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映画「太平洋機動作戦」〜”Operation Pacific”

2021-12-02 | 映画

「マーフィーの戦争」「東支那海の女傑」「オキナワ」と、正直
駄作が続いてしまったので、今回ジョン・ウェインの潜水艦映画、

「太平洋機動作戦」(原題:Operation Pacific)

を観て、その「まともさ」に驚きました。

さすがにジョン・ウェインが出ているというだけあって、
一応戦争映画として定型を踏まえており、少なくとも観終わったあと、
虚しさに力なくため息をついたり、その志のあまりの低さに
怒りを覚えたりせずにすむ程度には仕上がっていて、
それなりに安心して最後まで観終わることができたのです。

レビューを検索すると、評価はニュートラルな意見はあまりなく、
好き嫌いによってキッパリ二分されています。

否定派は本作を「深く静かに先行せよ」「眼下の敵」「Uボート」
などのいわゆる名作と言われる戦争映画と比べますが、
わたしははっきり言って(『Uボート』は別にして)これらの映画が
本作と比べてそれほど優れているとはどうしても思えませんでした。

まあ、それもこれも駄作を何本も最後まで観続けたのみならず、挿絵を描き、
解説までしたせいで、「許容レベル」はだだ下がりしてしまい、
今回評価の点数がかなり甘くなったからに違いありません。

"We watch the Skyways" Operation Pacific. 

それでは早速参りましょう。
潜望鏡のスコープに「太平洋作戦」と言うタイトルより先に
「ジョン・ウェイン」の名前が出てきます。

マックス・スタイナーのマーチ風テーマも悪くありません。
ちょっとハープの上下行を多用しすぎですが。

スターウォーズ方式で字幕が流れます。

太平洋艦隊が真珠湾攻撃によって破壊されたとき、
米海軍を支えたのは潜水艦であった

その後の4年間で、米海軍の潜水艦は帝国海軍の最も誇らしい軍艦をはじめ、
600万トンに及び大量の日本の船舶を沈めた

一方アメリカ軍は52隻の潜水艦と3500人に及ぶ将兵を失っている

この映画を「サイレント・サービス」とその乗組員に捧げる

映画は、太平洋のどこかの島から、米軍部隊が夜明け前に
子供たちと引率の尼僧を密かにボートに乗せるシーンから始まります。

その中には生まれたばかりの新生児もいました。
どう見ても生まれて2週間以内って感じの本物赤です。

本作戦を指揮するのはジョン・ウェイン扮する
デューク・E・ギフォード少佐
潜水艦「サンダーフィッシュ」のXO、つまり副長です。

俳優ジョン・ウェインのあだ名が「デューク」であったことを知っていれば、
なるほどね、とこのファーストネームにうなずくことでしょう。
ちなみにウェインの本名はマリオン・ロバート・モリソンといいます。

さて、ウェインは今回少佐役です。

1951年の撮影当時、ウェインは44歳ですから、もし実年齢だとしたら
かなり出世がゆっくりですね?という感じですが、劇中では
ギフォード少佐は「できる子」で、三十代という設定なのだと思われます。

彼らがゴムボートで向かうのは、沖に停泊した潜水艦でした。
このゴムボートは海軍の純正品の表示がついていますが、
よくよく見ると1949年8月製造を表す8/49という記載が見えます。

潜水艦が現地の子供達を乗せて救出したというのは、
1944年5月、ネグロス島から

USS「クレヴァル 」(USS Crevalle, SS/AGSS-291)

が、28名の女性や子供たちを含む48名を収容した、
という出来事から着想を得ています。
この中には「バターン死の行進」から逃れた者も混じっていたそうです。

ただしこの救出劇ですが、ある説によると、
女子供の救助は「カバーストーリー」に過ぎなかったといわれています。

つまり潜水艦が送られたのは、海軍乙事件で捕虜となった福留繁中将と、
幕僚から押収した最重要文書の回収をする任務のためだったと。

ちなみに英語では乙事件を「Z事件」、この文書を「Z計画」と呼びます。

この映画は、いわばそのうわっつらの「いい話」だけを採用しているのです。
よく考えてください。
いくら(自国民と連合国民の)人命第一のアメリカでも、
わざわざ一般人の島からの脱出に潜水艦なんか出しませんよね。

まあ、しかしそれはよろしい。映画ですから。

さて、というわけでボートを待っていた潜水艦が浮上しました。

本作でも、一部のセットを除いてほとんどが実写の映像を使用しており、
そのためこの映画は大変低予算でできたということです。

司令官ギフォードが、全員が揃うまで待っていると、
最後の一人、ジョージーが気絶した日本兵を担いでやってきました。
どさりと下に降ろし、

「お土産です」

途中で出くわしたので半殺しにして担いできたというのですが、
その理由は、日本軍に脱出の情報が伝わるとまずいからです。

しかしそう言う理由なら、わざわざ担いで来ず普通そこで殺さないか?

