知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

複数引用形式で開示のない態様の発明を請求した事例

2007-08-30 06:58:51 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10542
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『ウ 上記ア,イによれば,本件発明7は,本件発明3~5のいずれかの発明を引用するものであるが,本件発明3は,「…請求項1または2に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されており,本件発明4は,「…請求項3に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されており,本件発明5は,「…請求項3または4に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されている。そうすると,本件発明7は,結局,本件発明1を引用するものであるから,無機薄膜は「…プラズマCVD法により形成された薄膜…」(本件発明1)であるが,他方,上記アに記載した本件発明7の文言によれば,上記膜は「シリコン酸化物膜がモノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜」というのである
そうすると,本件発明7は,モノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜であり,かつ,プラズマCVD法により形成された薄膜を,発明の内容として含むことになるが,前記2,(2),ア~ウに照らしても,このような複数の方法による被覆に対応する実施例は何ら記載されておらず,また,その他の発明の詳細な説明中の記載においても,これを実施するについての具体的な説明が記載されているとはいえない
以上によれば,本件発明7については,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているということはできないから,法36条4項に違反するものである。したがって,本件発明7について検討するも,取消事由5は理由がない。』

70条2項立法の経緯、特許付与の態度

2007-08-26 12:17:17 | Weblog
牧野利秋監修、本間崇編集、「座談会 特許クレームの解釈の論点をめぐって」、2003年3月3日(社)発明協会発行より引用。

「○塩月 七〇条二項が立法されたきっかけとなったのは、その前に出された平成三年三月八日のリパーゼ判決であったのでしょう。ところが、これは審決取消訴訟に関する上告審判決であって、そこにおける事実認定に際しての発明の要旨認定の手法についての判断であったわけです。これが、侵害訴訟の技術的範囲におけるクレームの解釈にそのまま当てはまるかのような議論が蔓延したという経緯にあります。すなわち、特許請求の範囲に記載された限度でしか権利行使はできないというような考え方が出てきたものですから、それではいけないということになり、七〇条二項で、クレームというものはもうちょっと柔軟に解釈しなければいけませんよという趣旨での立法が必要だ、と特許庁が考えての動きになったと理解しています
 リパーゼ判決は特許庁の上告によって原判決破棄の結果になったのに、特許庁の別の部門では七〇条二項の立法に向けて動いたと言うことで、特許庁は矛盾していたとは思うのですけれども、少なくとも平成三年三月八日の判決との対比での七〇条二項の立法の動きというのは、そのような経緯にあったと理解しております。」(133頁上段第12行目~同頁下段10行目参照。)

「○牧野 ・・・(中略)・・・リパーゼ事件が、二九条一項、二項の判断をする前提として、「特許出願に係る発明の要旨を認定する場合には」と、そういう文言で明示されたにもかかわらず、これがあたかも七〇条の技術的範囲確定の基準だというふうに誤解をした、そこにそもそも問題があった。あの審議会の答申をみてもそうですよね。それで二項をつくらないといけないということになったので、二項自体ができたから、侵害訴訟における技術的範囲の解釈で解釈が変わったとか、そんなことでは全然ないわけだと私は思っております。」(133頁下段11行目~134頁上段6行目。)

「○塩月  あえて説明するまでもないのですけれども、侵害裁判所で実施例限定説を取って、侵害はRaリパーゼにしか及ばないのだという見込みのもとに、いずれRaリパーゼと解されることになるから、権利生成のときに特許を与えることにしようという対応。すなわちリパーゼという特詐請求の範囲の記載のままで特許を与えるという対応というのは、許されないのだろうと思うのですね。それは見込みにすぎませんからね。侵害の訴訟においては実施例限定説を取るかもしれないだけど、実施例限定説というのは法律に明示されているわけではありませんし、解釈上も非常に疑義がありますから。Raリパーゼも実施態様にしか侵害が及ばないという解釈を取りうるとしても、それはあくまでも侵害裁判所が判断するかもしれないという見込みにすぎませんので、その見込みがあるからといって、権利生成の際、すなわち特許を付与するときにリパーゼのままというのはとてもできないと思います。」(136頁上段4行目~18行目。)

牧野利秋・・・弁護士(元裁判官)
塩月秀平・・・裁判官(現在 大阪高裁部総括判事)

不受理処分とは

2007-08-21 06:29:33 | Weblog
事件番号 昭和45(行ウ)106
裁判年月日 昭和46年01月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 荒木秀一 高林克巳 元木伸)

『 原告は、不受理処分なるものは現行実用新案法上これをしうる法的根拠がないと主張するのに対し、被告は、私人の申請行為が法律に定めた方式に違反する場合には、当該申請の相手方である行政庁がこれを不受理処分に付しうることは一般に認められているところであると争うので、この点について考える

 不受理処分とは、一般に、行政庁に対して申請をする権利、いわゆる申請権を認められた私人がする行政庁への申請行為に形式的な瑕疵があるため、当該行政庁が申請の実体について審理その他の行為をすることなく、形式的な瑕疵があることを理由にその申請を拒否する却下処分であると解すべきものである

 このように、不受理処分は、私人に権利として認められた申請という行為を拒否し、却下する処分であるから、その処分をするについては、法の根拠を必要とするものであることはいうまでもない。

 法の根拠を要するということは、しかしながら、かくかくの場合には却下処分としての不受理処分をすることができるといつたような法の具体的な明文の規定がなければならないということではない。
 申請が一応申請としての体裁を具えていながらも、申請が申請として成立するために法によつて要求される本質的要件を備えておらず、しかも、その瑕疵が補正によつて治癒されえないような場合には、不受理処分をしうることについての法律の明文の規定を要せず、申請を却下するという意味で、これを不受理処分に付しうるということは、けだし、法の当然に予定しているところとみるべきだからである。

 いかなる態様の瑕疵がある場合に、申請が申請としての本質的要件を欠き、またその追完が許されないものとすべきかについては、当該申請がいかなる法令によつて認められたものであるか、また当該申請によつて達せられるべき目的、その申請行為の性質等によつて異なり、一概に決めることはできず、各法令を検討解釈して決定すべき問題であるといわなければならない。』

シカゴ・カブスの商標とUSBの商標

2007-08-12 08:15:23 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10061
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年08月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『本願商標は,
 シカゴ・カブスのロゴと同一形状であること,
シカゴ・カブスの名称は我が国においてよく知られ,また,シカゴ・カブスのロゴは我が国において相当程度知られていること,
 英文字等で構成される商標において,先頭の「C」を,他の文字を囲む形状で大きく表記する例は少なくないこと
等に照らすならば,本願商標では,「円輪郭状図形」ないし「C」部分と「UBS」部分とを,一体のものと理解して,「CUBS」すなわち「カブス」と認識するのが自然であり,そうすると,本願商標からは,「カブス」の称呼のみが生じ,「ユービーエス」の称呼は生じないと解するのが相当である。
・・・
審決は「本願商標と引用商標とは,外観及び観念の差異を考慮しても,『ユービーエス』の称呼を共通にする類似の商標である」と記載するように,本願商標と引用商標とは,称呼が共通することを理由に,両商標は類似するとの結論を導いたものである。
 したがって,本願商標と引用商標とは,称呼において類似しない以上,その余の点を判断するまでもなく,審決には誤りがある。』


