私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命記念日

2017-07-20 22:00:50 | 日記・エッセイ・コラム
 昨日7月19日はロジャバ革命を記念する日として、シリア北部や幾つかの外国の都市で記念の行事が行われたようです。2004年3月にロジャバで反シリア政府運動の動きがあったのですが、政府当局によって弾圧されました。しかし、ロジャバのクルド人はその後も運動の組織化を続け、勢力を増大させました。2012年7月19日、コバネのクルド人の集団がコバネ郊外のシリア政府が経営するタバコ販売施設を占領しました。これがロジャバ革命記念日の発祥のようです。続いて、すでに結成されていたクルド人民兵隊(YPG, Yekineyen Parastina Gel)がコバネにあるシリア政府の施設のすべてを、大した抵抗を受けることなしに、接収しました。
 この辺りの事情については、詳細かつ慎重な検討が必要で、ここで簡単にコメントできませんが、今年のロジャバ革命記念日関係の報道や論説を見ていると、フェミニズムこそがこの革命の理念の中核に位置していることを痛感せざるを得ません。すでに報告しましたように、私は、いま、A SMALL KEY CAN OPEN A LARGE DOOR というタイトルのロジャバ革命に関する小冊子を翻訳しています。ロジャバ革命の原動力であるフェミニズムをより良く理解をしていただくために、この小冊子の一部分の訳文を以下に掲げます:
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ロジャバ共和地域におけるフェミニズム

 クルドの女性戦闘員は最近“発見”されて、西側のメディアでセンセーションを巻き起こした——ファッション雑誌さえもが騒ぎに加わった。しかし、こうしたメディアは単に女性戦闘員を華やかに美化するだけで彼女らの政治性にはほんの僅かの注意しか払っていない。クルディスタンの極めて男性上位的な社会の中で女性が戦闘員であることを選ぶことの意味をよく考慮することなしに、オール女性の人民防衛隊(YPJ)と男女混成の人民防衛自衛隊(YPG)の女性戦闘員を呪物崇拝化するメディアの罠に陥るのはあまりにも容易なことだ。ロジャバで闘っている女性たちは彼女たちが生きるために闘っているのであり、また、女性を性的奴隷として犯し売買する敵に対して、女性としての権利を掲げて闘っているのである。実際、これまでも、PKKの党員の半数は女性が占めてきた。ロジャバの女性戦闘員について新しいことといえば、フェミニズム、ロジャバの実験の創設綱領の一つになったフェミニズムを公に唱えていることである。一般にクルドの文化は強度に父権主義的であり:男性支配は広くみられ、父親が決める結婚、強制結婚は普通のことである。YPJはISISに対して闘っているだけではなく、フェミニズムと男女平等のためにも闘っているのである——そして、彼女らは理念と銃弾の両方を使って闘っている。
 YPJはYPGに対する一つの対位旋律として存在する。ロジャバの女性たちはある時点でYPJはもはや必要でなくなるだろうと期待しているが、その時までは、ロジャバの敵と闘うと同時に社会問題をも解決するために、全員女性の軍隊として機能するだろう。YPJは終局的にはYPGの一部になるだろうが、理想を実践的に顕示する手立てとして、KCKは、少なくとも当分の間、YPGのような武装民兵隊の伝統的に男っぽい軍事主義と釣り合いを取るために、女性限定の戦闘部隊としてのYPJが必要だとする立場をとったのだ。その上、ロジャバの三つのカントンの全ての行政的協議会の指導者は少なくとも40%の男性か女性の比率で出来ていることが義務付けられているが、YPGの指導者はYPJの指導者から重点的にリクルートされるので、50-60%が女性である場合が多い。YPJ民兵隊に加えて、全女性警察アセイッシュ–J(アセイッシュはクルド語で“セキュリティ”の意味)は、独立して検問所を設置し、“通常”のアセイッシュの他の役目も果たしながら、女性、子供、家庭内暴力、ヘイト犯罪に関する犯罪に対する責任は、これを一手に引き受けている。
 言うまでもないが、YPJは他のオール女性戦闘部隊のことを思い出させる——多分最も有名なのはスペイン内戦でのMujeres Libres(自由女性)だろう。この並行性は正確でもあり危険でもある、と言うのは、ムヘレス・リブレスは確かに性的平等性と言うそもそも急進的な政治理念のために闘う恐るべき戦闘部隊を形成したが、不幸にも、それはまた多くの急進的人士が、スペインの「自由女性」を人間と見ることなしに、祭壇に祭り上げる一つの理念にしてしまった。ロジャバのフェミニズムに関して、我々はオリエンタリズムに就いてと同じ間違いをしでかしてはならない;彼女らは強烈な政治的理想のために命をかけて闘っている生身の人間たちである。彼女らは、武器を手にして立ち上がったというので、一般のメディアが“badass(すごいやつ)”とか“セクシーなアマゾン”などと戯画化しているストーリーブックの女性たちではない。
 そうしたロジャバの人たちがクルディスタンの女性の権利のために闘っていることの一つに、全女性警察アセイッシュ–Jが運営しているオール女性の家の創設がある。これは15歳以上の女性なら誰でも行って好きなだけ滞在し、無料で教育を受け、そして、その後(もし望むなら)どこでも帰りたい所に帰ることが出来る。これらの家は男性禁制であり、施設の信頼性を守り、女性たちが居心地よく心の安らぎを感じることが保証されている。現在のところ、ロジャバ全域で、こうしたセンターが30ある。さらに、強制結婚が原因の自殺の対応策として、アセイッシュ–Jは女性のために感情的、身体的サポートを提供する緊急非常用直通電話を24時間開設している。
 ロジャバにおけるフェミニズムは、単なるYPJやアセイッシュ–Jを超えて、ロジャバ革命の三つの創設綱領の一つなのである。ロジャバ綱領が実現を目指す社会は、フェミニズムへの新しい道に踏み出すべきで、単にフェミニズムの奨励を唱えるだけでは十分でない。人々はそれを肝に命じて、フェミニズムはロジャバの三つのカントンであらゆる社会的交際で必須の慣行となっているのであり、女性は、それ自体が革命的である本格的な役割を担った真の政治的役者と考えられている。

