった

 わたしは 一瞬 心の中で快哉を叫び これまでの溜飲が下がったけれど  その人の打ちひしがれる姿を見て  たちまち 悔いた

 熟考し 反芻してから  ここだという中心の的へ射るので  命中するのかもしれない

 わたしの強さを そういうことに使うのは止めようと思った

 他人の弱点など 見て見ぬふりでいいのだ   

 3,4番目あたりのことを やんわり言ってるくらいで  いいのだと思う

 だから 人の噂話 ケンカ話も  片方の言い分として 半分に聞いている
 他人の目で自分を見ないようにしてるけど  なんとな~く ほにゃりと甘いわたし像のような気もして  やや悩みどころでもある 







 


 

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” ニサッタ  ニサッタ ”     乃南アサ 著

2010-10-08 16:00:36 | ★本
 著者の新刊案内の書評を読んだときに この本も紹介していたので  図書館に予約したら  

 厚いハードカバーの本が すぐに 届いた

  たぶん 乃南アサは  初めて読む

 ” ニサッタ ”   アイヌ語で  明日 という言葉


 どこにでもいそうな普通の大学卒の男性が  いかにして 仕事を失い お金に困り  貧窮していくかというお話である

 主人公の考え方 性質が そういう運を呼ぶのか   ありうるだろうなぁという状況で  どんどん 貧乏になっていく

 現在 ネットカフェに泊まり込みをする人が増えているということ  壮年の男性がホームレスをしていることなどに

 なるほどなぁと 妙に納得させられてしまう

 最近  断捨離とかいう言葉で 不要な物を捨ててシンプルに暮らすと 生き方 ものの考え方によきプラスがある という記事を見かける

 身の回りに溜め込み 未整理の物たちを見直して片づけ  ほんとうに自分の必要なものを見直すという考え方は  大賛成である

 なにによらず シンプルが大好きなわたしであるけれども  山の中で生きていける者でもないかぎり  まず 住むところが要るのである

 そのためには どのくらいかのお金が要り  継続して収入を得る仕事もなければならない

 この小説を読みながら  あらためて 生きること 生活していくということを考えさせられた




 

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” 銃 ”     中村 文則 著

2010-08-09 22:32:30 | ★本
 「 拳銃を持ち歩くようになってから、 私は注意深く生活するようになった。 
   私の毎日は心地よい緊張感に満ち、 体の奥から湧き上がる、突き刺すような刺激を掌に感じた。 」

