アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

「アイヌ民族シンポジウム」のパネルディスカッション報告

2013-02-05 15:12:59 | インポート
前回紹介した北海道アイヌ協会札幌支部主催「アイヌ民族シンポジウム」のパネルディスカッションの簡単な報告もUPします。
テーマは「アイヌ民族の宗教的伝統と慣習の権利について考える」。北大を訴えた遺骨返還の裁判と関連付けて遺骨の問題、副葬品の問題を考えようと札幌支部役員会で話し合ったとのこと。
司会者は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」にある11~13条にうたわれている権利だと紹介。
ちなみに、どう書いているか手元に権利宣言があるので引用します。

第11 条 【文化的伝統と慣習の権利】
1. 先住民族は、自らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利を有する。これには、考古学的および歴史的な遺跡、加工品、意匠、儀式、技術、視覚芸術および舞台芸術、そして文学のような過去、現在および未来にわたる自らの文化的表現を維持し、保護し、かつ発展させる権利が含まれる。
2. 国家は、その自由で事前の情報に基づく合意なしに、また彼/女らの法律、伝統および慣習に違反して奪取されたその文化的、知的、宗教的およびスピリチュアル(霊的、超自然的)な財産に関して、先住民族と連携して策定された効果的な仕組みを通じた、原状回復を含む救済を与える。

第12 条 【宗教的伝統と慣習の権利、遺骨の返還】
1. 先住民族は、自らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し、その宗教的および文化的な遺跡を維持し、保護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し、儀式用具を使用し管理する権利を有し、遺骨の返還に対する権利を有する。
2. 国家は、関係する先住民族と連携して公平で透明性のある効果的措置を通じて、儀式用具と遺骨のアクセス(到達もしくは入手し、利用する)および/または返還を可能にするよう努める。

第13 条 【歴史、言語、口承伝統など】
1. 先住民族は、自らの歴史、言語、口承伝統、哲学、表記方法および文学を再活性化し、使用し、発展させ、そして未来の世代に伝達する権利を有し、ならびに独自の共同体名、地名、そして人名を選定しかつ保持する権利を有する。
2. 国家は、この権利が保護されることを確保するために、必要な場合には通訳の提供または他の適切な手段によって、政治的、法的、行政的な手続きにおいて、先住民族が理解できかつ理解され得ることを確保するために、効果的措置をとる。
(市民外交センター仮訳 改訂 2008 年9 月21 日)


11条の1には、アイヌ民族には、自分達の守り伝えてきた文化的伝統と慣習を実践し、発展させる権利があることが保障されていること。これには考古学上の遺跡、史跡、加工品、デザイン、儀式、技術、視覚芸術および舞台芸術、そして文学などが含まれています。2には、日本政府はこれらの文化的、知的、宗教的およびスピリチュアル(霊的、超自然的)な財産が破壊や収奪を受けた場合、原状回復を含む救済を行わなければならないという責務が与えられています。
たとえば、現在、博物館に保管されているアイヌ民族文化財は正等な入手が行われたかどうかを調査が行われ、不当入手の場合、返還が必要です(市民外交センターブックレット3参照)。
過日、北海道大学に大量の副葬品が保存されていることが、北大の開いた記者会見で記事になっていました(2012/11/28朝日)。「副葬品は刀や漆器、首飾りなど80種類あり、総数は数百点から数千点に上るという」と、なんとアバウトな数を書いています。これらも徹底的に調査するべきものです。

12条は、遺骨(この原語には遺髪も含まれる)、副葬品などの返還を受ける権利が述べられ、日本政府は返還可能になる政策を改善しなければならないのです。
さらに、アイヌ民族としての慣習や儀式にのっとった返還方法が必要でしょう。今回の遺骨返還訴訟では、アイヌ民族の慣習では、遺骨は各コタンが所有するものとしてあり、返還はコタンの継承者に行うべきと訴えています。

13条は、アイヌ民族は自らの歴史、言語、口承伝統、哲学などを発展させる権利、および共同体名、地名、人名を自分達で選択し、維持する権利を持つ(市民外交センターブックレット3参照)。日本政府は、この権利が守られるように実効的な制作をとらなければならないことが義務づけられています。


