国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

奥山真司氏講演会

2008年05月05日 | 米国
2008年の地政学 国際平和協会主催講演会 演者 奥山真司 2008年5月4日


■私と地政学の出会い
最初は心理学を目指していたが、地理学や国際関係論に興味がわき、そこから地政学に至った。「やる気」のある学問を求めていた。


■「地政学とはどういうものか?」

1.簡単な歴史
・ドイツでは周辺国との争いやナポレオン戦争での敗北から、より広い土地を支配したいという考えが広まり、ドイツ参謀本部がそれを系統的に研究することで地政学が形成された。
・20世紀初頭のイギリスでは、覇権国家ではあったが相対的に力が低下していた危機感から、どの様にして覇権を維持するかという観点で地政学が発展した。ブリテン島を守るために、欧州大陸のランドパワーを分断することが基本方針であった。
・第二次大戦直後のアメリカでは、同じ島国であるイギリスから覇権を引き継ぐにあたって、イギリスの地政学が導入された。また、敗戦国ドイツの地政学も有用であるとの認識により実際には導入されている。

2.その思想と前提
・リアリズムは右翼的、パワーを見ていく学問
・地政学とビジネス戦略は似通っている。いずれも自分を優位において下部をコントロールすることを狙う
3.地政学の構造
・一つの海と一つの陸に単純化された世界地図
・境界化: ハートランドが重要と主張したのがマッキンダー、リムランドが重要と主張したのがスピークマン、海が重要と主張したのがマハン
・勢力均衡: 一位は二位を潰すことを狙い、二位は三位との連合を組むことを狙う
・チョークポイント: マラッカ海峡やスエズ運河などの、海運ルートの狭隘部。マハンはこのチョークポイントの重要なものを全部支配するべきとしている。
・LOC: シーレーンなどの道が重要
・包囲(encirclement): 地政学では包囲され封じ込められることへの強い恐怖感が存在する。
・距離: ミサイルの時代では無意味との見方もあったが、冷戦後期に西欧がソ連軍の戦車の脅威に脅かされたことからやはり重要との見方が広まった。ウォルトの「脅威への均衡」も距離の重要性の一つ。


■アメリカの戦略   スピークマンからウォルトへ

1.スピークマンの地政戦略: 北の島のアメリカから世界をコントロールするにはリムランドが重要。シベリアなどのハートランドは人口も少なく産業も乏しい。

2.アメリカ地政学の三大原則: 覇権を継続させるには?
・海と陸の対立
・イギリスのようにユーラシアを分断せよ
・リムランドに足がかり(橋頭堡)をつくる。ヨーロッパ、中東、北東アジアの三カ所

3.具体的な大戦略: どのぐらい世界に関与するのか?

A)完全関与(primacy):サミュエル・ハンチントンが主張

B)選択的関与(selective engagement):バリー・ポーゼンが主張、重要なチョークポイントのみ押さえる

C)オフショア・バランシング(off-shore balancing):ミアシャイマーとウォルトが主張、海に出てきたら叩く

D)孤立不干渉(isolationism):とにかく撤退

4.ウォルトの「ソフト重視」の戦略分析
チベット問題での世界の中国批判はde-legitimacy(非正統化)


■二〇〇八年の地政学的状況

1.アメリカ衰退と多極化: 多極の中で頭一つ抜け出した存在である米国が他の勢力をコントロールすることを狙っている。米国の軍事力は今が頂点だろう。また、米国の中で「現在の軍事費が使いすぎではないか」と主張する人も出てきている。田中宇氏は「米国国内の多極化勢力」と言うが、奥山氏はその考えに疑問を持っている。また、アメリカは本音ではEU軍に大反対であり、NATOの実権も決して欧州に渡そうとしない。

2.中国の台頭: 米国がオフショア・バランシングを選択すると、日本は米国からバックパッシングされて台湾問題で中国と直接戦わされる危険性がある。また、米中両国は将来必ず衝突するだろう。中国の戦略家は、直接アメリカとは戦わないが、米国の弱いところを崩しに行くと言う人が多い。