 
 この小説がデビュー作で 新潮新人賞を受賞し 芥川賞候補になった作品だという

 こういう主人公を書かなければならない作者の心に 目を見張る

 部屋の中で眺めていた拳銃を バッグに入れて持ち歩きたくなり 撃ってみたい衝動を抑えられなくなり・・

 銃などに縁がなく暮らしてた者が 入手してしまったことから  彼の日常が変わっていく

 他人に隠さなければならない秘密というものは 一個人のささやかな矜持 拠り所になるのではないだろうか

 事の良し悪しはともかく  こっそりの善意や親切  恋や不倫  やめられない盗癖

 だんだん 自分の胸の内では満足していられなくなり  あえて 他人の目に触れるよう行動したり  チラリと ほのめかしたりする

 自分の内にしまい込めない秘密は  秘密自身が意思を持つかのように大きくなって 持ち主を破滅に導いていく



 なにかの書評を読んでるときに 中村文則という作家にふれていて その小説を例えに挙げていたので 読んでみた

 ” 遮光 ”  野間文芸新人賞 受賞

 ” 土の中の子供 ”  芥川賞 受賞

    主人公の感じ方に共感できるところもあって ふだん忘れている自分の暗部が立ちあがってくる

    こうして 変わっていく主人公を書いていける筆の力は すごいなぁと敬服する

    もうすこし この人の本を読んでみたくて 3冊ほど 図書館に予約しているので  読むのが楽しみでもあり 怖くもある







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” 逆境を生きる ”    城山 三郎 著 

2010-06-07 08:32:23 | ★本

 印象に残った言葉  励みになる言葉の抜粋

「 これから先プロの作家としてやっていくのだから いつも自分を少々無理な状態の中に置くようにしなさい 」  伊藤整

インスピレーションは自分で作り出すものだ  生み出すように 絶えず努力しなくてはならない

自然な状態で待っていてはダメなんです

負荷をかけるというか 無理をしなくてはいけない

少しだけ無理をしてみる

自分がいる箱の中に安住してしまってはダメで 自分がその中にいる箱から出て行こうと チャレンジし続けなくてはならない

安住しないことは初心を忘れないことでもあります

自分と合わない人間でも その人の生き方とか生きている姿勢に興味をおぼえ 理解していく


  
  ひと月ほど前に読み終えて  抜粋して 書きかけてた言葉である

  わたしは ほんとに  こういう頑張り言葉が好きだなぁ 

  これは  普段 頑張ってないから よけい 惹かれるのかしらン 

  あるいは  ココロの底に共感する部分があるから  わが意を得たり なのか

  どちらにせよ  見てしまったからには 読んでしまったからには 実行しなくっちゃならないンだろうけど
  抜粋しただけで 身に着くのなら  よいなぁ  





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” つばくろ越え ”   志水 辰夫 著

2009-11-25 16:35:55 | ★本
 秋深しの夕暮れは  夕焼け空も だんだん寒そう

 空の色合い お天気に ココロが左右されるわたしには  十一月は 気分的に まだ晩秋である

 晩秋の夕暮れは 夜へ向かって 凍える予感の美しさである

 ぜ~んぜん 寂しい風景じゃないなぁ     ちっとも 物悲しい景色じゃないな

 あるがままの自然の時間を きれいだなぁと見惚れる

 いつになく余裕っぽい 凪ぎの心象  



 時代小説を 読み続けている

 わたしの本読みのナビは 新聞や情報冊子の書評欄である   

 書評氏の推薦文に食指が動いたのが この小説で  志水辰夫は 初めて読む作家である

 ”つばくろ越え”は 江戸時代の飛脚が主人公の小説である

 飛脚は 各地にある継立地まで一区域ごとに運んでいくものだったようであるが

 このお話は 一人で目的地まで運んでいく ” 通し飛脚 ”の物語である

 胴巻に八百両の重い大金を巻きつけて 本街道を避けて 人の通らない道や山や峠を越えて 送り届けをする

 いわくありげな手紙や荷物を運ぶときもあり  仕事を成し遂げる心意気が清々しい


 作者の文章は 人の動きや風景の描写をゆったりと語り  読む者も 情景を思い描きながら楽しめた

 立ち廻りの場面の緊迫感は 映画のように ドキドキしてしまう

 時代小説といっても 作者によって文体や物語の運び方が違うのだから 一様でないのは当たり前だけど

 大人のオトコの人たちが 楽しんで読みそうな小説だなぁと おやぢチックなわたしは 嬉しく偏見を持ってしまう

 読み終えると 人を信じられるような温かい気持ちにさせられ  他の本も読みたくなってしまった





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 ” 冬の標 (しるべ) ”   乙川 優三郎 著

2009-09-07 11:34:24 | ★本
 本を読んでいる時間が 好き
 気持ちがざわついてるときは読もうという気になれないから  読める環境が好き であるのかもしれない
 しなければならない用事がない時間・・   ひとりぽっちでシーンとしている時間・・
 こういう境遇が 好きなんだなぁ
 どれどれと ウキウキ 気になってた本の世界に入っていく

 人の生きる一瞬を切り取って描くような短編小説も  その簡潔な冴え冴えとした技に 心を震わせて読むけれど
 わたしは 長編の物語が好き
 主人公の生きていく時間の経緯  境遇の変容  心の深浅 成長に  こういう人もいるかもしれないと 肯い
 読んでいる数日間は  身近の人のように親しく 主人公たちのことが気になる

 藤沢周平の小説も好きだけれど  最近 乙川優三郎の時代小説を よく読む
 先週は 図書館の ”本日戻ってきた本コーナー”で見かけて  直木賞受賞の” 生きる ”を 久しぶりに再読した
 ” 生きる ”の主人公の厳しい人生は  乙川自身の辛い人生の手記かと思うほど 読んでいて 胸に迫る

