国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

解決に向かい始めた北方領土問題

2011年02月28日 | ロシア・北方領土
●【論説】ロナルド・ドーア氏…「北方領土を諦めるのも賢明な道」「国際裁判では日本が負ける確率が高い。原因を作ったのは米国
東京新聞 2/20付 3面 「時代を読む」 英ロンドン大学政治経済学院名誉客員 ロナルド・ドーア氏

 時々日本の外務省は、一度採用した外交路線を放棄できずに成り行きに任せ、しまいにはにっちもさっちもいかなくなってしまうことがある。北方領土問題をめぐる対ロ関係が正にその典型であろう。

 日本政府はこれまで、旧総務庁の前に「北方領土が帰る日・平和の日」という大きな石碑を建てたり、国後も択捉もわれわれの島だという国民感情に訴えてきた。

 これに対しロシアは、日本の主権を認めるような考えは基本的にないが、勃興日本の経済力や、少しずつ増大してきた外交力に敬意を表し、日本の国民感情の手前もあって、日本のクレームには一応、真面目に対応してきた。ところが、日本の経済力・外交力の衰退も1つの原因だろうが、最近ではメドベージェフ大統領が国後島入りして以降、ロシア閣僚の訪問が相次ぎ、軍事的な防衛強化も発表するなど、「日本が主張する『主権の問題』は毛頭ない。交渉する意思はもうない」と、きっぱり告げた格好だ。

 二国間で日本の主張を唱え続けても、日ロ摩擦の時代が永遠に続くだけだろう。極論になるが、諦めるのも賢明な道で、尊厳ある主権国として面目を失わない諦め方を探さなければならない。

 そういう道を国際司法裁判所が与えてくれそうだ。ロシアの北方四島占領は不当だと、日本が訴えればいい。もちろん、ロシアに根回しし、訴えられたら応じるとの確約を取り付けることが前提となる。それに、優秀な外交官の長い努力が必要だろう。小泉純一郎元首相の北朝鮮訪問の準備工作として、田中均氏が北京で交渉し、拉致の事実を認める約束を取ったようにだ。

 仮に裁判になった場合、日本が負ける可能性が高いというのが、国際法の専門家の意見だ。理由は、サンフランシスコ条約で日本ははっきりと主権を放棄してしまったからだ。ただ、日本は裁判に負けてもそのままいれば、世界の目にはロシアにいじめられた国ではなく、平和的国際関係の法的秩序構築に貢献した国として映る。漁業権など実質的な利益を守るのも、逆にやりやすくなるかもしれない。

 日本の最近の北方領土問題に関する主張は、歴史的事実に訴えないのでおかしかった。明治8年(1875年)の樺太千島交換条約で、樺太はロシア、安政条約で既に認められた国後、択捉二島のほかに、それ以北の千島列島も日本の所属と決まった。日露戦争の戦果として日本領土となったのは樺太の半分だけである。

 戦争が終わろうとするときのヤルタ会議で、連合国が「日独には帝国主義的侵略によって得た領土を返還させよ」という原則を決めたが、千島列島がそうして得た領土ではないことが当時は分かっていなかった。その間違いはダレス国務長官によってサンフランシスコ条約に持ち込まれ、吉田茂首相が苦情を言ったが、ダレス長官は「ロシアとの関係が微妙なときにうるさいことを言うな」と抑えてしまった。さらに、日ロ両国の親睦を邪魔しようと横槍を入れ、「沖縄を返すのも危うくなるぞ」と脅した。

 その後、日本は「明治8年の条約がある。国後、択捉は戦果ではない。ヤルタ会議での米国の誤解だった」などの論法を展開せず、条約における「千島列島」の定義など、些細な法文解釈に基づいた論法しか続けてこなかったからだ。

 いずれにせよ、これを機会に60年間の日ロ関係の病根を国際司法裁判所が取り除いてくれれば、サッパリするだろう。
http://momovip656.blog33.fc2.com/blog-entry-1086.html





