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元農林水産事務次官の決断

2019-06-09 22:03:56 | マスメディア


 大人と子供の違いはいろいろあるけれど、違いのひとつは物事を多面的に見られるか、一面的にしか見られないか、ということであろう。子供は成長するにつれ、様々な経験をする。その中で様々な立場を経験したり、理解する機会を得る。それが多面的な理解、見方につながっていく。しかしこれは一般論であり、歳だけ十分食っても一面的な見方しかできない大人がいることも事実である。

 元農水省の事務次官の熊沢氏が自分の息子を手にかけた事件があった。報道によれば息子の暴力行為に身の危険を感じた、あるいは息子が他人を殺害する危険を感じたことが動機になったとされる。どちらにしても非常に深刻な問題である。しかしこれらは危険という予測に過ぎないことから事前に警察などに相談しても解決できる問題ではないと思われる。危険が予想される、だけでは動けないのが今の仕組みだからである。

 熊沢氏にとってはまさに苦渋の決断であったろうと思うし、見方によってはご立派だとも思う。また、これまでの何十年間に味わってこられたご苦労は想像を絶するものがあるだろう。私が同じ境遇なら同じことをしていたかもしれない(勇気があればだが)。親が生み、育てた子供に責任を感じるのは当然のことと思う。親は子供の教育に関与し、その成長をある程度左右できる立場なのだからである。通常、親は教師や友人よりも関与できる度合いは大きい。大きく関与できるものに責任が生じるのは当然である。

 むろん子供は別人格であり、親がその生命を自由にしてよいわけはない、少なくとも法的には。だがこのような問題は、法で定めるべき範囲を超えているのではないか。熊沢氏の決断は違法であるが、それをせざるを得なかった状況であることも理解できるのである。熊沢氏が感じたという二つの危険の程度は第三者にはわからない。だからその程度がわからないまま熊沢氏の行為をあれこれ言うのもおかしいと思う。

 弁護士のテレビコメンテーターは親と子は別人格であるからこんなことは許されないと、また別のコメンテーターはなぜ行政などに相談しなかったのかと、非難じみた発言をしていた。どちらも一面的かつ皮相な見方であるように思う。弁護士は法がメシの種であるから、なんでも法を基準にしたがるのだろうが、法は万能ではない。また行政などに相談していなかった点はニュースでもしばしば取り上げられていたが、相談して解決できる問題ではないということが理解できていない。現在の社会システムはそれほど完全ではない。相談すればなんでも解決できると考えるのはかなりおめでたい人である。対処できる場合は限られるのである。

 川崎の子供ら19人を殺傷した犯人ともなれば普通の人間との違いが大きすぎて、恐らく理解不能であり、対処法も明らかでない。法の限界や社会システムの限界を知ることも大人であるための条件であろう。世間にはさまざまな人間がおり、そのバラツキは大きくて、一定の範囲をはみ出したものには教育などの社会システムがうまく機能しないという現実もある。

 熊沢氏には殺人罪による刑が科せられることは避けられないと思うが、決して利己的な動機によるものでなく、せめて執行猶予のついた判決を求めたいと思う。前回、取り上げた、262人もの若い女性を風俗店に売り飛ばした同志社大生らの犯罪に執行猶予をつけた判決に比べ、あまりにも釣り合いが取れない。


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