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この部分を読んで、初めてよく理解できたことがあります。以前から、YPGと呼ばれる民兵組織とYPJと呼ばれる民兵組織があり、YPGがすでに男女混成の軍隊であるのに、それとは別に全員女性の軍隊YPJがあるのはどうも解せないと思っていましたが、この小冊子を読んで納得できました。過激な武装集団PKK(クルド労働者党)の党員が、もともと、男女半々だというのも驚きです。

藤永茂(2017年7月20日)
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ロジャバ革命を世界の革命に

2017-07-12 23:21:20 | 日記・エッセイ・コラム
 シリア北部でロジャバ革命を推進しているクルド人たちを米国と西欧がどのように扱うか、ロジャバ革命の掲げる聖火が列強の残忍な打算の暴力によって無残に吹き消されてしまうのか、それともシリアに発して、世界中にリレーされて行くのか。イラクとシリアにまたがったイスラム國(IS)の終焉はシリア戦争の山場ではありません。米国側がロジャバをどうするかが、というよりも、ロジャバ革命がどうなるかがシリア戦争の山場です。
 米国はイラクに侵攻してサダム・フセイン政権を打倒し、北イラクにクルド人の自治地域とその政府(Kurdish Regional Government, KRG)を作りました。その現在の大統領で第一党クルド民主党(KDP)の党首であるマスウード・バルザニは米国勢力の傀儡であり、トルコのエルドアン大統領とも親密な関係にあります。この北イラクのクルド人自治地域はシリア北部のロジャバと呼ばれる地域と東西に続いていて、その境のイラク側のシンジャル山周辺はヤズディ教徒たちの昔からの居住地域です。2014年8月初め、ISがシンジャル地域のヤズディ教徒に襲い掛かり、虐殺、女性略奪など悪逆の限りを尽くした顛末は、去る3月に二つの記事『シンジャルのヤズディ教徒に何が起きているか』(1)、(2)で取り上げました。このヤズディ教徒たちはKRGの管轄下にあったわけですが、KRGの軍隊は襲撃してきたIS軍に何の抵抗も示さず地域から撤退しました。その2ヶ月前、数千のIS軍は数万のイラク国軍を蹴散らしてイラク第二の大都市モスルを占領し、戦車など重火器を含む膨大な量の兵器を手に入れましたが、その当時、KRGもISもエルドアン大統領のトルコと米国の両方と密に接触していたことは、今では、確立された歴史的事実ですから、シンジャルとモスルで起こったことは、筋書き通りに事が運ばれたという事であったのでしょう。これに続いて2014年9月には、IS軍はトルコとの国境に接するシリア北部の小都市コバニに殺到しますが、その地域からアサド大統領のシリア政府軍は2012年7月に自主的に撤退していて、コバニはロジャバ革命の活力の中心でした。そのことを考えると、ISのコバニ攻撃は、本質的にはトルコのエルドアン大統領の注文であったのでは、という推測が成立します。トルコ領内の米軍基地から進発した米空軍戦闘機による対IS空爆が功を奏してクルド人民防衛隊(YPG/YPJ)が遂にISを撃退したというストーリーは正しくありません。コバニ戦勝の理由は何よりもまず、クルド人兵士たちの熾烈堅固な闘志にありました。そもそもコバニの死闘の進行中にも、米空軍による IS爆撃は、むしろ、シリア国土のインフラ破壊に効果を上げているという報道が飛び交っていたのを記憶しています。
 2017年6月25日付けのブログ記事『ISの最後の謎が解けた(2)』で紹介したディラー・ディリク(Dilar Dirik) というクルド人女性の最近の力作論考に
Radical Democracy: The First Line Against Fascism
があります。その書き出しにコバニの戦勝への言及があり、2014年10月、一人のYPJ女性兵士アリン・ミルカンの自爆行為がクルド人側の究極の勝利への転機となったと書いてあります。

