風邪薬は風邪の患者が服用する。すると治る。治す効き目があるからである。
わたしの幸福不感症には治療薬があるのかしらん。薬局に行ったら売ってあるのかしらん。これを飲めば、わたしはたちどころに幸福に目覚めて、興奮を覚えるのかしらん。
それは、これまでのわたしの、その道への精進、努力に拠っているのであって、こっそりもらい受けて済むものではなかろう。あきらめろ。一人で指笛でも吹いてなぐさめろ。
そんなふうに決着をつけておいた。即効性の治療薬なし。わが幸福不感症の病や、篤し。
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薬局にそんな幸福ゲット薬が売ってあったら、しかし、馬鹿売れに売れるだろうなあ。錠剤一粒で、朝から夕暮れまでの一日だけ、幸福をしみじみと感じられるというような。それは危険な麻薬か。麻薬はよくないけど。
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胃袋を満たすインスタントラーメンは開発されたが、こころを満たすインスタント幸福薬はまだなんだなあ。
僕は不感症か。
とある新聞の「短歌月評」蘭を読んだ。炬燵に入って一人で。合計で秀歌１６首が載せてあった。何々賞何々結社賞などの受賞の作品群だったが、まるで全然感じなかった。わたしのこころは、些細なさざ波すらも起こさなかった。ときのニュースを絡めたような内容の作品が目立った。そんな醒めた印象を受けた。＜そんなの、散文じゃん＞と思った。此処に長居する気持ちすら起きなかった。
僕が不感症だったというだけなのだが。僕が、鑑賞力無能病を病んでいるからに違いない。観賞しないというのは、横柄な態度である。
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あらためて思う。わたしにとっての文学とは？ そりゃ、一人のわたしを癒してくれるものでなければならない。わたしを元気づけてくれるものでなければならない。わたしを面白がらせ、愉快がらせ、楽しませ、発奮させてくれるものでなければならない。
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今日の新聞の秀歌は、わたしとの共通性がなかったということか。いや、わたしが彼ら受賞者たちと共通性がなかったということか。そうかもしれない。わたしは選者でもない、批評家でもない。なんでもない。でも、読んだのである。何かを得たかったのである。徒労に終わった。
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新聞が騒ぐほどの秀歌なのである。専門家が誉め讃えている作品群である。大概の読者諸氏は感服しただろうに、それに、わたしは少しも感動をしなかったのである。わたしが異常なほどに傲慢なのかもしれない。ともあれわたしは興味をそこから引き出し得なかったのである。その辺りのすれ違い、不協和がどうして起こるのかを考えさせられた。
うとうとうとうと。居眠りをしてた。とろとろとろ、融け出してた。むにゃむにゃむにゃむにゃは、いい気持ち。ふふ、こんなお爺さんでも、いい気持ちはいい気持ち。
さ、そろそろ、腹が減って来たぞ。昼飯にするか。野菜たっぷり、小葱たっぷり即席ラーメン半分分けと黒糖パン。仕事も、運動もしていない怠け者は、少量でよさそう。
朝起きてから、昨日の夜に書いておいた手紙を読み直しました。花束を頂いた方へのお礼状です。折り畳んですでに封筒に入れておいたのに、気になってもう一度引き出しました。
随分修正を施しました。相手への配慮が欠いているように思われたからです。中身を軽くしました。重いのは荷物になります。
パソコンで書いて印刷機で印刷をしました。これから郵便局へ行って切手を確かめて、投函します。
１０
白く流れる雲の間から、澄んだ青空が広がってきました。眺めているだけで気持ちが良くなります。今日は一日こうしていようかな。此処からぼんやり眺めているだけにしようかな。そうしていても多分、飽きは来ないでしょう。むしろいよいよ気分爽快になって行くでしょう。青空というのは偉大です。
偉大だけれども、偉大を鼻に掛けません。そこもまた偉大です。＜我は偉大だ＞などと吹聴するのは、小人の域なのでしょう。鼻に掛けない青空に一日ぼんやりとしてお付き合いをしましょう。
９
ホテルの朝のバイキング料理の一品に、＜小松菜とモヤシのおひたし＞がありました。鰹節が掛けてありました。細かく切って蒸しただけのようです。これがシャキシャキしていてやわらかくておいしかったのです。我が家の畑にも小松菜はすくすく育っています。こんなにおいしく食べられる野菜だと言うことを知りました。見直しました。再発見です。
再発見ということはいいことです。価値を見出していなかったものに、価値が付加されます。そういうことってありますよね。そうならないで終わることもありますけど。
よく見ればナズナ花咲く垣根かな 芭蕉の再発見は、わたしたちにだって可能です。
８
外には出ていないのに、もうからクシャミが連続します。晴れた日には杉花粉が飛ぶでしょう。我が家のすぐ近くにも杉の大木が聳えています。上へ上へ上へと伸び上がっています。葉っぱが赤く色づいています。花粉を飛ばしているのでしょう。鼻水もたらたら垂れて来ます。こんなことに敏感でなくてもいいのになあ。
敏感と鈍感は使い分けないと行けませんよね。どんなに敏感であってもいいことがあり、どんなに鈍感であってもいいことがあります。＜動かざる事山の如し＞ということもあります。
７
さて、と。ここからまた物質界のわたしに戻ります。
雨は上がっています。でも、雨が降った後の畑は湿っています。植え付けてから、肥料を３回施肥しました。ぱらぱらぱらっとですが。その甲斐あって、どうやら玉葱畑の玉葱がぷくぷくと太って来たようです。根っこの部分が膨らみかけています。葉っぱもつややかな緑を濃くしています。玉葱もこうやって張り切って生きています。堂々たるものです。
＜うわああ、すげえ＞と目を丸くします。なんでも、ふくらむっていいよなあ。
６
死んで行くのは物質だけなのです。物質だって、実は死んでも行かないのです。組織替えをするだけなのです。非物質は、物質を出てそれを見守っています。もちろんご苦労を讃えます。お礼も言います。
死なないわたしがいます。非物質のわたしがいます。わたしはきらきら輝いています。内容があまりにも高密度なので、光っています。そして次の方向へ変化を遂げていく全体の流れを、眺めています。＜わたし＞はひどく安らいでいます。
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ふふ、そんなことこんなことを考えています。この老爺は他愛がないのです。幼いのです。自由にものを考えるのが好きなのです。
５
＜非物質としても生きられる＞とすれば？ それで生きられるのであれば、夢はいきなり３６０度広がります。第一、何処へだって行けるのです。えいやっと掛け声一つで宇宙の四方八方へ出向いていけるのです。アンドロメダ星雲まで一呼吸の間です。
いや、いまでもわたしは非物質であり得ています。物質を介在していますが、わたしの全体は物質だけで構成されているのではありません。こころは非物質です。精神は非物質です。霊は非物質です。物質と非物質は同居をしています。