『(2) 補足的判断(その1-外観)
・・・
前記1(2)で認定したとおり,本願商標は,シカゴ・カブスのロゴと同一形状であること,シカゴ・カブスの名称は我が国においてよく知られ,また,シカゴ・カブスのロゴも我が国において相当程度知られていることに照らすならば,本願商標では,「円輪郭状図形」部分を「C」と「UBS」部分とは,一体のものと理解し,「CUBS」すなわち「カブス」と認識するのが自然である。そうすると,本願商標は「UBS」の文字部分と円輪郭状図形とが一体となって「CUBS」との外観を有するものということができ,「UBS」の文字部分のみが看者の注意を惹くということはできない。

(3) 補足的判断(その2ー観念)
さらに,念のため,本願商標と引用商標との観念についても対比する。
前記のとおり,シカゴ・カブスのロゴが我が国において相当程度知られていることに照らせば,本願商標からは,前記円輪郭状図形及び内側の「UBS」の文字とが一体となって「CUBS」との文字を認識し,「CUBS」の文字から,「シカゴ・カブス」を観念することができ,他方,引用商標1からは格別の観念を生ずることはなく・・・』


不受理処分の効力と要件

2007-08-12 00:25:57 | Weblog
事件番号 平成5(行ウ)99号
裁判年月日 平成6年08月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(この判決を裁判所のホームページで発見できなかった。)

『手続補正書の不受理処分は、手続補正書に形式的瑕疵があることを理由にこれを却下する処分であり、補正命令に対し、手続補正書が全く提出されなかったのと同一の状態を作り出すものであって、そのもととなる出願が出願無効処分に付される結果を惹起する等出願人に重大な不利益を与える処分であり、かつ、現行法上明文の根拠がなくされているものであるから、このような不受理処分が認められるのは、手続補正書が法によって要求される本質的要件を備えておらず、かつ、その瑕疵が補正によって治癒され得ない場合にのみ許されるものと解すべきである。』

特許を受ける権利の承継と手続きの引き継ぎ

2007-08-12 00:03:08 | Weblog
事件番号 昭和60(行ケ)184
裁判年月日 昭和62年05月07日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 蕪山嚴 竹田稔 濱崎浩一)


『 ところで、<ins>特許出願後審査あるいは審判の手続中に特許を受ける権利の特定承継があつた場合に</ins>、右承継は手続に影響を及ぼさず、旧権利者は右承継によつて手続を追行する権能を失わないとしてそのまま手続を追行させ、査定あるいは審判の効力を権利の承継人に及ぼさせることとするか、あるいは、特許を受ける権利の特定承継に伴い該承継人を手続に関与させ、出願人の地位を引き継がせて、これに対して査定、審判をすることとするか、及び後者の立場を採る場合、どのような方法によつて権利の承継人に手続を引き継がせるかは、
 民事訴訟における当事者恒定主義又は訴訟承継主義の採否と同じく、立法政策によつて決定されるべき問題であるところ、特許法は、第二一条に、「特許庁長官又は審判長は、特許庁に事件が係属している場合において、特許権その他特許に関する権利の移転があつたときは、特許権その他特許に関する権利の承継人に対し、その事件に関する手続を続行することができる。」と規定し、基本的に後者の立場を採用し(右規定は、成立した特許権をめぐる事件の手続中に権利が承継された場合をも対象とするが、その規定部分はもとより本件に係りがない。)、特許庁長官又は審判長が権利の承継人に手続を引き継がせるかどうかを決定し得るものと定めた

 このように特許庁長官又は審判長がその裁量に基づき権利の承継人に手続を引き継がせるかどうかを決定し得るものとしたのは、例えば、審査又は審判が終結に熟していて権利の承継人を手続に関与させる具体的必要に乏しいとか、権利の特定承継の届出についての方式審査が未了で旧権利者にそのまま手続を追行させるのが適当であるなど当該事件に対する審査又は審判の状況に応じて事宜に適すると認めるときは旧権利者を出願人の地位にある者として手続を追行させることができ、他方において、特許庁長官又は審判長が相当と認めるときは権利の承継人に手続を引き継がせることもできるとしたものであり(権利の承継人に手続を引き継がせるときは、特許法施行規則第一七条により当事者にその旨を通知しなければならないと定められている。)、このことは比較的広般な範囲の職権主義を採用している特許法の建前にも適合するものと考えられる。

 そして、特許庁長官又は審判長が旧権利者にそのまま手続を追行させることとした場合、旧権利者は手続追行の権能を保有するとともに、旧権利者に対する査定又は審決など特許を受ける権利についてなされた処分の効力は権利の承継人にも及ぶのであり、特許法第二〇条の規定は右の趣旨を含むものと解するのが相当である。』

届け出の効力の発生時期

2007-08-12 00:02:24 | Weblog
事件番号 昭和60(行ケ)184
裁判年月日 昭和62年05月07日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 蕪山嚴 竹田稔 濱崎浩一)

『 前記当事者間に争いのない事実によれば、本件特許出願については、昭和五六年五月八日出願公告(昭和五六年特許出願公告第一九四九二号)されたところ、特許異議の申立てがなされたが、特許庁審査官は昭和五七年三月一六日特許異議の申立ては理由がないとの決定とともに本件特許出願につき特許をすべき旨の本件特許査定をしたものである
 ところで、特許査定は、当該特許出願について特許権を付与すべきことを定める行政処分であつて、文書をもつて行い、かつ、理由を附することを要する(特許法第六三条第一項)が、特許査定には、理由のほかに特許出願の番号、発明の名称、特許請求の範囲に記載された発明の数、特許出願人及び代理人の氏名、査定の結論、査定の年月日を記載し、審査官がこれに記名押印しなければならず(特許法施行規則第三五条)、特許庁長官は特許査定があつたときは、右査定の謄本を特許出願人に送達しなければならないと定められている(特許法第六三条第二項)。一般に相手方の受領を要する行政処分については、処分の告知が相手方に到達することによつて処分の効力が発生するのを本則とするから、特許査定は特許出願人に対しその謄本の送達がなされたときに効力が発生するものと解すべきである

 これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第二号証によれば、本件特許査定には、「特許出願の番号」特願昭五二ー一三一五二七、「特許庁審査官」D、「査定の年月日」昭和五七年三月一六日、「発明の名称」セルフロツクねじ部材、「特許請求の範囲に記載された発明の数」一、「特許出願人」B、「代理人」C、「出願公告」昭和五六年五月八日(特公昭五六―一九四九二号)と記載され、かつ「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、この出願の発明は、特許をすべきものと認める。」と記載され、D名下にDの印が押捺されていることが認められ、本件特許査定謄本が昭和五七年六月一五日特許出願人である訴外Bの代理人Cに送達されたことは、当事者間に争いがない。

 そこで、本件特許査定謄本が特許出願人に送達されたことによつて特許査定の効力を生じたかについて検討すると、原告が本件特許査定後その謄本の送達前である昭和五七年四月一六日訴外Bから特許を受ける権利を譲り受け、同月二七日特許庁長官に対し本件名義変更届を提出したことは前示のとおりである

原告は、昭和五七年四月二七日付けで特許庁長官に対して提出した本件名義変更届について特許庁長官は特許法施行規則第五条の規定にのつとり右届の合式性及び内容充足性について審査し、同年七月二八日これを認容して右届を受理したから、本件名義変更届は同日その効力が発生した旨主張する
 なるほど、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件名義変更届の第一頁には、主査の「本件の名義変更は差支えないかお伺する昭和五七年七月二八日」との伺文言が存し、体裁上伺に対する決裁印と目される「課長●●」なる印が押捺されていることが認められる。

