知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

相違点に適用する引例の技術分野と本願発明の技術分野

2007-02-24 09:55:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10287
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

原告は,引用刊行物2(甲3)のように,圧力差を利用するという発想がない装置に基づき,本願発明のように,圧力差を利用する装置とすることは,当業者といえども容易に想到し得ないと主張する
 確かに,引用刊行物2には,「第3図において,ピストンリングブロツク4は,プランジヤー5の頭6に,ばね座金7を介してナツト8で取付けられている。」(2頁左上欄15~18行)との記載があり,引用刊行物2のピストンリングブロック4は,プランジャー5の頭6にばね座金7を介してナット8で取付けられるものであると認められるので,引用刊行物2記載の発明は,本願発明と同様の形で圧力差を利用するものとはいえない。
 しかしながら,前記のとおり,審決は,本願発明と引用刊行物2記載の発明のみを対比したものではなく,本願発明と引用発明を対比した上で,相違点1,2について引用刊行物2記載の技術事項を適用しているものである。そもそも,負圧のかからないリングにも負圧をかけてシール効果を高めるということ自体は,原告出願に係る引用刊行物1(甲2)に記載されている事項であり(段落【0005】,【0009】,【0019】),審決は,引用刊行物1のそのような記載事項を前提とした上で,本願発明と引用発明の相違点について,引用刊行物2に記載された技術事項を適用しているものである。したがって,引用刊行物2記載の発明自体が圧力差を利用する装置でなければならないものではない

 もとより,引用発明と引用刊行物2記載の発明の技術分野,技術課題,課題を解決するための手段等における相違から,当業者であれば,両発明の組合せを試みるとは考えられないような場合には,両発明を組み合わせて進歩性の判断をすること自体が誤りとなることもある。しかしながら,本件では,引用刊行物2に記載された発明は,ピストンリングブロックを用いることにより,シリンダー内の高圧漏れを防ぎ,ほぼ完全に近いシールを可能にするものであり(2頁左下欄下から2行~右下欄3行),引用発明と引用刊行物2記載に係る発明は,いずれも高圧漏れを防ぐためのシール装置という点で共通の技術分野に属するのであるから,引用刊行物2に記載された事項を引用発明に組み合わせて進歩性の判断をすることが誤りであるということはできない。

 このように,本件では,本願発明と引用発明との相違点1及び2に係る事項が引用刊行物2に開示されており,引用発明と引用刊行物2に記載された発明を組み合わせることを妨げるような事情も認められない。したがって,相違点1及び2に係る構成は,引用刊行物1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるということができる。』

特許請求の範囲の拡張・変更-クレーム中の図面記載番号の解釈

2007-02-24 09:40:36 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10126
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一
  
『( 1) 訂正事項aは,特許請求の範囲の請求項1の「鉤部材(15)は・・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられており,」との記載を,「鉤部材(15)は・・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられており,」との記載に訂正するというものである。
そして,訂正前の請求項1の記載によれば,その発明の構成において「ガイド部」に案内されるものは「軸部」であることが明らかであり,また,訂正後の請求項1の記載によれば,その発明の構成においては,「ガイド部」に案内されるものは「鉤部材」となることが明らかである。すなわち,①「軸部」は,訂正前の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされていたが,訂正後の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とはされず,また,②「鉤部材(15)」は,訂正前の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされていないものであったが,訂正後の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされるに至っているものである。
 しかるところ,原告は,請求項1記載の発明において,「軸部」がガイド部に案内されることが,必須の構成であったとすることが不合理であり,当業者は,請求項1に係る「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により」との記載が,誤記又は不明瞭な記載であって,本来,「鉤部材(15)は・・・ガイド部(19)に案内されて軸部(21,42)により」であると容易に理解するものであると主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできない。』

