私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

フィデル・カストロ(1)

2016-12-01 22:08:08 | 日記・エッセイ・コラム
 11月25日午後10時29分、フィデル・カストロが亡くなりました。1926年8月13日生まれ、享年90歳。

 米国次期大統領ドナルド・トランプは次のような声明を発しました:
「本日、世界は60年近くも自国民を抑圧した一人の残忍な独裁者の死去をマークした。フィデル・カストロが遺したものは、銃殺刑執行隊、窃盗、想像を絶する苦難、貧困、そして、基本的人権の否定である。
キューバは全体主義の島のままに留まっているが、今日という日を境にして、素晴らしいキューバ人たちが、あまりにも長く耐え忍んできた数々の恐怖から離れ、遂に、彼らに全くふさわしい自由の中に生きる未来に向けて進むことを、私は望んでいる。
フィデル・カストロによって惹き起こされた悲劇、死、苦痛は消去することは出来ないが、我が政府はキューバ人たちが繁栄と自由に向けての彼らの道行を遂に始めることが確実に出来るように万全の策を講じるであろう。
近い将来に自由キューバを目の当たりにする希望を持って、私は、大統領選挙戦中、私を指名支持してくれた2506旅団在郷軍人会を含めて、大いに私を支持してくれた多数のキューバ系アメリカ人とともにある」
Today, the world marks the passing of a brutal dictator who oppressed his own people for nearly six decades.
Fidel Castro's legacy is one of firing squads, theft, unimaginable suffering, poverty and the denial of fundamental human rights.
While Cuba remains a totalitarian island, it is my hope that today marks a move away from the horrors endured for too long, and toward a future in which the wonderful Cuban people finally live in the freedom they so richly deserve.
Though the tragedies, deaths and pain caused by Fidel Castro cannot be erased, our administration will do all it can to ensure the Cuban people can finally begin their journey toward prosperity and liberty.
I join the many Cuban Americans who supported me so greatly in the presidential campaign, including the 2506 Veterans Association that endorsed me, with the hope of one day soon seeing a free Cuba.

カストロの死に際して、このトランプの公式声明を含めて、米国の政治家たちの各種発言がデーリーメールに出ています。

http://www.dailymail.co.uk/news/article-3973882/Donald-Trump-mocked-tweet-reacting-Fidel-Castro-s-death.html#ixzz4RJ5Jj1Ku

 私自身のカストロ評価は、このブログ上で何度も書きました。今私たちが目撃している、あるいは、経験している人間世界は、ひどい状態にあります。しかし、もしカストロという男が出現していなかったら、この世界は今よりもっと悲惨な状況にあったでしょう。
 トランプはカストロのレガシー、後に遺したもの、について語っています。
私は、トランプのリストに含まれていないカストロのレガシーを幾つか書き留めたいと思います。
 キューバのことを少しでも知っている人ならば、カストロがキューバの人々に遺したものとして、実に素晴らしい教育制度、医療制度、有機農業政策をまず挙げるでしょう。私もこのブログで既に取り上げましたので、挿話的に触れることにします。キューバでは、革命以来今日までに、一万を優に超える数の各種学校(教育施設)が新設されました。学費は無料です。除外なしに、あらゆるキューバ人の教育レベルを向上させることが、カストロの政策の根本であったと言っていいでしょう。文盲率は3割見当から、事実上、ゼロになりました。医療、医学的研究の面で、キューバが瞠目に値する水準に達したのも、この教育政策の成功の一環と見做すことができます。キューバの医療健康保障システムの優秀さは日本でもかなり良く知られていますが、あらゆる地域に浸透した総合診療所の存在で、全ての国民が資格を持った医師の診断とケアを無料か、ごく僅かな費用で受けることができるようになっています。その結果、幼児の死亡率など、国民の保健状態を示す各種の指標で、キューバは米国をしのぐ成功を達成しています。人口当たりの医師の数でもキューバは米国の2倍です。しかも、米国のオバマ・ケアが一人当たり6000米ドルかかるのに対して、カストロ・ケア(私の造語)は400米ドルで賄っているという報告もあります。その理由を、どうか、己がじし考えてみてください。
 キューバでの有機農業の成功については、教育と医療での成功に比べて、あまり広く知られていないかもしれませんが、ネット上で多量の情報が得られます。例として日本語の記事の一つから、その一部分をコピーさせて頂きます:
■キューバが有機農業を始めた背景には,その当時キューバが置かれていた世界的な位置付け,旧共産圏の崩壊とアメリカによる経済封鎖が大きく影響していると考えられる.