https://revolutionarystrategicstudies.wordpress.com/2017/04/02/radical-democracy-the-first-line-against-fascism/

It was Arîn Mîrkan, a young, revolutionary, free Kurdish woman, who would become the symbol of Kobane’s victory — the city that broke the myth of the undefeatable fascism of ISIS. A fighter of the Women’s Defense Units (YPJ), Arîn Mîrkan detonated herself in October 2014 near the strategically critical Mishtenur Hill to rescue her comrades and to capture the position from ISIS. This eventually shifted the battle in favor of the People’s Defense Forces (YPG/YPJ) and other co-operating armed groups, pushing ISIS onto the defensive. After months of tireless fighting, which moved the US-led coalition to provide aerial military support, Kobane was free.

クルド人民防衛隊(YPG/YPJ)がコバニ戦で示した驚くべき戦闘力は、トルコと米国の予期しなかったことで、エルドアン大統領にとっては誠に苦々しい失望でしたが、米国(CIAとペンタゴン)はYPG/YPJを新しい代理地上軍として追加採用することを思いつきます。いわゆる穏健派反政府軍と過激IS軍に勇猛なクルド人民防衛隊を加えた三本立ての代理地上軍を操って“独裁アサド政権”の打倒とシリア国土の分断を米国は狙ったのでした。これは私の独断的見解ではありません。コバニ攻防戦終結の直後から現在にいたるまで、類似の見解は多数の人々によって表明されています。直後に現れた論考の一例を下に掲げておきます:

https://syria360.wordpress.com/2014/11/16/the-war-in-rojava-kobanis-fall-is-a-prerequisite-to-an-invasion-of-syria/

 2017年4月3日付けの星条旗新聞(Stars and Stripes)は、コバニ近傍に米国空軍基地が建設されたことをアッケラカンに報じています。国際法上は勿論のこと、ロジャバのクルド人たちもコバニがシリアの領土内にあることを認めているのですから、これは明白で大々的な国際法違反です。その新聞記事の中にはシリアの他の部分にも米空軍基地が建設されているとあり、その数は現在7箇所に及んでいます。米国はそこから戦闘爆撃機を発進させ、クルド人民防衛隊に必要な武器弾薬を与えてISの首都ラッカの攻略作戦を進めています。

https://www.stripes.com/news/us-expands-air-base-in-northern-syria-for-use-in-battle-for-raqqa-1.461874#.WWS22KOKVBy