 しかしながら、特許出願後の特許を受ける権利の承継は、意思表示のみでは効力を生じず、特許庁長官への届出が効力発生の要件とされており(特許法第三四条第四項)、その届出は、特許法施行規則様式第七に定める「特許出願人名義変更届」によりしなければならず(同規則第一二条)、特許庁長官はこれが適法になされたものであるかについて審査し、その届出に重大な瑕疵又は方式上の不備があり、それが補正によつて治癒され得ないような場合に、その届出を却下する意味において不受理処分をし、当該書類を返却することができるが、届が適法になされたものと認められたときは、格別の措置はとられず、特許庁に当該書類を提出したときに、届出の効力を生じるものというべきである
 けだし、この届出の効力発生時期については、特許法に特別の規定が設けられていないから、民法の意思表示の効力発生時期に関する一般原則(同法第九七条第一項)を準用し、当該名義変更届に関する書類が特許庁に到達したときにその効力を生じると解するのを相当とするからである
 したがつて、本件名義変更届第一頁に存する前記の文言及び押印は、特許庁における審査の経過を示すものにすぎず、本件名義変更届につき不受理処分がなされていないことは、弁論の全趣旨に徴し明らかである以上、本件名義変更届は昭和五七年四月二七日に届出の効力を生じたものというべきである。これに反する原告の前記主張は失当とすべきである。』

拒絶理由の手交をして特許査定後、当該拒絶理由の指定期間内にされた分割出願(控訴審)

2007-08-12 00:00:13 | Weblog
事件番号 平成9(行コ)58
裁判年月日 平成9年10月01日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 牧野利秋 石原直樹 清水節)

『1 法の規定上、願書に添付した明細書又は図面の補正が可能な時期は、特許査定が確定するまでに限られるものと解すべきことは原判決説示(原判決二一頁一一行から三〇頁一行まで)のとおりであるところ、法四四条一項は、「願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り」分割出願をすることができるものとしているのであるから、分割出願をすることができる時期も原出願の特許査定が確定するまで、すなわち、出願人に対する特許査定謄本の送達時までに限られるものと解すべきことは同項の解釈上当然であり、法、分割出願という法的利益に対し、時期的な面においては、明細書又は図面についてする補正と同様の範囲においてのみ、その実現の機会を与えているものと解すべきである

 一方、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることが、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であり、したがって、拒絶査定をする場合には、指定期間の経過を待ってこれをすることが出願人の利益を保護するために必要であるが、特許査定をする場合に、なお指定期間の経過を待たなければならない理由はなく、指定期間の経過前であっても、特許査定及びその査定謄本の送達ができるものと解すべきことは、原判決説示(原判決三二頁一行から三四頁七行まで)のとおりであり、指定期間の経過を待たなければ特許査定ができないとする規定は法に存在しない。その限りでは、出願人の与り知らぬ審査官の時期的裁量を伴う手続行為によって、補正及び出願分割の終期が定まることは、法の予定しているところであるといわなければならない

 控訴人は、分割出願制度は補正手続制度とリンクし、機能的に補完し合う関係にあり、そうだとすれば、法五〇条の趣旨及び分割出願制度の立法趣旨は、出願人の分割出願の法的利益をも保護するものであり、したがって、単に原出願の手続のみを考慮して、指定期間経過前の査定(特許査定又は拒絶査定)が許されるか否かを論ずるのは誤りである旨主張する。しかし、前説示から明らかなとおり、法は、将来分割出願がされることを見越してまで、特許出願につき特許査定をするべき場合に査定を遅らせることを要求しているものではない。』


『2 控訴人は、本件のように、いわゆる手交手続によって拒絶理由通知書が控訴人に交付されたケースにおいて、指定期間内に特許査定謄本の送達がされた割合等を承知していないとか、特許査定謄本の送達の場合と、未だ分割出願をする余地を残す出願公告決定謄本の送達の場合とを同列に論ずべきでもないなどとして、出願人に対し、指定期間経過前に早期に特許査定謄本の送達があることを前提として、分割出願の準備を期待するのは酷であると主張する
 しかし、原判決説示(原判決三六頁三行から四〇頁五行まで)のとおり、控訴人は、本件のように出願公告決定謄本の送達後に、手交手続によって拒絶理由通知を受けた場合には、事前打ち合せに基づく手続補正書の提出により、拒絶理由が解消され、指定期間の経過前に特許査定謄本の送達を受けることもありうることは十分予期していたと推認することができ、これをもって控訴人に酷な措置というに当たらない
 控訴人は、審査官が拒絶理由通知書の手交をするに当たって、法五〇条に定める相当の期間として六〇日を指定したことを非難するが、手交手続は出願人の協力を得て行われる制度的な運用方法なのであるから、出願人と事前の打ち合せを経ていたとしても、何らかの理由によって手続補正書の早期提出に齟齬を来す可能性がないとはいえず、そうであれば、相当の期間として十分な日数を定めることは出願人にとって有利な措置であるといえても、これをもって不相当な措置であるとは到底いうことができない。控訴人において分割出願の可能性を考慮していたのであれば、この期間を利用して最適の手段を採ることができたはずであり、これをしなかった責を他に転嫁するような控訴人の主張は採用に値しない。』

原審
事件番号 平成8(行ウ)125
裁判年月日 平成9年03月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

看過された補正指令書

2007-08-10 06:47:02 | Weblog
事件番号 平成14(行コ)145
裁判年月日 平成09年07月10
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官
(裁判所ホームページに掲載がないようである。)

『三 控訴人は、特許法十八条一項の規定による無効処分は裁量行為であって、手続きの迅速確保の要請と同時に特許法の目的である発明の保護・奨励の要請に応えるように運用されなければならないから、無効処分の効力発生(謄本送達)後であっても同所分が確定するまでは無効処分の理由とされた自由の補正が許されると解すべきである旨主張する
 しかしながら、行政処分の効力は当該処分がなされた時点における事実関係を前提として判断すべきことは原判決が説示するとおりであって、このことは当該行政処分が覇束行為であるか裁量行為であるかに関わりがない
 この点について、控訴人は、本件審判請求のように拒絶査定の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときは審判請求書に記載する「審判請求の理由」は形式的に記載されていれば足りるとする弾力的な運用がなされているし、委任状の不提出が形式的瑕疵であることは言うまでもないが、このように形式的な瑕疵についてまで無効処分確定前の補正が許されないとするのは特許出願人にとって酷にすぎると主張する
 しかしながら、審判手続きにおいては、職権によって当事者が申し立てない理由について審理されることがある(特許法百五十三条一項参照)としても、審判手続きの審理範囲は請求人が主張する審判請求の理由によって第一義的に確定されるものであるから(同法百三十一条一項三号参照)、審判請求の理由は実質的かつ明確に主張されることを要すると解すべきであって、拒絶査定不服の審判の請求の日から法定期間内に願書添付の明細書又は図面について補正がなされているときのみを例外的に扱うべき合理的な理由は存しない。もとより、控訴人が主張するように、極めて軽微な形式的瑕疵について手続補正を命ずることをせず、また、指定期間経過後であっても無効処分の効力発生以前になされた手続補正を有効なものとして取り扱うことが妥当な場合はあり得るが、審判請求における「請求の理由」の記載及び委任状の提出は、審判手続きにおいて請求人がなすべき重要な手続行為であって、その欠陥を持って極めて軽微な形式的瑕疵とすることは出来ないし、まして、本件無効処分の効力発生後になされた手続補正を有効なものと認めなかった本件不受理処分が裁量権の逸脱・濫用という余地はないから、控訴人の前記主張は採用できない。』

