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映画「マーフィーの戦争」〜”SAVE THE CATの法則に外れた映画はヒットしない”マーフィーの法則

2021-10-03 | 映画

世紀の駄作と悪名高い超大作、「マーフィーの戦争」、2日目です。
Uボートに乗っていた船を撃沈され、大好きだった(らしい)
エリス中尉を殺害されてからは、生きる目的が
Uボートに復讐することになった男、マーフィー。


彼はこのシーンについて、

「もし恐怖に駆られた人の表情を見たければ、
わたしが最初に飛び立ったときの写真を見てほしい」

と後年述べています。

この後マーフィーが島の上空を飛び回るシーンは、
飛び立つトキの大群やオリノコ上空の壮大な自然など、
ナショジオ的映像としては決して悪くありませんが、
せっかく費用を投じて借りたこの歴史的な飛行機を、できるだけ
スクリーンに長い間登場させなければ損だという下心が透けて見えます。

「水上機とそれを操作する人間との間の、ずさんで退屈ですらある
クロスカッティング(ショットを交互に繋ぐ手法)」

という酷評は、まさにこれを言うのだとおもいました。

しかしそれなりに収穫はあって、マーフィーはオリノコ川支流で
偽装して潜んでいる憎きUボートを発見したのでした。

喜び勇んで水上艇で何度もとんぼ返りもしてしまうマーフィー。

彼が「潜水艦を飛行機で沈める」という目的を持ったのはこのときです。 

村に帰るや、ルイを助手に武器作りを開始しました。
いよいよ「マーフィーの戦争」の始まりです。

「どこで爆弾作りなんか覚えたんだ?」

「親父が活動家で作るのを見た」

第二次世界大戦当時のイギリスの「活動家」ってなんなんだろう。
パルチザンかな(棒)

この爆弾をガラス瓶のガソリンに縛り付けて航空爆弾の出来上がり。
ちなみにこの武器作りのシーケンスも冗長で退屈です。

そこに、ヘイデン医師がお買い物リストをもってきました。

「ロンドンのフレンド会に手紙」「新しい通信機」

は必ずお願いします、と念押し。
おばちゃんマーフィーが飛行機でどこに行くか全くわかっておられない。

しかし、翼の下に取り付けた大きな瓶を見て、ルイに

「あれは何かしら」

「世界で一番大きな『モロトフカクテル』でさあ」

モロトフカクテルについては、ベトナム戦争展の項で説明しましたので
重複は避けますが、要は火炎瓶のことです。

「何するつもりなの」

「潜水艦に落とすんですよ」

「無謀だわ!戦争はもう終わるのよ」

ヘイデン医師を尊敬し内心慕っているルイは即座に、クレーンを止め、

「彼女の言う通りだ」

といいだしますが、マーフィー聞く耳持たず。
ルイはヘイデン医師の言うことは無視できないが、この際仕方ない、
と言った様子で作業を続け、飛行機は水面に降ろされました。

「間違ってるわ!」

「海底にいる連中にそう言え!」

「互いを殺し合うなんて感覚がおかしくなってる」

「殺す?もしやれたら嬉しいね」

「もし失敗でもしたら村がその後どうなると?」

「心配ご無用、ドイツ兵たちは皆殺しにしますから」

「楽しそうなのね!」

「ええ」

「戦争が好きでたまらないんでしょう?」

「戦争を?俺が始めたわけじゃない」

「よく考えて頂戴!」

「ご心配なく、相手は潜水艦じゃなくてただの老いぼれワニなんだから」


さあ、ワニの運命やいかに!



というわけで、水上機に自家製の爆弾をくくりつけ、
女医の反対を押し切って飛んだマーフィー。
前回見つけたUボートの係留地に行くまでに燃料がなくなりました。

マーフィーがマーフィーならUボートもUボート。
前回マーフィーに発見されたというのに相変わらずそこにおります。

マーフィーはなんとか自家製爆弾を投下することに成功しましたが、
飛行機はガス欠で川に不時着、その時のショックで肋骨骨折の負傷。

そこで水上機をえっちらおっちら手で漕いで帰還します。
肋骨折れてたらこの動作は無理だと思うけど。



あくまでも空気読めない系のマーフィー、
ぷんすか起こりながら治療してくれる女医ヘイデンに
唐突に「キスしたい」などと言い出し、余計に怒らせます。

ひげもじゃのルイはこう見えてマーフィーと違い繊細な男。

内心お慕い申し上げているヘイデン医師に、マーフィーの暴挙を
止めなかったことを叱責され、すっかりしょげてしまいました。

ヘイデンは叱責を謝るついでに、ルイの頬にチュッとキスして去ります。

うーん、マーフィーにキスしたいと言われた直後にこれかよ。
おそらく彼女、ルイの気持ちも知ってるよね。
あざとい。実にあざとい女である。

翌日、オリノコ川にUボート(に見えないけどそのつもりで見てね)が
不気味に浮上を行いました。

マーフィーの落とした爆弾はほとんどダメージを与えなかったのです。

ヘイデン医師が出発前のマーフィーにいった懸念が現実になりました。
彼らは前日のマーフィーの攻撃の仕返しにやってきたのでした。

本来ならばUボートが民間人しかいない村を攻撃する意味はありません。
が、マーフィーが彼らを怒らせてしまったのです。

これが本当の憎悪のエンドレスサークルというやつです。

「フォイヤー!」

艦長が腕を振り下ろし、艦上から銃火器が火を噴きます。

彼らはまず問答無用で水上機を中心に村を攻撃。

そしてゴムボートで上陸してきました。
目的は・・・・・そう、もちろんマーフィーの捕獲。

負傷者の手当てをしているヘイデン医師を連れてきて
マーフィーの居所を聞き出そうとします。

「彼はどこだ」

拷問くるか?くらいの勢いなのに、次のシーンでヘイデンは
平然と(洒落じゃないよ)負傷者の治療に戻っているから不思議です。
なんか場面がつながってなくない?