●ロシア「北方領土領有は合法」 ヤルタ協定、国連憲章など論拠に - MSN産経ニュース 2011.2.24

ロシア外務省は24日、北方領土問題について「ロシアはこの領土(の領有)に関して必要な全ての権利を有している。ロシアの主権は完全に合法的で疑う余地はない」とする声明を発表した。前原誠司外相と枝野幸男官房長官が同日の衆院予算委員会で、北方四島は「法的根拠のない状態で支配されている」と述べたのに反応した。声明は領有権主張の根拠を「第二次大戦の結果」とし、それがヤルタ協定▽ポツダム宣言▽サンフランシスコ講和条約▽国連憲章107条(旧敵国条項)-で認証されたとしている。(モスクワ 遠藤良介)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110224/erp11022422580006-n1.htm





【私のコメント】
2月20日と24日に、東京新聞と産経新聞で北方領土問題に関する画期的な報道が行われた。従来の日本国内の報道は日本の主張の正当性を主張するものだったのに対して、今回の記事は日本の主張が国際法的に根拠がないことを指摘し、ロシア側の主張に正当性があることを示している。東京新聞・産経新聞は共に小規模紙であり、日本支配階層は両紙に北方領土問題に関する真実を報道させて国民の反応を見ることを狙っているのだと思われる。一種のアドバルーンである。

北方領土問題は、日露が1956年に二島返還で合意した際に米国のダレス国務長官が日露の関係改善を阻止するために「二島返還で合意するならば沖縄を返還しないぞ」と日本を恫喝したことに由来する。日本は歯舞・色丹を諦めて沖縄を選択したのだ。冷戦という米国の大戦略を実行するには、日露間の領土問題解決は許されなかったのだろう。逆に言うと、米露対立という米国の世界戦略が終焉し始めたために、日本で北方領土問題に関する真実を報道することが可能になったのだと思われる。

私は、二島+α返還論者である。北方領土はまずは二島返還が最も良いと考えている(ただ、ロシアが返還を拒否するならば、ゼロ島返還で手を打つのもありだと考えている)。重要なことは、サンフランシスコ条約などの国際条約に基づいて日本の国境が確定されることであり、これは竹島や尖閣の領土問題で日本の立場を有利にすることに役立つ。また、南シナ海の南沙諸島の領土紛争を解決するための道標としても役立つことだろう。日本とロシアが国境紛争を解決し、中国と米国という二つの巨大な仮想敵国に共同で立ち向かうことの利益は計り知れないほど大きい。ロシア側の最近の北方領土問題に関する強硬姿勢は恐らく日本との合意の元に行われており、ロシアの領有権の正当性を日本国民に知らせることがその目的ではないかと私は妄想している。

ただ、実際に北方領土が二島返還、あるいはゼロ島返還になる可能性は低いと思われる。ロシアにとって、領土問題で譲歩することで日本の国民感情を味方に付けることの利益は大きいと思われるからだ。具体的には、日本が建設費用を全額負担して宗谷海峡トンネルを建設してシベリア鉄道を日本に直結させて樺太を含めたロシア極東を繁栄させることと引き替えに北方領土の全部又は一部を日本に割譲するという様な取引が考えられる。その様な情報は数年前にサハリン州のポータルサイトであるsakhalin.infoの掲示板で議論されていた。これは二島返還+一~二島売却という形になるので、二島+αと言う形式で領土問題が解決される可能性が高いと考えている。