 男性が主人公の話が多いが  この” 冬の標 ”で 女性の主人公の熱さに触れることができた
 幕末の頃 下総に住む 絵を描くのが好きな 高禄の武家の娘が主人公である
 親や社会に縛られて自由に生き難かった十代から三十代後半までの歳を  絵を描くのが好き ということを
 心の拠り所にして生きる
 結婚させられ 舅姑を見送ったあと  単身 江戸に出て絵を描いて生きようと旅立つまでが 描かれている
 家族に訣別し平穏な暮らしを捨てて  江戸での生計のあても 住むところもなく  それでも絵を描いていたいと思う心 
 生まれてくる時代が違うと こうも余計なしがらみに囚われ 不自由なものかと思う
 幕末の 時代が変わろうとしているときに  信念を貫く武士や 自分のやりたいことを見つめる女性の強さ
 主人公たちの数十年に寄り添いながら  人のまっすぐな生き方に付き合えたような喜びと厳粛を感じる物語である




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” 悼む人 ”       天童 荒太 著

2009-05-05 19:14:41 | ★本

長く待ちかねて  やっと読むことができた
母親のキャラクターが  いいなぁ
病気を抱えてる人の行動を読むとき  わたしなら どうするだろうかと いつも考えさせられる

他人の死を悼む人は その生を肯定し死を悼み  自分の生を肯定し死を悼まれたいのかもしれない
人の死は 病死 事故死は言うに及ばず  さまざまな死の状況がある
”悼む人”は  いろいろな人のその死に至る原因は問わず  亡くなった人が 
誰を愛し 誰から愛され どういうことで感謝されたか ということを心に刻んで
その人の生きていた証しを覚えておきます と悼む
家族 友人知人以外にも  誰かが 自分の死を悼んでくれるかと思うと 肯われたような気になる
日本中を行脚して 人の死を悼む主人公の行為は いかばかりの心の深さ重さかと 想像しようもない


他人の優しさが欲しかったら  自分のほうから 持てる優しさを人に差し出せばいいと思う
他人が喜んでくれるとき  それは 自分の喜びになる
自分は変わらず動かず  他人へ あれこれと要求する人は 苦手だな
「自分は こういう性格の者だから・・」などと 自身に居直るような人とは 話が続かなくなってしまう

自分に非があっても けっして「 ごめんなさい 」という言葉を言わないような人も 苦手だ
ああだこうだと弁を弄し 周りや他の人に落ち度があるかのように  事を色付けしていく
自分の間違いを認めると 失うものが大きいから  できないのだろうか
謝れなかった自分を  ずっと引き摺っていくことはないのだろうか
プライドの高い人 気位の高い人 負けず嫌いで勝気な人は  窮屈な人に見えてしまう

わたしは単純で浅慮だけれど  その分 ゆる~く気楽だ
なんでもかんでも唯々諾々として受け入れるのではないけれど  他人の話には 素直に耳傾けたい
↑ ほとんど 幼稚園児の心境っぽいなぁ 

  

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” ムーン・パレス ”   ポール・オースター 著   柴田 元幸 訳

2009-04-24 23:25:32 | ★本
作者は この小説を唯一のコメディと言ったらしいが 前半は まさに そのように楽しく読めた
”ムーン・パレス”は 主人公マーコ・フォッグのアパートの窓から見える中華料理店の名前である
月は 象徴のように彼の人生のいたるところに現れる
大学生になったときのルームメイトは 以後 彼の親友となるデイビッド・ジンマーである
のちのち ”幻影の書”の主人公になる人である
人物のこういう登場は わたしをとても楽しくさせる