 米欧がやりたいこと、やろうとしていることは見え透いています。ラッカの攻略作戦の任務を実際に担い、死傷者を出しているのは主としてクルド人民防衛隊(YPG/YPJ)ですが、表向きにはYPG/YPJはthe Syrian Democratic Forces (SDF、シリア民主軍)という反政府勢力の一部ということになっていますから、クルド人民防衛隊の犠牲において占領したラッカ一帯の地域は、SDFという反政府組織に属すると米欧は主張するでしょう。では、米欧はロジャバ地域をどう処理しようとするか? それは、マスウード・バルザニのKRGの支配下にロジャバをそっくり吸収してしまうことです。そのステージを用意するために、バルザニ大統領は北イラクのクルド人の自治地域を正式にクルド人の独立国家とする運動を積極的に推進しています。その具体的な第一歩として、去る6月7日、バルザニは住民投票の実施日を9月25日に設定したと発表しました。このバルザニの動きに対して、マスコミは、イラク政府も、自国内に大きなクルド人人口を抱えるイラン、シリア、トルコも反対の立場を取っていると報じていますが、この時点でのバルザニのこの動きには、背後にトルコと米国があるのでは、と私は推察します。
 獄中の指導者オジャランの思想に基づいたロジャバ革命を推進する北部シリアのクルド人とバルザニのKRGの支配下にあるクルド人との間には、分裂があります。クルド人の間での亀裂です。これについては、以前に(2016年11月19日)の記事で書いた通りです。私の見解は8ヶ月経った今も全く変わりません。
 ただ、この数ヶ月の間にロジャバ革命の理念に賛同し、その支持行動を実践する人々の数が、クルド語の圏内でも圏外でも、大幅に増加しているのは注目に値します。バルザニがクルド独立国家の住民投票を通じて鼓舞しようとしている旧来の民族意識、国家意識は、ロジャバ革命の理念においては、むしろ排除すべきものとされています。バルザニ系の報道機関は、米軍の支持のもとにシリア北部で占領地域を拡大しているクルド人民防衛隊(YPG/YPJ)が非クルド民族に対して民族的差別を行なっているというニュースを流すことがありますが、これは為にする誤報であると思われます。むしろ、ラッカの周辺でクルド人民防衛隊によってISの支配から解放されたアラブ人たちの間にもロジャバ革命の理念への共鳴者が急増している兆候が見えます。
 このブログ記事の初めに言及した『シンジャルのヤズディ教徒に何が起きているか』(2)(2017年3月31日)を次のような文章で締めくくりました:
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・・・・・ネット上で拾うことの出来るいくつかの記事を読むと、ロジャバ革命が高く掲げる理念の素晴らしさとその実現の可能性をヤズディの高齢の女性たちまでが理解し、彼女らの真の敵が誰であるかをしっかりと承知し始めているようです。米国の武力支援を得て、ロジャバの人民防衛隊(YPG,YPJ)がIS支配の恐怖から解放しているラッカ周辺の非クルド人地域のアラブ人たちも、ロジャバのクルド人たちに接し、彼らが実際に彼らのロジャバ革命の理念に従ってあらゆる人々に(もちろんヤズディ教徒たちを含めて)何らの差別もなく接することから、誰もが平和に日々の生活を営むことの出来る可能性を積極的に信じ始めているのです。
 もっと端的に言えば、こうです:ロジャバ革命を推し進めるクルド人たちは、クルド民族の独立国家の設立を目指してはいないのです。如何なる宗教伝統、文化伝統、言語伝統をもつ人々も、お互いの立場を尊重しながら隣人として生活共同体を形成できると信じるのがロジャバ革命の理念です。イスラム教シーア派もイスラム教スンニ派もキリスト教徒もヤズディ教徒も、誰かが誰かを制圧する、あるいは、虐殺抹殺しようとすることなしに生活することが可能だとするのがロジャバ革命の理念です。男性による女性の抑圧も基本的な改正を要する人間関係です。上に述べたように、米欧もエルドアンのトルコもISが撤退した後のラッカ地域をロジャバのクルド人勢力下に置くつもりは全くありません。しかし、ラッカ地域のアラブ人たち自身がロジャバ革命の理念に惚れ込み、それに従って政治的に行動するようになったらどうなるでしょうか?
 現在、マスウード・バルザニ大統領とその政党KDPが支配しているイラク北部のクルド自治地域の政府は、一般的な呼称としてKRG(Kurdistan Regional Government )と呼ばれていて、政府とその下のクルド人たちは、バグダッドのイラク政府が弱体化してクルド人の長年の夢であるクルド人の独立国家が実現することを望んでいることでしょう。そして、上述したように、これはトルコと米欧の思惑の枠内に抵抗なく収容されうる一つの選択肢と考えられます。クルド民族による独立国設立を目指すマスウード・バルザニ大統領の勢力とオジャランを思想的指導者と仰いでクルド民族の独立国家の設立を目指していないロジャバ革命のクルド人勢力とは、こうして、深刻な対立関係にあります。このクルド民族内の対立関係がシリア問題、ひいては、中東問題のこれからのピボットになって行くと私は考えます。私の心底からの願いは、今翻訳中の小冊子のタイトルの通り、ロジャバ革命という小さな鍵が中東平和、世界平和への大きな扉を開けてくれることです。すでにヤズディ教徒のクルド人に伝染したように、オジャバ革命の理念がイラク北部のクルド自治地域のクルド人たちの間にも広がって、現在のトルコ、シリア、イラク、イランの国境線がそのままに保たれたまま、三千万人を数える世界最大の“少数民族”クルド人が多数派住民である平和共存の広大な地域が中東に出現して、そのついでに、世界核戦争の危険性も次第に消えてゆく、これが私の大きな夢です。
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 確かに、これは大きな夢です。この夢の前に立ちはだかる高い障壁の数々が、ISの首都ラッカの陥落の後に、具体的な形をとって、我々の前にその姿を現すでしょう。とりわけ、ロジャバのクルド人たち、トルコのクルド人たちの苦難は深刻さを増すばかりでしょう。リビングルームのソファに座ったままでロジャバ革命に声援を送っている私のような人間はどうすればよいのか?
 世界の左翼的論客の中には、ロジャバの人民防衛隊(YPG,YPJ)が米国から重火器を含む大量の武器弾薬の供給を受け、約千人の米軍特殊部隊兵員とともに地上作戦を展開し、支配地内の数カ所に米空軍基地の建設を許していることを非難する向きもあるようです。それはロジャバ革命を帝国主義の元凶(米国)に売り渡す行為であり、革命の精神を全く裏切る(sell out)ことだというわけです。しかし、私は、自らの生命を賭して戦っているロジャバのクルド人たちに、もっと身を寄せて考えるべきだと思います。彼ら彼女らが立ち向かっている悪の巨大さに想いを馳せ、改めてクルド人女性ディラー・ディリク(Dilar Dirik) の声に耳を傾けましょう:
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For the people whose families were being massacred by ISIS, the ease with which Western leftists seemed to advocate for the rejection of military aid in favor of romantic notions of revolutionary purity, were incomprehensible to say the least. Advocacy of unconditional anti-imperialism, detached from real human existence and concrete realities, is a luxury that those far removed from the trauma of war can afford.
「イスラム國兵によって家族を虐殺されつつあった人々にとって、革命の純粋性というロマンティックな観念を掲げて米国からの軍事援助の拒否を鼓吹するかのような人々の口の軽さは、何としても理解に苦しむところであった。生身の人間の存在と生の現実から遊離した、無条件な反帝国主義を唱えるのは、戦争のトラウマから遠く離れたところにいる人間たちだけが享受できる贅沢だ。」