いずれにせよ、東京新聞と産経新聞の報道は画期的である。朝日・読売といった大手新聞やテレビ各局が同様の報道を行い始めるならば、北方領土問題の解決は近いだろう。





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66 コメント

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何もしない (kenji)
2011-02-28 11:08:43
 別に解決をする必要は無い。ポツダム宣言違反に過ぎないからである。
 北千島までわが国の領土である。
それと軍事的に進出して取り返せばいい。
 竹島も尖閣もである。
ロシアは最終的には北海道を取るつもりである・
 ソ連が崩壊した時軍事侵攻をすることが正解で「その力が無いわが国の状況が問題に過ぎない。
 北海道がロシアとの経済交流を100パーセント、停止すればいい。 
 それを20年もすれば帰ってくるよ。
何かまちがえているね。
返信する
教えてください (質問魔)
2011-02-28 11:16:12
そもそも、日本が、ポーツマス条約第9条で獲得した「完全な主権」とサンフランシスコ講和条約第2条で放棄した「権利、権原、請求権の合計」はイコールなの?
日本が、「主権」を放棄する、とは一言も書いてないよ。
もしかしたら、完全な主権>権利+権原+請求権、じゃないの?
それと、講和条約第4条B項と第23条で、「米国は、日本の旧領土に対して支配権と処分権を保持している」となっているけど、これは今、どうなっているの?

返信する
質問魔さんへ (princeofwales1941)
2011-02-28 19:46:08
>そもそも、日本が、ポーツマス条約第9条で獲得した「完全な主権」とサンフランシスコ講和条約第2条で放棄した「権利、権原、請求権の合計」はイコールなの?
日本が、「主権」を放棄する、とは一言も書いてないよ。
もしかしたら、完全な主権>権利+権原+請求権、じゃないの?


サンフランシスコ条約で日本が千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄した以上、ポーツマス条約の条文は無効になります。これは常識でしょう。


>それと、講和条約第4条B項と第23条で、「米国は、日本の旧領土に対して支配権と処分権を保持している」となっているけど、これは今、どうなっているの?


その様な記述は第4条B項と第23条には存在していません。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-02-28 21:01:41
北方領土に関しては、このまま現状維持でいいんじゃないの?
というのは、ロシアはいずれ、人口減で、極東を維持できなくなる。それまで、気長に待てばよい。
返信する
Unknownさんへ (princeofwales1941)
2011-02-28 21:13:38
>北方領土に関しては、このまま現状維持でいいんじゃないの?というのは、ロシアはいずれ、人口減で、極東を維持できなくなる。それまで、気長に待てばよい。


ロシアが人口減で極東を維持出来なくなったら、代わりに中国が侵入してきます。それを回避するために、日本はロシア極東を支援する必要があります。

また、資源大国・核大国であるロシアとの友好関係は日本にとって非常に利益が大きいです。中国・米国という日本の仮想敵国を牽制する為にも日露友好が必要です。

北方領土を獲得しても得られるのは漁業権程度であり、利益はそれほど大きくありません。それよりも、日露友好から得られる利益の方が大きいと思います。
返信する
princeofwales1941さんへ (質問間)
2011-03-01 10:16:28
>サンフランシスコ条約で日本が千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄した以上、ポーツマス条約の条文は無効になります。これは常識でしょう。

それでは、ずばりYes or No でお答え願います。

権利(right)、権原(title)及び請求権(claim)、には主権が含まれるのですか?

それと、ロシアが日本から南樺太の主権を獲得した、根拠になる国際条約を教えてください。

何の条約ですか?

以上


返信する
Unknown (kenji)
2011-03-01 11:14:04
>北方領土を獲得しても得られるのは漁業権程度であり、利益はそれほど大きくありません。それよりも、日露友好から得られる利益の方が大きいと思います。

 これが正しいと思うが、それなら今までのように触らずにして、漁業資源のみの交渉をロシアもする態度を取ればいいが、それは異なる。
 ここは微妙なところだろう。

>ロシアが人口減で極東を維持出来なくなったら、代わりに中国が侵入してきます。それを回避するために、日本はロシア極東を支援する必要があります。

 それならロシアも同じですから、ロシアは北方領土を日本にゆずって、ロシア自身が史那人の侵入に備えるという判断をしないのか。
 始から極東を日本の縄張りにするつもりでするならいいが、極東はモスクワからとおい。
 ロシアにとって、バルチック艦隊を派遣するようなものだから、それを彼等に納得させることだろうが、
 それこそロシアの考えが分からない。

