知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「明りょうでない記載の釈明」に当たらないとされた事例

2012-09-30 23:02:47 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10365
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香、知野明
特許法159条1項で準用する特許法53条1項
(特許法17条の2第5項4号-明りょうでない記載の釈明)

1 取消事由1(本件補正は特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないとした判断の誤り)について
(1) 本件補正は,本件補正前の請求項1における「形状保持パッド」を「パッド」に変更し,本件補正前の請求項1における「…前記補剛体が,…液体を透過させる格子構造を有し」を含む,本願発明の発明特定事項を削除する補正を含むものである。そうすると,本件補正後の請求項1における「パッド」は,形状保持機能を有していないものや,補剛体が格子構造を有していないものを含むことになる。
 したがって,本件補正は,特許請求の範囲を拡張するものといえる。

(2) 原告は,本件補正は請求項の明瞭化のためにする補正であり,本件補正前の請求項1におけるに「…前記補剛体が,…液体を透過させる格子構造を有し」を削除しても,壁構造について,格子構造を有していないものにまで拡張するものではない旨主張する。
・・・
 以上によれば,本件補正後の請求項1の補剛体が格子構造を有していないものを含むものであることは明らかである。他方,本件補正前の請求項1の補剛体は,格子構造を有するものに限定されているであるから,本件補正が,壁構造について,格子構造を有していないものにまで拡張するものであることは明らかである。

(3) 原告は,本件補正により補正前の「形状保持パッド」を「パッド」に変更したのは,剛性を確保することが本願発明の主な目的ではないことを強調するためであり,「形状保持パッド」を「パッド」としても,本願の請求項1に係る発明の範囲は拡張されない旨主張する。
 しかし,「形状保持パッド」は,これを文言どおりに解釈すれば,形状保持機能を有するパッドであって,パッド全体に曲げに対する剛性を与えるものと解されるから,「形状保持パッド」から「形状保持」の文言を削除すれば,形状保持機能を有しないパッドを含むことになることは明らかである。
・・・

達成すべき結果による物の発明の特定

2012-09-30 21:05:44 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、田邉実
特許法29条2項、特許法36条6項2号

 また,原告は,本件発明の構成F(生産能力を3000本/h+300本/h(・・・中略・・・)としたこと)における「生産能力」は,ゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置の効果そのものであって,公知発明が達成できなかった構成そのものであり,公知発明を実施するに際して,設計上当然に適当な数値を与えなければならないような構成ではないと主張する。
 しかし,生産能力がゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置の効果であるとするならば,本件発明において,この構成Fは達成すべき結果による物の発明の特定である。そして,このような結果を得るためには,本件発明が特定する「胴部サイズが少なくとも85mm角~95mm角の範囲内の1サイズの紙容器に対して処理可能なゲーベルトップ型紙容器の充填シール装置において,前記搬送装置の搬送ピッチを115~105mm」とするのみならず,間欠搬送の移動/停止の分割割合や,加減速度の特性等も関係するところ,これらについて様々な態様があることは明らかである。
 一方,公用発明2は,搬送ピッチを127mm としているが,それのみならず,間欠搬送の移動/停止の分割割合,加減速度の特性等について特定の態様とすることで,3000本/hの生産能力を実現したゲーベルトップ型紙容器であると考えられる。

 そうすると,本件特許の出願時において,3000本/hの生産能力を得るために間欠搬送の移動/停止の分割割合,加減速度の特性等について特定の態様とすることは当業者が通常行っていた事項であるということができ,さらに3000本/hの生産能力を3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)の生産能力とすることにより,物の発明として特定される事項に格別の相違があるとはいえないから,公用発明1において3000本/h+300本/h(ただし,3000本/hを除く。)の生産能力を得るために,加減速度等,必要な特定の事項を得ることは,当業者が容易になし得たことであるというべきである。(なお,3000本/hの生産能力を得るための態様が本件の訂正明細書(特に段落【0011】~【0015】)に記載されたものに限定されるのであれば,達成すべき結果による特定ではなく,当該結果を得るための手段を特許請求の範囲で特定すべきであり,特許法36条6項2号(発明の明確性の要件)違反になる可能性がある。)

特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法

2012-09-30 20:22:35 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10315
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、古谷健二郎
特許法159条2項,特許法50条、特許法29条2項

 審判段階では,本件拒絶理由通知書(甲7)によって,本願発明は下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の通知がされた。
 ・・・
この拒絶理由通知では,刊行物1(甲16)に記載された発明が主引用発明であり,刊行物2(甲10)に記載された発明は副引用発明として主引用発明への組み合わせが検討され,刊行物3,4は周知例として引用されている。
 本件拒絶理由通知書においても,特開2000-243132号公報(甲13)は示されておらず,突起部間の距離及び突起部の高さに関しては,「凸部間の距離をどのような値とするのかは,必要とされる導電接続の安定性,導電性粒子の直径,凸部の高さ等を考慮して当業者が適宜決定し得たものである。」と述べるにとどまる
 ・・・
(5) 相違点3に関する判断について
 審決が主引用発明として刊行物記載の発明を認定した刊行物(甲10)には,突起部を有する導電性粒子が記載されているが,甲10にはこの粒子の突起部間の距離に関しては記載されていない。そして,審決は,突起部間の距離の具体的数値に関して,甲13の記載のみを引用し,仮定に基づく計算をして容易想到性を検討,判断している。