『四 控訴人は、そもそも本件審判請求の理由は十一月七日付け補正書と同時に提出された同日付「上申書」に実質的に記載されているから、本件補正指令書を待つまでもなく、本件審判請求書に審判請求の理由が記載されていない瑕疵は補正されていたと主張している。
 しかしながら、手続きの補正は法令に規定された洋式に則って行うのが審判手続きの適性を確保する所以であるから、これを法令に基づく文書でない「上申書」のような形で行うことは相当といえない。』

『五 また、控訴人は、特許庁は平成八年法律第六十八号による改正法施行後の特許法十八条の規定による手続きの却下についても「処分前の通知」を行う運用をしているが、これは特許庁が何らの通知もせず同条の規定による手続きの却下を行うことが手続きをしたものにとって酷であることを認めているからに他ならず、このような事情は無効処分が確定するまでの間に向こう処分の理由とされた自由の補正が許されるか田舎の判断に当たって考慮されなければならない旨主張する
 しかしながら、成立に争いがない乙第二十二号証の一ないし三によれば、特許庁が改正法施行後の特許法十八条の規定による手続きの却下について行っている「処分前の通知」が法令に基づくものでなく、いわゆる行政サービスとして行うものであることが明らかにされていると認められる。したがって、この手続を経由せずに行われた手続の却下処分が直ちに違法となる理由はないし、そもそも、改正法の施行に伴って新たに開始した実務の趣旨が、法改正前の規定に基づく処分の効力の判断において考慮されるべき理由はないから、控訴人の前記主張も当たらない。』

行政不服審査法による不服申立ての対象とならないもの

2007-08-10 06:09:13 | Weblog
事件番号 平成15(行ウ)33
裁判年月日 平成15年08月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『第5 当裁判所の判断
1 「前提となる事実」欄(前記第3)に記載したとおり,本件裁決は,本件補正命令を対象とする本件審査請求を不適法として却下したものである。
2(1) 行政不服審査法は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に対して不服申立てを認めているが(同法1条),それは,この種行為が直接国民の権利義務を形成し,又はその権利義務の範囲を確定するものであるという理由に基づくものであるから,行政庁の行為であっても,その性質上このような法的効果を有しないものは同法による不服申立ての対象とならないというべきである(最高裁昭和42年(行ツ)第47号同43年4月18日第一小法廷判決・民集22巻4号936頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁,最高裁昭和28年(オ)第296号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁参照)。

(2) 原告が本件審査請求において不服申立ての対象としている本件補正命令は,特許法133条2項の規定に基づいてされたものであるところ,同項の補正命令は,審判事件に関する手続の方式に関して瑕疵があった場合,これを審判長が指摘し,審判当事者に対してその補正の機会を与え,その補正を促すにとどまるものであって,手続の補正を命ぜられた審判当事者の権利義務を直接形成し,あるいはその権利義務の範囲を確定するものではない
  したがって,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものとはいえない

 手続の補正を命ぜられた審判当事者が補正命令に応じなければ,結果的に特許法133条3項により当該手続が却下されることになるが,当該手続が却下されることになるのは,あくまでも同項の規定に基づく却下決定という処分により発生する効果であり,本件補正命令そのものによる効果ではない。
 審判当事者とすれば,補正命令に不服であるとしても,これに続いてされる手続の却下決定を待って,当該却下処分の取消しを求める手続の中で補正命令の誤りを主張すれば足りるものであって,補正命令につき独立してその取消しを求める利益があるものではない

 なお,行政不服審査法2条1項は,同法にいう「処分」には公権力の行使に当たる事実上の行為で,人の収容,物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれるものと規定しているが,同項にいう事実行為とは,「公権力の行使に当たる事実上の行為」,すなわち,意思表示による行政庁の処分に類似する法的効果を招来する権力的な事実上の行為を指すものであるから(前掲昭和43年4月18日第一小法廷判決参照),本件補正命令がこれに当たらないことは上述した点に照らし,明らかである
 上記のとおり,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものではないから,これと同旨の判断により本件審査請求を不適法なものとして却下した本件裁決に,原告主張のような違法はない。』

『 原告は,本件第2特許出願については,本件第1特許出願時である昭和62年当時の特許法が適用されるため,本件補正書に方式違反はないなどと主張する
 しかし,分割に係る新たな特許出願は,発明の新規性,進歩性(特許法29条),先願(同法39条)の要件については,もとの特許出願の時を基準として判断される(同法44条2項)ものではあるが,あくまでも,もとの特許出願とは別個の独立した特許出願であるから,別段の定めのない限り,その手続については分割に係る新たな特許出願がされた時点における法令の定める方式によるべきものである。したがって,平成9年にされた本件第2特許出願に関する本件補正書に特許法施行規則様式第13に違反する方式上の不備があるとした本件補正命令は,法令を正当に適用したものというべきであり,また,本件補正書に対して特許法133条2項に基づき本件補正命令を発した点も正当である。』

審判請求書が却下された後、出願係属中にされた分割出願の帰趨

2007-08-05 22:51:20 | Weblog
事件番号 昭和51(行ウ)178
裁判年月日 昭和52年03月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 高林克巳 佐藤栄一 塚田渥)

『二 そこで、本件処分が違法であるかどうかについて、判断する。
1 まず、原告は、本件分割出願は原出願に対する拒絶査定の確定前にされたものであつて、特許法第四四条旧第二項の規定に違反せず、適法なものである旨主張するので、検討する

 特許法第四四条旧第二項は、「特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後は、することができない。」というものであつたが、同項は昭和四五年法律第九一号の特許法を改正する法律によつて削除された。しかし、右改正法附則第一条及び第二条によれば、右改正法は、昭和四六年一月一日から施行されるが、その施行の際現に特許庁に係属している特許出願については、別段の定めがある場合を除いて、その特許出願について、査定又は審決が確定するまでは、なお従前の例によるものとされている。しかして、すでに判示したところからすれば、原告の原出願が右改正法が施行された昭和四六年一月一日当時、現に特許庁に係属していたことは明らかであるから、本件分割出願については、特許法第四四条旧第二項の規定が適用されるものである

 ところで、特許出願について拒絶すべき旨の査定に対して不服がある者は、査定の謄本の送達があつた日から三〇日以内に審判を請求することができ(特許法第一二一条第一項)、さらに、審決に対して不服がある者は訴を提起することができる(同法第一七八条第一、第二項)から、右査定について法定の期間内に審判の請求がされなかつたとき又は法定の期間内に審判が請求されたが、審決がされ、法定の期間内に訴が提起されなかつたとき若しくは法定の期間内に訴が提起されたが、その審理において拒絶査定不服の審判を請求した者に不利な終局判決がされ、不服申立の方法が尽きたときは、右査定は、取り消される可能性がなくなり、確定したということができる。そして、特許出願についての拒絶査定に対して不服がある者が審判の請求をしたが、その審判請求書について、特許法第一三三条第二項により却下の決定がされたときは、たとえ右却下決定に対して取消訴訟が提起されたとしても、右却下決定を適法として維持する旨の判決が確定すれば、右拒絶査定は、遡つて、その謄本の送達があつた日から三〇日を経過したときに確定することになると解される右の理は、民事訴訟において、当事者が上訴期間内に一たん上訴したが、上訴期間経過後に上訴却下の確定判決を受ければ、原判決は上訴期間経過とともに確定したことになるのと同様である