キューバは革命以来アメリカへの経済依存から,旧共産圏への依存へと移行し社会主義的国際分業という名目の下で完全に外へ依存する体制を創りあげてしまっていた.キューバが主要輸出産品としていた砂糖にしてみても,一般にモノカルチャー作物は国際市場に左右されやすいが,ソ連の政治的な思惑があり,世界標準価格の5.4倍で取引されていた.その為,1989年には農地の60%がサトウキビ生産に使われており,砂糖やラム酒などサトウキビ加工品が外貨収入の75%を占めていた.輸入の面においても,キューバは貿易の70%をソ連と,15%を東欧諸国と行っており,化学肥料や農薬はもとより,ほとんどの生活必需品を社会主義国から輸入していた.エネルギー供給等は64%を輸入石油に依存しており外との関わりが無くしては生き延びることのできない国であった.そのような状況下で,1989年に起こったコメコン崩壊はキューバを未曾有の危機へと直面させた.それまで,外貨収入のほとんどを占めていた砂糖の輸出額は98年には92年の半分以下になり,原油輸入が1300万トンから300万トン減少する等,多くの輸入品が同様に減少していった.さらには,アメリカからの経済封鎖が拍車をかけるようにして強まり,輸入量は減少し続け多くの経済部門で生産活動が困難に陥った.

この緊急時をカストロは「スペシャルピリオド」として,国をあげて直面した危機に対処して行く方針を採った.そして,何よりも先ず対処して行かなくてはならなかったのが食糧危機の問題であった.

1989年時点でのキューバ食料自給率はわずか43%でありそのほとんどを海外に頼っていた.しかしコメコン崩壊以降その輸入量は半分以下に陥り,多くの人がまともな量の食糧を確保できず深刻な栄養不足へと陥った.農業においては,キューバは当時では南米の中でも進んだ技術を持ち,大型の機械や多量の科学肥料・農薬を使うといった大規模農業を行っていたのだが,緊急時ではそれが逆に仇となり,燃料の減少はトラクターをただの鉄の塊にして,農薬の減少は大規模な農場の管理を難しいものとした.そこで,人々は日々の生活を生き抜く為に自分達で食糧を確保するしかなく,機械や農薬も手に入らない状況では必然的に有機農業を始めるしかなかった.

有機農業は都市部から広まっていった.人々は先ず家の周りにある空き地やゴミ捨て場を畑にし,肥料には生ゴミやミミズを使い,トラクター代わりに牛を使った.石油輸入量が激減し都市への食料輸送や貯蔵などのエネルギーコストを節約する必要があった政府はこの動きを歓迎し,都市の食糧の需要を近場で賄うことを進め,またバイオ農薬の開発にも力を入れていった.この結果1994年に90年の55%まで落ち込んだ農業生産量は数年間で回復し,96年には95%になり,98年には元の水準に戻っていた.なかでも,米や野菜,果樹は有機農業によって完全に回復した.

この様に,あまりにも海外に依存していた状態が背景となって,コメコン崩壊が引き起こした食料危機こそが国をあげて有機農業に取り組む直接の原因となったわけであり,結局のところ日々の生活を生き延びる為の方法として有機農業を始めるしかなかった.有機農業の基本は,高付加価値商品を開発するためではなく,あくまでも自給にあったのだ.■

この目覚ましい努力と成果に対して、1999年、第二のノーベル賞とも呼ばれる「ライト・ライブリフッド賞(英語で Right Livelihood Award)が授与されました。

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tets/kougi/chiiki/chiiki03/f-4.html