 審決は,「回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることは,以下に示すように本件出願前から普通に行われている技術事項である。例えば」,として,甲13の記載を技術常識であるかのように挙げているが,その技術事項を示す単一の文献として示しており,甲13自体をみても,回路部材の接続構造の技術分野において,隣接する突起部間の距離を1000nm以下とすることが普通に行われている技術事項であることを示す記載もない
 ・・・
 してみると,審決は,新たな公知文献として甲13を引用し,これに基づき仮定による計算を行って,相違点3の容易想到性を判断したものと評価すべきである。

 すなわち,甲10を主引用発明とし,相違点3について甲13を副引用発明としたものであって,審決がしたような方法で粒子の突起部間の距離を算出して容易想到とする内容の拒絶理由は,拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから,審判段階で新たにその旨の拒絶理由を通知すべきであった。しかるに,本件拒絶理由通知には,かかる拒絶理由は示されていない。
 そうすると,審決には特許法159条2項,50条に定める手続違背の違法があり,この違法は,審決の結論に影響がある。

特許法29条所定の要件について判断するにあたって審理の対象となる発明

2012-09-30 16:38:09 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10356
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、田邉 実

5 取消事由1(相違点の看過)について
 原告は,本願発明1と刊行1発明は,
(1) 二価の鉄イオンの溶出源と
(2) 溶出を導く作用とが相違し,さらに
(3) 二価の鉄イオンを有酸素下で溶出するのか無酸素下で溶出するのか
という点においても異なっており,その技術思想が根本的に異なる発明であるが,審決はこれらの点について検討せず,相違点を看過していると主張
する。

 しかし,特許法29条所定の要件について判断するにあたって,審理の対象となる発明は,特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるところ,平成23年6月21日付けの手続補正(甲11)により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本願発明1は,含有する成分,含有する成分の含有割合及び用途は特定されているものの,原告主張の上記(1)~(3)の点を特定していない。したがって,審決が刊行1発明と本願発明1の一致点及び相違点を認定するに当たり,上記(1)~(3)の点を挙げていないとしても,相違点を看過したということはできない

 ・・・

 これによれば,刊行1発明と刊行2発明は,いずれも海などの水域環境を改善するために用いられるものであって,水域環境保全という同一の技術分野に属するものである上,その手段として二価の鉄イオンを供給するものであり,機能が共通することが認められる。
 そして,このように,同一の技術分野に属し,機能が共通する複数の発明を組み合わせて併用を試みることは,当業者が通常行うことと解される。また,刊行1発明と刊行2発明とを組み合わせて併用するにあたり,刊行1発明における「二価鉄含有物質」及び「フルボ酸とフミン酸を含有する腐植含有物質」と,刊行2発明における「粉状鉄」及び「粉状炭」のこれら4成分の相互作用により,両発明がそれぞれ成立しなくなる等(例えば,二価の鉄イオンが供給できなくなる等)の事情が存在するとも認められない。そうすると,刊行1発明において,それと同一の技術分野に属し,機能が共通する刊行2発明を組み合わせて併用し,「粉状鉄」(すなわち,鉄粉)及び「粉状炭」(すなわち,炭素)をさらに含有する4成分からなる「鉄粉」混合物とすることは,当業者が容易に想到できることというべきである。また,「粉状鉄」(鉄粉)として,通常の鉄粉と認められる「鉄,及び酸化鉄を除く不可避的不純物を含む鉄粉」を用いることは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

発明の容易想到性を判断する前提としての発明の要旨認定

2012-09-04 23:17:49 | 特許法その他
事件番号  平成23(行ケ)10317
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年08月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法70条1項、特許法70条2項、特許法29条2項

 発明の容易想到性を判断する前提としての発明の要旨認定は,原則として特許請求の範囲の記載に基づいてされなければならないところ,その用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用しなければならない(特許法施行規則24条の4様式第29の2)。

 本件審決は,「嵌着」の意味を,広辞苑に記載された「嵌める」の意味とともに,訂正請求2による訂正後の明細書(以下,「訂正後明細書」という。甲54の2)段落【0033】の記載を参酌して,「くぼみに入れて固定し着ける」ことを意味すると解釈したものであるが,その解釈の方法は,「嵌着」の用語が「嵌めて着ける」ことを意味することは文言上明らかであるところ,同文言上の意味が上記段落【0033】から読み取れる「嵌着」の意味「くぼみに入れて固定し着ける」と整合することを確認したものと理解することができ,妥当なものというべきである。
 そして,甲13の3,4及び甲17の3,4には,内部の骨格に外皮を単に被せる構成しか開示されていないから,原告の主張は理由がない。