3.温暖化と環境の変化: 北極に新しい航路ができる。食料・資源問題も、輸送ルートという観点から見ると地政学的問題。

スペース・パワーの研究のために奥山氏と同じ指導教員の元で研究している米国空軍大佐によれば、宇宙を支配するには海(マハン)が重要とのこと。


■質疑応答

Q:日本のNATOへの参加にNATO加盟国はどう反応するか?
A:NATO加盟国は日本の参加を歓迎しないだろう。

Q:人的ネットワークについてどう考えるか?(「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」の中田安彦氏の質問)
A:ネットワークよりもパワーが重要ではないか

Q:パワーとは何か?
A:ロバート・ダイルによれば「影響力」。奥山氏もこの説。ミアシャイマーは人口・経済力・軍事力の三要素を挙げている。

Q:集団的自衛権についてどう考えるか?
A:どの国も血を流すのは嫌なので、「協調すれど介入せず」となる可能性もあることは留意すべき。

Q:中国の台頭に対して日本はどうすべきか?アメリカの反応は?
A:現在の日本はアメリカと中国の両方に賭けていて、どちらに転んでも大丈夫な路線である。その路線が破綻するのが2020年か2030年頃ではないかとされている。実際に米中どちらにつくべきかと言う問題は、その時のコンテキスト(状況)次第だろう。










【私のコメント】
5月4日の奥山真司氏講演会に参加した。定員45名の会場に70人以上が詰めかける大混雑であり、奥山氏の人気、あるいは地政学という学問への関心の高まりの反映かと感じた。「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」の中田安彦氏も参加していた。ブログ本文には配布されたレジュメと乏しい記憶を頼りに私がまとめた講演の要旨を書いた。貴重な講演なので、どなたかもっと完全な形で記録を残された方がおられればトラックバック・コメント等で教えていただけると幸いである。また、私の参加しなかった二次会での話題についても教えていただけると幸いである。

私が一番印象に残ったのは、奥山氏の田中宇氏批判である。田中宇氏は「米国国内に多極化勢力がいる」と主張するが、奥山氏はそれに同意しないという。しかし、イラク攻撃で米国がわざと少ない兵士しか派遣せずに占領を困難化させていること、アフガニスタンとイラクの両方の占領を狙い手を広げすぎていることから、私は田中宇氏の「多極化勢力説」の方が正しいのではないかと想像している。米国はイスラエル・韓国などの橋頭堡から撤退する為にわざとイラク戦争での敗北や経済バブル破綻を実行しているのではないか、という仮説である。「やる気」のある学問を求める奥山氏の性格が、わざと敗北しようとする米国の戦略を見えなくしているのではないだろうかと感じた。
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3 コメント

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東京近郊の方はいいなぁ (寝太郎)
2008-05-05 14:30:09
新幹線で片道3時間半では、著書や関連書籍を読む方がマシかと思い参加断念した小生には、本当にありがたいレポートです。
それにもまして、日々拝読しているブログの御三方が一堂に会される状況に、如何に自らが感化されているのかを痛感させられました。
報告ありがとうございます (CatSit1)
2008-05-07 11:39:10
>一位は二位を潰すことを狙い、二位は三位との連合を組むことを狙う
>現在の日本はアメリカと中国の両方に賭けていて、どちらに転んでも大丈夫な路線である。

自分は常々「日本人って奴は英国人と同じくらい性格の悪い奴らだ」と言われるようになるべきと思っていますので、この部分には励まされました。
ただ地政学のことなど知らない一般国民には現在の状況は判りづらく、混沌としか思えないのではと思った。(自分もこの文章を読むまで、日本が二股がけをしているとは恥ずかしながら気づけませんでした)
Unknown (123)
2009-12-25 03:51:10
地政学みたいな時代遅れな
学問研究してるから
どんなに努力しても
この男は絶対に成功できない

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