以上、私は、カストロのレガシーとして、キューバの教育制度、医療保健制度、有機農業の3つを挙げましたが、これらの内政的業績より、ある意味で遥かに大きなカストロの遺産は、いろいろの形で抑圧と暴虐の下での生活を強いられている世界中の人々に、“今とは別の世界が可能である”という希望を与えてくれたことだと私は考えます。これについては次回に論じます。しかし、彼のもう一つの驚くべき内政的遺産として、私が是非ここで指摘しておきたいと思うのは、キューバのハリケーン防災対策の優秀さです。これについては、中村八郎・吉田太郎著『「防災大国」キューバに世界が注目するわけ』という本の著者インタビューから引用させていただきます:

http://president.jp/articles/-/6941

■ 過去200年で約200万人の犠牲者を出しているハリケーンは、地球上で最もやっかいな自然災害のひとつだ。たとえば2005年に発生したカトリーナはアメリカで死者1836人、行方不明者705人にのぼる甚大な被害をもたらした。
このカトリーナに匹敵する、あるいはそれ以上の大型ハリケーンの襲来を年に3度も受けながら、人的被害はほぼゼロという奇跡の国がある。カリブ海の社会主義国家、キューバである。先進国でさえ逃れられない災害リスクを、この貧しい小国はいかにして回避しているのか。
「国を挙げての防災対策のシステムがしっかり機能しています。最大規模のハリケーンが来ても、実に全国民の25%にあたる300万人が安全に避難する。死者はわずか1桁です」
そう言うのは、世界トップクラスにあるキューバの有機農業や医療など文化政策を研究している吉田太郎さん。
人だけではない。家財は安全な倉庫に移動させ、ペットさえ国が派遣した獣医が保護してくれる。仮に家屋が倒壊してもすべて政府に補償され、被災地にはボランティアが駆けつける。さらに家主その人が政府から給金を貰い受けて、専門家とともに自宅の再建作業にあたることで、復旧公共事業として街に仕事と雇用を創出するのだという。
吉田さんとともに取材した防災の専門家、中村八郎さんは続ける。
「キューバは国連も防災のモデル国とし、米国からも視察に訪れる専門家が後を絶ちません。防災対策は予防・応急・復旧・復興の4つのフェーズからなっています。このうち、防波堤など応急対策だけが特化しているのが日本の特徴で、キューバはすべてにおいて先をいっています」
たとえば、予防。キューバでは、年に1回、大規模な防衛訓練“メテオロ”が行われる。
「詳細なハザードマップをつくり、国民はみんな、災害時にどこに避難し、どのように行動すべきか熟知しています。たとえば、あのマンションの上階で一人暮らしをしているお年寄りはどう救出するかなど、各コミュニティごとに実にきめ細かい対策を準備しています」(中村さん)
「たとえ家を失ってもみんな明るい。政府は国民の命を絶対に守ってくれる、被災しても見捨てられることはない。政府に対する揺らがない信頼感があります。私は現地で『日本は大丈夫なの』って同情されました」(吉田さん)
豊かなのは果たしてどちらなのか。日本が学ぶべきことは数多くありそうだ。■

 今年、2016年、の10月はじめにカリブ海周辺を襲った大型ハリケーン「マシュー」は、ハイチとそのすぐ西隣のキューバを直撃しました。ハイチでは900人に及ぶ死者が出ましたが、キューバでは一人の死者も出ませんでした。キューバでは政府が適切に100万人の避難を実施したので、家屋の崩壊被害は広範甚大であったにもかかわらず、人命は全く失われませんでした。ハイチでは2010年の地震で20万の人命が失われ、私はこれを人災と呼びました。この地震の後、この機会を見事に捉えたクリントン夫妻とその一味は、あたかもハイチを私的植民地であるかのように私腹を肥やしながら支配し続けていますが、今回のハリケーン災害は、まさに、クリントン夫妻によって象徴される「アメリカ人」によって惹き起こされた人災です。
 国民全ての安全を守るキューバの防災政策は、カストロの温かい心から生まれたものに違いありません。ある所で読んだ話ですが、カストロが彼の施政の早い時期に始めたことの一つに、諸都市の賑やかな場所に、政府が助成金を出して、沢山のアイスクリーム・パーラーを開店させ、貧しい家庭の子供たちもアイスクリームを気楽に食べて楽しめるようにしたということがあったそうです。また、キューバの全ての子供達は、6歳になるまで、そのお誕生日には、立派なバースデイケーキが政府から届けられるのだそうです。多分ほんとうの話だと思います。こうした施策はポピュリズム的発想あるいは狙いから生じたものではありません。カストロという人間の人間性から直に発したものだったと考えられます。

このブログの始めに、フィデル・カストロの死に際して、米国次期大統領ドナルド・トランプが出した公式声明文を訳出しました。そこには「本日、世界は60年近くも自国民を抑圧した一人の残忍な独裁者の死去をマークした。フィデル・カストロが遺したものは、銃殺刑執行隊、窃盗、想像を絶する苦難、貧困、そして、基本的人権の否定である」とあります。
 フィデル・カストロとドナルド・トランプ、政治家として何という大きな違いでしょう。