『原告の上記主張は,要するに,特許請求の範囲の請求項1において,「軸部」の語に,軸部がガイド部に案内されない態様である実施例1の符号「21」が付されていることを根拠とするものであるが,特許請求の範囲には,「各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」(特許法36条5項)のであり,ただ,「請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは,当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる」(特許法施行規則様式29の2の[備考]14のロ)ことが許容されているにすぎない。そうすると,請求項の記載において,実施例に係る図面の符号が用いられたとしても,それは,単なる補助的な手段であって,請求項記載の発明の構成が当該実施例に係る具体的構成に限定されるものではなく,同様に,当該実施例に係る具体的構成によって,請求項記載の発明の構成が特定されるものでもない
 したがって,本件において,請求項1の「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42)」との記載における「軸部」に付された符号「21」が,軸部がガイド部に案内されない態様である実施例1についてのものであったとしても,それがため,訂正前の請求項1に係る発明の構成において,「ガイド部」に案内されるものが「軸部」であることが,何ら不明瞭となるものではない。』

『訂正前の請求項1は,その記載により,「軸部」が「枠体の内側に設けられているガイド部」に案内され,その「軸部」により,「鉤部材」が上下方向へ移動可能に設けられていることが,一義的に理解されるものであり,何ら不明瞭な点は存在しない。したがって,訂正事項aは,①請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされていた「軸部(21,42)」を,「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされなくするものであり,また,②請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされていない「鉤部材(15)」を,「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされるようにするものであって,①は実質上特許請求の範囲を拡張するものに該当し,②は実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するものというべきである。』

周知技術を組み合わせる際の評価例

2007-02-18 22:15:33 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10081
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美


『相違点を全体的に観察しても,相違点1,相違点2(1),2(2) に係る技術事項は,いずれも,引用発明と共通又は近接する技術分野において,周知の技術事項として存在していたものであり,引用発明と複数の周知技術の組合せを困難とするような格別の事情も見当たらない。』

特許請求の範囲の用語の認定

2007-02-18 22:13:56 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美

『 原告は,被告が辞書を引用するなどして,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載を解釈したことに対し,本願補正発明1とは技術的意味が異なる引用文献に記載された吸収体製品の表面シートにおける,「凸部」,「凹部」及び「折目状」と解釈することは,
単に,対応するこれらの語が通常の日本語として類語に近いものであるという程度の意味しかなく,高度に専門的で口語とは異なる点において,必ずしも通常の日本語とはいえない特許請求の範囲における技術的用語の解釈としては,はなはだ妥当性を欠くものであり,特許請求の範囲における技術的用語の意味の解釈として,一義的に明確ではない旨主張する。
 特許請求の範囲で使用する用語は,原則として,その有する普通の意味で使用しなければならず,特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用することを要する(特許法施行規則24条の4,様式第29の2備考9参照)ところ,本願補正発明1に係る技術分野において,何らかの技術常識によって,その表面シートの「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が,普通に理解されるのとは異なった意義に理解されるものであると認めることはできず,特定の意味で使用される用語であることを定義した記載も見いだせないのであって,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が有する普通の意味において,その内容が,技術的に一義的に明確であるといえることは,前記(2)のとおりであり,原告の主張は採用の限りではない。』

実施可能な特許請求の範囲の記載の限界

2007-02-18 22:11:32 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10166
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『原告は,本願明細書(甲8)の発明の詳細な説明の記載から,①システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングが基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させていること,②基地局内の複数の周波数チャンネルはすべて同一の時間基準を用いていること,③基地局内の受信タイミングと基地局の送信タイミングが同一であること,④加入者局は自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること,⑤加入者局・基地局間距離変動追跡のための「精密調整」がなされていることが理解できるとし,これらの記載内容を参酌すれば,請求項1の前記記載の意味は明確である旨主張する
 しかし,請求項1における他の構成をみても,加入者局が,自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること等を示唆する記載はなく,そのような理解の手掛かりとなる記載もない。
ウ 要するに,原告は,特許請求の範囲に記載も示唆もない事項について,本願明細書の発明の詳細な説明における記載内容を,発明の構成として読み込むことを主張するものであり,採用することができない。』

『付言するに,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載が,①順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含むこと,②それら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期していること,を意味しているというのであれば,特許請求の範囲に直截に記載すべきである。特許請求の範囲の記載内容が,明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌・総合して初めて理解できるようなものは,特許法36条3項,4項の要件を満たすものとはいえない。原告の上記主張によれば,請求項1の記載は,本来,簡明直截に記載できる内容をことさら不自然に表現したものであって,第三者の理解を妨げるものといわざるを得ない。』