 しかして、本件についてみるのに、すでに判示したとおり、
 原告は、原出願について、昭和四六年五月六日、拒絶査定を受け、遅くとも同年六月二八日には右査定の謄本の送達を受けたが、
 右査定に対して不服があり、同日審判の請求をしたところ、昭和四七年三月二二日付で、その審判請求書について、特許法第一三三条第二項により却下の決定がされたので、東京高等裁判所に対し、右却下決定の取消訴訟を提起し、
 同年一二月八日、原告の請求棄却の判決の言渡を受け、これに対し、最高裁判所に上告し、昭和五〇年七月四日、上告を棄却され、右判決は同日確定したが、原告はこの間、昭和四八年二月一日に本件分割出願をし、
昭和四九年六月一五日に本件処分を受けたのである


 以上の事実によれば、本件処分がされた昭和四九年六月一五日当時、原出願についての拒絶査定に対する審判請求書の却下決定の取消訴訟は最高裁判所に係属中であつたので、いまだ右拒絶査定は確定しておらず、したがつてその確定前である昭和四八年二月一日にした本件分割出願は、特許法第四四条旧第二項により許されるべきものであつたといわなければならず、これを不受理とした本件処分は、違法であるといわなければならない

 しかし、他方、前記事実によれば、その後昭和五〇年七月四日、右審判請求書却下決定の取消訴訟は原告敗訴として、上告棄却により終了したから、原出願についての拒絶査定は、前説明のとおり、遅くとも、その謄本の送達がされた昭和四六年六月二八日から三〇日を経過した同年七月二八日の経過とともに確定したものというべきところ審判請求書却下決定の取消訴訟が上告審に係属中であつて、原出願についての拒絶査定がいまだ確定していない間にされた本件処分は前説明のように違法ではあるが、その瑕疵は、前説明のように原出願についての拒絶査定が遡つて、遅くとも昭和四六年七月二八日の経過とともに確定したことによつて治癒されたものというべきであり、結局本件処分には違法の瑕疵はないものといわなければならない。』

『次に、原告は、本件分割出願を右のように分割出願として取扱うことができないとしても、これを通常の特許出願として受理すべきであると主張するが特許出願の分割を通常の新たな特許出願として取り扱わなければならないとする法律上の根拠はないから、原告の右主張は、理由がない。』


(控訴審判決)
事件番号 昭和52(行コ)20
裁判年月日 昭和52年09月14日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判官 駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

『一 当裁判所は、本件特許出願不受理処分に違法な瑕疵があるとする控訴人の主張を理由がないものと判断する。その理由は、次に附加するほか、原判決の理由一および二の1(第一二丁表第一行ないし第一五丁裏第九行目)と同一であるから、これを引用する。
二1 控訴人は、本件分割出願を、その出願当時原出願に対する拒絶査定が未確定であつた以上、特許法第四四条旧第二項の規定によつても、適法というべきである旨を主張するが右拒絶査定に対する審判請求書却下決定の取消訴訟についてなされた請求棄却の判決の確定により、右拒絶査定がこれに対する不服申立期間満了とともに遡及的に確定した以上、右分割出願を適法と解すべき法律上の根拠は失われたものといわなければならない

2 次に、控訴人は、本件分割出願は通常の特許出願として受理さるべきであつたと主張する。しかし、そもそも、特許法上、法定期間後になされた特許出願の分割をもつて通常の特許出願とみなすべき旨の特別の規定はないのみならず、同法第四四条(旧第二項による。)の規定に徴すると、特許出願の分割(分割出願)は、原出願に包含された複数の発明の一または二以上を抽出して別出願とし、これを原出願の日に出願したものとみなされる反面、原出願について査定または審決が確定するまでにしなければならないという時期的制約を受ける特殊の出願形式であつて、手続上も特に同条第一項の規定による出願たる旨を表示し、かつ、原出願を表示してされるものである(同法施行規則第二三条第一項)から、これが「新たな特許出願」として通常の特許出願と共通の性質を有するというだけで、右のような時期的制約に違反する不適法な分割出願を通常の出願に転換して審理すべき余地はないものと解するが相当である。』

審決取消訴訟が継続中の分割-分割濫用の法理への言及

2007-08-05 19:07:45 | Weblog
事件番号 平成15(行ケ)121
裁判年月日 平成15年10月28日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『1 事案の要約と問題の所在
 本件事案は,次のように要約される。
 原告は,指定商品ないし役務を<ins>A</ins>(第5類のa,第16類のa,第21類のa)の商品群,<ins>B</ins>(第5類のb,第16類のb,第21類のb)の商品群,及び<ins>C</ins>(第16類のc,第38類,第42類)の商品ないし役務群として,本願商標の登録出願をしたところ,
特許庁から拒絶理由通知を受け,願書記載の指定商品及び役務からA商品群を削除する旨の補正書を提出するなどして対応したものの(第1次補正),
拒絶査定を受けたため,審判請求をするとともに,指定商品からB商品群のうち第5類のものを削除する旨の補正書を提出したが(第2次補正),
本願商標は,引用商標「ABIRON」(指定商品は第19類)と類似し,かつ,本願商標と引用商標は,指定商品において同一又は類似することを理由として,請求不成立(出願拒絶支持)の審決を受けた。

そこで,原告は,審決取消しを求めて本訴を提起した上,<ins>特許庁に対し,第16類と第21類のB商品群が拒絶の根拠になったものとみて,これらの商品群を指定商品とする分割出願をし,かつ,本件出願に係る指定商品及び役務をCの商品ないし役務群に減縮する旨の補正書を提出</ins>した

 以上の事実関係の下で,原告は,本訴提起後特許庁に対し分割出願に伴って提出された補正書は,出願時に遡って効力を有するとする見解(遡及説)に立って,本件出願に係る指定役務が分割前のB商品群(一部を除く。)及びC商品役務群であることを前提として判断した審決は,結果として誤りであるから,違法として取り消されるべきであると主張し,これに対し,被告は,本訴提訴後に提出された補正書は原告主張のような遡及効は有しないとする見解(非遡及説)に立って,審決は違法ではないと主張する。』


『 2 商標法68条の40第1項について
 <ins>商標法10条1項は</ins>,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,<ins>分割出願が許される時期について「商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合」と明記しているから,審決取消訴訟係属中に分割出願ができることに疑問の余地はない</ins>。
 これに対し,<ins>商標法68条の40第1項は</ins>,「商標登録出願・・・・に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。」と規定し,<ins>手続の補正をすることのできる時期を制限し,特に「商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合」を文理上除外している</ins>。

 そして,平成8年法律第68号による改正前の商標法10条は,商標登録出願の分割ができない時期として,「査定又は審決が確定した後」と規定していたのであり,<ins>これとの対比において考えても,商標法68条の40第1項の上記場合とは,事件が特許庁に現に係属している場合を指し,審決取消訴訟が係属している場合を含まないものと解するのが自然である。</ins>そして,<ins>事件が現に特許庁に係属していない限り,出願人から補正書が提出されたとしても,これを審査することはできず,仮に審査して補正の許否の結論を出したとしても,これを出願の当否の判断に反映させる法的手続も定められていない</ins>

 また,商標法68条の40第1項は,手続の補正に関する一般規定であるから,<ins>分割出願に伴う補正のみでなく,補正一般についても審決取消訴訟係属中に認めることになるような解釈は,審決取消訴訟の審理構造に関わる重大な事項であって,弊害も大きく,軽々に認めることは適当ではない</ins>