あらすじ & 感想

母子家庭で育ったマーコは 11歳の時に母がバス事故で亡くなり 43歳で独身のビクター伯父さんに引き取られる
職業はクラリネット吹き  無目的と夢想に流れがちな性格で 一時期結婚もしたが うまくいかず
交響楽団をクビになった後は 移るたびに楽団の格が落ちていった
1965年秋 マーコはコロンビア大学に入学して ニューヨークへやってきた
大学の寮でジンマーとルームメイトになるが  2学年目からは一人暮らしをしたくて 安いアパートに移る
このアパートから見えるのが ”ムーン・パレス”のピンクとブルーのネオンサインなのである
伯父さんから贈られた千冊の本が入った76個の段ボール箱は 開けずに家具として使う
一つひとつの箱をユニットとして いろいろな形の集合体としてパズルのように組み立てていく
マットレスの台 テーブル 椅子 ナイトテーブルになっていった
・・・貧乏な学生の部屋の段ボールの家具たちは とても愉快にイメージできて 楽しい
   わたしも貧乏な学生時代は なるべく家具を買わず つまりは部屋を飾らず 服も買わず 食費もつましく
   質素で 簡潔で すっきり暮らしたもんだった

バス会社の補償金は大学4年間の学費と生活費に十分だったが 伯父さんも使い 経済状態が悪化してきた
一年後 ビクター伯父さんが亡くなると 奨学金 学生貸付金 勤労学生プログラムなどの選択肢があったが
こんな手段に頼るのは御免だとマーコは決断し  生き延びる唯一の道を断ち切ってしまう
自分がなすべき何かとは何もしないことである と美的次元まで高められたニヒリズムを生きることにしたのである
伯父さんを悼む気持ちから ダンボールを開けて本を読み始め  読み終えた本は古本屋で換金してもらう
箱を一つ開けるたびに 家具の一部を破壊することになり ベッドは解体され椅子や机は消滅し 何もない空間になる  
「僕の人生は 次第に形をなしつつあるゼロにほかならなかった  この目で見ることができる無  空虚だった 」
・・・わたしは 学生の頃は よく 自分探し ということを考えていた
   一個のわたしは何ができるのか 何をしたいのか どんな可能性があるのか
   玉葱を剥くように自分を剥いでいけば見つかるのかと思い シンプルさに憧れた
   頭の中でこねくり回して考えていたわたしの思いは マーコのゼロ思考と呼応する

マーコは経済的窮乏を友人たちには内緒にして 自分で下した決断に 誰からも干渉されたくなかった
電話を外し 禁煙し 断酒し 外食をやめ 途方もない論理の説明で世捨て人の現代版を遂行した
最後の一年は 電気代を払わなくなり さまざまな銘柄のロウソクを使って 価格 明るさ 寿命を比較した
冬から早春にかけて 食料は窓の外の台の上にビニールの買い物袋に入れて貯蔵した
夏は 粉ミルク インスタントコーヒー 食パン  ときおり贅沢してリンゴあるいはオレンジを一個
一日にゆで卵二個 水は好きなだけ飲んでよい  という食事計画ができ上がる
身長180センチ台で 体重が56キロにまで落ちるのである
「餓死は免れたが 空腹に苛まれていない時間もほとんどなかった  僕は自分を肉体から分離させようと努めた  
こうした苦しみが実在しないふりをすることによって 問題を避けて通ろうとした」
・・・大真面目に こういうことを考えながら暮らしていたとしたら 本当におかしくて笑ってしまう
   アルバイトをすればお金が入るのに  友人のジンマーに相談すれば なにか良案もあっただろうに一切しない
   徹底的に自分を突き詰めていくのは 誰にでもできることではなく 読んでいて応援したくなる

食べ物の幻覚が見えるようになり 時間の経過の記憶が飛んでしまったり 本を読むのが困難になってくる
「 部屋にはもう何もなくなっていたが 気が滅入るどころか かえって安らぎのようなものを感じた
たぶん僕はただ発狂しかけているだけだったのだろう 」
8月になって もう降参してもいいという気になってジンマーのアパートを何度も訪ねた
ある日 新しい住人がドアを開けて ジンマーが引っ越ししたことを知らせてくれた
朝食を囲んでいた人たちの輪に招かれて キティという女の子に出会う
翌日 アパートの大家から立ち退きを言い渡され 20ドルのお金とナップサックとクラリネット・ケースを抱えて出ていく
「 偶然にすべてを任せよう  衝動と成行きについて行こう ということだけ考えていた 」
セントラルパークにたどり着き 以後毎晩公園で眠り 日ごとに汚らしく みすぼらしくなっていった
お金を手渡してくれる人  ピクニックの食事の輪に誘ってくれる人  ソフトボールを一緒にして食事を囲んだこと
公園に来る人たちの食べ残しが捨てられている屑かごを漁って食べ物を得たり  人に追いかけられたり
図書館では体からの悪臭に睨まれたり 大雨に降られて高熱を出し 50キロにまで体重が落ちてたこと
雨が上がった日に キティとジンマーが 芝生の上に横たわってるマーコを見つけてくれた