特許クレームの進歩性の判断の際の認定手法等

2007-02-15 07:19:19 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10210等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


『甲第3号証記載発明は「パイプ」相互の隙間の充填についてのものであるところ,ここにいう「パイプ」は本件発明3の「毛管束」と必ずしも構造等が同一ではない上,甲第3号証のパイプ同士の隙間を充填することと本件発明3において毛管束同士の隙間を充填することとの技術的意義の異同についても検討されていない。さらに,甲第1号証記載発明に甲第3号証記載の事項をどのように適用すれば本件発明3の構成に至るのかも,定かではない。
 そうすると,審決が説示するような意味で両者が同一技術分野に属するとしても,それだけでは,甲第1号証記載発明に甲第3号証記載発明を適用して本件発明3の構成を得ることが容易であるとはいえない。したがって,審決は,理由付けが不十分であるといわざると得ず,原告の上記主張は,この点をいうものとして理由がある。』

『 被告は,審判手続における平成17年9月1日付け口頭審理陳述要領書
(B事件甲11)において被告(審判請求人)が行った特許法36条5項2号違反の主張について,審決が判断しなかったのは誤りであると主張する。
しかし,審判手続における被告の当該主張は,無効審判請求書(B事件乙1)に記載のない新たな無効理由を追加するものであって,実質上,審判請求書の要旨を変更する補正に該当する。このような補正は,審判長の許可がある場合等でなければ許されないのであるから,審決が,当該主張に対する判断を示していないことが誤りであるとはいえない。
 なお,被告の当該主張は,本件訂正により請求項1の内容が変更されたことに伴うものであって,特許法131条の2第2項1号にいう「当該特許無効審判において第134条の2第1項の訂正の請求があり,その訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたとき」に該当するものであるということはできる。しかし,特許法131条の2第2項各号に該当する事由があっても,補正を許可するか否かは審判長の裁量権に服する事項であるから(同項柱書き),審判長が当該補正を許可せず,審決が当該主張に対する判断を行っていないことが,誤りであるとはいえない。』

『3 付言
(1) 本件発明1を,甲第1~8号証の記載とを対比すると,本件発明1の主たる特徴は,①「チャネル(注:この『チャネル』が複数であるか単数であるかも国際出願の原文を踏まえて確定されるべきである。)」が「複数の別個の毛管束」で構成されること,②「複数の別個の毛管束」が「支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定」されること,の2点にあることがうかがわれる。
 審決は,主たる引用発明となる「甲第1号証記載発明」を,「X線のビームを制御する装置であり,繰り返し全外反射をする多数のチャネルで作られたシステム。」(14頁第5段落)という漠然とした概念のレベルで認定した上で,①と②の点をひとまとめにして「相違点1」として検討しているが,このことが,誤りの原因であったものと考えられる。
(2)上記①の点,すなわちチャネルが「複数の別個の毛管束」で構成されることの容易想到性の検討に際しては,「複数の別個の毛管束」という用語の技術的意義を本件特許明細書の記載に基づいて確定した上,被告が指摘する甲2~8号証の各記載等が参酌されるべきである。
(3)上記②の点,すなわち支持構造体の構成については,まず「支持構造体」の具体的内容を検討する必要がある
この点につき,本件特許の請求項2以下を見ると,支持構造体の構成を直接に規定するのは主として以下の4つであると考えられる。
【請求項2】支持構造体がチャネルを支持する開口を有する,請求項1の装置。
【請求項3】複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した,請求項
1の装置。
【請求項5】チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより,支持
構造体を構成した,請求項1の装置。
【請求項34】支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている,請求項1の
装置。
そこで,これらの構成の「支持構造体」の技術的意義を本件特許明細書に基づいて確定した上,当該「支持構造体」の構成が甲号各証に記載又は示唆されているかを検討し,もし記載又は示唆されているのであれば,当該構成を,チャネルを複数の別個の毛管束で形成した上記①の特徴を有する装置に適用することが容易か否か,等の検討が行われるべきである。』





