ねえ、きみ、きみ生まれたんだよ。
あんなに生まれたい生まれたいって言っていたじゃないか
何百年もずっとずっと言ってたじゃないか
その通りになっているんだよ
きみは人間の肉体に宿って人間になっているんだよ
誰かが耳元へ来てささやきかける
なぜ人間になって生まれたいんだい、と僕が聞くと
きみは
やりたいことがいっぱいあるんだ、と答えていたよね
ささやきつづける人は、形がないから
どうも人間以前らしい
僕がすやすやねむっているばかりで
あんまり嬉しがっていないように見えているらしい
ママという人のおっぱいにむしゃぶりついているばかりで
それですっかり満ち足りているって感じだ
ママという人の愛情もお乳以上に甘いので
これ以上のものは何にもいらなくなってしまうのだ
パパになってくれた人にもときどき抱かれてご満悦の体になる
それで人間以前に立てた誓願なんか忘れてしまったらしいのだ
つまりその日暮らしを続けているということになって
それで悔いはなかったのだ
*
悔いは昨日やってきた
突然だった
僕は68才
病気で倒れてしまったのだ
食べたいって気持ちも萎えていて
ひょろひょろしていて
押し寄せてくる苦痛に抵抗を試みている
夕暮れのガラス窓に映ったのは
100才近い老人の顔だった
また人間以前の<きみ>がやってきて耳元でささやいた
*
きみは人間に生まれて来ているんだよ
人間に生まれて来たことを
もっともっと楽しんで楽しんでいいんだよ
きみは人間を楽しんだのかい?
人間以前の頃に、
人間に生まれたらやりたいことがいっぱいあるって
そう言っていたよね
それをきみはやれたのかい?
僕はきみに生まれてくる順番をゆずってあげたんだ
そしてずっと人間になったきみを見て来たけれど
最期まで行動を起こさないきみの生き方に
少し期待外れでがっかりしているんだ
*
行動を起こすべきだったんだ
100才の顔をしている僕はこれを思って
思わずぞっとしてしまった
恐くなった
どんな行動を起こすべきだったというのだ?
僕はやっとここへ来てこれを考えた
どんな行動も起こさずに
あれもこれも
やり過ごしてきていたんだ
人間になる順番を僕に譲ってくれたきみが
悲しい顔をしてそばに立ってた
かたちはないのだが、瞳が動くのがよく見えた
あんなに生まれたい生まれたいって言っていたじゃないか
何百年もずっとずっと言ってたじゃないか
その通りになっているんだよ
きみは人間の肉体に宿って人間になっているんだよ
誰かが耳元へ来てささやきかける
なぜ人間になって生まれたいんだい、と僕が聞くと
きみは
やりたいことがいっぱいあるんだ、と答えていたよね
ささやきつづける人は、形がないから
どうも人間以前らしい
僕がすやすやねむっているばかりで
あんまり嬉しがっていないように見えているらしい
ママという人のおっぱいにむしゃぶりついているばかりで
それですっかり満ち足りているって感じだ
ママという人の愛情もお乳以上に甘いので
これ以上のものは何にもいらなくなってしまうのだ
パパになってくれた人にもときどき抱かれてご満悦の体になる
それで人間以前に立てた誓願なんか忘れてしまったらしいのだ
つまりその日暮らしを続けているということになって
それで悔いはなかったのだ
*
悔いは昨日やってきた
突然だった
僕は68才
病気で倒れてしまったのだ
食べたいって気持ちも萎えていて
ひょろひょろしていて
押し寄せてくる苦痛に抵抗を試みている
夕暮れのガラス窓に映ったのは
100才近い老人の顔だった
また人間以前の<きみ>がやってきて耳元でささやいた
*
きみは人間に生まれて来ているんだよ
人間に生まれて来たことを
もっともっと楽しんで楽しんでいいんだよ
きみは人間を楽しんだのかい?
人間以前の頃に、
人間に生まれたらやりたいことがいっぱいあるって
そう言っていたよね
それをきみはやれたのかい?
僕はきみに生まれてくる順番をゆずってあげたんだ
そしてずっと人間になったきみを見て来たけれど
最期まで行動を起こさないきみの生き方に
少し期待外れでがっかりしているんだ
*
行動を起こすべきだったんだ
100才の顔をしている僕はこれを思って
思わずぞっとしてしまった
恐くなった
どんな行動を起こすべきだったというのだ?
僕はやっとここへ来てこれを考えた
どんな行動も起こさずに
あれもこれも
やり過ごしてきていたんだ
人間になる順番を僕に譲ってくれたきみが
悲しい顔をしてそばに立ってた
かたちはないのだが、瞳が動くのがよく見えた