この小説の前半は 若者のひたむきさと見栄っ張りを語っていて 面白く読んだ
本人がいっしょけんめいであればあるほど 滑稽で おかしいのである
アパートで困窮していく日々にも 公園で食べ物漁りをしている時にも いろんなことを考えている
青春って 本人は切実でも 傍から見れば こういうことなんだろうかと思ってしまう

この後 マーコは目の見えない金持ちの老人の話し相手として 住み込みのアルバイトをする
老人の奇妙な生涯を知り その息子へ遺産の通達をする中で マーコの父親を知ることになる
老人の身の上話も その息子の生き方も マーコ自身の境遇も 三人三様の男たちの物語は 
偶然と幸運と行くべき道を示唆するメッセージに満ちている
自分をぎりぎりまで削ぎ落として 死に近いところまで自分を持っていって見えてくることを探る
オースターの物語を紡ぐペン先は 寓話性に富み 愉快で 次へ次へと読む者の興味を引っ張っていく
楽しく読めた小説である



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” 幻影の書 ”    ポール・オースター 著   柴田 元幸 訳

2009-04-12 00:10:47 | ★本

ポール・オースター   1947年生まれ
コロンビア大学卒業後 数年間各国を放浪し アメリカに帰国
85年から翌年にかけて <ニューヨーク三部作>を発表し 現代米国文学の旗手として脚光を浴びる


ポール・オースターの本を読んだのは ” 孤独の証明 ”が最初である
タイトルに惹かれて読み始めたけれど 言葉や文章が すっと入ってきて イメージが広がる
いつもオースターの本を訳す柴田元幸の端正な文章が いいのだなぁと思う
”ナショナル・ストーリー・プロジェクト ”も読んだ
ラジオ番組を担当していたオースターのもとへ 視聴者が寄せた不思議な体験を編んだ本
こういう話を読むと 人の生は何かに繰られてるような 広大な地にぽつんと置かれてるような 心もとなさを感じる
オースターの脚本した映画では ”スモーク ”が 面白かった


”幻影の書”のあらすじ

40代の大学教授ディヴィッド・ジンマーは 飛行機事故で妻と幼い息子二人を亡くしてしまう
人に会わず 酒びたりの日々を過ごしていた時  テレビで無声映画のコメディアンたちのドキュメンタリーを見る
ヘクター・マンという一人の製作者・出演俳優の演技に 数か月ぶりに笑っている自分を感じる
60年前に謎の失踪をした生死不明のヘクターに関心を持ち ヘクターの12本の短篇映画を観に 旅に出ようと思う
大学に休職願を出して 各地を回り 9か月かけて  ヘクターの映画論を書き上げる
電話もラジオもテレビも持たず 人付き合いも絶ち ヘクターを考えることで自分の生を取り戻していく
妻子の事故死で保険金が入り いろいろな寄付をし 妻の名前の助成金を作っても使い切れない
家族と暮らした街を離れて 郊外に山小屋風の小さな家を買い 友人の紹介で翻訳の仕事を始める
ヘクター夫人と名乗る女性から 手紙が届く
「あなたの本を読んで ヘクターが会いたいと申します  90歳に近く 健康がすぐれません
ハリウッドを去ってから作った映画が数本ありますが  彼が死んだら24時間以内に焼却する約束です」
いたずらの手紙かと疑心暗鬼でいるジンマーのもとへ ヘクターのそばで暮しながら
その伝記を書いてるという女性が迎えに来る