商標がその一部で称呼される場合、及び、類否判断における取引の実情

2007-02-15 06:39:14 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10391
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 外観,称呼,観念の類否に関する審決の認定について
 ・・・
 ・・・ 本願商標は,その構成中,極めて小さく表された「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の部分を除き, 「DIGITEX」及び「safire」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮し得るものであると認められる。そして,「DIGITEX」及び「safire」の文字部分のうちでも,「safire」が本願商標の中央に配置され,文字の大きさも「DIGITEX」に比べてはるかに大きいことに照らすと,本願商標に接する取引者・需要者が「safire」の文字部分のみに着目し,該文字部分から生じる称呼等をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。
 そして,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」ところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁),本願商標に接する取引者・需要者が,その構成中,視覚的に分離され,かつ,本願商標の中央に顕著に表された「safire」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「サファイア」の称呼をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことである。
 したがって,審決が本願商標と引用商標との類否判断をするに当たり,本願商標から「サファイア」の称呼が生ずると認定し,当該称呼をもって引用商標との類否判断に供したことに誤りはない。』

『3 出所混同のおそれに関する審決の認定判断について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
   ・・・
(2) 原告は,本願商標を付した商品である循環器X線撮影装置の広告宣伝の態様,販売の状況,新聞雑誌等での扱い等に関する事実を指摘し,本願商標は「DIGITEX safire」という一連のものとしてして取引者・需要者に把握され,原告の製造販売に係る当該装置を指すものとして周知となっていると主張する。
 しかし,前記最高裁判決にいう具体的な取引状況とは,指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないことは明らかであるところ,原告の主張する事情は,正に,本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではない。したがって,原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は,指定商品の一般的な取引の実情という観点から考えても,本願商標の指定商品は取引者・需要者が慎重に検討の上で購入するものであるから,出所の混同を生じる可能性は著しく低いと主張する。しかし,本願商標及び引用商標に共通する指定商品である「医療用機械器具」について検討すると,原告の主張は採用することができない。
 すなわち,商標法施行規則6条別表によれば,第10類の「医療用機械器具」には「(一) 診断用機械器具」として「体温計」が含まれ,これは一般の消費者を対象にし,薬局やドラッグストア等でも取り扱われている日常生活に結びついた商品であるから,かかる商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。また,需要者が医療従事者に限られる商品の中でも,「(三) 治療用機械器具」に属する「注射筒」「注射針」のように比較的安価な消耗品もあるから,必ずしもそのすべてが取引者・需要者において慎重に検討の上で購入するものであるということもできない。』

判決の拘束力の意義-安定した法的地位を速やかに確立させることによって得られる公共の利益

2007-02-11 18:56:53 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10716
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『4 結論
 本件は,本件発明1,2について,進歩性を肯定する旨の判断をした前審決に対して,進歩性を否定すべきである旨判示して,取り消した前判決(確定判決)を受けて,同判決の認定判断に沿って認定判断した本件審決に対する取消訴訟である。前記のとおり,原告が本件審決を違法とする主張の中核は,取消事由1,2に係る主張であるが(取消事由3は,付加的,補足的な主張にすぎない。),そのいずれもが,前判決の拘束力に従ってした本件審決の認定判断を,ただ単に違法であるとして,繰り返し批難するものにすぎず,前判決の拘束力に抵触して許されない主張である。したがって,原告の請求はいずれも理由がないことになり,原告の請求は棄却されるべきことになる。
 しかし,さらに進んで,本件訴えの特異性も含めて検討することとする。
 原告訴訟代理人は,本件訴訟において,「本件審決は,前判決の文言をそのままなぞって理由を構成している。」,「本件審決に違法が生じた原因は,前判決に違法が存在していたことによる。」,「本件審決の違法を指摘することは,前判決の違法を指摘することに直結するので,理解を容易にするため前判決の違法性の要点を説明する。」との趣旨を準備書面に記載し(平成17年11月19日原告準備書面,ただし不陳述),取消判決の拘束力の意義を無視した,独自の見解を前提として,その後の主張を繰り返している。本件訴えは,専ら確定判決の拘束力に抵触する失当な主張から構成されているが,裁判所がこのような訴えを適法な訴えとして許容することになれば,特許が無効として確定する時点を徒に遅らせる結果を招き,安定した法的地位を速やかに確立させることによって得られる公共の利益を害することになる
 このような本件訴えの特異性等に鑑みれば,本件訴えは,確定した前判決による紛争の解決を専ら遅延させる目的で提起された訴えであるというべきであって,その訴えの提起そのものが,濫用として許されないものと訴訟上評価するのが相当である。
 以上検討したとおり,本件訴えは不適法として却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。』