藤永茂 (2016年12月1日)
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ロジャバ、モスル、ラッカ、アレッポ、トランプ

2016-11-19 21:47:58 | 日記・エッセイ・コラム
 トランプで世界中が大騒ぎのようですが、アメリカの本質が変わらない以上、アメリカ以外の力が世界を変えることを始めなければ、世界は今の道を進むだけでしょう。それにしても、何という無様な騒ぎ方でしょう。世のおえら方(pundits)の混迷ぶりも驚きです。今まで、彼らは物事の真実、真相を把握してはいるけれど、それを言えば、お声がかからなくなるから言わないのだ、と思っていましたが、そうではなさそうだと今回痛感しています。NYタイムズにコラムを書いているクルーグマンがその好例です。初の非白人大統領オバマが実現した時、感動の涙を流した(流さなかった者はどうかしている)というクルーグマンの言葉に、私は大いに驚かされましたが、今度のトランプ大統領について、トランプ現象についてのクルーグマンの判断、反応も、目も当てられない情けなさです。
 現時点での最重要の世界的事件はシリア戦争です。シリア戦争にとっての最重要課題は「クルド人たちをどうするか」ということです。IS(イスラム国)をどうするかは二次的問題です。こちらの方は、ISのテロを最も有効に使うにはどうすれば良いか、という問題です。
 米国が目指しているのは、イラク北部とシリア北部を一体としたクルド人の独立国を作ることだと私は考えています。今はバルザニ大統領の下にあるイラク・クルディスタン自治区をシリア北部(ロジャバ)に拡大して、クルド人の独立国を名乗らせるわけです。勿論、出来上がった独立国は米国が実質的に支配することになります。
 一方、トルコでは、今年7月15日のクーデター未遂事件の直後からの4日間に、軍2839人、内務省8777人(このうち警察が7850人)、国民教育省職員1万5200人、宗務庁492人、家族・社会政策省393人、財務省1500人、裁判官2745人が罷免や訴追の処分を受けました。何としても、これは手回しが良すぎます。政権側は直ちにフェトフッラー・ギュレン師という、すでに米国に亡命していたイスラム指導者を黒幕と名指しし、クーデターはギュレン師の支持者によるものと断定して、ギュレン師の引き渡しを米国政府に要求しましたが、その後の話は立ち消え模様です。今回のクーデター未遂事件が本物だったか、偽旗だったかの詮索は他の人々に任せますが、肝心な所は、これを機に、トルコ政府が数万人の規模に及ぶクルド人とクルド人に同情的な人々の逮捕投獄、職場追放に踏み切り、クーデター以前から始めていたトルコ東部のクルド系住民に対する武力行使を格段に激しくして、もはや、クルド人の組織的虐殺の始まりとみなされる事態になっている点にあります。実際、世界の幾つかの都市で行われているトルコ政府弾劾のデモ参加者たちは、これはクルド人大量虐殺の行為であると声を上げています。トルコ東部の情勢は重大であるにも拘らず、西側のマスコミはほぼ完全に無視を続けています。西側お得意のR2Pは一体どうなっているのか! 皮肉を言うのもバカバカしくなります。現象論的あるいは結果論的に言えば、7月15日のクーデターはトルコ国内、特に、トルコ東部のクルド人を猛烈に迫害して、出来るものならば、シリア北部、イラク北部に追い出してしまう目的で仕組まれたと見ることが可能です。米欧のシリア戦争に便乗して、トルコのエルドアン大統領は、約100年前のアルメニア人虐殺追放の生き写しのような、クルド人問題の解決法を企てているように思われます。
 シリア戦争の現状はマスメディアの報道を追っていると混乱を極めているように見えますが、クルド人問題という視点に立てば、大して複雑ではありません。シリア北部(西クルディスタン、ロジャバ)とイラク北部(クルディスタン地域、KRD)を含む地域にクルド人の国を作って“クルド問題”の解決を図るのは、米欧にとってもトルコにとっても乗り気の方向ですし、ロシアにとっても受け容れ可能と考えられます。
 しかし、問題の核心は、すでに幾度も指摘したように、シリア北部のクルド勢力とイラク北部のクルド勢力の間に殆ど敵対に近い分裂があることです。シリア北部で築き上げられつつあるロジャバ革命をトルコのエルドアン大統領は嫌悪し、その進展を恐れています。ロジャバ革命軍(YPG/YPJ、クルド人防衛隊/クルド女性防衛隊)は士気軒昂たる戦闘集団です。武器弾薬さえあれば、バルザニ大統領の率いるペシュメルガ軍団とは比較にならない強さを発揮します。ペシュメルガ軍団の強さに関する報道や解説には誤りが沢山あります。
 シリア戦争の現情勢は次の通り。三つの重要地域は、イラク北部のモスル、シリア北部のラッカとアレッポです。いわゆるモスル奪還作戦は開始以来すでに一ヶ月、戦果は着々と上がり、IS(イスラム國)側の戦死者は既に数千人と報じられていますが、IS戦力のモスルからラッカへの移動は着々と行われている模様です。ロシア空軍はそれを少しでも阻止しようとしていますが。モスルの“解放”はまだだらだらと続くでしょう。では、イスラム国の首都ラッカの攻防はどうなるか? 「ユーフラテスの怒り」と名付けられたラッカ攻略作戦の主力は米国が強力に後押しするロジャバ革命軍(YPG/YPJ)の精鋭ですが、総勢はせいぜい3万人というところでしょう。簡単に言えば、米国は彼ら、彼女らをイスラム國軍と戦わせて、出来るだけ殺し、ロジャバ革命勢力を弱体化し、シリア北部をバルザニ大統領あるいはそれに似たり寄ったりのクルド人政治家の統率下に繰り込みたいのです。バルザニ大統領は既にトルコのエルドラン大統領と良好な関係にありますし、エルドアン大統領は、もちろん、YPG/YPJの殲滅を何よりも望んでいる人物ですから、この米国の陰険残忍極まる作戦計画に全面的に賛成です。実際、トルコ軍は、直接、公然とYPG/YPJに攻撃を仕掛けています。つまり、ラッカの戦闘では、ロジャバ革命軍はイスラム国軍とトルコ軍を相手に死闘を繰り返して、兵力の消耗を強いられることになります。
 では、現在行われているアレッポの熾烈な攻防戦の本質は何か? それは、シリアのアサド大統領のシリア國軍とロシア軍がラッカの戦いに参加して、本気でイスラム國軍の殲滅を始めると、米国とトルコが画策する一石二鳥のクルド問題解決の妙案が壊されてしまいますから、アレッポのテロリスト軍団には可能な限りの兵員と兵器を供給し、あらゆる非人道的手段(虚偽宣伝を含む)を動員して、アサド大統領のシリア國軍のラッカ戦線への参入を阻止しなければならないという事です。
 以上が、シリア戦争の、現時点での、私の見解です。専門の方々の見解とだいぶん異なりますが、記録として書き留めておきます。
 次回には、私として、事態が今後どのように展開して欲しいか、について書き留めるつもりです。

