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エレクトリックモータールームの溶接装備〜シカゴ科学産業博物艦 U-505艦内ツァー

2023-08-17 | 軍艦

MSIのU-505艦内ツァー、続きです。

冒頭写真は、ディーゼルエンジンルームを抜けて
エレクトリック・モーター室に入ったところです。
画面の通路奥が、今通ってきたディーゼルエンジンルームです。

前方から入艦してきたので、この向きに立つと
左が左舷、右が右舷側となります。



これは左舷側の装備(昔の写真)です。

左舷側にはダイナモーターの制御盤があります。
ここでモーターとバッテリーの間の電気接続を切り替えて
さまざまな機能を実行するためにコントロールされました。



右側は電圧計ですね。
Lüfterと書かれているのは送風機のスイッチと思われます。
Batt Selbstschalterはバッテリーセルフスイッチ。


ダイナモーターとは電動発電機の一種で、
用途や部分構造は、発電動機と殆ど同じだそうです。

発電動機より構造がやや複雑で大型でありますが、
高効率で出力電圧安定度が高いとのことです。


これもそのパネルの一部ですが、どうやら展示のために
外側パネルを外して中が見えるようにしてあるようです。

機器製造者は

Siemens-Schuckert ジーメンス・シュッケルト

現在では普通にアメリカで「シーメンス」として展開していますが、
爆撃機やエンジンなど多くの設計を手がけたドイツの企業です。

横向きには

Schweißbetieb 溶接
(スイッチ位置I)
Normalstellung 通常位置
(スイッチ位置II)

とペイントされています。
電気アーク溶接に十分な電力を生成するための発電機です。

電気アーク溶接とは、「アーク放電」という電気的現象、
気体の放電現象の一種で、空気中に発生する電流を利用します。

空間的に離れた2つの電極に電圧をかけていくと、
やがて空気の絶縁が破壊されて2つの電極の間に電流が発生し、
同時に強い光と高い熱を発生しますが、
このとき発生する弧(Arc)状の光を「アーク」といい、
アークの熱を熱源として利用する溶接方法が「アーク溶接」です。

アーク溶接では、電極(溶接棒またはワイヤ)にプラス、
母材にマイナスの電圧をかけます。
すると、母材から電極へのアークが発生します。
母材と電極は、高温になり溶け込んで接合されます。

このほかUボートにはアセチレンの溶接装置も搭載されていました。

溶接がなぜここまで重要かについては、
潜水艦が鉄の塊であることを考えていただければいいでしょう。

木造の船ならダメコンの際木材を破損場所に突っ込みますが、
鉄の船は溶接がイコールプライマリー・ダメージコントロールとなります。



こちらも内部を見せるためパネルをとってアクリルで中を見せています。
やはり製造会社はジーメンスで、下のハンドルの上には

Tiefer← SPannung→Hoher
「低い←電圧→高い」

とあります。
これは、電気モーターをスクリューに接続するクラッチだと思われます。


右舷側にはコンプレッサーがあり、電気モーターを動力源としています。


補助パネル

このコンプレッサーは、艦内に設置されたさまざまなボトルに
圧縮空気を充填し、バラストタンクから水を吹き出して浮上させたり、
魚雷を発射したり、ディーゼルを始動したりするのに使用されます。

U-505が拿捕されたとき、彼女は半分水没した状態で
電気モーターによって航行していました。

そのとき、電気モーターによる前進運動だけで潜水艦は浮いていたのです。

このときボートを水面でトリム状態にして、
ディーゼルエンジンを作動させるためには、
バラスト水を全てブローアウトする必要があったでしょう。

しかしバッテリーはほとんど消耗してしまっており、
もし残っている電流を使って水を排出していたら、
エンジンが回転し始める前にボートは沈没していたかもしれません。

かといって、バッテリーにわずかに残った電力でモーターを使い
航行し続けても、結局同じ結末を迎えることになったでしょう。

もちろんこれは、すで総員退艦していたUボート乗員の問題ではなく、
これを沈ませずなんとか持って帰りたいアメリカ側の問題です。

結論として、U-505を牽引することで問題は解決しました。

「ガダルカナル」が一旦曳航し、ボートが水面に浮かぶのに
十分な速度を出たところで、乗艦者がディーゼルエンジンを動かし、
電気モーターがオフになります。

ついで艦隊曳船の「アブナキ」が合流してU-505の曳航を引き継いだところ、
スクリューを回転させるのに十分な速さで U-505 を牽引することができ、
潜水艦のダイナモーターが発電機として機能できるようになりました。

エアコンプレッサーを作動させるためにバッテリーが十分に充電されると、
バラスト水が排出され、ボートが水面トリムに達した状態で
ディーゼルが遮断され、潜水艦が再び単独で作動できるようになりました。

ある意味、曳航船の曳力が、Uボートのディーゼルを
ジャンプスタートさせるため、
バッテリーに電力を供給するのに成功したといえます。

要するに、U-505の攻撃から始まって、それに搭乗し、艦内に入って
爆破と浸水を食い止めたところまでは、U-505を
無傷で連れ戻すための危険な計画の最初のステップに過ぎなかったのです。