https://revolutionarystrategicstudies.wordpress.com/2017/04/02/radical-democracy-the-first-line-against-fascism/

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藤永茂(2017年7月12日)
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バナ・アベド、シリアのアンネ・フランク?

2017-06-30 21:55:14 | 日記・エッセイ・コラム
 今8歳のシリアの少女バナ・アベドについては、桜井元さんが寄稿してくださった記事『シリアと北朝鮮-ウソから始まる戦争、ウソが煽る戦争-(1)』(2017年4月16日)で厳しい批判がなされています:

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一躍、世界中の注目の的となったツイッターの少女、バナ・アベド。反政府側支配地域の住民として、ツイッターを使って英語でメッセージを発信したというのですが、以下の映像には彼女の英語というものがいかなるものかが露見しています。「(亡命先トルコの)イスタンブールの食事は好きですか。何が好きですか」という質問をされると、「Save the children of Syria.(シリアの子供たちを救って)」という刷り込まれたセリフを返したのです。彼女は、自分の意思や感情を世界に発信していたのではなく、あたかも森友学園の園児たちが「安保法制国会通過よかったです」と言わされているように、大人たちのプロパガンダにうまく利用されただけでしょう。

https://twitter.com/walid970721/status/827528526165372928

今回の米国のシリア攻撃をうけて、彼女はまたもやプロパガンダに利用されました。「ドナルド・トランプさん、大歓迎」というメッセージの送り主として。

https://twitter.com/ShoebridgeC/status/850616309251547136

こういう類のウソ(戦争プロパガンダ)が、マスコミをとおしていまだに「事実」として流され続けています。先日のNHKスペシャル「シリア 絶望の空の下で-閉ざされた街 最後の病院-」もそうでした。