藤永茂 (2016年11月19日)
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地上最大の偽旗作戦(The greatest false flag operation on earth)

2016-10-26 22:01:02 | 日記・エッセイ・コラム
 まずNHK NEWS WEBから転載させてもらいます:
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モスル奪還作戦 イラク軍が成果強調 さらに進撃の構え
10月18日 5時15分
過激派組織IS=イスラミックステートが2年以上にわたって支配するイラク第2の都市モスルの奪還作戦で、イラク軍は初日だけでモスル周辺の10以上の村を制圧したと成果を強調し、さらに進撃を続ける構えです。
イラク政府は17日、過激派組織ISが2年以上にわたって支配するイラク第2の都市モスルの大規模な奪還作戦を開始し、アメリカ軍などの空爆による支援を受けながら、イラク軍やクルド人部隊などがモスルの周辺地域で砲撃を続けました。

現地部隊の幹部は、17日、報道陣に対し、「地上部隊の作戦で、モスルの周辺の11の村を解放した」と明らかにしました。また、クルド人部隊もモスルの東にある9つの村を包囲し、ISの戦闘員たちを封じ込める作戦を続けているということです。

前線を視察したクルド自治政府のバルザニ議長は17日、「きょうの作戦はテロとの戦いの転換点となった」と述べ、奪還作戦の初日の成果を強調しましたが、IS側も各地で自爆攻撃などで抵抗を試みているもようです。