 北千島まで返せば、ほとんどのことが解決する。

日本人はロシア文学が好きだしね。

 逆な意味で日露問題は亜米利加との問題である。

北千島まで返せばオホーツク海に原潜が入るから、それを100パーセントさせないことがわが国にはできるか?
 つまり指摘されたように日露問題は日米問題だろう。

>それと、ロシアが日本から南樺太の主権を獲得した、根拠になる国際条約を教えてください。

これは日本は放棄したがそれは誰がもらうかは決められていない。そのため地球儀において南樺太は白で塗られている。

同じように台湾は領有を放棄した。したがって台湾を何処の国が領有するかも同じように決まっていない。
 中共が台湾の領有を言うが、わが国はそれを認めたわけではない。
 中共が<アレは俺のものだ>といっていることは知っているが、領有をわが国は認めているわけではない
 ただマスコミが中共の息がかかっているため、国際公法上の事実と国内の気分とは別であることに日本人がきずかず、むしろ我国政府がそれを周知させる広報活動をしていないことが大きな問題である。
 韓国との問題である竹島も同じである。日韓基本条約にて決められ取り、ソレデお仕舞いである。
 しかしそこに日本の政治家が利権を作ったが為に、奇妙なことになっていることは、皆承知で、それはプリンスさんが指摘される、わが国の深謀遠慮ということである。しかしその見方は正しいだろうか?
 個人的には南北朝鮮にはかかわりあわないことである。
それは元寇の経緯をみればいい。主戦後の朝鮮人の公道や、現在している彼等の行動をみばいい。
<朝鮮、あんな何も無いところ誰も取らないよ>
これが正しい見方である。この見方は海舟だが今も同じだろう。徹底的にわが国は利用することである。得るものは無いからである。
 唯一つ、朝鮮全土を空爆できる空軍の力は持つ必要がある。
 朝鮮に一体何があるのか?
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失礼 (kenji)
2011-03-01 11:17:09
>主戦後の朝鮮人の公道や、現在している彼等の行動をみばいい。
>終戦後の朝鮮人の行動や現在している行動を見ればいい
です。校正したつもりでしたが
返信する
Unknown (たかちゃん)
2011-03-01 12:22:28
露も実はここまでやりたくはなかったのでしょうが、ジャスミン革命の余波でナショナリズムを高めるべく仕掛けたと予想。露も地方自治体が独立志向、反モスクワでテロも相次いでますから。加えて北方領土開発に宿敵中韓企業を入れ、北方領土問題が自動的に日中日韓問題になるように仕掛けてます。

上辺だけ見ると、嫌がらせですが、意外と日本が要請したのかな?と。露はこれだけのことをしながら、シベリア開発参加を日本に要請してますし。アメリカの衰退が避けられない今、日本は早急に再軍備の必要性があります。尖閣、竹島、北方領土と中韓露に露骨に攻め立てられる状態を意図的に生み出し、再軍備やむなしの決断を国民に促すためかな?と予想してます。昨年の尖閣もうやむやに出来るのをワザと大問題にした感じもありますし。日本の一番の課題がアメリカからの軍事独立ですから、多少の犠牲と外交問題はやむなしかなと。
返信する
核心的利益 (質問魔)
2011-03-01 12:48:33
中国が、日本の核心的利益(北方領土)を無視して、中国企業を国後に進出させるなら、日本も、中国がいつも声高に言うところの核心的利益(台湾、南シナ海、チベット、新疆など)に配慮する必要はない。

中国が「一つの中国」を要求するなら、日本も北方領土について「一つの日本」を、韓国も北朝鮮について「一つの韓国」を要求すればいい。

まさに、わが身をつねって、他人の痛さを知れ、である。
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