午後からは北の畑に出て農作業に従事した。中くらいのスコップを使ってカボチャのあとを耕した。深く深く土を堀り上げてひっくり返して、雑草の根を除去した。そして有機石灰と粉末状の鶏糞をどさりどさり撒いて、混ぜ合わせ、土をふかふかにした。ここに畝を作り、午前中に買ってきておいたレタス苗とカリフラワー苗を植えた。首許にタオルを巻いていたので、そんなに寒くは感じなかった。5時を知らせるサイレンが鳴った。西の空の雲が夕日で赤く染まった。作業を終了して帰宅した。これで老爺の一日が過ぎて行った。カボチャや冬瓜、野菜瓜を植えていたところはまだあと半分もある。ゆっくりでいいから、春馬鈴薯を植える準備をしよう。
曇り空をしている。寒い。雨になるのだろうか。椎の木の林を目白がひとしきり鳴いて渡って行く。
僕は今日は何をしようか。?が頭の中の小径を走って行く。何をして過ごしたら僕の一日にふさわしくなるのだろう?
一人でいつものように炬燵の番をしている。それしかないのか。柱時計の秒針の音しか聞こえてこない。
友人宅へ行って隼人瓜(はやとうり)を段ボール箱いっぱいも分けてもらった。友人宅は山裾に農園が広がっている。谷川沿いに聳えている高い木の3本に跨がって、そのおのおののてっぺんまで隼人瓜の蔓が伸びていて、その全体にサーカスのテント小屋の屋根の形を形成して、瓜がぶらぶらぶら下がっていた。隼人瓜の生命力の強さを見せ付けられた。隼人瓜は霜に弱い。で、もうここまでである。霜に当たったら蔓も葉っぱも枯れて萎んでしまう。瓜は落下を免れない。そしてやっぱり霜の被害を受けて顔が歪になってしまう。大きさは大小あるが、平均して猫の頭ほどもある。
帰宅してから、作業に入った。瓜漬けにするのである。包丁で4分の1に割る。中央には実(さね)が鎮座している。これを剥ぎ取る。皮を厚く剥く。そして平べったい竹篭に列べて日に干す。段ボール一杯の瓜をここまで仕上げるのに夜なべした。夜なべで足りなくて阿朝起きてすぐに又継続した。やっと今し方瓜漬けの前段階が終了した。
干し上がったら塩漬けにする。潮が沢山いる。数日間、重石を掛ける。水分を抜く。細く平たくなったところで、まずやや古い方の酒粕に漬ける。その後で新しい酒粕に漬け直す。1ヶ月はかかる。野菜瓜をつけた奈良漬けとは又風味が違う。隼人瓜の方が断然上品である。白ご飯に合う。酒の肴にも成る。一度食したら虜になってしまうほどにおいしい。
友人と一緒に塩田を訪ねた。塩田は酒蔵が列ぶ街である。塩田川が流れている。ここの小さな酒販売店に立ち寄った。酒粕を求めて。しかしその小さな店にはもう酒粕は置いてなかった。その代わり、奈良漬けが一樽だけ店頭に売られていた。3500円。この酒粕を使って隼人瓜をつけることが出来るという説明を受けた。買うことにした。粕だけでも2000円ほどもするのである。この店の奥に奈良漬けを漬ける工場があった。親切な女将さんが走って行って、奈良漬けを作るときに用いた工場の2番酒粕を袋一杯も用意して下さった。隼人瓜を先ず此処で馴らすのである。やや年増の上品な女将さんであった。