引用商標の著名性が高い場合の「混同を生ずるおそれ」の判断

2007-02-04 10:53:29 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判官 三村量一

『ア商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
そこで,上記の観点から,本願商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかを,検討する。』

『原告は,本願商標と引用商標との間には,具体的な構成においてはいくつかの相違点があり,全体的な印象を異にすると主張する。確かに,本願商標と引用商標とを対比すると,前記1イ(2)に記載したとおり,具体的な構成においていくつかの相違点が認められるものであるが,既に判示したとおり,商標法4条1項15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とするものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における考慮要素のひとつにすぎない。そして,本件においては,ファッション関連の商品分野における引用商標の著名性の程度が高く,高い顧客吸引力を有していることに照らせば,上記認定のような具体的構成における相違点が存在するとしても,引用商標と基本的な構成を同じくする本願商標をファッション関連の商品に付した場合には,取引者,需要者において上記誤信をするおそれが存在するといわざるを得ない
 原告は,引用商標は当該具体的態様において著名となったものであり,商標が著名であるほど当該商標についての認識が高まるので商品の出所につき混同を生ずる範囲は狭くなるなどと主張して,混同のおそれを否定するが,一般に,商標の著名性が高い場合には商品の出所につき混同を生ずる範囲は広くなるというべきであり,本件において,これと異なる判断をすべき特段の事情は認められない。また,本願商標と引用商標との間の具体的構成の相違点の存在は,両者を時と所を異にして隔離的に観察した場合における混同のおそれを否定するに足りるものではない。』

原明細書に多数開示された要素のうち一部のものを選択した分割出願は認められるか

2007-02-04 09:48:29 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成18(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 飯村敏明

4  取消事由2(本件出願の分割出願の要件の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件発明は,3次元フレーム枠形状測定装置の「出力結果」の構成要素として「フレームカーブ」,「ヤゲン溝の周長」,「瞳孔間距離」及び「傾斜角」を選択し,この組合せで構成要素が特定されているのに対して,原明細書には,出力結果として多数の構成要素が挙げられ,本件発明の上記組合せで選択する旨の記載はないので,本件出願は,原出願に実質的に開示されていない事項を付加したものであり,分割出願の要件を満たさず,したがって,本件出願の出願日は,原出願の出願日に遡及せず,現実の出願日(平成11年7月27日)であり,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1(原明細書)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと主張する

ア しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
  (ア)  原明細書(甲1)には...(中略)...との記載がある。
 上記記載及び図1(甲1)によれば,原明細書には,フレーム形状測定器102において算出された眼鏡フレームの「フレームカーブCV,ヤゲン溝の周長L,フレームPD(瞳孔間距離)FPD,フレーム鼻幅DBL,フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ,有効径ED,左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILT」の各データが,フレーム形状測定器102から端末コンピュタ101に送られ,その画面表示装置に表示されることが記載されているものと認められる。
  (イ)  そして,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明においては,「...(中略)...」構成を有するものであるところ,その3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として表示装置の画面に表示される「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」の各データは,いずれも原明細書において端末コンピュタ101の画面表示装置に表示されるデータに含まれているから,本件発明の上記構成は原明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
 また,本件明細書(甲8)には,前記ア(ア)の原明細書の記載部分と同一の記載(段落【0035】)のほかに...(中略)...との記載があるが,表示装置の画面に表示されるデータを「少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」と特定したことによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することについての記載はない

  (ウ)  加えて,原明細書の段落...(中略)...等には,本件発明(請求項1)の各構成要件が開示されているものと認められる
  (エ)  そうすると,本件出願は原出願との関係で特許法44条1項の分割出願の要件を満たすというべきであり,同条2項の規定により,本件出願の出願日は原出願の出願日である平成4年6月24日に遡るものと認められる。