ギフォードも彼を始末させず、その辺に放っておけ、などと言います。
その後この日本兵が起き上がって殺し合いになったりするのかと思ったら、
そういう展開もなく、日本兵はそのまま放り出されて終わり。


ある時代までのアメリカの戦争ものあるあるとして、
アメリカ軍は決して相手を無差別に殺戮しない
人道的な軍隊であるように描かれるものです。

特にこの映画は「ウェインもの」なので、要は彼のもう一つの役柄である
西部劇の正義の味方がそのまま軍人になったような人物しか出てきません。

ここで日本兵が殺されずに済んだのはそのおかげですが、ついでに
彼が侮蔑的な表現をされなかったのにはこんな理由がありました。


この映画の前年6月、朝鮮戦争が勃発し、アメリカは参戦しました。

朝鮮戦争では日本が出撃基地となっただけでなく、
掃海部隊の派遣や物資を輸送するなど、旧日本軍の協力や、
旧軍基地がそのまま後方基地として機能することになります。

そういう大人の事情から、軍から内々のお達しでもあったのか、
映画制作にあたっては、旧日本軍を描くにあたっても
人種差別的用語はできるだけ使わないようにという決定がされたといいます。

子供達を迎えての食事に乗員たちは大喜び。

給養係もはりきって食事の用意をします。
皆がはしゃぐ気持ちもわからないではないですが、

食前のお祈りのときには静かにね。

(´・ω・`) (´・ω・`)(´・ω・`)

そして皆さんの予想通り、このガキども艦内を奇声を上げて走り回るのです。

パネルのスイッチを触ろうとしたガキをひょいと担ぎ上げ、
無言のまま捕獲にきたシスターに渡す男前の機関員。

そのときターゲット発見。

”Pass the word.(送れ)Main induction closed.”

”Flood negative."

”Release air."

”Clean board.”

”Position the boat."

もしかしたらこの映画、かなり海軍的に正確なのかも?と思ったこのシーン。

潜望鏡を持ってぐるぐる回る艦長の反対がわで、もう一人が
丸い羅針盤のようなものを持って一緒に回っています。
潜望鏡の反対側に角度が表示されているのかなと思いました。

もう一つ。
潜望鏡を上げよと命じてから、艦長は膝をついてしゃがみこみ、
まだ下にある潜望鏡が上がっていくのにつれて
目を潜望鏡から離さず立ち上がりながら覗いています。

映画で初めて見ましたが、これももしかしたら
本物の潜水艦っぽい動作なのかもしれません。

そしてにっこりしながら

「空母だ」

仕留めれば金的の空母が射程内に現れたのです。

「ジャックポット(大当たり)です」

砲員が魚雷発射管をキスした手で叩き、頼むぜ、といった途端、

子供がなだれこんできました。
勝手に梯子を登り出したりします。

こんなしつけの悪いガキども、怒鳴りつけてやればいいのに。

「ペチコート作戦」では乗り込んできたドジっ子の女性看護師が
魚雷発射ボタンを押してしまって目標を外しましたが、
今回もこの子供達のせいで攻撃失敗するのかと思ったら、
さすがにそこまでベタではありませんでした。

彼らが乱入したのが司令塔だったということもあります。
ちなみにこの潜水艦内はまるで「IKEAのショールームのように」広く、
子供たちが駆け回るのに十分なスペースがあります。
本物ならまず大人の足元をすり抜けることも不可能なはずです。

しかし彼らの攻撃は失敗に終わりました。
なぜならターゲットに当たる前に魚雷が爆発してしまったからです。

そしてその返礼として駆逐艦がやってきました。

爆雷を撃ってくる実写映像に一瞬だけ隅に映り込むのが
米軍の格好をした水兵だったりするのはご愛敬。

「大丈夫だ子供たち、赤ちゃんを見ろ」

寝てます

そういえば、グランドキャニオンに行く小型機に乗ったとき、
わたしたちはあまりの不安定さに怖くて生きた心地がしなかったものですが、
当時2歳のMKは( ˘ω˘)スヤァ と寝ていたのを思い出しました。

ギフォードは赤ちゃんを「ブッチButch」と呼んでいます。
ブッチは概ね「男らしい」と言う意味合いの形容です。

そもそも子供たち、全く怖がる様子もなかったんですけどね。
これは彼ら子役に演技力が皆無だったせいです。

魚雷発射室浸水!
シスターが気を遣って

「何か手伝うことあります?」
「奴らを罵ってやれ!」(Spit the teeth and cuss!)

もう一人が、

「すんませんねシスター、非常時なもんで」

というと男前のシスター、

「大丈夫、お続けなさい。わたしは罵って(歯を吐いて)差し上げますから」

そして駆逐艦の執拗な攻撃も去りました。
艦長は部下に、潜水艦の建造元技術者宛に手紙を書いてくれといいます。

「なんと?」

「親愛なる造船会社御中、”ありがとう”と一言」

帰途につく潜水艦内で、副長と先任伍長のおっさん二人が、
なにやら真剣なおももちで鍋に向かい、乗員が見守っていました。

まず両手を消毒し、ゴム手袋を熱湯消毒。
手袋の中にミルクを入れ、手首部分を縛って指先にピンホールを開けます。

即席哺乳瓶の出来上がり。
っていうか、シスター、今まで赤ちゃんになにもやってなかったの?

