静聴雨読

歴史文化を読み解く

イギリス民衆文化への共感

2007-12-01 03:30:19 | ソローとモリス
黒田千世子さんの近著「大人のためのやさしい日常英会話事例集50選」、創英社、2007年、を読み終えたところだ。実用英会話の経験豊かな著者の面目躍如だ。

黒田さんには前著「イギリスの丘絵(ヒル・フィギュア)を紹介する本」、講談社出版サービスセンター、2003年、という傑作がある。この本を紹介しよう。

「地上絵」といえば、ペルーの「ナスカの地上絵」が有名だが、「イギリスの丘絵」は地上絵を丘に描いたものといえばわかりやすいかもしれない。イギリス南部のイングランド地方とウェールズ地方の石灰岩地層を有する地帯に点在するという。全部で20余り。その一つ一つを黒田さんは訪ね歩き、出現や制作の由来を土地の人に聞き、記録している。普通の人にはなしえない力業だ。

丘絵の原理は、石灰岩地層の表面の緑の草を剥ぐことによって白い石灰岩が露出することを利用している。写真で見ると、白馬のフィギュアが多いようだ。

誰が、何の目的で、ということが気になるところだ。これだけ大掛かりの絵を描くためには、多くの人の参加があったに違いない。そこに黒田さんは民衆文化の伝統が根付いているのを示唆している。鋭い指摘だと思う。

黒田さんは、土地の人へのヒアリングで、民衆と領主との複雑な葛藤と協力の関係があったことを探り出している。

描かれた白馬などが表徴するものは何か、キリスト教との係わりは合いどうか、土俗信仰の表れではないのか、など興味はつきない。
現代的な関心からいえば、緑の草を剥ぐことは自然保護に反しないか、という疑問もあろう。

ローズマリ・サトクリフに「ケルトの白馬」、2000年、ほるぷ出版、というロマンスがある。バークシャー地方のアフィントンにある丘絵の生成の由来を題材にしたロマンスだ。丘絵はイギリスの人々の想像力を掻き立てる独特の存在であることがわかる。

黒田さんは、ホームページ「イギリスの丘絵」 http://homepage3.nifty.com/okae/ を公開して、丘絵の普及・紹介に努めている。

黒田千世子さんの著作:
「ゴグ・マゴグ:英国の伝説と歴史の接点を求めて」、1994年、近代文芸社
「旅先で出会う 英語の掲示(イギリス編)」、 2000年、創英社
「イギリスの丘絵(ヒル・フィギュア)を紹介する本」、2003年、講談社出版サービスセンター
「大人のためのやさしい日常英会話事例集50選」、2007年、創英社

これらは、例えば、アマゾンで、新刊か古本で求めることができる。私も、このようにして手に入れた。  (2007/12)