イ これに対し原告は,原明細書には,画面表示装置に表示されるデータとして,「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」(本件発明のもの)のほかに,多数の構成要素が挙げられ,本件発明のデータの組合せを選択する旨の記載はないから,本件出願は分割出願の要件を満たさないと主張する
 しかし,前記ア(イ)のとおり,本件明細書には,本件発明で特定されたデータによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することの記載はなく,このような作用効果を奏するものとは認められないので,原明細書に,本件発明で特定されたデータの組合せを選択する旨の記載はないからといって,本件出願は分割出願の要件を満たさないということはできず,原告の上記主張は採用することができない

技術分野の異なる周知例の組み合わせに阻害要因がない場合

2007-02-03 09:19:37 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10523
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

原告らは,①引用発明と周知例の技術とは技術分野が異なり,また,「出没」の技術的意義が全く異なるから,引用発明に周知例の技術を組み合わせることはできない,②周知の技術手段は,穀粒より重い引用例の硬貨を高速駆動ではじく場合は,板バネ自体の弾性及び慣性により板バネとプランジャとに相反した動きを招く恐れがあり,かつ,この相反した動きを抑制するために板バネのバネ定数を大きくすると高速駆動ができなくなる恐れがあるから,引用例に周知例を適用することには阻害事由がある,と主張する
 しかし,特許請求の範囲において,本願発明の識別対象がメダルであることを限定する記載はなく,識別対象が重いものであることを示唆する記載もなく,さらに,識別対象が重いものであるために偏向板等に関して何らかの限定条件を付しているものでもないから,識別対象の重量に関する原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
 引用発明は「硬貨選別装置」であり,周知例として例示したものは「穀粒選別機」であるが,乙第3ないし第5号証によれば,識別対象を直接押圧することにより偏向路に移動させることは,種々の分野において行われていることが認められる。また,「識別対象を押圧する」という技術手段が識別対象の重量に関係なく実施されていることを勘案すれば,引用例と周知例の技術分野が異なること,識別対象の重量に差があることは,周知例における「識別対象をはじく」という技術手段を引用例に適用する際の阻害事由にならない。また,識別対象の重量が異なるときに,はじく力(板バネの強さ)等を重量に応じたものにすることは,当業者の設計事項であって,格別な困難性があるとは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。』

部分意匠の予定されていると解釈し得る位置等の差異

2007-02-01 22:41:04 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10318
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美

『イ 意匠登録を受けようとする部分の形状等と,同部分と位置等が大きく異なる部分についての形状等は,仮に,それらの形状等自体が共通又は類似し,物品を共通にしたとしても,美感上,看者に与える印象が異なる場合があるといえるから,部分意匠の類否の判断に当たっては,意匠登録を受けようとする部分とそれに相当する部分が,物品全体の形態との関係で,どこに位置し,どのような大きさを有し,全体に対しどのような割合を占める大きさであるか(「位置等」)についての,差異の有無を検討する必要がある

もっとも,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものであることに照らせば,部分意匠の類否判断において,意匠登録に係る部分とそれに相当する部分の位置等の差異については,上記部分意匠制度の趣旨を没却することがないようにしなければならない

破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の変更など,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない

ウ 本件相当部分は,本件カタログの6頁下段最左側のプーリーの意匠の本願意匠に相当する部分であり,そのボス部の先端は,プーリーの前縁より内側の位置にするものであるから,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係において,本願実線部分と本件相当部分が相違するともいえる。

しかし,前記イのとおり,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,類否判断に影響を及ぼさないものであるところ,前記アのとおり,本願意匠において,ボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係については,図面記載のものに限定されず,プーリーにおけるありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するものも予定されているものと認められる。そうすると,本件においては,ありふれたボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係を有するといえる引用意匠に係るプーリーのボス部とリム部の軸線方向の相対的な位置関係についても,予定されていると解釈し得るのであり,本願実線部分と本件相当部分の上記位置の差異は,類否判断に影響を及ぼすものではない。』