 以上のとおり考えると,商標法68条の40第1項の解釈としては,審決取消訴訟の係属中には,もはや,遡及効を伴うような補正は,許容することはできないものと解さざるを得ないそこで,以下には,項を改め,分割出願に伴い,原出願に関する審決取消訴訟の審理の対象がどのように影響を受けるのかの観点から,検討を加えることにする。』


『 3 分割出願の法的性質について
 上述のように,
 商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と定めており,分割出願自体について特別の要件ないし手続(例えば,審決で拒絶理由とされた指定商品等について分割出願を制限するなどの要件ないし手続)を定めていないことなどを考えると,
 (1)商標法の定める分割出願は,同法10条1項の定める要件を充足している限り,分割出願がされることによって,原出願の指定商品等は,原出願と分割出願のそれぞれの指定商品等に当然に分割され,それゆえ,原出願の指定商品等について,分割出願の指定商品等として移行する商品等が削除されることは,観念上は,分割出願自体に含まれ,別個の手続行為を要しないものと解され,かつ,
 (2)分割出願は,法律上,新たな出願とみなされるため,不動産登記における分筆・分割や民事訴訟における弁論の分離などの場合(これらの場合には,分割前の正と負の状態を分割後もそれぞれが承継する。)と異なり,原出願が受けた拒絶査定,審判請求不成立の審決という負の状態,そして,審決取消訴訟係属の対象からも解放され,改めて特許庁において新たな出願として審査及び審判を受けることができるようになる
と解される。

 しかも,商標法10条1項は,上述のとおり審決取消訴訟の係属中であってもすることができると明記していることを考えると,審決取消訴訟の係属中にされた分割出願でも,分割出願自体によってその効力を生じ,同法68条の40第1項のいう補正をしなくとも,分割出願としての効力に何ら影響を及ぼすものではないと解するのが相当である

 ところで,商標法施行規則22条4項は,特許法施行規則30条を準用し,商標法10条1項の規定により新たな出願をする場合において,原出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は新たな出願と同時にしなければならないと規定しているこの商標法施行規則の規定は,分割出願は,上述したように,分割出願自体によって,観念上原出願と分割出願の双方の指定商品等について当然にその効果を生じ,その効力発生要件としては補正書の提出を要しないものではあるが,分割出願がされた場合には,実際上は,分割出願に移行する指定商品等を原出願の指定商品等から削除することが必要になって,その際,原出願と分割出願との間で指定商品等が重複するようなことが考えられるため,そのような事態を避けるという事務手続上の便宜のために設けられたものと解される(この点において,特許法の分割出願は,原出願に係る発明と分割出願に係る発明とをいかに切り分けるかにつき判断的な要素が入り,必ずしも一義的な分割方法があるわけではないため,特許法施行規則30条の定める補正の書面が重要な役割を担うのと事情を異にする。)。

 したがって,商標法の分割出願の場合には,上記法条にいう補正の書面は分割出願の効力を云々するような書面ではないというべきであり(施行規則は,その法形式上,法の定めた効力要件を加重することはできない。),特許庁編工業所有権法逐条解説〔第16版〕1095頁のこの点に関する説明も,以上の趣旨に帰するものと思われる。』

『 4 分割出願と審決取消訴訟の審判対象の変動について
 上述したとおり,分割出願は,願書記載の指定商品及び役務を原出願と分割出願との間で分割するというものであるから,商標法10条1項の要件に適合する分割出願がされれば,これによって,原出願についても,指定商品等の変動という分割出願の効力は生じているといわざるを得ない。そして,商標法は,審査・審判等が特許庁に係属する場合に分割出願することを認め,その分割出願の結果を審査・審判等に反映させることにし,これと同列的に,審決取消訴訟が裁判所に係属する場合にも分割出願を認めたのであるから,その分割出願の結果もまた審決取消しの訴訟及び判決に反映させることにしたものと解するのが文理上も自然であり,かつ,合理的である。

仮に,商標法が審決取消訴訟係属中に分割出願の制度を認めながら,分割出願の結果が審決取消しの訴訟及び判決に何ら影響を与えないというのであれば,審判対象物の恒定効を付与するといった特別の法的措置を講じるべきであり,そのような措置が何ら講じられていない以上,分割出願の結果を前提に,爾後の審決取消訴訟は進行するものといわざるを得ない。

 そこで,分割出願の効力が審決取消訴訟に対しいかなる影響を与えるかについて考えるに,登録出願に係る商標の指定商品等が分割出願によって減少したことは,審理及び裁判の対象がその限りで当然に減少したことに帰するから,審決取消訴訟では,残存する指定商品等について,審決時を基準にして,審理及び裁判をすべきことになる。この場合,審決が残存する指定商品等について判断をしているときは,その判断の当否について審理及び裁判をし,審決が判断を加えないでその結論を導いているときは,その点につき当該訴訟で審理判断が可能かを見極めることとなる。

 以上のように解すると,審決の示した判断,審決取消訴訟進行中の被告(特許庁)の示した判断,そして,審決取消訴訟の第一審判決に示された判断に不満を抱いた原告は,その訴訟が終局するまで,分割出願をした上,拒絶理由に関係のある指定商品等について分割出願をすることによって,容易に審決取消しの判決を得ることが可能であるかのようであるが分割の濫用法理の適用などは別途考えられてよい

 <ins>なお,以上のような見解を採用しないで,裁判所が,審決取消訴訟係属中にされた分割出願に係る指定商品等も審理の対象として審理判断し,審決取消しを求める請求を棄却する判決をする場合には</ins>,分割出願の効力は否定することができないから,その判決によって確定する審決の内容は,分割出願後に原出願に残存した指定商品等に限定される結果となる。
 本件についていえば,指定商品等をB商品群(一部を除く。)及びC商品役務群としてされた審決においては,B商品群において本願商標と引用商標が類似しているとして,これを含むB商品群(一部を除く。),C商品役務群の全体について拒絶すべきものとされたため,審決取消訴訟が提起され,審決取消訴訟の係属中に拒絶理由のあるB商品群について分割出願されたところ,<ins>裁判所は,分割出願によっては審理及び判決の対象は何ら変動しないものとして,分割出願の指定商品に移行したB商品群において両商標は類似するとして,C商品役務群を含む全部について拒絶すべきものとした審決を是認し,原告の請求を棄却するわけであるが,この判決によって確定する審決は,拒絶理由の関係しないC商品役務群のみにつき効力を有し,拒絶理由に関係のあるB商品群には効力が及ばないということにる</ins>。』


(同趣旨を判示するもの)
事件番号 平成15(行ケ)83
裁判年月日 平成15年10月07日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

無効審決取消を求め上告受理を申立てた後にした訂正審判

2007-08-05 12:43:38 | Weblog
裁判年月日 平成17年08月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『第5 当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実によれば,原告の有する本件特許に対し特許異議の申立てがされ,特許庁はこの異議を容れて前件取消決定をしたこと,原告が東京高等裁判所に対し,前件取消決定の取消を求める訴訟を提起したが,容れられずに前件棄却判決がされたこと,原告は最高裁判所に対し,上告受理の申立てをし,さらに特許庁に対し本件特許について特許請求の範囲の記載等の訂正を内容とする訂正審判を申し立てたけれども,訂正審判の審理が進まないうちに,上告不受理決定がされて前件棄却判決が確定したことが明らかである
 これによれば,本件特許の取消決定が確定したのであるから,特許法114条3項により,本件特許権は初めから存在しなかったものとみなされることになる。そうすると,本件訂正審判の請求は,その目的を失い不適法になるものといわざるを得ない。審決が「本件訂正審判の請求の対象が存在しないので不適法な請求である」としたことは,これと同趣旨をいうものと解することができ,本件訂正審判の請求を却下した審決の判断に誤りはない。』