http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20170319

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NHKは、「クドゥス病院」、「ホワイト・ヘルメット」、「バナ・アベド」などのウソをてんこ盛りにして、一つの特集番組を作り上げました。取材リサーチャー2人、取材コーディネーター1人の名前(いずれも外国人)が最後に出ましたが、おそらく反政府側の人間がすべてをお膳立てしたのでしょう。反政府側が提供した映像をつなぎ合わせ、トルコに亡命した病院関係者(正体不明)やバナ・アベド親子にスタッフが取材した映像を付け足し、あとはアレッポ包囲戦のCG画像でそれらしく仕上げたという代物です。ジャーナリズムに必要な、対立する双方の中に入り、「取材(証拠の収集)」と「検証(証拠の照らし合わせ)」を積み重ねるという作業がなされたものではなく、以前にご紹介した「アムネスティ・インターナショナル」の「人間屠殺場」報告書と同質のものと言えます。アムネスティも、対立する一方の主張に基づく粗雑な推論で報告書を構成し、確かな「証拠」や綿密な「検証」の欠如を、精巧な「CG映像」などを作成してごまかす、という同じようなことをしていました。(桜井元氏寄稿)
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 数日前のNHKのニュースウォッチ9でも、アメリカの雑誌「タイム」が「インターネット上で最も影響力のある25人」を発表し、この8歳の少女がその1人に選ばれたとして大々的に報道していました。この少女はトルコのエルドアン大統領と面会して、その腕の中に収まり、トランプ大統領に直筆の手紙を送って、「あなたはシリアの子どもたちのため何か行動を起こすべきだと思います」と催促し、アサドとプーチンにはシリア市民爆撃の暴虐を叱る言葉を発したそうです。この少女を直接演出しているのは英語教師である彼女の母親の世俗的な欲望でしょうが、私はこの母子を背後から操る者たちを憎みます。
 さる4月4日の朝、反アサド勢力の支配地区から「アサド政府空軍機が化学兵器による爆撃を行い、市民が殺傷された」という報道がインターネット上に現れ、そのビデオは、幼児を含む主に子供達数十人の犠牲者たちの惨状を示すものでした。翌4月5日のフランス紙「リベラシオン」は、アサド大統領の殺人行為として犠牲者たちの写真のコラージュをその第一面に飾りました。そして、二日後の4月7日の早朝、地中海に停泊していた米国軍艦から発射された59発のトマホーク誘導ミサイルがシリア軍のシャイラット空軍基地に打ち込まれました。化学兵器による爆撃を行ったシリア空軍機がこの基地から進発したと言うのです。これは米国軍が公然とシリア軍を直接攻撃した最初の事例です。続いて、6月18日午後7時、ラッカの西部で米国空軍機がシリア空軍機を撃墜しました。「シリア機が米軍支援下の地上部隊を攻撃した」というのがその言い訳でしたが、シリア軍側は、シリア機はIS軍を攻撃していたと反論しています。さらに、6月26日、ホワイトハウスは同じシャイラット空軍基地でアサド空軍機が再び化学兵器による爆撃を計画している兆候があるとして、「もし実行すれば、アサド軍は甚大な代価を払うことになるだろう」と脅しをかけました。これは狂ったトランプ政権の米軍直接介入の脅しに他なりません。「バナ・アベド」の声は、この狂気の脅迫の一部として理解されなければなりません。
 アンネ・フランクは自分の日記の出版を考えていましたが果たせず、フランク一家でただ一人生き残った父親が出版にこぎつけました。遺稿には父や他の編集者による削除や修正が加えられましたが、作家志望で聡明多感な文学少女アンネ・フランクの筆致は、6歳の年齢差を考慮に入れても、バナ・アベドの宣伝用文章とは比較になりません。日記の最終の日付は1944年8月1日ですが、その2週間前の7月15日に、アンネは次のように書きつけています:
「じっさい自分でも不思議なのは、わたしがいまだに理想のすべてを捨て去ってはいないという事実です。(中略)いまでも信じているからです。———たとえいやなことばかりでも、人間の本性はやっぱり善なのだということを。」


藤永茂(2017年6月30日)
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ISの最後の謎が解けた(2)

2017-06-25 22:20:45 | 日記・エッセイ・コラム
 ディラー・ディリク(Dilar Dirik) というクルド人女性がいます。ネット上で彼女の多数の発言に接することができます。写真や動画もあります。クルド問題、とりわけ、ロジャバ革命についての私の知識と意識を大いに高めてくれている人物です。現在、英国のケンブリッジ大学の社会学部の博士課程に在学中です。彼女の出自を詳しく知りたければ、次の二つの記事が役に立ちます:

http://salvage.zone/online-exclusive/the-kurdish-struggle-an-interview-with-dilar-dirik/

http://kurdishquestion.com/article/3364-turkey-039-s-anti-alevi-politics-and-the-kurds

