知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

優先権と特許法30条2項の関係

2006-05-20 22:19:06 | Weblog
事件番号 平成7(行ケ)148
裁判年月日 平成9年03月13日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法30条2項

(注目判示)
1.発明が同発表の6月以内である1976年1月2日フランス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願されたことは当事者間に争いがない。したがって、優先権の基礎となる同日が、本件発明が原告の意に反して特許法29条1項3号に該当するに至った日から6月以内であることは明らかである。

2 原告は、本件発明の特許出願については優先権の主張が認められているのであるから、本出願は優先権の基礎となる1976年1月2日にしたものとして特許法30条2項の規定の適用を受けることができると主張し、その根拠として、パリ条約2条及び4条を挙げている。
 そこで検討するに、パリ条約2条(1)は、「同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け」と規定している。これを本件に即していえば、特許法30条2項の規定の適用を受けるためには、国の内外を問わず、特許を受ける権利を有する者の意に反した公表があった日から6月以内に特許出願がなされることを要するとした場合、本件発明について最初の特許出願を1976年1月2日にフランス国においてし、後の出願を昭和51年12月28日に日本国においてしたときは、フラン国においては新規性喪失の例外規定の適用を受けられるが、日本国においては同規定の適用を受けられないことになるが、このことは、その特許出願人が日本国民であろうと外国法人である原告であろうと、全く同一である。したがって、本件特許出願については、同盟国の国民である原告に対してもまさしく内国民待遇が行われるのであるから、審決の特許法30条2項についての前記解釈がパリ条約2条に違反するものでないことは明らかである。

 また、パリ条約4条A(1)は、いずれかの同盟国において正規に特許出願等をした者は、他の同盟国において出願することに関し、同条約が定める期間中優先権を有することを規定し、同条のBは、「すなわち、A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は、その間に行われた行為、例えば、他の出願、当該発明の公表又は実施(中略)によって不利な取扱いを受けないものとし、また、これらの行為は、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。」と規定している。
 しかしながら、その条項からも明らかなように、これらの規定は、第一国出願の出願人等が条約に定める期間中優先権を有することを定めたものであり、第二国出願の出願日が当然に第一国出願の出願日まで遡及することまでも定めたものではない。この優先権主張を伴う特許出願をどのように取り扱うかは、当該特許出願のなされた国の法律に基づいて決めるべき事項である(このことは、我が国の特許法(昭和34年法律第121号)が最初の出願と後の出願との間に法律改正がなされた場合に、当該出願について出願日を遡及させず、改正法を適用したきたことからも明らかである。)。

 ところで、特許法30条2項の規定の適用については、優先権主張を伴う特許出願をどのように取り扱うか明文の規定は存しないが、パリ条約4条のBは、第一国出願の日と第二国出願の日との間に行われた当該発明の公表等の行為により第二国出願が不利益を受けないことを定めたものであって、第一国出願より前に行われた行為により不利益を受けないことを定めたものではないこと、特許法30条2項の規定は、新規性喪失の例外規定であって、優先権主張を伴う特許出願について、同項に規定する「特許出願」は第一国出願の出願日を意味すると解すると、新規性喪失の例外期間を1年6月まで拡大することにより、この規定の趣旨に反して特許を受ける権利を有する者に不当な利益を得せしめる結果となること等に照らすと、日本国を第二国出願とする優先権主張を伴う特許出願については、同項に規定する「特許出願」の日は、日本国においてなされた特許出願の日を意味すると解するのが相当であって、パリ条約4条を根拠としてこれと異なる解釈をする余地はないというべきである。

業界紙的な新聞等は刊行物か

2006-05-20 22:02:24 | Weblog
事件番号 平成15(行ケ)343
裁判年月日 平成16年03月30日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法29条1項3号

(注目判示)
本件各新聞広告を掲載した米穀新聞,商経アドバイスが,米穀業者等を対象としたいわゆる業界紙的なものであるとしても,これらが頒布されることにより,広く当業者に本件発明の内容が開示されるに至ったと認めることができる。これらを,特許法29条1項3号の「刊行物」に該当し,公然と知られるようになったと認定することに,何ら妨げはない。

特許出願は特許法30条の刊行物での発表にあたるか

2006-05-20 21:54:22 | Weblog
事件番号 昭和56(行ケ)22
裁判年月日 昭和57年06月22日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法30条

(注目判示)
『特許法第二九条第一項第三号にいう「刊行物」と同法第三〇条の「刊行物」を別異に解すべき特段の事由は存しないから、日本国内又は外国において頒布された特許公報が、特許法第二九条第一項第三号にいう「刊行物」に該当すれば、それは当然同法第三〇条にいう「刊行物」でもあると解さなければならない。しかして、日本国内又は外国において頒布された特許公報が第二九条の「刊行物」に該当することは明らかである』

『出願に係る発明が特許公報に掲載されて公表されることは、特許法第三〇条にいう、特許を受ける権利を有する者が、発明を「刊行物に発表」することには該当しない。けだし同条にいう「発表」とは、特許を受ける権利を有する者が自らの発表せんとする積極的な意思をもつて発表することであり、他人が発表することを容認するというような消極的な意思が存在するだけでは同条にいう「発表」とはいえないからである。』

『出願公告は、特許庁長官が特許公報に所定事項を掲載して行なうものであつて(特許法第五一条)、出願人(特許を受ける権利を有する者)の、出願に係る発明を発表しようという積極的な意思に基づいてなされるものではない。特許を受ける権利を有する者が特許出願をするのは、それによつて特許権を取得するか、他人の特許権取得を阻止する(審査請求をしない場合)ことにあり、特許公報による出願公告又は出願公開により、出願に係る発明を発表することを意図してなされるものではないというべきである。
 右の特許公報による発明の公表に関する理は、日本特許公報であつても、米国特許公報であつても異なるところはない。』

組合せの論理が完成した場合の効果の主張の取り扱い

2006-05-13 08:31:55 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10538
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成18年05月10日

(注目判示)
 原告が指摘する上記作用効果は刊行物1記載の発明刊行物2,
3記載の事項及び従来周知の事項を組み合わせた構成自体から得ら
れる自明な作用効果にすぎないのであって,これらの刊行物等から
予期し得ない顕著な効果を奏するものということはできない。