潜水艦が実際にディーゼルエンジンによる自力走行する状態までは、
常に沈没の危険に晒されたままでした。

もし、その瞬間内部に誰かが乗っていたら、
彼女は容赦無く、彼らを道連れにして沈んで行ったことでしょう。

しかも、最初にボーティングパーティとして組織され、
潜水艦に乗り込んだメンバーのうち、それまで
潜水艦に乗ったことがあったのはたった一人で、しかも
その経験は極々限られたものだったことを考えると、
この捕獲劇が成功裡に終わったことの幸運には改めて驚かされます。




■ 項末付録:米潜水艦スラング集【N・O・P・R】

No Fu●k, Vag●na
バージニア州ノーフォークのこと

ノンスキッド
潜水艦の上面歩行面のグリップのために使用される粗いエポキシコーティング

ノーシッター
ほとんどが(完全にではない)フィクションであり、検証不可能な海の話:
 使用例:
「おい、これはNo-Shitterだが、俺はかつてなんとかかんとか」
「おい、これはNo-Shitterだが、うんたらかんたら言っていたやつがいて」

N.Q.P. 
Non-Qual Puke. 
潜水艦でまだ見張りができない、あるいは資格のない乗組員のこと

N.U.B.
NonUsefulBodyor'NutherUselessBody
(使えない体、あるいはあほで使えない体の意)
潜水艦戦の資格(ドルフィン)をまだ取得していない乗組員

Nut to Butt 
(お尻にナッツ?)
間を詰めて並ぶことを表現するスラング

Occifer 「オシファー」
(Officerではない)
将校全般に対する蔑称、特に初級士官のこと
これを言った人が舌足らずだった場合はこの限りではない


オキシパニック 
EABホース(訓練で使う酸素吸入マスクのホース)に
全てを頼り切っていた乗組員が、
酸素を警告なしに切断されたときの恐怖の表情

パッケージ・チェック(Package Check)
挨拶の一種で、ある男性が他の男性の股間を叩くというもの

これは、挨拶を受ける側の「度胸」を試すためだけでなく、
仲間意識の表れとして行われる
しかし、ここ数年、ヘイジング(いじり)がますます不人気になって以来、
この挨拶はあまり行われなくなった
潜水艦では、航行中の放電が不可能なため、より一般的である

ペーパー アスホール
3リングバインダーのページ穴をガムで補強したもの

P.A.P.E.R.C.L.I.P. (ペーパークリップ)
People Against People Ever Reenlisting Civilian Life Is Preferable.
(民間人を再入隊させる人々に反対する人々の生活が望ましい)
特に潜水艦乗りの仲間で、入隊への不満や結束を示すために使われる言葉
水兵の不満のレベルを示すために、
目立つペーパークリップを制服につけることによってアピールする

パトロールシューズ 
海軍支給品以外の靴で、航行中のみ着用するもの
例えば、テニスシューズ、ボーリングシューズ、カウボーイブーツなど

パトロールソックスまたはクルーズソックス 
配備の初期に犠牲になるソックスで、自慰行為の後始末に使用する
通常、マットレスの下や寝袋の中に入れておく

P.E.B.K.A.C. 
 Problem Exists Between Keyboard And Chair
=キーボードと椅子の間に存在する問題
 (無線やソナーでよく使われる)
解釈の甘さ、オペレーターのミス

ペッカーチェッカー(Pecker Checker) 
海軍の医師や軍医のこと

Pencil whip(鉛筆鞭) 
 ほとんど架空のデータをあることないことフォームに記入すること
通常、面倒臭いからとか遅れたときに行う

ペリスコープ・リバティ
ペリスコープで外界を見ること
海での経験が長ければ長いほど、その効果は絶大

最高のペリスコープ・リバティーとは、たいてい人の多いビーチや、
プレジャーボートに乗ったトップレスの女性をながめること
水中でクジラを見ることもある

P.F.M. 
Pure F●cking Magic
(ピュア・フ●ッキング・マジック)
通常、何かが「それ自体で解決」したように思えたり、
論理を使わずに答えが得られたりしたときに使われる

Ping Jockey(ピン ジョッキー)
ソナー技術者を表す言葉

パイピング・タブ 
すべての潜水艦システム(空気、水力、配管、電気など)のマニュアル

P.M.F.L. - Pure Mother F●cking Luck
ピュア・マザー・ファ🙆キング・ラック
通常、スキルがうまくいかなかったときに使われる

Poking holes in the ocean
(海に穴を開ける) 
 潜水艦で航行中のこと

P.O.N.T.I.A.C. (ポンティアック)
 Poor Ol' Nub Thinks It's A Career.
(気の毒な古い海軍野郎はそれをキャリアだと思っている)

