華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

映画  ” ボルベール ( 帰郷 ) ”

2007-08-17 00:01:22 | ★映画  
      
                    


スペインのペドロ・アルモドバル監督の作品です
この監督の前作品 ” オール・アバウト・マイ・マザー ”では 儚げで か細い少女のようだった
ペネロペ・クルスが  若い母親ライムンダを演じている
ペネロペは もともと美人だけれど  年齢を重ねて こんなふうにきれいな存在感を持てるのなら
人が歳をとっていくということは  なかなか いいもんだなぁと思う
人には 二十代  三十代  四十代と その歳にしか似合わないこと できないこともあるだろうけど
いい雰囲気に年齢を重ねてきた人を見ると  そのときどきの自分を疎かにしないで生きていれば  
おのずと よき生の蓄積になれるかなぁと  希望的思いを持ってしまう


映画の始まりの場面は  大勢の女たちが墓地の墓石を磨いているところから始まる
子どもも 若い女も  歳を取った女たちもいる  
風の強い日の広い墓地で  女たちが 一所懸命に墓地の掃除をしている
不思議な始まり方の ずいぶん印象的な場面だった

主人公ライムンダは 若い頃に産んだ娘と 働くことに熱心じゃない夫と 三人で暮らしている
ライムンダの留守中に その義父が娘に襲いかかり  脅そうと構えた包丁が誤って義父を殺してしまう
死体を隠した大きな箱を遠くの村まで運ぶのを 女友達は わけを尋ねないでクルマに同乗してくれる
夜更けに 川のほとりに穴を掘るのを手伝ってもらって  ライムンダは夫の死体を埋める

ライムンダの母は なぜ娘が自分を避け家出をしたのか わからないでいたが  ライムンダが伯母に
妊娠の事情を打ち明けたことから  夫が実娘を妊娠させたことを知り  近所の未亡人と小屋の中に
いるときに放火して  夫とその女を焼き殺してしまう
父と母は火事で死んだのだと  ライムンダは姉から聞かされて育った
世間から失踪し 身を隠していた母は娘たちに会いたくなり  姉娘の家に身を寄せる
ライムンダはときどき姉宅を訪ねているうちに  隠れていた母と再会し お互いの胸のうちを語り合う


あらすじだけを読むと  とても 陰湿な暗い物語である
ライムンダの まっすぐ前を見据えるような目は 哀しみを湛えてるような暗い眼差しだなと思っていたら
こういう話だったのである
娘から  わたしの本当の父親は生きてるの?  だれなの? と問われると  
ライムンダは涙を流しながら  今は言えないけど いつか きっと教える と約束する     
映画の中の物語とはいえ  なんという過酷な人生なのだろうか

こういう映画なのに  スペインの陽光のせいなのか  明るくユーモラスな場面もあって 重くならない
ペネロペの艶やかな真っ黒い髪  目鼻立ちのはっきりした顔  原色の服の色  食材の鮮やかな色
曇りのない強さのようなものが  映画の中の こういう色彩から伝わってくる
眩しいような美貌のペネロペがヒロインなのに  恋愛物語の映画ではないのである

ライムンダの隣家のレストラン・オーナーが  店を売るので鍵を預かってくれ  と言って街を去る
営業中の店と勘違いした映画の撮影のスタッフが  数日間 昼食を作ってくれないかと依頼する
ライムンダは 女友達たちに声をかけて  たくさんの食材を用意し おいしい昼食を提供する
色彩豊かな食材 たくさんの料理を 語らい 笑い 歌いながら  みんなは豪快に食べていく
料理を作ること 食べることは 生きることの肯定であり  その闊達さは見ていて 楽しくなる

映画の中の女たちは 人のつながりを大事にし 生活を楽しみ よく働き 明るい逞しさを感じさせる
体型もどっしりしていて逞しく 男にしなだれかかるのではなく  自分の足で立って生活している
自分の居る場所にいて するべきことを為し  誠実に生きられたらいいなと思う
そして ときには あたたかい大きな存在に寄り添い 抱かれて 頑張りの荷を降ろして憩う
おかえりなさい  おかあさん    おかえりなさい  娘
女たちのしなやかな強さ  あたたかい包容力  女が女から元気をもらえる映画だった

    
         

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