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父は転院して暫くは、何の処置もせず、薬を飲むだけだったけれど、点滴が始まった。
それで少し父は元気になってきた。
転院した当初はすっかりひからびていたのだ。
介護タクシーに乗っての2,3キロの移動だけで、またまたドッと消耗してしまった。
主治医の先生にも、家族には余命を厳しく宣告されていた。
でも、点滴の影響で顔にも少し艶がでてきた。
点滴で水分を体に入れることで、足がむくんだり、腹水が溜まったりという副作用もあるので、
実はとても慎重にしなくてはいけないとのことだった。
心臓近くの大静脈にカテーテルを入れるという点滴。
これで、暫く経ってから父は食欲も少し出てきた。
父の食事は、美味しくも楽しくもなく、ただ、「生きる」ために頑張って食べるだけのもののようだ。
嚥下もだんだん辛くなってきつつある。
ベッドを起こして、10分程度、食事をするだけで、ドッと疲れる。
それでも、私は、なんとか食べてほしくて、お粥の最後の一口をさらえて、父の口に運んだり、
卵焼きを一口、「ちょっと食べてみて!」と、有無をいわさず放り込んでみたりする。
父が、私の食事の介助を受け入れてくれたことはとっても嬉しかった。
ものすごく頑固な父。娘の世話は要らない、自分でできる…と拒まれるのではないかと心配だったけれど、
「どさくさに紛れる」感じで、自分でもうま~くできたな…と、「してやったり」な感じ。
でもそれは、自力では無理なので、自分のプライドを折っても、娘を頼ることでもある。
「お父さんの世話焼きたいんよ。せっかく会いに来とるのに、世話焼かしてよ~」
…と、父が惨めな気持ちにならないように盛り上げる。
長い付き添いの時間、なにか父にしてあげられることはないかなあ…と考え、本を読んであげることを思いついた。
Takの4年生時代の、「10分で読めるおはなし」と、小学高学年向けの太宰治の本を持っていった。
「お父さん、本よんであげようか?」
父は、「ええわ~ 寝てしまうわ」と言うものの、にこにこ笑っていたので、
これまた有無をいわさず、「ほな聞いてよ」といって、西條八十の「六さんと九官鳥」というお話を読み始めたのだが、、、実はこの「六さん」っちゅうのは、途中で病気で死んでしまう。
やっべ~~、、、選択が失敗やったな…と思いつつもとりあえず読み進めていくと、落語みたいに、九官鳥がいろいろ喋りまくって、活躍する結末になるのだが、父はほとんど反応がなかった。
それからまた2時間ぐらい経って、また「またなんか読んであげようか?」といったら、やっぱり「ええわ~」といいながらにこにこ笑っているのいで、次は、「走れメロス」を朗読してみた。
30分ぐらいかかったかなあ…
父は、ずっと目をあけて聞いていたけど、何を思ったか不明。あえて感想は聞かない。
読み終わって5分ぐらい沈黙が続いたあと、
「さあ、行こう」
と言いだした。
「どこ行くん?」
「天満屋に、漬物を買いにいく」
「お漬物なら私が買ってきてあげるよ。お父さんは、前は、天満屋にいつもお買い物に行ってたの?」
「前ゆーてなんや」
「亀井町(自宅)にいた頃」
「何をヘンなこと言いよる、今も亀井町におるがな」
父は、「帰宅願望」「外出願望」がとても強くて、当然だとは思うんだけど、自分の今の体の状態を忘れて、今でも外に行こうとする。
それも、1日のうちで、たぶん、時間がほぼ決まっているんじゃないかって気がする。
以前、高松病院で「シンボルタワー」の中華料理屋に行こうとした頃より、さらに衰えていて、どうしたってベッドから降りることなんかできない。
認知が進み、体は衰えていく…