イラク軍は引き続きクルド人部隊と協力し、ISの戦闘員数千人がいると見られるモスルの市街地の制圧に向けて少しずつ部隊をすすめる構えで、夜間も空爆や砲撃を繰り返すなど、現地は緊迫した状況が続いています。

米国防総省「長く厳しい戦い強いられる」

アメリカ国防総省は、長く厳しい戦いを強いられるとの見通しを示し、アメリカ軍として空爆とともに、イラク軍への後方支援を強化していく姿勢を示しました。

アメリカ国防総省のクック報道官は17日の会見で「これまでのところイラク軍は初日の目標を達成した」と評価しました。そして奪還作戦について、「困難で時間がかかるであろうと見ており、われわれはその作戦の第1日目にいる」と述べ、長く厳しい戦いを強いられるとの見通しを示しました。

モスルの奪還に向けてアメリカ軍はこれまでイラク軍などの兵士の訓練を強化するとともに、アメリカ兵の要員もおよそ600人増員して5000人規模の態勢とし、準備を整えてきました。アメリカ軍の役割についてクック報道官は作戦の主体はあくまでイラク政府だと強調したうえで、「アメリカ軍は前線に近いところにはおらず、イラク軍への助言などの役割を果たしている」と述べ、空爆とともに、ISと戦うイラク軍への後方支援を強化していく姿勢を示しました。
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これは、地上最大の偽旗作戦の始まりを告げる報道記事です。どこまでが外部からの指示による内容なのか、私は甚大の興味を覚えます。
 一般には余り記憶されていないことでしょうが、私はよく憶えています。それは、イスラム国(IS)が2014年6月に国家樹立宣言を行う以前から(ISILとかISISと呼ばれていた)今日に至るまで、米国政府筋から、この新しいテロ勢力を始末するには長い期間を要する旨の発言が続いていることです。今、米政府は「3、4年かかる」と言っているようですが、初期には10年以上かかるという発言もありました。ISなるものの正体に対する私の根本的疑惑は、最初、ここに発しました。「これは耐用年数だ」と言うのが私の直感でした。役に立つ間はISを使い続けるつもりなのです。
 モスルの奪回作戦を開始したイラク軍もバルザニ指揮下のクルド人部隊も、勿論、米国が操っています。実際の戦闘に携わる兵士たちのかなりの数が命を失うでしょう。戦火に巻き込まれたかなりの数の一般住民たちも殺されるでしょう。巨大な偽旗芝居を演じ通すためには本物の血が流されなければなりません。この大芝居を首尾よく打ち通すために、アメリカ兵の要員も5000人も作戦に参加している由、数千人と見積もられているIS軍に対して、これは大層な数と言わなければなりません。しかし、これらの“アメリカンボーイズ&ガールズ”の貴重な生命は過度に危険にさらされることがないように配慮されているのでしょう。彼らの最も重要な任務は、モスルの内外で熾烈な争奪戦が繰り広げられている様相を演出しながら、数千人のIS戦闘員の大部分をモスルから逃し、シリア国内に、おそらく主にラッカに向けて移動させることにあると思われます。モスルの“偽旗”作戦は計画通りダラダラと続くでしょうが、次のラッカでも同じことが繰り返されるに違いありません。撃滅の対象であるとされているISもそれを攻撃するイラク軍もバルザニ指揮下のクルド人軍も、すべては米国に操られているところに、この偽旗作戦の言語に絶するむごたらしさがあります。戦闘そのものは実弾をふんだんに使う実戦ですから、たくさんの兵士と民間人が命を失うことになります。モスルではISが子供を含む一般住民を人間の盾として使うと非難する一方、アレッポ東部の戦闘では、反政府軍、つまり、米軍側が一般市民を閉じ込めたまま、アサドとロシアが一般市民を虐殺しているとマスメディアを挙げて宣伝しまくっています。
 今、シリア(とイラク)で起きていることを見通すことは難しくありません。米国陣営はアサド大統領支配下のシリアを破壊してしまいたいのです。トルコのエルドアン大統領は、その機会に乗じて、トルコ国内のクルド人(一千万人以上)を制圧同化しようとしています。しかし、これまで何度も書いたように、クルド人人口はトルコ東部、シリア北部、イラク北部、イラン西部に連続的に分布していて、総数は三千万にも及ぶと推定されます。約100年前の1915年から1917年にかけて、150万のアルメニア人がトルコ(オスマン帝国)によって虐殺され、トルコの国内問題としてのアルメニア人問題は事実上解決されましたが、同じやり方でクルド人問題を処理するわけには参りません。
米国は、サダムフセイン大統領のイラクを打倒するためにイラク北部のクルド人勢力を大いに利用しましたが、それ以来、彼らは完全に米国の支配下にあります。バルザニ大統領が率いるイラク・クルディスタン自治区政府はペシュメルガと呼ばれる軍隊を持ち、今回のモスル奪還作戦に華々しく参加していますが、これも結局のところ、米欧側の操り人形芝居の一部です。バルザニ大統領とエルドアン大統領とは従来から良好な関係にあり、現在もそのままです。そして、ここが最も重要なポイントですが、私が注目し、支持するロジャバのクルド人勢力とバルザニ大統領の率いるクルド人勢力との間には亀裂があります。はっきり言って、政治的には敵対関係にあるのです。それにもかかわらず、米国は、この二つのお互いに馴染まないクルド人勢力の両方を操って、ISを攻撃している振りをしながら、アサド政権下のシリアを破壊分断することに全力を挙げているのが目下の状況です。
 昨年出版された『A Small Key Can Open a Large Door: The Rojava Revolution』という本の表題は、私が成功を祈ってやまないロジャバ革命の本質をよく表しています。もしも、この小さな革命が成功すれば、中東の本当の平和、世界の本当の平和への入り口にある大きなドアが開くこと必定です。しかし、米欧の支配勢力は世界平和など望んではいません。世界戦争を望み、その方向に一歩一歩と進んでいます。ロジャバのクルド人たちは、酷使された挙句、おそらく、近未来のある時点で無残に見捨てられてしまうことでしょう。
 ロジャバ革命を推進する重鎮の一人にイラム・エーメド(İlham Ehmed)という女性がいます。最近、彼女は招かれてワシントンに出向いたと報じられました。米当局とどのような話し合いがなされたのか大変気になります。