プーピー(Poopy)スーツ 
海上に展開する際に着用する青いオーバーオール

ポータブル・エアー・サンプル 
「新人」に課される「スナイプ・ハント」の一種

スナイプ・ハントとは、アメリカのカルチャーでは
たとえばボーイスカウトのキャンプファイヤーなどで行われる、

「何も知らない者に架空の鳥を捕獲せよなどと命じてその行動を皆で楽しむ」

と言う一種の「ひっかけ」です。

潜水艦の業務の一つに、空気サンプルを採取する、というものがありますが、
通常、これは高度な資格を持つクルーが操作する
手動デバイスによって定期的に採取されるものです。

しかし、この「スナイプハント」では、引っかける側が
プラスチックのゴミ袋を風船のように膨らませて密閉し、
時には外側に「公式」書類を貼り付けて、新人を呼びつけ、

「この重要な大気サンプルを副長に持って行くように」

と言いつけられます。
このとき持って行く相手は決してスキッパー(艦長)ではありません。

これをどう副長が扱うかが、腕の見せ所といったところでしょうか。
もしこのイタズラを知っている新人なら、もしかしたら

面白いカウンターで皆をギャフンと(死語)言わせるかもしれません。

プレーリーチキン (草原のチキン)
ウサギ

“Prepare to ventilate the boat!”
ボート換気準備!

ボートに新鮮な空気を入れるためのフレーズだが、
誰かがwindを放った後のフレーズとして使われることの方が多い
"Pressure in the boat "や "Crack the hatch "と併せて使われる

圧力テスト
使用するもの;
万力、グリースガン、資格取得前の新米乗組員

新人がある空間に入ると、クルーがベンチバイスに指をかけ、
周りの人が数字を数えている

何事かと尋ねると、

「万力で最も指を押す回数が多い人が賞金を獲得できる」

と告げられる
新人は参加させられ、万力で十分に締め付けられる→動けなくなる

その後、ズボンを下ろされ、お尻に油を塗られ、
そのまま放置されて、最後に士官に発見される


Puckered mouth bass 



=butthole

Puka プカ
 セーラー語で、小さな収納場所や穴

パージO2ジェネレーター
1MC(艦内)アナウンス 

 "酸素ジェネレーターをパージしている間、
機械室1の喫煙ランプが出ています”


P●ssy patch 
船酔い用の経皮吸収型スコポラミンパッチ

ラック 
ベッド

ラックバーン(Rack Burn)
ラックで寝ていた水兵の顔にできる赤っぽい跡
ラックにいるはずもないのにこれが顔にあると軽蔑される



続く。



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2 Comments

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ビックリ (Unknown)
2023-08-17 07:33:34
アーク溶接みたいに大電力を要する機材が、電力命の潜水艦にあるとはビックリです。日本とはかなり考え方が違いますね。
溶接 (お節介船屋)
2023-08-18 14:31:27
日本海軍で溶接を取り入れた艦艇は昭和7年竣工の敷設艦「八重山」でした。全溶接軍艦としても世界最初でした。
福田烈造船中佐が積極的に進めた工法であり、ブロック建造とともに世界的にも誇れる建造方法で鋲接に比べ大きく重量軽減となり、建造期間の大幅な短縮も図れるものでしたがまだこの時代不明な点も多く、困難な面もありました。
昭和8年起工の潜水母艦「大鯨」に電気溶接とブロック工法を大々的に採用しましたが1万トンの大艦に実施したことがないため大きな熱で歪が出て、大きく反ってしまい、船体前後2か所で切断、歪矯正し、所要の箇所を鋲接復旧し、進水しましたがプロペラ軸心見通しでも問題が出て切断矯正が必要となりました。
溶接欠陥等多くの困難を克服して進歩していましたが昭和10年第四艦隊事件での歪の多さから事故調査委員会に招聘された東大教授となっていた平賀譲造船中将の強力な指導もあり、艦政本部第四部は電気溶接使用範囲縮小とされました。
工期短縮、大量建造も不可能であり、鋼材の削減も出来ないのでまた技術も発達して太平洋戦争突入後電気溶接は大きく採用されました。
Uボートの1,100隻の大量建造も電気溶接がなければ不可能でしたが、レーダー等電波兵器の数年の遅れや電気溶接の大々的使用遅れも日本海軍技術上の問題でした。
日本潜水艦で大きく電気溶接が採用されたのは伊176潜、呂35潜からであり、全溶接、ブロック建造となったのは全く戦争に貢献しなかった終戦間際竣工の伊201潜でした。
参照海人社「世界の艦船」No469、522、光人社「写真日本の軍艦第13巻」、文芸春秋「平賀譲」

なおアークですが気体は電気の導体でありませんので気体分子を陽イオンと電子に分離されなければなりません。
気体が電離されていれば、陽極と陰極との間にかかる電圧のため陽イオンは陰極へ、電子は陽極に移動し電流を形成します。
アークは5,000から30,000度Kの高温となります。
電極2本を相対させ抵抗を経て直流電源を流し、電極を一度接触させ、引き離すとアークが発生します。
この高温で母材に溶融池を形成させ、溶接棒等を滴加させ接合させるのですが溶接部被膜を形成する添加物や炭酸ガス等で覆って溶接欠陥を防ぎ、冷却を遅くすることが必要です。
参照産報安藤弘平、長谷川光雄著「溶接アーク現象」

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