部分意匠の図面の波線の意味

2007-02-01 22:31:33 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10317
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

『「物品の部分」の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」ということがある。)であって,視覚を通じて美感を起こさせるものも,「意匠」(意匠法2条1項)であり,部分意匠として,意匠登録を受けることができる。

 部分意匠においては,物品全体の形状等に係る意匠と同様,意匠登録出願の願書には,原則として,意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付する必要があり(意匠法6条1項柱書),願書に添付すべき図面は,意匠法施行規則の様式第6により作成しなければならない(同規則3条)。そして,上記様式第6において,物品の部分について意匠登録を受けようとする場合は,一組の図面において,意匠に係る物品のうち,「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き,「その他の部分」を破線で描く等により意匠登録を受けようとする部分を特定し,かつ,その特定する方法を願書の「意匠の説明」欄に記載するものとし(備考11),実線及び破線の太さ(備考5)などが定められている。

 そして,意匠登録を受けることができる物品については,意匠法施行規則7条において,別表第1の物品の区分が定められているものの,物品において,意匠登録を受けることができる「部分」についての規定はなく,出願人は,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等からなる部分については,願書の「意匠の説明」欄の記載及び添付図面を用いて(同規則3条所定の様式第6の備考11参照),自ら,意匠登録を受けようとする部分を定めることができると解される。

 ここで,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものなのであるから,破線で示された部分の形状等が,部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない

 しかし,物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。そして,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記2(2)のとおり,意匠登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,意匠登録を受けようとする部分がどのような用途及び機能を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである

 そして,部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。』

『被告は,部分意匠についての類否判断は,基本的には,通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである旨主張する。

 確かに,部分意匠の類否判断において,意匠登録を受けようとする部分の位置の差異を必要以上に考慮することは,実質的に,破線部分の形状等を部分意匠の内容に取り込んで類否判断等をすることにもなりかねず,部分意匠制度の趣旨を没却することになるものであるが,本件においては,前記(3)のとおり,本願実線部分は,その内容に照らし,それと相いれない,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーに位置するものを予定していないと解するのが相当であって,本願実線部部と本件相当部分の位置の差異は,本願意匠と引用意匠に異なった美感をもたらし,その類否判断に影響を及ぼすものであるから,被告の主張は採用できない。』

商標法4条1項11号及び10号該当性

2007-02-01 21:55:59 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10356
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

『 1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について
(1 ) 類否判断の誤りについて
 ア 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品又は役務に使用された商標がその外観,称呼,観念等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。したがって,外観,称呼,観念において類似するとはいえない商標であっても,具体的な取引の実情いかんによっては誤認混同を生ずるおそれがある場合があり,また,逆に,外観,称呼,観念において一応類似するといえる商標であっても,具体的な取引の実情いかんによっては誤認混同を生ずるおそれがない場合があることを念頭に置いて類否の検討をする必要があるものと解すべきである(原告の引用に係る前記最高裁昭和43年2月27日判決のほか,最高裁平成4年9月22日第三小法廷判決・判時1437号139頁,最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

イ 本件商標は,「ワンショットコース」の文字を標準文字により書してなるところ,英語の「One Shot Course」を片仮名表記したものである。
 ・・・

ウ 引用商標は,「ワンショット手数料」の文字を標準文字で書してなるものであり,「ワンショット」と「手数料」の語からなる結合語である。
・・・
エ 以上のとおり,本件商標は,「ワンショット手数料」又は「ワンショット」として把握されるのに対し,引用商標は,一つのまとまった「ワンショットコース」という語句として把握されるから,外観,称呼,観念の全体的観察において非類似であると認められるので,さらに,取
引の実情により誤認混同のおそれがあるといった格別の事情のない限り,本件商標と引用商標とは,非類似であるということができる。』(ブログ注:エにおける本件商標と引用商標は逆と思われる。)