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さて、パネラーのみなさんの発言にもどります(一部の要点のみ紹介)。
北海道大学が保存しているアイヌ人骨の返還裁判に関わっている小川早苗さんは裁判の報告と支援を訴えました。数年前、先祖の墓を改装するために遺体を取り出したら、一緒に埋葬した着物やタマサイなどの副葬品が全くなく悲しい思いをした、と発言。
カラフトアイヌ協会の田澤 守さんは、北大が人骨を洗い整理する承諾をアイヌ協会とだけ行い、カラフトアイヌにはなんの相談もして来なかったこと、3年前のウタリ協会(当時)総会で質問したところ、協会側はカラフトアイヌの皆さんと相談しながら進めていくと行ったにもかかわらず協会からはなんの連絡もないということを発言。
澤井アクさんは、かつて北大の児玉作左衛門教授が「アイヌコタンで自転車の後ろに箱をつけて、その中に無造作にアイヌ人骨も埋蔵物につっこんで、カチャカチャしながら何十回と歩いて持って帰った。このような犯罪的なことはずっと見逃しておくわけには行かない」と批判し、返還と謝罪を求めると発言。また、土地権に関して闘っていこう、北海道は過半数以上が国有地なので一旦返せと主張していこう、と。
多原良子さんは、アイヌの伝統・文化の継承の大切さと、和人への教育の必要性を主張。
支部教育部長の川上裕子さんは、札幌市の協力を得てこどもたちの教育促進が行われているが学習力がUPしてきている。毎年、料理教室を行うが、料理の食材を個人所有の山に採りに行けない。日高平取町では三井物産がアイヌにひと山を使って下さいと提供されていると聞くが、札幌でもそのような山を確保できたらと思う、と発言。
支部国際人権部長の門脇こずえさんは、古い着物を学びたくとも海外のコレクションだったり権利が他者にあるので実際に見て学べない。これらの権利をご年配に任せるのではなく若者としてしっかりと学び、主張していきたい、と発言。

最後に、聴衆として来たつもりが突然にパネラーに指名された市川守弘弁護士が質問に答える形で以下の発言をされました。
●アメリカでは1820~30年代に連邦最高裁判決が相次ぎ、そこで決まったことが現在のアメリカの基本となっているし、国際法になってカナダ、ニュージーランドでも引用されている。その判決文の中身は、当時ヨーロッパ列強が大航海時代で大地を「発見」する中で、「発見」した人の所属する国の土地になる。ただし、それは列強同士の間での国境の問題であり、そこに住んでいる人々の土地を優先的に取得する交渉ができるのだ。つまり、実際に買っていくのです。そこに不平等な売買があったであろうが、しかし、「一方的」ではなく交渉があった。この間の、問題の道議会では日露和親条約でエトロフとウルップの間で国境が定まったのだから「一方的」ではないんだ、という発言があったが、対ロシアとの関係上であって、そこに住んでいるアイヌとの関係ではちゃんと交渉して土地を買っていかない限りは領有できない。これが1820年以降の国際法なのだ。そういう意味で日本は国際法を無視しているし、「一方的」に違法行為を続けているといえる。
●では、誰と交渉すればいいか。それは各コタンだ。これは北大の遺骨返還裁判も同じで、杵臼コタン(ただし、コタンは昔と違ってちゃんとした集団となっていないので、その構成員の子孫)に返せと要求している。これは和人の考え方では遺骨も相続財産になるので相続人に所属する。だから、北大側は相続人であることが確認できたら返すと言っている。しかし、それは和人の考え方で、アイヌは遺骨をコタンで管理していた。権利主体はコタンにあるんだ。土地の取得もアイヌ全体ではなく各コタンだ。各コタンが主権国家としてイオルという支配領域の中で自主独立の存在だったから。

長くなってしまいました。いい学びが出来ました。


教会前に毎冬つくるキャンドル。今年は連日の吹雪(今も!)で、まだ一夜のみ