おやすみなさい。午後11時を過ぎた。蒲団を列べて、友人と話をして、話が止まらない。でももうやすもう。今日は5回も温泉に温まった。
ハイヒールの靴音が行き交う。じっとしているしかない。今は出て行けない。じっとしている。手洗いの水音もしなくなった。今だ。出て行くのは今だ。扉を開けて走り出た。反対側の男性トイレに走ってそこで何食わぬ顔で手を洗った。
ここは道の駅。中央に障害者用トイレ。ドアを開けようとするが開かない。使用中のよう。お腹が痛み出した。我慢ができない。隣のトイレに入るとすぐに洋式トイレが見えた。ここへ駆け込んだ。用がたせた。ほっとした。するうち、ハイヒールの靴音がして、話し声がして賑やかになった。
悟った。ここは男性の来るところではなかったのだ。息を詰めた。出て行こうにもでていけなかった。変態の疑いは必死だった。
間違ってしまったのだ。てっきり隣は男性トイレだと決めてかかっていたのだ。危ないところだった。犯罪者にされるところだった。言い訳は出来なかったかも知れない。誰にも見つからないですんだ。腹部がやっとすっきりした。
吉井温泉に来た。原鶴温泉の隣だ。昼ご飯は素麺料理。椎茸と鶏肉の出汁がよくきいていた。おにぎり付き。カンコロもおいしかった。一泊4食付き8000円。よく来るところ。ここに働いている人とも顔なじみになった。外は寒い。これから湯を浴びる。
山の奥山にある古湯温泉宿を出たら、雪降り。ララララララのラ音がした。ファもときおりまじった。今夜は積もるのだろうか。白いつぶつぶが顔を掠めて落ちた。雪女の指先のような冷たい感触だった。わたしたちはことりことりとそこを歩いた。もう一度、朝湯を済ませて、チェックアウトした。