噛みつき評論 ブログ版

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日本経済新聞のジレンマ

2010-06-07 09:55:24 | Weblog
 四半期ごとに経済成長率が発表され、それに一喜一憂するような国は例外的だそうです(佐和隆光氏の言)。近年の四半期の前期比変化率はせいぜい1%程度でありそれが直接生活に影響を与えるほどのものではありません。投資をしている人にとっては、成長率は全体の趨勢を把握するには必要な指標ですが、一般の人には、騒ぐほどの意味はないと思います。

 経済は生活の基盤であり、重要なことです。しかし経済紙なら知りませんが、一般のメディアまでが、したがって国民の多くが成長率の細かな動向にこれほどまでに強い関心をもつことには少々違和感があります。

 私の推測ですが、これには日本経済新聞の存在が少なからず関わっているように思います。日経は経済紙というものの読み応えのある文化欄やスポーツ欄まであり、他の全国紙と同様、一紙の購読で足りるという構成になっています。そのためもあるのでしょうが、約300万部と中位の全国紙並みの部数があります。

 そして、日経がもっとも信頼できる新聞と評価されている事実があります。2007年2月の調査によると「読者信頼度」は日経が1位で、2位読売、3位朝日と続きます。これは朝日新聞が外部に依頼した「新聞読者基本調査」によるものです。15歳以上の9千人を対象とし約4900人が回答したもので、社外秘扱いとなっているデータから明らかになったとされています。日経の信頼度が比較的高いのは私も同意しますが、その理由のひとつは恐らく朝日などに比べ記事に色がついていないためでしょう。

 また比較的高いレベルの読者層を対象としているようで、社会に影響力のある層に広く読まれ、その影響力は部数以上のものがあると考えられます。

 問題は、もっとも信頼度が高く部数も多い新聞が経済記事中心の新聞であることです。読者の頭の中は知らずしらずのうちに経済の占有割合が高くなっているのではないでしょうか。

 1980年代以降、英米に始まった市場重視の新自由主義の流れは日本にも広がりましたが、これには日経新聞が大きい影響を与えたのではないかと思われます。市場における自由な競争が効率的で望ましいこととされ、優勝劣敗が当然とされる風潮を生みました。そして経済における考え方が経済以外の領域にまで影響を及ぼしたと思われます。

 ホモ・エコノミクスとは自己の利益を最大限に追求するように合理的に行動すると想定された人間を指す経済学の用語ですが、この二、三十年は現実の人間の方がホモ・エコノミクスに近づくよう奨励されてきたような感があります。

 日経新聞は経済の比重が高いながらも社会、政治などを総合する一般全国紙としてのクオリティペーパーであり、それだけに社会への影響力は大きいものがあります。もし経済中心の新聞ではなく、一般紙がもっと高い信頼度を保っていれば日本の社会は少し違ったことになっていたかもしれません。