藤永茂 (2016年10月26日)
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アレッポの悲劇、アメリカの悲惨

2016-10-12 22:06:22 | 日記・エッセイ・コラム
 トルコとの国境に近いアレッポは、シリア戦争の前はシリア最大の都市で、人口は200万を優に超えていましたが、現在は約150万、そのうちの六分の一、つまり、約25万が反政府軍の支配する東部地域に住んでいます。日本を含む西側の報道機関も、その気になれば、アレッポの住民の大多数が住む政府側支配地域に入って、その悲劇的な状況を取材報道できる筈ですが、マスメディアの特派員はそれを行いません。政府側支配地域の住民の大多数がアサド大統領を支持しているなどと報道すれば、没になること必定ですから。
 例えば、朝日新聞デジタルには
やまぬ空爆「包囲され逃げられない」 アレッポの現
イスタンブール=春日芳晃
2016年10月11日02時03分
http://www.asahi.com/articles/ASJB93G3HJB9UHBI003.html
というふうに出ています。白いヘルメットさんの写真もちゃんと出してあります。まるでアレッポ全体がシリア政府軍に包囲され、空爆されているかのような印象を受けます。しかし、東部アレッポの住民を閉じ込めているのは反政府軍です。国連シリア特使デミストゥラ氏は、「自分が身をもって安全を保証するから」と言って、アレッポ東部からの反政府軍の撤退を提案しましたが、反政府軍側はこれを拒否しました。
 英国のBBCの日本語版にも、同じような組み方の記事が出ています。動画もあって、日本語音声もついていますから、ご覧ください。英語でも聞いてみようという方は、ぜひそうなさることをお勧めします。国連特使は「このままではアレッポはクリスマスまでに破壊される」とは言っていません。

このままではアレッポはクリスマスまでに破壊される=国連特使
国連シリア特使のスタファン・デミストゥラ氏は6日、シリア反政府勢力が抑えているアレッポ東部へのシリア政府とロシアの空爆がこのまま続けば、あと2カ月半、クリスマスまでに旧市街は完全に破壊されてしまうと警告した。
市内には子供だけで約10万人が身動きできずにいる。
(英語記事 Syrian city of Aleppo 'faces total destruction by Christmas')
BBC日本語版
http://www.bbc.com/japanese/video-37616844
BBC英語版
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-37580797