こういう本を読むと 独りでいることを怖いと思わないでいられる
小説だから 物語だからと思って読むのではなく  こういう人が居るかもしれないと思って読む
小説を読んで主人公の心に添うとき  わたしの中に共感できるものを見つけた時は 安堵と不安を感じる

「あのとき交渉が成立してなければ 飛行機に遅れないよう車を飛ばしてなければ 彼らは乗らなかったのに 」
ジンマーは 事故の後 何度も考える
わたしにも あのとき ああしなければよかった  あのとき もう少し気がつけばよかったのに と 
済んでしまってから 自分の言動を振り返り 自分を責めてしまうことがある
事が動き出し始まってる時に  人はどうやって止めることができるのだろうか
この物語の中には 取り返しがつかないこと 悲しい喪失が  いくつも出てくる

ポール・オースターは ものごとの偶然を見据える
その事が起きた後に そういえば あの出来事 この出来事が そこへの収れんだったのかと振り返る
喪失であったり 成就であったりの ものごとの因果が絡み合うなかで  自分とは何かということを考えている
ヘクター・マンがなぜ失踪したのか 
ヘクターのその後の生き方は もうひとつの物語を先へ先へと読ませるように興味を繋ぐ
オースターの語り口は 映画のように視覚的にも楽しめて 本当にうまいと思う
ヘクターの喜劇映画を説明する詳しい描写は 映画の場面を想像できて 楽しい
 

この本を返却するために図書館へ行った
入口を入ると ロビーの目立つところに ” 本日戻ってきた本 ”のキャスター付き本棚が置かれている
文庫本たちの列に オースターの” ムーン・パレス ”があった
この奇遇!    「 読みなさい 」との思し召しなのかと 借りてきてしまった




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” 奇跡の自転車 ”   ロン・マクラーティ 著

2009-03-29 00:16:26 | ★本
図書館に予約していた本が 「三冊 届きました」と 連絡あり
待ってる時は なっかなか順番が回ってこないのに 一度に三冊だなんて・・


 * あらすじ *

スミシー・アイドは43歳。 体重126キロ。 仕事は玩具の製品管理で退屈な時間を過ごし、
夜は 酒とタバコとスポーツ中継で過ごし 友達もいない日々を送っている。
そんなある日、両親が自動車事故で死亡する。 
葬儀を済ませ、遺品を整理していた彼は 父に宛てられた一通の手紙を開封する。
それは、20年以上も消息を絶っていた姉ベサニーの死亡通知だった。
スミシーは、ガレージで少年時代の自転車を発見する。
タイヤの空気が抜けているのに気づいた彼は、酔っぱらったままガソリンスタンドへ向かう。
それが、姉の眠るLAにいたる大陸横断旅行のスタートとなる。
心を病んで奇行に走りつづけた姉に振り回されながらも 温かく幸せだった家庭を思い起こしながら
いろいろな所に姉の幻影を見ながら ロサンジェルスへと自転車をこぎ続ける。


この本は スティーブン・キングが 絶賛し推奨した小説という
良い本は最初の数行で 傑作の予感があるものらしく 作家が小説の一行目に腐心する と なにかで読んだ
独白で綴られるこのロード・ノベルは ぐんぐん読ませる
主人公の年齢を忘れて読み進むと 行動や 出来事 その感想についての独白は まるで 
純情な高校生の男子のような素直さ 温かさ 可愛さが感じられる 
人の外見 風貌を取っ払うと  人の内面って こんなふうに素直なのかもしれないな
道中 出会う人々は 良い人が多かったのも幸いしたと思うが 
他人に対して 怖いアメリカ国らしく 事情も聞かずに殴ったり 発砲する警官などキレる人も登場する

夏から秋にかけて 自転車で 大陸を横断してロサンジェルスまで 姉の遺体を引き取りに行くのである
奇行を繰り返す姉に振り回されながらも 家族が姉をとても愛していたことが
自転車で走る現在と 幸せだった頃の回想で 交互に語られる
一日に 80キロ 100キロと走り続ける
酒もタバコも欲しくなくなり  口にするものは 水 バナナ リンゴ ツナのサンドイッチ
両親のいた温かい家庭を回想しながら 自分を振り返り思い出し 脂肪が落ちていき スミシーは変わっていく
隣家の幼馴染の女の子と 30年たってから 心の交流が始まる
きれいな姉が普通に生活する時間と 精神を病んで疾走する日々に 家族の心痛は どんなに大きいかと思う
読みすすんでいきながら読み終えたくないような いつまでも物語の中に居たいような気がする本である 