マーフィーは崖下に身を潜めて隠れていたため、Uボート乗員たちは
これもやってることの割には不思議なくらいあっさりと帰っていきます。

誰もいなくなってから気まずそうに隠れ場所から出てくるマーフィー。

「沈めたと思ってたんだが」

ってそっち?

「悪かった」

それを女医に謝る意味ってある?
崖の下の村はUボートの攻撃で焼き払われ、村人に死傷者も出たというのに、
この男には彼女の機嫌を損ねたことだけが問題なのね。

女医もまた、それに対して

「済んだことよ」

すんでねーし。
彼らの目的はマーフィーなんだから。

死んだ村人の葬式が(どうも数人は死んだ模様)行われているとき、
ヘイデン医師はドイツが降伏したというニュースを聞きます。

同様のドイツからの放送はUボートにも届いていました。

「望みなき戦いに終止符を打ち・・」 

「6年間の英雄的戦闘を終える」

ヨーロッパの戦争は終わりました。
ヘイデン医師が看護師と涙ぐんで抱き合い、かたや
Uボートの乗員たちは沈鬱な、諦めの表情でその知らせを受け取ります。

しかしたった一人、全く戦争を終える気がない人間がいました。

チャーチルの演説を放送しようとするラジオを床に叩き落し、
今度は船で突撃しようとする男。

 っていうか、マーフィーって何してる人?
軍人ではないのははっきりしているわけですが、商人?技術者?
漁師?学校の先生?(じゃないことは確か)


しかも、飛行機が破壊された今、彼はこの船で

潜水艦に体当たり

するつもりなのです。
この船はルイが寝起きしている、つまり彼にとっては自宅なんですが、
そのことなど1ミリも考えておりません。

ヘイデン医師はルイの船を操舵しているマーフィーを見るや、
その意図を察し(なんでやねん)、小舟で追いかけながら叫ぶのでした。

「ミスター・マーフィー!戦争は終わったのよ!」

彼女はルイにも同じことを告げますが、彼には聞こえませんでした。
しかも彼がニュースを聞く前にマーフィーがラジオを壊してしまいました。

そしてマーフィーの船(というかルイの家)は行ってしまいました。


ところで唐突ですが、「SAVE THE CATの法則」をご存知でしょうか。
マーフィーの法則が出たついでに法則つながりで説明しておきます。

それは、
『ヒットする映画はある定型を踏んでおり、逆にいうと
その法則に従えば映画の脚本は誰でも書ける』
というものです。
具体的にこの「猫救いの法則」に当てはめた本作の進行は以下の通り。

1.オープニング(船が撃沈される)
2.問題の提示(マーフィーが助かる)
3.何かのきっかけ(エリス中尉殺される)
4.変化への抵抗
5.決心 行動(水上艇と爆弾の準備)
6.報われる最高の瞬間(Uボートに爆弾投下)
7.選択の誤り(とどめがさせなかった)
8.すべてを失う(Uボートが村を攻撃)
9.絶望(死者多数、女医に愛想尽かされる)
10.再びチャレンジ(今ここ)
11.エンディング

なのですが、本作には法則4番の「変化への抵抗」だけが見当たりません。
これを分析すると、この主人公はまったく逡巡せず、
躊躇いもせず、もちろん自省もせずに、とにかく
思い込んだままただ突っ走って現在に至るということになります。

これは一事が万事で、主人公をただ偏執的な復讐者としてのみ描き、
キャラクターを掘り下げたり共感を持たせるための努力を
この脚本が放棄しているということの表れと言えましょう。
これがひいては映画のひとりよがりと見えるのは否めません。

つまり「SAVE THE CAT」の法則に照らしても、
この映画がヒットする可能性はなかった、ということになるのです。


続く。



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1 Comments

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面白いかも (Unknown)
2021-10-05 05:25:54
あまりよくわからない映画ですが、他人には理解出来なくても、本人にはそうせざるを得ない、それ相応の理由があるんでしょうね。

村上龍の「半島を出よ」を読んでいました。北朝鮮特殊部隊500人が「反乱軍」と名乗り、何の前触れもなく、福岡の一角を占領。「反乱軍」なので侵略には当たらず、日本政府は福岡を封鎖するだけで、何も手は打てない中、過去に殺人を犯したり、世間からは見放されている少年達が、誰にも知られず、この500人を殲滅するお話しです。

彼らには、彼らなりの動機があるのですが、常人とは感覚にかなりのずれがあり、文章にはなっているのですが、理解するのは難しいです。ただ、一度やると決めたら、目標達成への熱意はすごい。

戦闘中に、少年達の大半は命を落としますが、北朝鮮特殊部隊の殲滅には見事に成功します。事件の後、生き残ったリーダーが「指示してやらせたんだ」と噂になるのですが、それには何も答えず「何言ってんだ。バーカ」日本国政府が手も足も出なかった北朝鮮特殊部隊をヲタク10人が殲滅したという真実は歴史の闇に。

こういうの好きです。「マーフィーの戦争」も面白いかもしれませんね。
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