噛みつき評論 ブログ版

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判断を狂わせるための条件

2013-12-16 10:03:11 | マスメディア
 大失敗をした時、しばらくはそのことが頭をはなれないことがあります。やがて、オレは役立つこともいろいろやっていたのだと我に返り、大失敗に占領された頭はめでたく元に戻ります(正常ならば)。何かに思考を集中させることは時には必要です。しかしそのために一時的に全体を見失うことはよく経験します。こんなときにした判断は間違うことが多いものです。

 これは個人レベルの話ですが、社会全体でも似た現象が起きます。多くのメディアがあることをしつこく集中報道し、読者・視聴者、それにメディア自身、つまり社会全体がそれに染まっているような状況です。それは山本七平のいう「空気」にも似て、しばしば不合理な結果につながります。

 猪瀬東京都知事に対するバッシングが止りません。多勢に無勢、まさに「大人による弱い者いじめ」の観があります。議会での、文字通り汗だくの答弁の様子を見ていると気の毒になります。5000万円の借用問題ごときに、極悪人に対するような激しいバッシングには強い違和感があります。また大勢でたった一人をいじめることに恥ずかしさや後ろめたさを感じないのでしょうか。

 言うまでもなく、都知事にとって最も大事なことはよりよい都政を実現することであり、現在までの知事の功績は多くの人に評価されています。しかしそんなことはすっかり忘れたかのように、記者会見場に集う記者達の関心は5000万円問題だけに集中し、辞任に追い込むのが使命とでも思っているようです。北朝鮮には及ばすとも、たいした非寛容さです。

 誰だって叩けば多少のホコリは出るものです。とくに政治の世界に身を置く有能な人が清廉潔白を保つことは至難でありましょう。政治の世界は「水清ければ魚棲まず」と心得るべきでしょう。むろん限度はありますが、きれい事ばかりでは世の中はうまく治まりません。

 猪瀬氏の過去の著作、道路公団民営化委員会や都政の仕事を多少とも知る人は、これくらいのことで辞めることはない、辞任は都政にとって損失だ、という気持ちが強いと思います。

 一方、都議会での高木啓議員の居丈高な質問は極めて不愉快なものです。「人間として、おかしいっつってんだよ」という暴言。人間としておかしいのはどっちだ、と言いたくなります。猪瀬知事が「一言だけ言わせて下さい」と求めたのに対しても言下に拒否、こんな無礼は見たことがありません。

 相手が苦境に陥るとたちまち強くなる人がいます。自身の位置を常に意識し、上の者にはペコペコ、下の者には威張り散らす人です。わかりやすい処世術であり、よく言えば合理性がありますが、品性に欠けることは確かです。

 こういう人達を勢いづかせているのはメディアの報道でしょう。知事を擁護する報道は一切なく、頭の中は5000万円疑惑に占領されています。メディアが知事の過去の業績までを含めた広い視点に立つ報道をすれば、無礼な質問をする高木議員らは支持を失いかねず、自制せざるを得ないでしょう。

 猪瀬知事の進退はメディアの報道次第と言っても過言ではないでしょう。このままバッシングを続けて辞めさせ、より劣った新知事が誕生したら、不利益を蒙るのは都民です。むろんメディアはその結果に責任をもつわけではありません。

 個人でも社会でも、何らかの想念に取り憑かれ、全体を見失ったときの判断はたいてい間違うものだと一般化してよいでしょう。これを巧みに利用するのが宗教や詐欺師たちですが。