噛みつき評論 ブログ版

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携帯電話で脳腫瘍・・・誤解を生む報道

2011-06-13 10:04:43 | マスメディア
 世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が携帯電話の電磁波と発がん性の関連について、限定的ながら「可能性がある」と発表したことについて波紋が広がっています。なかでも「1日30分、10年以上の携帯使用によって神経膠腫(グリオーマ)の危険性が40%増加するという報告があった」という記述を気にされる方が多かろうと思います。

 朝日新聞がこの記事を解説つきで一面に載せたのをはじめ、他でもかなり大きく報道されました。しかし、この発表内容はかなり曖昧で、「神経膠腫の危険性が40%増加するという報告」の信頼性も不明であり、誤解を招く可能性があります。そしてこれを伝える報道は誤解をさらに助長したと考えられます。

 読者が知りたいことは携帯電話の使用はどの程度の危険性があるのか、ということでしょう。したがって「神経膠腫の危険性が40%増加」という文言はかなり危険なものという印象を与えます。

 しかしここには元々の神経膠腫の発生数についての記述がないため、40%増加といわれても増加する絶対数が不明です。例えば胃ガンのように年間発生数(罹患数)が10万人あたり100人前後のものであれば40%の増加は10万人あたり40人の増加になり、これはかなり大きいリスクと言えるでしょう。

 ところが脳腫瘍の発生率は10万人あたり3.5人、神経膠腫はそのうちの28%を占めるので、その発生率は10万人あたり0.98人となります。これが40%増加すれば増加分は約0.4人です。胃ガンの場合とは約100倍の差があります。

 神経膠腫の罹患率を知っている人はあまりいないと思われるので、「神経膠腫の危険性が40%増加」ということだけを伝えると読者はリスクを正しく判断することができません。恐らくリスクを過剰に捉えることでしょう。基準値を示さず、増加率だけを知らせるやり方は煽動には好んで使われますが、まともな報道とは言えません。

 主なメディアの記事にざっと目を通しただけですが、神経膠腫の罹患率について解説している記事は皆無でした。WHOの発表内容の意味、リスクの大きさを正しく読者に伝えようとする気持ちがメディアに乏しいのか、あるいはメディア自身が意味・リスクの意味をよく理解できないのか、わかりませんが、まあどちらにしても困ったことであります。