出身地はクルド人人口の多いトルコ東部ですが、彼女の家族は政治的理由でヨーロッパに亡命移住したようです。彼女にとっての決定的転機は、2013年1月9日パリで三人のクルド人女性がトルコ政府の放った暗殺者によって殺害された事件でした。殺された三人と個人的な接触がありました。ディラー・ディリクはまだ若い女性ですが、ロジャバ革命とその核心である女性解放の思想の意義を世界に向かって明快に力強く発信し続けています。
 2017年6月23日の朝日新聞の朝刊は、イランのモスル、シリアのラッカというIS(イスラム國)の二つの最重要拠点が、間も無く、米国系軍事勢力によって奪還されることを大きく報じています。この記事からは、IS軍が果してきた米国側の代理地上軍としての役割のことが全く臭ってきません。私にとっては、このことを含めて、ISの宗教的、政治的、軍事的性格について、不分明な点は余り残っていません。しかし、前回の終わりに書きましたように、ISにリクルートされた若者たちが、これ見よがしに顕示する異様なまでの残忍性が何処からやってくるのか、これが私にとっての最後の謎でした。この謎が、ディラー・ディリクの最近の論考を読んだおかげで、解けたような気がします。

https://revolutionarystrategicstudies.wordpress.com/2017/04/02/radical-democracy-the-first-line-against-fascism/

ここで展開されているディラー・ディリクの考えを、私なりに、咀嚼し要約して述べてみます。
 「イスラム教の信仰者であるかないかに関わらず、議会民主主義の政治形態を持ち、一応の安定性を示している、例えばドイツとかフランスとかイギリスといった国々から、何千人という数の若者たちが遥々とシリアやイラクまで出かけて行って、女性や子供たちを含む他の人間たちにおぞましい暴力をふるう殺人者に成り果てるのは何故か?」 これが設問です。私にとってのISの謎です。
 謎の答えを一口で言えば、現代社会に生きる若者たちに覆いかぶさっている閉塞感、疎外感、無力感がその原因でしょう。世界の多数の若者たちにそれを与えているのは、グローバルな金融資本と米英の軍産複合体(Military-industrial complex, MIC) が構成する巨大な支配権力システムです。このシステムはCIAなどの情報収集と情報操作の機関を含み、広範にメディアをコントロールしています。こうした状況の下で、人間として有意義に生活する手段も希望も持つことが出来ずに虚無的になり、他人との正常な関係の中で正当に自己主張する機会も失って、深刻な無力感に追い詰められた多くの若者たちは、phonyな教義的正当化と金銭的報酬を提供するISの巧みなリクルートに絡め取られ、一旦その非人間的暴力集団の一員となるや、ISの敵対者に対しては飽くなき残虐性を発揮し、女性に対しては性的暴力の限りを尽くす、つまり、他の人間に対する権力乱用者に転化するという現象に、我々は直面しているのだと思われます。
 非人間的思想組織の中にくわえ込まれた個人が他人に対する言語道断の暴力行使者となるのは、何も男性に限られたことではありません。イラクの米軍管理下のアブグレイブ刑務所で米軍の男女兵士たちによって行われたイラク人に対する目も当てられない虐待行為は有名です。最終的に罪を問われた7人の兵士のうちの3人は女性でした。
 このブログの中程に掲げたディラー・ディリクの論考は、そのタイトルが示すように、上に私が取り上げた「謎」に対する回答をその一部として含む大変啓蒙的な内容を持っています。日本のマスメディアではまだ殆ど問題にされていませんが、このブログで幾度も指摘したように、クルディスタンの問題、クルド問題がどう処理されるかが、これからのシリアにとって、中東にとっての中心的問題になってくる筈です。ディラー・ディリクの発言の重みは今後ますます増大します。

藤永茂(2017年6月25日)
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ISの最後の謎が解けた(1)

