アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

シンポジウム「さまよえる遺骨たち Part3」報告 その3

2013-05-10 08:12:35 | インポート
続いて、「イギリスの状況」を植木哲也さん(苫小牧駒澤大学国際文化学部教授)が報告。

4月19日に行われた政府のアイヌ政策推進会議作業部会で遺骨返還のガイドラインが示されたというニュースに触れて、どのようなガイドラインかまだ中身は知らされていないがイギリスではすでにガイドラインができ、それに基づいて返還されているので、その違いを注意して見ておく必要性を訴えました。
(ニュース参照:http://blog.goo.ne.jp/ivelove/s/%A5%AC%A5%A4%A5%C9%A5%E9%A5%A4%A5%F3)

以下、重要部分を記します(詳細は前回お伝えした『資料』を参照してください)

・これまでの経緯として、1980年代にオーストラリアやニュー ジーランドから遺骨や副葬品の返還要求があったが、一部の研究者が遺骨返還の問題を取り上げたのみ。

・1999年にAlder Hey 事件が発覚。小児病院が死亡した小児の心臓や臓器を遺族の同意なしに大量に研究用に保管している事実が偶然に判明し、社会問題化。両親からの返還請求。

・遺骨に対する先住民族の感情が、Alder Heyの両親たちの気持ちと同様に理解されるようになり、遺骨問題がにわかに脚光を浴びるようになる。ここから、遺骨は研究上、重要であると主張する科学者と返還支持者の論争が活発化してくる。

・2000年7月、オーストラリア先住民の遺骨返還に向け、英国首相とオーストラリアのブレア首相が共同声明。英国にあるオーストラリア先住民族の遺骨を返す方向に両政府が積極的に努力するというもの。これをきっかけとして英国の科学者たちも返還に向けて動き出す(が、博物館保管物を移転させるのに法的な制約があったため遅くなる)。

・2001年5月:英国政府 (Department for Culture, Media and Sport) が遺骨返還に向けたワーキング・グループ ( The Working Group on Human Remains) を招集。2年後にワーキング・グループによるレポート(DCMS2003)。2004年11月:人体組織法(Human Tissue Act 2004)成立。この法律により、9つの国営博物館に、死後1000年より新しいと考えられる遺骨について、返還の権限を与える。

・2005年10月、英国政府が遺骨の扱いに関するガイダンスを刊行 (DCMS2005)。それ以降、大英博物館と自然史博物館がアボリジニの遺骨返還に同意。また、自然史博物館がトレス海峡諸島の先住民族の138 の遺骨を返還との報道。

・ガイダンス (Guidance for the Care of Human Remains in Museums)は最良の手続きを推奨するものであり、法的強制力はない。パート1(法的・倫理的枠組み) パート2(遺骨の管理・保存・使用) パート3(遺骨の返還請求)の三部構成。

・パート1(法的・倫理的枠組み)として、人体組織法(2004年に医学研究のための法律)で人体組織の扱い (DNA分析含む)を規定していたが、規定外の博物館の遺骨の多くについて別のガイダンスを作成。また、イングランドおよびウェールズの法律は人体や人体組織に対する財産権(所有権)を認めていないため、これにもとづく返還請求は困難であるなどの説明がされている。倫理的枠組みとしては、「手続き上の原則」と「倫理的な原則」とに分かれており、厳格さ、清廉潔白さ、個人と共同体の尊重、科学的なことへの尊重(科学を全否定する事ではない)、苦痛を与えないこと、連帯、善意など、一般的な原則が述べられている。これらに基づいて返還の手続きがなされなければならないという大枠が示されている。

・パート2(遺骨の管理・保存・使用) 説明省略

・パート3「遺骨返還請求に関するガイダンス」には、前提として踏まえるべきこととして、人骨は知識の進展に貢献すること、博物館の人骨には、不正に獲得され、個人やコミュニティが深く傷つられたケースがあることなどが示されている。返還請求に関しては、①オープンで公平な対話によって、ケースバイケースで解決されるべきである。②費用の問題が返還を拒否する理由となるべきでない、などが記されている。
さらに、返還手続きのモデルケースが記されている。①返還の申し出に対し、公的に受理し、責任者を明確にし、請求内容を明確にする。そのプロセスは申し出を受ける以前から公開とする。②次に証拠集めを行う。重要なのは請求者の立場と遺骨との関係(連続)性。ここでは、子孫に返還されないのは例外的ケースで ある(genealogical descendants)と明記されている。③総合と分析(すべての証拠を総合し、適切な規準にもとづき、公開された持続的な対話を行なうべき。倫理的・法的枠組みにしたがって証拠を分析する)。④意見聴取(必要であれば)。⑤決定(機関としての公的決定、報告書作成)。⑥アクション(決定プロセスの記録・保存、請求者への通知)。これらの段階をたどる。

・まとめると、①法的な問題で議論されるのではなく、倫理的なレベルで議論が行われているということ。法的に正しい事でも倫理的な問題を解決するように示されているのが特徴。②ガイダンスの中で、かつての遺骨収集には不正かがあったということが明記されている。特に、単に承諾を得ていないということではなく植民地支配の中で集められたということだけで対等な関係ではなかった。それを踏まえた上で検討せよと示されている。③具体的な事としては、必ず公開すること、平等な対話をすることが示されている。特に、遺骨返還を求める側は情報がないのに比べ、遺骨を持っている博物館側等は情報を持っているという情報のかたよりがあるので、博物館側が情報を積極的に公開するようにしなければならないと示されている。これらを含めて、返還に際して努力をするのは博物館などの遺骨を保持している側の責任だとガイダンスでは何度も触れられている。
北海道大学の遺骨返還を求める小川さんたちへの今までの対応を、これらのガイダンスに照らしてみると、どういうものかは、説明をしなくても分かる事。



この度のシンポジウムのテーマにある「遺骨返還は世界の流れ」は、以上の報告からも明らかですし、日本政府も北大もしっかりと見習って頂きたいですね。
倫理的な観点から各国政府が動いているという点も注目にあたいします。

がんばってテープ起こしをしつつ資料で補ってみましたが、いがかでしょう。できるだけ分かりやすいようにしたつもりですが逆に分かりづらくさせてかも知れず、申し訳ないです。
Facebookでもこのblogを紹介していますが、なかなか「いいね」がつきません(どうでもいい写真には「いいね」がたくさんつくのですが・・・苦笑)。中には、分かりやすいと言って下さる方がおられるので、今後も可能な限り分かりやすさを目指そうと考えています。

週刊金曜日掲載の記事「アイヌ人骨“発掘”研究の実態は依然不明??北大のずさんな管理が発覚」(平田剛士・フリーランス記者、4月12日号)が、同webサイトで読む事が出来ます。
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=3222
掲載写真は第1回口頭弁論の際に、裁判所前で札幌雪祭りを見に来ていた人びとに向けてアピールしたときのもの。


旭川 嵐山の笹作りのチセ(家)が作られています。まだ一日(午前中)だけしかお手伝いに行けていません。すでに笹が編み込まれ出したようですが、一週間前に行った時はサクマ(横木)用の柳の木の皮むきをしました。これからもちょくちょく手伝いにいけたらと思います。数年前の川村カ子トアイヌ記念館のチセ作りの時は毎日のようにお手伝いさせてもらったのがなつかしいです。
札幌ピリカコタンでも茅作りのチセが作られるようです。以下の北海道新聞記事参照。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/sapporo/464354.html