流入リスク、見通し甘く 政府、対応に右往左往 「検証 コロナ時代」「変異株の脅威」
2021年11月4日 (木)配信共同通信社
感染力が格段に増した新型コロナウイルス変異株の出現で、流行2年目を迎えた国内は感染爆発に直面した。英国由来のアルファ株に翻弄(ほんろう)された大阪は医療崩壊に追い込まれ、インド由来のデルタ株が猛威を振るった首都圏では医療状況は"災害レベル"と指摘された。
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新型コロナウイルスの変異株は世界保健機関(WHO)が命名したものだけでも10種類以上が出現した。各国は、感染力が増したり、ワクチンの効果を減らしたりする恐れのある種類の監視を強める。日本では人の流れの制限緩和を進めていた時期に流入が判明、政府の対応は二転三転して拡大を食い止められず、見通しの甘さが際だった。
▽制限緩和へかじ
WHOによると、アルファ株が最初に英国で報告されたのは昨年9月。日本では12月25日に空港検疫で確認された。政府はこの間、中長期滞在者を対象に全世界からの入国を再開。中国などを対象にビジネス関係者の往来も始まり、観光支援事業「Go To トラベル」と歩調を合わせ、制限緩和へ大きくかじを切っていた。
アルファ株の初確認を受け田村憲久厚生労働相=当時=は記者会見で「感染拡大しないような対応を取っている」と強調。だが早くも翌日には渡航歴のない人の感染が判明し、水際対策の抜け穴が明らかになる。またビジネス往来は継続としたため異論が噴出、今年1月中旬に中断に追い込まれるなど、対応は右往左往を続けた。
新たな感染者が報告されるたび、政府は「面的な拡大はない」と言い続け不安感の払拭(ふっしょく)に努めていたが、関西では水面下で広まっていた。
一因とされるのが、年明けに発令した緊急事態宣言を関西などで3月1日に前倒しで解除したことだ。神戸市は同日、変異株の割合が半数に及ぶ可能性があるとの分析を公表。大阪では3月上旬に100人弱だった感染者数が1カ月後には連日千人を超えた。重症病床が埋まり、患者の受け入れを制限する病院が続出した。
▽問われて公表
国立感染症研究所の斎藤智也(さいとう・ともや)・感染症危機管理研究センター長は「水際対策として入国前検査などは行われていたが、国全体では制限緩和が進められており、今からみれば入国者数が多かった」と指摘。国内侵入リスクに対する認識の甘さは否めないと振り返る。
アルファ株が猛威を振るっていたさなか、今度はデルタ株などインド由来の変異株の流入が判明する。インドで昨年10月に初めて発見され、今年4月ごろから爆発的な感染拡大が起こり、国際的に警戒されていた。
加藤勝信官房長官=当時=は4月22日の定例記者会見で、記者からの質問に答える形でインド由来の変異株の検出を認めた。5月12日に「懸念される変異株」に位置付けて監視レベルを引き上げたが、水際対策の甘さを指摘する声が続出。各地でも発見例が相次いだ。
京都大の西浦博(にしうら・ひろし)教授ら専門家がデルタ株の脅威を訴える中、政府は6月21日、沖縄を除き緊急事態宣言の解除に踏み切る。だが予測をたどるようにデルタ株は増え続け、7月中旬に関東で7割に達した。爆発的な感染拡大で政府は再宣言に追い込まれ、東京五輪・パラリンピックの無観客開催を余儀なくされた。首都圏などで自宅療養中に死亡する人も相次いだ。
▽勝ち目なし
感染研の斎藤氏は「アルファ株より感染力が強い株が現れたら勝ち目がないと思っていた」と明かす。アルファ株の感染力は従来株の1・3倍だが、デルタ株はアルファ株のさらに1・5倍。相当な対策強化がなければ封じ込めは困難だ。
政府は再び対策緩和に動き始めており、新たな変異株の流入は避けられない。早期の覚知が重要だが、南米ペルー由来のラムダ株のように流入時に公表しなかった前例がある。大阪健康安全基盤研究所の本村和嗣(もとむら・かずし)・公衆衛生部長は「検疫所や他の自治体の調査について、情報をいち早く共有する枠組みが必要だ」と訴えた。