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” 山の音 ”    川端康成

2009-02-21 22:06:53 | ★本
数日前 図書館へ本を返しに行ったとき 【 本日 戻ってきた本コーナー 】の棚に並んでいた
何げなく手に取って パラパラめくってみたけど  本に呼ばれたのかなぁ
久しぶりに読んでみたくなって 借りてきた

むかしむかし読んだ時は どういう感想を持ったのだったろうか
あらすじは知っているのに 読み終えてしまうのが惜しくて  時間をかけて読んだ
主人公たちの言葉遣いの美しさに しみじみ打たれた
かつて 日本人は こういうきれいな言葉で会話をしていたのだろうか
小津安二郎の映画の中の女性たちの言葉遣いを思い出す
父母に対する子どもの話し方  舅姑に話しかける言葉遣い  会社の上司と部下の話し方
言葉遣いのなかに 敬意と謙譲と思いやりと 温かい気持ち 愛情が形作られているように思う
人物たちのものの言い方に そのしぐさ 動作が見えるようである
ネクタイの結び方を忘れしてしまう尾形信吾の夜にみる夢や息子の行跡など 男の性の厭わしさが書かれている
離婚にいたる娘の言動や息子が関わる女性の生々しい現実など  人物たちがその人らしく活き活きと立っているが
菊子のきれいさは 透明感があって  雪国の葉子を重ねて見てしまう
美しさと哀しみと・・  
結婚生活の中で 逞しくも強くもなっていくだろう菊子の今を  愛おしんで綴っている物語だと思う


コメント (2)
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 ” 怪しい来客簿 ”     色川 武大 著

2008-09-04 20:57:23 | ★本
実話なのか 創作部分も多いのか わからないけど  登場する人たちに名前があるので実話かと思う
作者は 繰り返し  自分の学歴は中学を無期停止の者だと書く
そういう子どもが 戦後の時代をどういうふうに口に糊してきたか 書かれている
半年も風呂に入らなかったような環境の中で 出会った人たちを書いている
筋金入りの半端者になれる素質がなかったと書いている
そういう環境に暮らすとき 人間のもつ性質の上方も下方も よく見えるだろうな
人の心の機微も行動も 見通せる眼をもつ著者なればこそ と思う
終章に 自分の病気と手術のことを書いているが 医者の人となりを見抜く目線には
作者の温かさが たっぷりにじみ出ていて 深刻な病の術後話に笑ってしまう

どんな境遇の人間をも 生い立ちや職種で一線を引くことなく その縁を付き合っている
作者自身が劣等意識とやくざな環境から自分の軌道を修正し ものを書く人になったのである
某映画の中のセリフ 「 人は 変わりますから・・ 」は 良きにつけ悪しきにつけ そのとおりだと思う

わたしは 中学生の時 担任教師から 「 真面目な生徒 」と言われたことがある
心の中で ( 真面目!?  なんの取り柄もなく退屈な人っていう意味かしらン )と思っていた
その他大勢の安寧の中にぬくぬくしてるような生き方は つまらない
独りでもいい  喜怒哀楽のでこぼこを いっぱい味わいたい などと思っていた年頃である
十分に 非素直で たっぷりのひねくれモンな思い方だったかもしれない
わたしは 色川武大のような生き方 他人との出会いを羨望する気持ちがある
そのときどきを逃げずに ちゃんとそこに自分を置いて生きている ぎりぎりの崖っぷちの生き方   
いつも自分の右手で 死に触ってるかのような諦念のような生き方
たった今に真摯な誠実な著者なればこそ  他人の喜怒哀楽に温かく寄り添えるのだろうな
著者の年齢になった頃に  また 読んでみたい本である


  
コメント (2)
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