・・・
 被告のホームページの上記記載によると,「いちにち定額コース」及び「ワンショットコース」は,被告の手数料体系を説明するものとして記載されており,商標として使用しているものではない(後記2(2)参照)。このように「いちにち定額コース」の記載が商標としての使用ではないから,被告の有する登録商標「いちにち定額」を使用したわけではなく,その他,本件指定役務と同一又は類似の役務を取り扱う証券業界において,「コース」を省略して「いちにち定額」,「ワンショット」と略称する取引の実情にあることを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,その前提において失当である。
・・・
( 3) 以上を総合すると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念の全体的観察において非類似であり,取引の実情においては,「ワンショット手数料」の語句全体で,複数日にわたる内出来約定でも一つの注文として計算するという手数料体系を表象し,その体系が原告の業務に係る株式売買委託に関するものであるため,間接的に原告の出所を表象しているにすぎないから,「ワンショット」の文字部分が共通しているという理由で,誤認混同を生ずるおそれがあるということはできず,結局,取引の実情を考慮しても,役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれはないものというべきである。
(4) したがって,本件商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は,採用することができない。』

『2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
(1) 審決は,「『ワンショット手数料』の文字は,請求人の手数料の料金体系を端的に表現したものであろうと理解するに止まるものというべきである。請求人の提出に係る証拠には,これら以外に請求人が『ワンショット手数料』の文字を使用している事実を示すものはない。」(審決謄本17頁第3ないし第4段落)と認定した上,「請求人の提出したこれらの証拠によっては,本件商標の登録出願時あるいは登録査定時において,『ワンショット手数料』の文字からなる商標が請求人の提供に係る証券業務に関する役務を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。」(同頁第5段落)と判断したのに対して,原告は,これを誤りであるとして争っている。
(2) 商標法2条1項2号にいう「商標」は,「業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするもの」であると規定されているが,ここに「役務」とは,商取引の目的となり得る労務又は便益であって,その労務又は便益が,標章を付されることによって,出所表示機能,品質保証機能,広告機能を果たすものである。
そして,同条3項は,「その役務について使用」する場合として,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為」(3号),「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(4号),「役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為」(5号),「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為」(6号),「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(8号)を挙げている。したがって,標章は,上記態様により「役務について使用」されて,初めて商標として使用されることになるものと解すべきである。
(3)  これを本件についてみると,・・・。
 以上によると,ホームページの記載,新聞雑誌への宣伝広告等における「ワンショット手数料」の記載は,いずれも,商標法2条3項所定の商標の使用に該当するものとはいえないから,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,引用商標が,原告の提供に係る証券業務に関する役務を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。』

引用発明が有するものとは異質の効果の考え方

2007-02-01 21:49:08 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10222
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一


『 原告は,上記①の作用効果に関し「審査及び審判の運用」の「請求項に係る発明が、有利な効果であって引用発明が有するものとは異質の効果を有する場合、あるいは同質の有利な効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される(66頁16~20行)との記載を引用した上,投影の倍率を変更するだけで,容易に表示サイズを大きくし得ることは,投影による表示方式に特有なものであって,引用発明が有する効果とは異質の効果であるから,当業者の予測可能性は問題とはならないと主張する
 しかしながら「審査及び審判の運用」の上記記載中の「引用発明」の語が,いわゆる主引用例に係る発明に限られるものではなく副引用例に係る発明も含めて引用発明と称していることは上記記載の直前にある「複数の引用発明の組み合わせにより,一見,当業者が容易に想到できたとされる場合であっても」との記載における「引用発明」の語の用い方に照らして明らかであり,そうであれば,副引用例に係る発明と同様の機能を営む周知技術も,この記載に係る「引用発明」に含まれるというべきである
 そして,車両における外部の第三者に対する画像の表示方式としての投影による表示方式が,本件特許出願当時において,周知技術であったと認められること,及び,本件において上記周知技術が副引用例に係る発明と同様の機能を営んでいることは上記1の(1)のとおりであるから,たとえ,投影の倍率を変更するだけで,容易に表示サイズを大きくし得ることが,投影による表示方式に特有なものであったとしても,それが「審査及び審判の運用」の上記記載における「引用発明」と異質の効果であるということはできない。
 のみならず,たとえ「請求項に係る発明」が,引用発明の効果とは異質な効果を奏する場合であっても,その異質の効果が,技術水準から当業者が予測することができるものである場合には,当該異質の効果を奏するからといって,進歩性の存在が推認されるものではない。』