特許法施行規則24条の4
第二十四条の四  願書に添付すべき特許請求の範囲は、様式第二十九の二により作成しなければならない。

「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」53条の適用

2012-09-04 22:59:05 | Weblog
事件番号  平成24(ネ)10026
事件名  特許を受ける権利出願人変更 請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日 平成24年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子

上告審(最高裁判所平成22年(受)第1340号)判決は,本件は,控訴人とその取締役であった被控訴人との間の訴えであるが,控訴人は,「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」施行の際,現に,その定款に株式譲渡制限の定めがあり,また,資本の額が1億円以下であったから,同法施行の際の最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が200億円以上であった場合を除き,同法53条の適用により監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるとみなされることとなり,上記の定款の定めがあるとみなされる場合には,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定しないこととする旨の定款変更がされ,又は株主総会若しくは取締役会において取締役であった者との間の訴えについて代表取締役以外の者が控訴人を代表者と定められていない限り,本件訴えについて控訴人を代表するのは代表取締役のAというべきである旨判示し,上記第2審判決を破棄し,Aの代表権の有無を含め,更に審理を尽くさせるため,事件を知的財産高等裁判所に差し戻した。
・・・

第3 当裁判所の判断
・・・
2 また,本件全記録を精査しても,本件訴えについて,控訴人を代表する者を,控訴人の代表取締役であるA以外の者とすべき事情は認められない。

消滅ブランドをイメージキャラクターとして採択し市場に浸透させた企業努力を保護すべきか

2012-09-02 22:47:16 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10173
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年08月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実
商標法4条1項7号

 新インディアン社は,法的には旧インディアン社との連続性は何らない会社である上,・・・,原告は,何ら旧インディアン社と関係がない第三者であるとの評価を免れず,このような原告が旧インディアン社と共通の「Indian Motocycle(インディアン モトサイクル)」との部分を含む商号を採択し,旧インディアン社の商標と同一又は類似のものである原告表示を使用しても,旧インディアン社と離れて,「Indian Motocycle」ないし原告表示が,原告の略称として,ないしはその被服等の商品の出所が原告であることを示すものとして,需要者,取引者の間に知られるようになっていたということはできない。そうであれば,同様の第三者である被告が,同様に旧インディアン社の商標と類似のものである本件商標を出願しても,旧インディアン社との関係ではともかく,原告表示により展開されている原告の「Indian」商標のビジネスを妨害するものとはいえないことも明らかである。
・・・
 また,原告は,かつて存在したが長きにわたり消滅したブランドを何人かが自らのブランドのイメージキャラクターとして採択する行為は,何人かが採択するまでは自由競争の範囲内であって,何ら非難する余地のない行為であるが,何人かがこれを自己のブランドイメージキャラクターとして採択した後は自由競争ですますことはできず,そのかつて存在したが消滅したブランドをイメージキャラクターとして採択し,その企業努力を傾注して市場に浸透させたときは,その企業努力の成果は保護すべきものであって,その成果にただ乗りし,収奪し,企業努力を妨害する行為は,反社会的な行為であり許されないと主張する。

 しかし,原告が旧インディアン社に依拠した事業展開をしていたことは前記のとおりであり,原告も,旧インディアン社の有する潜在的な周知性に訴えてその営業上の信用を利用していたものである。原告は,自らのブランドのイメージキャラクターとしてかつてはオートバイのブランドとして周知であった「Indian」ブランドを採択したと主張するが,原告は,・・・,旧インディアン社の営業上の信用を利用していたものであって,自らのブランドのイメージキャラクターとして「Indian」ブランドを採択したとは到底認められない。原告の主張はその前提を欠くものである。。

 そうすると,本件商標により,原告が原告表示を使用した「Indian」商標のビジネスに事実上の影響を被っているとしても,それは,原告があえて旧インディアン社に依拠したビジネス展開を行ったことが招いた結果であり,原告に対する関係でみれば,被告の行為は自由競争の範囲内にとどまり,原告のビジネス展開を被告が妨害したものということはできず,本件商標の出願をもって,原告の業務の遂行を阻害し業務を妨害する意図でなされたものということもできない。

阻害要因を認めなかった事例

2012-09-02 21:29:34 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10352
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文,裁判官 岡本岳、竹宮英子
特許法29条2項 阻害要因

 そうすると,本願の優先日当時において,生後間もない動物において,母親由来の抗体によりワクチンの働きが阻害されることが一般論としてあるとしても,他方で,母親由来抗体の影響を予測することが困難であるとの技術常識もあったということができる。したがって,原告主張の技術常識が,3~10日齢の動物に単回投与するという本願補正発明の構成を選択することを阻害するとまではいえない。