トルコ軍は、今や堂々とシリア北部に侵略軍を進めて、東部アレッポの反政府軍に兵力重火器を供給することができる体制を整えました。トルコ/アメリカ/NATO側が制空権(ノー・フライ・ゾーン)を確立して、「アレッポの戦い」を勝ち抜く決意を固め、国連を主な舞台としてあらゆる術策を弄することでしょう。アメリカという国の汚さは心得ていたつもりでしたが、ここまでなりふり構わず堕落腐敗するとまでは思っていませんでした。
 去る9月17日、シリア東部デリゾール(Deir al-Zor)空港の近くのシリア政府軍にアメリカ側の空軍機(多分英国空軍機)が、約一時間、熾烈な空爆攻撃を加え、シリア軍兵士90人が死亡し、100人以上が負傷しました。これは明らかにIS軍に対する援護作戦であったことが確立されています。米国政府は、単なる誤爆だと言い張り続けていますが、その一方で、その後も、ISを援護する同様の軍事行動を継続しているのです。このニュースは、「米国もその撃滅に尽力している過激な宗教的テロ組織IS」という、マスメディアやいわゆる専門家たちから聞かされる 、ISのイメージが如何に誤っているかを、我々一般の市井の人間に知らせてくれます。ISは米国の代理地上軍です。本質的に、金で集められ、金で動いている傭兵軍隊です。金が止まれば、この操り人形の動きは止まります。しかし、米国は、あくまで、この凶悪な嘘を通し続けるつもりです。今日のニューヨーク・タイムズによると、ISが巧みにドローンを使い始めたそうです。これで、また色々の嘘話と偽旗作戦ができるというものです。私は、こうした事態の展開に、米国の恐るべき狡猾さを見るよりも、むしろ、絶望的な色合いを示してきた、のっぴきならぬ米国の悲惨を想います。地獄絵巻の様相を示す大統領選挙戦も、米国の悲惨の顕現です。これは一過性の異常事態ではありません。米国という国の本質の顕現です。

藤永茂 (2016年10月12日)
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白いヘルメット( White Helmets )

2016-10-05 22:09:58 | 日記
 今年のノーベル平和賞が「白いヘルメット」に与えられないように祈っています。もし与えられれば、それは、あまりにも情けない、悲しいことですから。いや、情けない、悲しい、などと個人的な感情の中に佇んでいることは、私のような者にも許されないのかもしれません。「白いヘルメット」がこれだけ前面に押し出されてきたということは、リビアに続いて、シリアも、米国によって、破壊されつくしてしまう前兆と考えるべきでありましょう。リビアでもシリアでも、若者たちは、大学まで無料で進学できました。医療保健制度も、米国などとは比べ物にならないほど、立派でした。
 去る9月25日、シリア情勢について、ロシアに先立って、米国の国連大使サマンサ・パワーが講演し、その中で幾度も「白いヘルメット」の名を上げて、その勇敢無私の行動を称え、その要員に対するロシア/シリア空軍の攻撃の非難を繰り返します。例によって、5歳の少年と、もう一人、5歳の少女を材料にして、御涙頂戴のストーリーが繰り広げてあります。サマンサ・パワーの講演は、虚偽と、悪意と、挑発に満ち満ちた実に読むに耐えない内容で、英語風に言うならば、I am going to throw up というところです。

https://usun.state.gov/remarks/7453

この後、ロシアの国連大使ヴィタリ・チュルキンが講演する番になると、サマンサ・パワーはフランスと英国の代表とともに席を立って退場し、チュルキンの講演を聞きませんでした。

http://russiaun.ru/en/news/sc_salp

このチュルキンの講演とパワーの講演を比較すると、いろいろのことが学べます。
 問題の「白いヘルメット」の正体を教えてくれる記事も多数存在しますが、我々日本人の間では、十分な情報が流されていない状況で、米国側のプロパガンダに乗せられている向きも多いのではないかと思います。グローバル・リサーチの次の記事は有用です。Youtubeにも多数の資料があります。

http://www.globalresearch.ca/the-real-syria-civil-defence-exposes-natos-white-helmets-as-terrorist-linked-imposters/5547528

https://www.youtube.com/watch?v=LS1Nx8L3QTk


藤永茂 (2016年10月5日)
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