アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

「アイヌの遺骨はアイヌのもとへ」 in 東京 報告その3

2015-02-05 01:52:28 | 日記
さる1月30日に行われた「アイヌの遺骨はアイヌのもとへ」 in 東京 の報告の続きです。

講演2は榎森 進さん(東北学院大学名誉教授)による「アイヌ民族の先住権を認めたくない政府」。
榎森さんは『アイヌ民族の歴史』(草風館2007年)や、もっとも最近では、『アイヌ民族否定論に抗する』(岡和田 晃,マーク・ウィンチェスター)にも、「歴史からみたアイヌ民族 小林よしのり氏の「アイヌ民族」否定論を批判する」を執筆されています。

講演では歴史の専門家として、1984年(5月27日)に北海道ウタリ協会が総会で決議した「アイヌ民族に関する法律(案)」を「アイヌ民族の歴史上画期的な内容を有した歴史的文書」と評価。
そして、その後のアイヌ民族をめぐる国内外の動向に触れ、その問題点を浮き彫りにしました。
大半をここでは略します(後日、「さまよえる遺骨たちブログ」にレジュメが掲載されるでしょうから確認下さい)。
わたしが紹介したい所は、過去ブログでも扱いましたが、2001年3月20日、国連の「人種差別の撤廃に関する委員会」が、日本政府がILO(国際労働機構)第169号条約を未だ批准していないことに対し、日本政府に最終勧告を提示したところ。
勧告の内容は以下の通り、
「締約国(日本)に対し先住民としてのアイヌの権利を更に促進するための措置を講ずることを勧告する。この点に関し、委員会は、特に土地に係わる権利の認知及び保護並びに土地の喪失に関する賠償及び賠償を呼びかけている先住民の権利に関する一般的種族に関する勧告23(第51会期)に締約国(日本)の注意を喚起する。また、締約国(日本)に対し、原住民及び種族民に関するILO第169号条約を批准すること、及びこれを指針として使用することを慫慂する」。

この勧告に対する日本政府の回答は以下の通り、
★「先住民」について。「『先住民』という言葉の定義については、国際的な定義がなく、上で述べたような意味において、アイヌが『先住民』であるかどうかについては、国際的な論議との関係において慎重に検討する必要があると考えている」。
★ILO第169号条約について。「本条約については、ILOが本来取り上げるべき労働者保護以外の事項が多く含まれており、また、我が国の法制度に整合しない規程が残されいるという問題もあるため、ILO総会での採択の票決において我が国政府は棄権したところであり、直ちに批准することには問題が多いと考えている」。

その後、ご存知の通り、2007年9月には国連総会で「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を多数決で採択。賛成:143ヶ国(日本は「民族自決は国家からの分離・独立を含まない」「集団の権利は、一般に認められない」との保留を付けて賛成)。そして、2008年5月、国連人権委員会が日本政府に対し、この「国連宣言」の国内適用に向けて、アイヌ民族と対話するように勧告。同年6月6日、衆参両議院本会議で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める国会決議」を全会一致で採択。日本政府はアイヌ民族をはじめて「先住民族」と認めるのですが、相変わらずILO第169号条約を批准していません。

榎森さんは、その後の流れも追いながら、2008年に設置した「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(以下「あり方懇」と略)と、2010年に設置された「民族共生の象徴となる空間」作業部会・「北海道外アイヌ生活実態調査」作業部会の二部会の各『報告書』の問題点を指摘。

まず、「あり方懇」の『報告書』の問題点。
「あり方懇」は、2007年(平成19)の「国連宣言」と翌2008年(平成20)の国連人権委員会の日本政府に対する勧告の内容を強く意識し、2008年(平成20)6月の両議院本会議での「アイヌ民族を先住民族とすることを求める国会決議」を受けて、同年7月、官邸に設置されたものであった。したがって、「あり方懇」は、当然のことながら「国連宣言」と国連人権委員会の日本政府に対する勧告の内容及び「国会決議」の内容を真摯に受け止めた『報告書』を作成すべきであった。ところが、『報告書』の内容は、アイヌ民族の歴史を正確に記述していないだけでなく、「国連宣言」の各条文で謳っている先住民族の権利については、僅かにアイヌ文化の伝承活動との関わりで触れているに過ぎず、「国連宣言」の重要な部分を構成している土地・領域・資源に対する権利(第25条~32条。別紙資料参照のこと)をアイヌ民族に適用することを意識的に避けた内容になっているところに最大の欠陥が存在している。しかも、カナダ・オーストラリア・ニュージーランド等の政府(首相)が当該国の先住民族に対して過去の政策に関して公式に謝罪しているにも拘わらず、同『報告書』では、国のアイヌ民族に対する公式な謝罪を要求していない。

次に、「民族共生の象徴となる空間」作業部会(部会長:佐々木利和)と「北海道外アイヌの生活実態調査」作業部会(部会長:常本照樹)の『報告書』の大きな問題点。
先ず前者について言えば、歴史的経緯からして「国連宣言」に記されている先住民族の諸権利をアイヌ民族に適用する努力をした施策を提示しなければならないにも拘わらず、僅かにアイヌ民族の歴史や文化を理解するためのテーマパーク的空間を整備し、同空間内に国立のアイヌ文化博物館を新設すると共に、各大学に保管されているアイヌの人骨について、遺族等への返還の目途がたたないものは、この「象徴空間」に集約し、その慰霊を行うとし、しかも、「集約した人骨」は「アイヌの歴史を解明するための研究に寄与する」とさえ記していることである。→政府及び人類学者の意向が大きな影響を与えている。
また、後者について言えば、調査対象地域が東北地方から沖縄県までカバーしていることは評価されるが、1989年(平成元)12月の『東京在住ウタリ実態調査報告書』(東京都)によると、「在京アイヌ」のみで、514人(推定2,700人)を数えているにも拘わらず、青森県から沖縄県にいたる都府県に居住しているアイヌの人口が僅かに210人に過ぎないことである。調査方法に問題あり。



旭川に行く時に渡る石狩川。とても冷えた朝でした。