2017-06-21 23:02:02 | 日記・エッセイ・コラム
 2年以上前の2015年4月15日付の記事『IS(イスラム国)問題』で、私は、結語として、
 「川上泰徳さんがおっしゃるように、本質的には、「イスラム国」の出現は、「アラブの春」で目覚めたサラフィー主義の若者たちの運動だと位置づけるべきなのでしょう。しかし、それはそれとして、いまの私の目に明らかなことは、米欧とアラブ世界の一部の国々(トルコを含む)にとって、これはいわゆる“外人部隊”なのであり、“外人部隊”として利用しているという事です。世界各国からの隊員のリクルートのやり方も“外人部隊”のそれなのだと私は見ています。“外人部隊”は雇われた兵隊です。この“外人部隊”にとっての現在の最重要のassignmentはシリアのアサド政権の打倒であって、それ以外はサイドショウです。シリア国土の不法爆撃はシリアのインフラ破壊が大きな目的です。」
と書きました。
 川上泰徳さんは元朝日新聞社の中東アフリカ総局長だったベテラン・ジャーナリストで、今も中東について盛んに発言をしておられます。川上さんの「イスラム國」についての結論的な文章を引用します:
#「イスラム国」の出現は、「アラブの春」で目覚めたサラフィー主義の若者たちの運動だと位置づけるべきである。「アラブの春」の後の混迷が「イスラム国」出現を後押ししたという要素もあるとしても、イスラムの教えに基づいて正義や公正を実現しようとするサラフィー青年の運動が、「イスラム国」という形をとった、と考えなければならないだろう。若者たちは純粋であるだけに、運動が過激化しやすいことも確かだ。「イスラム国」をテロ組織として軍事的に攻撃しても、なくなりはしないことは既に述べたが、逆に過激化させることになる。
 「イスラム国」についての問題の本質は、アラブ世界を動かす存在となっている若者たちが直面する問題をどのように解決するかということである。そろそろ、「対テロ戦争」で「イスラム国」を壊滅させれば問題は解決するという考え方から、脱却すべきだろう。世界が「イスラム国」を軍事的に敵視し、たたき続ける限り、現在の「イスラム国」が世界にとっての安全保障の脅威、つまり「テロの温床」になる。必要なのは、世界の方から「イスラム国」との間で軍事的ではない対応をさぐることである。
 「イスラム国」に対する最善の解決は、「イスラム国」に参加しているサラフィー主義の若者たちが、シリアやイラク、またはその出身国で、サラフィー主義者として政治勢力として活動できるような民主的な政治環境をつくることだろう。いまの中東の混乱を考えれば、理想的に過ぎると見えるかもしれないが、民主主義や人権、法の支配を回復する中で、「イスラム国」として突出したアラブの若者をも包含するという中東正常化の方向に向かわなければ、事態はさらに悲劇的な方向にむかうことになるだろう。#
 上掲のブログ記事『IS(イスラム国)問題』で、ただ一介の市井の老人としての身分をわきまえた上で、あえて、川上泰徳さんのご意見に異を唱えました。ISの発祥の原点が何であれ、ISの現実の役割が代理戦争遂行勢力、つまり、“傭兵”であることの認識が最も重要なポイントであるというのが、私の見解でありましたし、この見解が誤ったものでないことを、過去2年間の事態の展開は証明してくれていると私は考えます。
 この6月18日(日)シリア北部のラッカ周辺で米国空軍機がシリア國空軍機を撃墜しました。米国の支援のもとにイスラム國の首都ラッカ攻略の作戦を進めているSDF(Syrian Democratic Forces) に対して、シリア空軍機が爆撃を加えてきたので、その報復として、政府軍機を撃墜したと、米国側は発表しました。これに対してシリア政府は、爆撃はISに対して行われたもので、SDFに対しては行なっていないと言っています。どちらの言い分が正しいのか、私には分かりませんが、昨年9月にラッカの南東のデリゾール地方で起った米軍機による“誤爆”事件を思い出しました。この事件では、IS軍に対して優位に戦闘を進めていたシリア政府地上部隊に対して米軍機が猛爆を行って、シリア兵数十人が殺され、IS軍が救われる結果になりました。この時には、米国側は、申し訳ない“誤爆”だったと謝罪したのでしたが、IS軍が大打撃を免れたのは確かです。今回のSDFを含む米国側勢力が、ISの首都ラッカでIS国軍部隊を包囲殲滅すると称しながら、IS側と馴れ合いになって、ISの兵士たちを、ラッカの南方で、政府軍とIS軍が激闘している地域に移動させている、というニュースもしきりに流れています。
 「米国はシリアでISと懸命に闘っている」という巨大な嘘に対して、激烈な、そして、胸のすくような弾劾の文章を私の敬愛する論客Paul Craig Roberts が書いてくれました:

http://www.paulcraigroberts.org/2017/06/19/another-step-toward-devastating-war/

全文の翻訳が、これまた私が敬愛してやまない「マスコミに載らない海外記事」に、明日にでも、掲載されることを希望します。皆さんの食欲増進のため(to whet your appetite)、さしあたって、さわりの一つを原文で引用しておきましょう:
How many agreements with Russia does Washington have to break before the Russians finally understand that a signed agreement with Washington is meaningless? Will the Russians ever learn? The American Indians never did. There is a famous American T-shirt: “Sure you can trust the government: Just ask an Indian.”
 さて、タイトルに掲げた「ISの最後の謎」のことですが、「イスラム國」については、多数の専門家の方々の解説が世に溢れています。私もそのいくつかに目を通し、宗教的な面からの理解にも努力してきたつもりですが、私にとって最も深刻な謎として残っていたのは、イスラム國にリクルートされた若者たちが一貫して発揮する異様なまでに極端な残忍性です。ところが、つい最近、一つの論考を読んで、謎がストーンと解けた気持ちになりました。次回にその話をします。

藤永茂(2017年6月21日)
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