静聴雨読

歴史文化を読み解く

凱旋門賞を勝つには(ディープインパクト)

2013-10-09 07:53:37 | スポーツあれこれ

 

10月1日のフランスの凱旋門賞から1週間が経ち、ディープインパクトの敗因を論ずる論調にある結論めいたものが見える。それは、「ぶっつけ」で挑戦させたこと、である。「ぶっつけ」というのは、長期休養明け、という意味と、フランスの馬場を経験させずに、という意味の二つがある。

ディープインパクトは6月の宝塚記念以降レースを使わず、休養とヨーロッパへの順応に時間を充てた。その間、凱旋門賞まで3ヶ月半。決して長すぎるとはいえない。「長期休養明け」は当たらないだろう。

「フランスの競馬を経験させずに」という指摘は要を衝いている。

フランスの競馬は日本のそれとは異なる。芝が深く、馬場は柔らかい。時計のかかるタフなコースだ。レースはスローペースで流れ、最後の600メートルの瞬発力と持続力の勝負になることが多い。騎手同士のかけひきが激しい。日本の馬と騎手はこれらのことに戸惑う。今回、騎手はフランスで数多く騎乗している武豊だから、問題ない。

問題は、ディープインパクトに馬場の特徴やレースの特徴を覚えさせる必要があったのではないか、という点である。凱旋門賞の前に一度、同じロンシャン競馬場でディープインパクトにレースを経験させれば、馬場のタフさ、レースのタフさ、を人馬とも会得したと考えられる。利口な馬は「馴致」という訓練で驚くほど新しい環境を学習するという。

どうして、事前にディープインパクトにフランスの競馬を経験させなかったか? 以下は推測だ。

6月の宝塚記念から凱旋門賞までの3ヶ月半の間に一度レースを使うには間隔が少なすぎる。それで「ぶっつけ本番」になったのだろう。

馬主や調教師に、6月の宝塚記念をスキップして、早めにフランスに渡るという決断があれば、一度フランスでレースを使う余裕ができていたことだろう。その結果で、本番の凱旋門賞に臨む作戦を立てるヒントをつかめたはずだ。

馬主が求めるのは名誉と金銭だ。ディープインパクトは天皇賞・春を勝った時点で日本の古馬(4歳以上の馬)ナンバーワンの称号を手に入れてしまったのだから、宝塚記念は(金銭を別にすれば)パスしてもよかった。その決断を欠いたことが残念だ。

1999年にエルコンドルパサーがやはり凱旋門賞に挑戦した。この時は、6ヶ月前にフランスに渡り、2度レースを経験させ、その上で凱旋門賞に出走した。結果は惜しい2着だった。最後の600メートルの瞬発力と持続力の勝負でやや競り負けた、という評価が一般であったが、準備過程については誰もが賞賛した。これだけ用意万端準備して負けたのだから、馬の力が足りなかったと素直に納得した。

今回のディープインパクトは、本当に馬の力が足りなかったのか、まだ霧中のままだ。まだ、やり残したことがあったのでは、という思いが捨てきれない。

海外の競馬に挑戦するには、現地の競馬に慣れる努力が必要だということを、今回のディープインパクトの敗戦は如実に示した。そう批評することは、今回のディープインパクトに限れば結果論かもしれないが、次回のディープインパクトの海外挑戦やほかの馬の海外挑戦を考えた場合、必ず役立つ教訓ではなかろうか?                        (2006/10)