噛みつき評論 ブログ版

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信用ない人の言葉は逆効果を生む

2011-08-22 09:56:30 | マスメディア
 信用のない人の意見は、たとえそれが正しくても(後でわかることですが)、疑ってしまいます。その意見が当人の利益になるといった下心が見える場合は、なおさらです。

 左翼政党の反原発運動への関与は古くからあり、そこには党の利益になるという思惑があったものと思われます。かつて、核兵器を否定する運動が、共産党系の原水禁と社会党系の原水協に分裂し、平和運動が党利のための道具とされたことが思い出されます。

 非武装中立などにみられるように非現実的な見識をもつ政党が反原発運動に関れば、反原発の主張も信用できないものと受け取られます。また政治色が強まることによって、その主張はわかりやすく、情緒的なものになります。地道な安全性の向上よりも原発全廃を訴える方がインパクトがあり、わかりやすいわけです。

 一方、原発の事業者側には、過去に津波対策の堤防の嵩上げや、全電源喪失時でも冷却ができる重力式の給水装置が検討されたことがあったが、それを実行すれば今までは安全ではなかったのかという追求を受けることになり、実現しなかったという話があります。安全神話がより高い安全性を目指す技術的改良を阻んだというわけです。

 むろんこれは事業者側の弁解・言い逃れという感が強いのですが、まったくそればかりとは思えません。この安全神話の成立には情緒的な反対論が関係しているように思えるからです。

 一部のまともな学者達を除いて、反対論の多くは原発を詳細に理解したものとは思えず、彼らに対し理をもって説得するのは非常に困難な状況であったと思われます。誰が作ったのか知りませんが、本来あり得ない絶対安全という安全神話の成立にはこのような背景があったと推定できます。

 また、新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原発から問題にならない微量の放射性物質を含む水が漏れましたが、大きく報道されて風評被害を招きました。数値の意味を理解せず、微小値でも大騒ぎするマスコミの反応も完全な安全・安心を求める風潮を作り出し、この神話成立の背景になったと考えられます。

 こうして事業者側の絶対安全に近似した議論と反対側の全面廃絶という妥協の余地のない議論の対立となって、安全性の向上という現実的な選択が難しくなった面があると思われます。むろん福島原発の事故の第一原因は大津波であり、その背景には地震学者らの誤った想定に基づいて津波を低く見積もったこと、事故直後の管理体制などがあったわけで、上記の問題はその背景の一部に過ぎません。

 事業者側は情緒的な反対論への対応には大きな努力をしてきたと思われますが、全電源喪失の問題や過去の大津波は一部で指摘されていたにもかかわらず、対策がとられることはありませんでした。また事故直後、一号炉の非常用復水器を手動停止させたことを所長が知らなかったり、死命を制するほど重要なベント弁の操作マニュアルがなく操作に手間取ったことなどを考えると、事業者側自ら安全神話を信じてしまっていたのかもしれません。

 今回の事故で、安全神話が崩壊したなどと言われますが、もともと絶対の安全などあるわけがなく、必要なのはどうすればより安全になるかという議論であった筈です。白か黒かの二項対立が現実的な対応策を遠ざけた、と言うことができましょう。


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2 コメント

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Unknown (こんちゃん)
2011-08-23 16:39:01
原発では、一度放射能が漏れたら、人は近づけなくなり、復旧どころか現状把握すら困難になります。一旦危険側に振れたら、人の手に余ってしまう。その被害は長期に渡り、しかも目に見えない。
ゆえに、原発では重大な事故が決して起こってはいけない。ここに原発のジレンマがあると思います。

「原発に想定外は許されない」と言う識者がいました。
でも設計者の立場からすると、どの規模の災害に耐えられるかという「想定」が無ければ設計はできません。
想定がある以上、想定外はあるのです。

事故を起こさない安全設計も無論重要ですが、事故が起こった場合の早期終息対策(陸路によらない非常電源やポンプ等の輸送、遠隔操縦ロボット等)が無いと、これからの原発運用は難しいでしょう。

あと未解決の課題は後始末です。核廃棄物処理も廃炉も、安全に行う方法は確立されてません。
これがまだなのに運用されてしまってるのが、私としては怖いです。
「その内何とかなるだろう~♪」の見切り発車でスタートして何十年も経つのに、未だ何とかなってないのです。
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Unknown (okada)
2011-08-29 19:38:43
返事が遅くなり、失礼しました。
原発のジレンマ、その通りだと思います。結局のところ、重大事故の起こる可能性を無視できる程度にまで下げることができるかどうか、という問題になると思います。世界には400基ほどの原発があり、長いものは40年ほどの運転実績があるわけですが、3番目の事故が信頼度の高い筈の日本で起きました。
大津波が直接の原因ですが、より安全性を確保する対策をとっていなかったことや、事故直後の対応のまずさの背景には油断があったように思います。簡単に言えば事故直後には水を入れ続ける、というだけことなのですが。
反原発側の学者の中には危険を針小棒大に言うなど、発言の信頼性に疑問を抱かせるような人があり、私自身、彼らの主張を聞いたために反原発の根拠に疑いをもちました。
両極端の議論が巾を利かせているなか、冷静かつ現実的な認識を持たれることは大切だと思います。
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