島のジャングルを子供を連れて荷物も持たず65キロ横断する間、
この子の母親は出産し、その際死んでしまったようなのですが
その後新生児はどうやって生きてこれたのでしょうか。

「サンダーフィッシュ」艦長「ポップ」(親父)ペリー中佐
ギフォードの上司でありながら年上の友人とも言う関係です。

潜水艦の艦長はガトー級の場合少佐ですが、次級以上は中佐が多いので、
「サンダーフィッシュ」は「バラオ」か「テンチ」級ということになります。

この階級は絶対ではなく「ガトー」級は大尉が艦長になることもありました。

ペリーとギフォードの年齢差は10歳くらいと言う設定ですが、
二人の俳優の年齢差は4歳しかなく、実際そのようにしか見えません。

言うまでもなくジョン・ウェインが年相応のせいです。

ペリーは共通の知り合いであるギフォードの元妻、
メアリー・スチュアートがこれから寄港する真珠湾にいる、といいます。
そしてなぜか二人の会話は海軍兵学校に始まる思い出に・・。

「アーミーネイビーゲーム、
ゲームの後のベルビュー・ストラトフォードでのパーティ、
アカデミーの卒業式、帽子投げ。
アカデミーチャペルでの結婚式、ハネムーン・・」

「それから潜水艦学校だ・・ニューロンドンの寒くて凍る冬。
海上勤務・・・・ノーホーム、ノーリーブ(家に帰らない)

彼女(元嫁)ならそれくらい覚悟していただろう、
というポップに、デュークは諦め切った口調で言うのでした。

「息子が生まれたとき、新しいソナーのテストで留守、
5週間後にその子が死んだときも艦に乗っていて留守だった」

これは・・だめだろうなあ。
二人の離婚の原因は、子供が亡くなったことにあったようです。

ジャングルから連れ出した赤子が、彼の傷ついた思い出を呼び覚まし、
さらには別れた妻への思いをよみがらせていました。


続く。



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2 Comments

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協力者? (Unknown)
2021-12-02 16:04:45
>よく考えてください。いくら(自国民と連合国民の)人命第一のアメリカでも、わざわざ一般人の島からの脱出に潜水艦なんか出しませんよね。

尼僧を含む、女性や子供って、情報収集をさせるには格好なので、日本軍に対する工作をする等、米軍の協力者だったら、潜水艦くらい出して、救出すると思います。窮地になった工作員を見捨てると、その後、協力者を作るのは難しくなります。先立ってのアフガニスタン政府崩壊時も、自衛隊機で脱出させることは出来ませんでしたが、結局、その後、日本政府は現地の協力者ほとんどを出国させました。

>潜望鏡を持ってぐるぐる回る艦長の反対がわで、もう一人が丸い羅針盤のようなものを持って一緒に回っています。

この頃は、ホーミング魚雷はなく、直進魚雷しかなかったので、潜望鏡で視認した目標を雷撃するには、目標の針路速力を求め(目標運動解析)魚雷が命中する未来位置に向けて発射する必要があります。「丸い羅針盤みたいなもの」は、その目標運動解析に使うんじゃないかと思いますが、今だと作図するので、この道具の使い方はよくわかりません。

>潜望鏡を上げよと命じてから、艦長は膝をついてしゃがみこみ、まだ下にある潜望鏡が上がっていくのにつれて目を潜望鏡から離さず立ち上がりながら覗いています。

潜水艦の利点は潜航出来ることによる隠密性です。潜望鏡を出すということは、存在を暴露する可能性があるので、極力、短時間にします。そのために、潜望鏡が上がり切らないうちから眺めているのではないかと思います。グルっと見終わったら、ソッコー降ろす。
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潜望鏡操法 (ウェップス)
2021-12-03 19:07:01
オッ得意分野だ(^O^)/ この作品は見たことがないので、楽しみに読ませていただきます。

>潜望鏡の反対側に角度が表示
 潜望鏡の筒の部分に縦に線が入っていて、貫通部のリングに360度の方位の目盛りがついています。艦長が”ベアリング・マーク”と言った時、線が示した目盛が目標の方位になるわけです。(言葉で説明するのは難しいですね。)今は潜望鏡の把手部分にボタンがあって、これを押せば方位が表示されるようになっています。
 アシスタントが持っている”丸い羅針盤のようなもの”は、10月7日記事のコメントで述べたベアリング・レート・コンピュータでしょう。

>艦長は膝をついてしゃがみこみ…
 これですよこれ!!!(^.^)
 潜望鏡が海面に出ている時間はなるべく短くしなければならないので、接眼部に目をつける時間をできるだけ長く確保するためです。降ろすときも同様です。
 しゃがみこんで”潜望鏡上げ!”
と言うのが一番潜水艦長らしさを感じる瞬間ですが、ビデオモニターの現在では過去のものになりつつありますね(+_+)
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