ひむがしの野にかげろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ 柿本人麻呂 万葉集 巻1
日の出前である。うっすら白い月が落ちかかっている。東の空からは光が憧れが立ち上がるようにして、あかあかと昇って来ている。その両方を見ている。右に左に。作者は早起きをしたのだ。いや、旅に出ていても、あれこれ昔のことが思い遣られて、寝もやらなかったのだろう。軽皇子(文武天皇)とともに狩をして阿騎野に赴いて来ている。歌は皇子に献じられたもののようだ。「かぎろひ」は旭日の余光のことらしい。
☆
叙景歌。歌を作ってはじめてその場に風景があざやかに立ち上がって来る。輝いて来る。だから風景を美しく見るためには、呼び水としての歌が必要なのだ。それで、しみじみと風景を見渡して賛美できる。感応できる。