『2 原告の主張について
(1) 原告は,審決が特許法126条5項を適用したことが根拠のないものであると主張する。しかしながら,同項が本文において,特許権消滅後における訂正審判の請求を許しながら,ただし書において特許が取消決定により取り消され,又は無効審判によって無効とされた後はこれを許さないものとしている趣旨は,過去において有効に存在するものとされていた特許権が存続期間の満了等により消滅し,現在においては権利として存在していない状態となっていても,無効審判の請求を許すこととしているので,これに対応して,特許権者にも上記のように特許権が消滅した後においても無効審判請求への対抗手段として訂正審判請求を許し,特許権者の請求により訂正の審判を行うが,取消決定ないし無効審判により特許権の効力が遡及的に否定された後は,もはや権利者において無効審判請求への対抗手段として訂正請求を許す必要がないことから,訂正審判を行わないことを明らかにしたものである。
 上記のとおり,特許法126条5項ただし書が「ただし,特許が取消決定により取り消され,又第123条第1項の審判により無効にされた後は,この限りではない。」と規定しているのは,取消決定ないし無効審判が確定した場合は,もはや訂正審判を行う余地がないことをいう趣旨であり,取消決定や無効審決の確定時までに請求された訂正審判については審判が行われることをいう趣旨ではない(最高裁昭和59年4月24日判決・民集38巻6号653頁参照)。
 したがって,審決が126条5項を適用して,本件訂正審判請求を却下したことは,正当である。』

(参考:同趣旨を判示するもの)
訂正審判の係属中に特許権の無効が確定した場合
事件番号 平成17(行ケ)10771
裁判年月日 平成18年04月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘


拒絶理由の手交をして特許査定後、当該拒絶理由の指定期間内にされた分割出願(原審)

2007-08-05 12:06:43 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成8(行ウ)125
裁判年月日 平成9年03月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

『2 分割による出願をすることができる時期及びこれに関連する規定について、その沿革をみるに、現在の特許法(昭和三四年法律第一二一号)施行当初は、手続の補正ができる時期について一七条一項本文に「手続をした者は、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正ができる。」と定め(ただし書で、出願公告決定、請求公告決定の謄本の送達後の補正は、六四条の規定により補正をすることができる場合に限定されていた。)、他方、分割による出願をすることができる時期については、四四条二項に「前項の規定による特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後はすることができない。」との規定が置かれていた
 それが、昭和四五年法律第九一号による改正により、手続の補正ができる時期について一七条一項本文が「手続をした者は、事件が特許庁に係属している場合に限り、その補正をすることができる。」と改正され(ただし書で、出願から一年三月を経過した後出願公告決定送達前、出願公告決定送達後、請求公告決定後の補正は、一七条の二、六四条の規定により補正をすることができる場合に限定する。)、一七条の二を新たに設け、特許出願の日から一年三月経過後出願公告決定謄本の送達前の願書に添附した明細書又は図面の補正について、一号ないし四号に掲げる場合に限りできるものとされるとともに、特許出願の分割については、従前の四四条二項が削除され、四四条一項に、「特許出願人は、願書に添附した明細書又は図面について補正ができる時又は期間内に限り、・・・することができる。」旨の規定が設けられた
 右に認定したとおり、現在の特許法の施行当初には、手続の補正が可能な時期について<ins>、「事件が審査、審判又は再審に係属している場合」に限るものとされ</ins>、特許出願の分割が可能な時期について、<ins>「特許出願について査定又は審決が確定した後はすることができない。」とされていた</ins>のであるから、出願につき特許をすべき旨の査定の謄本が出願人に送達されることによって確定し、審査又は審判に係属しなくなった後は、手続の補正も特許出願の分割もすることができなかったことは明らかである
 昭和四五年法律第九一号による改正によって、手続の補正が可能な時期は、「<ins>事件が</ins>特許庁に係属している場合」に限るものと改められたが、それは同じ改正で審査請求制度が導入されたことにより、特許出願によって直ちに事件が<ins>審査に</ins>係属しているといえなくなったので、出願後審査請求までの間も手続の補正ができるようにするためのものと解される

 もっとも、特許査定謄本が出願人に送達されて確定した後登録までの間も事件は特許庁に係属しているという余地があるから、右改正によって、特許査定の確定後もなお手続の補正が可能になったと解する余地がある。しかしながら、少なくとも、特許権の内容の変動を生ずるおそれの高い特許願に添附した明細書又は図面の補正に関する限り、そのように解するのは相当ではない
 勿論、出願公告決定謄本送達後の特許願に添附した明細書又は図面の補正については法六四条により時期、目的事項について厳格に限定されているが、<ins>出願人が出願公告決定謄本の送達後拒絶理由通知を受けた場合、早期に意見書を提出し、それによって審査官が迅速に再考慮した結果、意見書の提出期間として指定された期間を残して特許査定が確定する可能性があることは実際の運用上は例外的とはいえ、法の予定したところであり、その残期間内に法六四条の限定も、事件が特許庁に係属しているという要件も充足する、特許願に添附された明細書又は図面についての手続の補正書が提出されることは理論的にはあり得る</ins>。しかしながら、法にはそのような場合に対応するため当然必要な、手続補正の審査の主体、行政処分として覊束力を有する確定した特許査定の変更の手続についての規定は何ら設けられていない。そうであるのみか、そもそも、出願公告決定送達後の特許願に添附された明細書又は図面の補正は、出願人に拒絶理由を消滅させ特許を受ける機会を与えることを眼目とするものであり、すでに特許査定が確定した発明について、明細書又は図面を補正する機会を与える必要性はない
 これらのことを考慮すると、法一七条一項の「事件が特許庁に係属している場合」との文言にもかかわらず、少なくとも願書に添附した明細書又は図面の補正が可能な時期は、特許査定が確定する前に限るものと解するのが事柄の性質上相当である

 次に昭和四五年法律第九一号による改正によって、分割による出願ができる時期について、法四四条は、「願書に添附した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」に限るものとしたが、これは、分割の制度が、もとの特許出願の願書に最初に添附した明細書又は図面に開示している発明であって分割の際にもとの特許出願の願書に添附している明細書又は図面にも開示している発明についても新たな特許出願をする便宜を与えるものとして、明細書又は図面についてする補正と同様な働きをしているので、その補正の場合と同様の時期の制限をしたものと解される

 したがって、法四四条一項にいう「願書に添附した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」には、具体的には、前記第二、二7記載の時又は期間というほかに「特許査定が確定するより前」という時期の制限があるものと解するのが相当である。

3 したがって、本件原出願について特許査定がされ、その謄本が原告に送達されたことにより確定した後にされた本件分割出願は不適法であり、かつその瑕疵を補正する余地がないものであった。』

『二 原告は、本件通知書の指定期間内に本件原出願について特許査定をしたことは違法である旨主張する

1 法五〇条は、審査官は、拒絶すべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない旨規定していたが、その趣旨は、審査官が、特許出願に拒絶理由があるとの心証を得た場合に直ちに拒絶査定をすることなく、その理由をあらかじめ特許出願人に通知し、期間を定めて出願人に弁明の機会を与え、審査官が出願人の意見を基に再考慮する機会とし、判断の適正を期することにある

