1
うふふ、うふふ、うふふ。
2
これは含み笑い。口の中でひとりでに笑いが湧き起こっている。笑いの自然温泉みたいな。
3
人が来たらそこでぴたっと止む。人が去って行ったら、また湧き上がって来る。
4
「笑いを殺す」という表現があるけど、押し殺さなくてもいい笑いもある。だが、この種の笑い声は、あんまり声を立てない。聞こえないくらい。
5
うふふ、でなくてもいい。わはは、でもいい。えへへでもいい。おほほ、いひひでもいい。好きにすればいい。
6
山中に老人が居た。笑い声を押し殺していたが、行きすがりの人に見抜かれてしまった。表情が笑っていたからだ。
7
どうしてそうもにこにこしているか、と問われた老人は答える。
一に、おれはこの世の極樂に生まれた。二に、おれはそれを知る人間に生まれている。三に、おれはこうしてまだこの世の極樂に生きている。それを思うと笑い囲み上げて来るのだ、と。
8
この世は極樂なのかどうか。そこを疑うと笑いは消える。そうなのだ、地獄なのかもしれないのだ。
9
極樂だと決めてしまえば、笑いが点灯する。
10
そこに生を受けている己が有り難く感じられて来るからだ。逆かも知れない、己が此処に生きていることがありがたく感じられて来れば、此処が自然と極樂に思われて来るのかも知れない。
11
好きにしていいのだ。それぞれによさがある。
今は地獄を生きているとしてもいい。次を極樂に生きるために、今は一歩下がって地獄を味わっておく、としてもいい。
12
今をうふふ、うふふと笑っていてもいい。次にそうすることを期待していてもいい。
13
風邪の症状が幾分退いて来たようだ。これは、うふふに値する。ちょっとだけ、うふふする。
14
目白が山から下りて来た。我が家の客人となっている。梅の木の小枝に刺している小蜜柑を啄んでいる。眺めていると、うふふになる。