喜んでもらったというだけで嬉しくなった。お嬢さんは新入社員。マッサージチェアの会社の。地方回りをさせられて、こんな山里までおいでになったというわけ。老人対象のアンケートをとりに我が家にやって来られた。さふろうは丁度外に出て小葱を摘んでいた。恐る恐る来訪の趣旨を告げるが、極度の緊張が見て取れた。こちらは冷ややかに応じている。仕事の手も休めずに。アンケートは終った。生返事しかしてないので、居辛くなって戻って行こうして、やっと余裕ができたのか、我が家の畑の野菜を眺めて、「おいしそうな野菜ですね。よくまあ育っています」と彼女が言った。それから場が打ち解けてしまった。一人住まいでお野菜なんか滅多に食べてないと言う。京都にいる我が娘のことが思われてしまった。「今夜食べる分のお野菜を持って行きなさい」そう言って畑にある野菜を次々に抜いて来て差し上げた。白菜、大根、蕪、ブロッコリー、チンゲンサイ、かぼちゃ・・・・幾種類にもなった。空きの肥料袋が二袋必要になった。緊張が解けてそれがそのまま喜びに変わったようだった。彼女は何度も何度も頭を下げてお礼を述べ、しばらく去ろうとしなかった。