 ところで、法五〇条の定める拒絶理由の通知及び相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えることは、拒絶査定をしようとする場合に履践すべき手続であって、特許査定をしようとする場合に要求されるものでないことは、法五〇条自体から明白である。
したがって、拒絶査定をしようとする場合には、指定した期間の経過を待って、右期間中に提出された意見書、右期間中にされた手続の補正、特許出願の分割を考慮した上で拒絶査定をする必要があるけれども、右期間中に提出された意見書又は右期間中にされた手続の補正を考慮した結果、特許査定をすることができると判断した場合には、無為に指定した期間の経過を待って、その後、さらに、追加の意見書が提出されるか否か、再度の手続補正がされるか否か、特許出願の分割がされるか否かを見極める必要はなく、指定期間の途中であっても特許査定をすることができるものであり、むしろ、そのような取扱いこそが望ましいものということができる
意見書提出の期間として指定された期間は、特許出願人が明細書又は図面について補正することができる期間とされている(法一七条の二第三号、法六四条一項)がその趣旨は、拒絶理由通知を受け、その拒絶理由のある部分を補正により除去することにより、特許すべき発明が特許を受けることができるようにすることにある。

 特許出願の分割は、願書に添附した明細書又は図面の補正と同様の効果を持ちうることから、明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り、特許出願の分割ができるものとされていることは前記のとおりである
これらの規定は、拒絶理由通知を受けた特許出願人に指定された期間内に意見書の提出のほか、付随的に拒絶理由を回避するための手続補正書の提出及び出願の分割の機会も与えたものといえるけれども、特許査定をするべき場合に査定を遅らせてまで、補正及び分割の機会を保障したものと解することはできない。』

子出願が事後的に分割要件を満たさなくなった場合の孫出願の出願日

2007-08-05 11:19:41 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成15(行ケ)66
裁判年月日 平成15年09月03日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美


『(2) 特許出願の分割について定めた特許法旧44条1項は,「特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」と規定していたから,分割出願が適法であるための実体的な要件としては,もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であることが必要である。さらに,分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという効果を有する(同法44条2項本文)ことからすれば,新たな出願に係る発明は,分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されているだけでは足りず,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要すると解される

 また,分割出願として孫出願が可能か否かについての明文の規定はないが,「二以上の発明を包含する特許出願」(親出願)に対して分割要件を満たす「新たな特許出願」(子出願)をし,さらに,「二以上の発明を包含する特許出願」(子出願)に対して分割要件を満たす「新たな特許出願」(孫出願)をすることを妨げる理由はないから,子出願及び孫出願の両者が分割要件を満たす場合には,孫出願の出願日を親出願の出願日に遡及させることを定めていたものと解するのが相当である

 したがって,孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには,子出願が親出願に対し分割の要件を満たし,孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし,かつ,孫出願に係る発明が親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであることを要するというべきである。』

『 本件において,孫出願は,親出願からの分割出願である子出願を更に分割出願し,玄孫出願である本件特許出願は,孫出願を更に分割出願した曾孫出願を更に分割出願したものであるから,玄孫出願(本件特許出願),曾孫出願,孫出願及び子出願の各分割出願がそれぞれ特許法旧44条1項の分割要件を満たし,かつ,本件発明1,2が親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には,本件発明1,2の出願日は,親出願の出願日まで遡及することになる。

 しかしながら,子出願に係る発明は,平成5年10月29日付け手続補正書(甲19)により補正され,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなり,いったん特許権の設定登録がされた後,当該補正がされた発明のまま,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権は,初めから存在しなかったものとみなされた。

 したがって,当該補正がされた発明はもはや訂正される余地はなく,子出願に係る発明は,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなったから,子出願が分割の実体的要件を満たさないことは明らかである。そうすると,孫出願及びそれ以降の分割出願の適否を検討するまでもなく,玄孫出願である本件特許出願の出願日が親出願の出願日まで遡及する余地はないというべきである。』

『(3) 原告は,子出願は,適法に分割出願されて登録をすべきことが確定した後に,特許法旧40条の規定により,出願日が手続補正書提出日と擬制されたものであり,分割の不適法が問われたものではないから,適法に分割されて確定した他の権利である孫出願及びそれ以降の分割出願には分割不適法の効果は及ばない,すなわち,子出願の出願日は,特許法旧40条の規定により,平成5年10月29日付け手続補正書(甲19)が提出された日に確定されたものの,同手続補正書が提出されるまで適法に手続がされたものであるから,それより前の同年3月19日付け手続補正書(甲18)に記載の実体的分割要件で,分割の時期的制限から同年10月29日に適法に分割出願された権利にまで,分割不適法の効果が及ぶものではないと主張する

 しかしながら,親出願,子出願,孫出願及びそれ以降の分割出願は,それぞれ別個の出願手続であり,特許要件の具備の有無は別個独立に審査されるものであっても,孫出願の出願日の遡及の利益の享受は,飽くまで子出願の出願日の利益の享受であって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われることを前提とするものであり,孫出願の出願日が子出願と無関係に本来の分割可能な時期から離れて無限定に親出願の出願日まで遡及するものではない。子出願に係る発明は,平成5年10月29日付け手続補正書により補正されたが,親出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内のものでないこととなったから,上記補正は,本来,不適法なものとして却下されるべきものであったが,却下されることなく,当該補正がされた発明のまま,いったん特許権の設定登録がされた後,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権が初めから存在しなかったものとみなされたことは上記のとおりであって,子出願が分割要件を満たして分割が適法に行われたものでないことは明らかである。』

『(4) 原告は,子出願は,適法に分割出願されて登録をすべきことが確定した後に,特許法旧40条により,出願日が手続補正書提出日と擬制されたと主張するが同規定の適用は,上記補正後の子出願に係る発明が,子出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなったから,出願日が補正書提出の日である平成5年10月29日とみなされることをいうためであって,このことと,子出願が親出願に対して分割の要件を満たさないこととは別異の事項である
  原告は,また,孫出願は,特許法旧44条1項所定の「願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内」という時期的制限を受けて,同年3月19日付け手続補正書(甲18)の内容を基に分割出願した他の権利であり,孫出願及びそれ以降の分割出願が子出願から適法に分割されていることは,本件審決も認定するところであると主張するが特許法44条2項本文に,「前項の場合は,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなす」と規定されているように,分割出願による遡及の利益の享受は,出願日が,「もとの特許出願」の出願日に遡及するというものであり,孫出願を「新たな特許出願」とすると,「もとの特許出願」とは子出願であるから,孫出願は,適法に分割された場合であっても,子出願の出願日に遡及するにすぎない

『(5) 原告は,さらに,本件特許出願に適用される昭和58年5月特許庁作成に係る審査基準においても,原出願が取り下げられ又は放棄された日と同日に出願された分割出願は適法であり,ただ,原出願が取り下げられ,放棄され又は無効とされた場合に,これらの行為がされた時点での原出願に係る発明と分割出願に係る発明とが同一であるときには,分割出願は適法でないものとするとされており,子出願に係る権利が確定した後に無効になったからといって,孫出願及びそれ以降の分割出願までが無効になるものではないことは,特許庁における運用であると主張する
 しかしながら,子出願は,上記のとおり,特許法旧40条により,手続補正書の提出日が出願日とみなされたものであって,子出願が取り下げられ,又は放棄されたとみなされたものではないし,子出願が無効になったから孫出願が無効であるとの判断をしているものでもないことは明らかである。原告の上記主張は,本件審決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,採用の限りではない。』