知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

店舗で演奏される管理著作物の利用主体の判断例等

2007-02-01 07:12:53 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)10324
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年01月30日
裁判所名 大阪地方裁判所
裁判長裁判官 田中俊次

『3 争点3(被告は本件店舗で演奏される管理著作物の利用主体か否か。)につ
いて
(1) ピアノ演奏について
・・・
 被告は,客から演奏鑑賞料を徴収していないし,演奏者に演奏料を支払ってもいないとも主張するが,そうであるとしても,被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上,それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図り,現にそれによる利益を得ているものと評価できるから,被告の主観的意図がいかなるものであれ,客観的にみれば,被告がピアノ演奏により利益を上げることを意図し,かつ,その利益を享受していると認められることに変わりはないというべきである
 以上によれば,本件店舗でのピアノ演奏の主体は,本件店舗の経営者である被告であるというべきである。

(2) ライブ演奏について
ア 本件店舗が主催するライブについては,前記2(1)イ(イ)bのとおり,本件店舗が最終的に企画し,客からライブチャージを徴収した上で,演奏者等に演奏料を支払うのであるから,その演奏は本件店舗の管理の下に行われるものと評価でき,またそれによる損益は本件店舗に帰属するものであったといえる。したがって,この形態のライブ演奏の主体は,本件店舗の経営者である被告であることが明らかである。
イ 演奏者等が主催するライブについて
 (ア) この形態のライブでは,本件店舗側が演奏者を招聘するものではなく,本件店舗は演奏する曲目の選定にも関与せず,また演奏者側がチケットやちらしを作成して本件店舗以外でも販売又は配布し,客から徴収するライブチャージも全額が演奏者側に渡されている。このような本件店舗のライブ演奏への関与は,上記アの形態と比べると希薄であることは否めないところである。
 さらに,この形態のライブは,出演者による演奏は著作権法38条1項の適用外であることは当然であり,主催者である演奏者等において原告からの管理著作物の利用許諾を得ることも可能である(甲12,13 。また,楽曲の演奏を) 管理し,演奏による営業上の利益が第1次的に帰属するのは主催者である演奏者等であるから,演奏者等において原告からの管理著作物の利用許諾を得ずに管理著作物を演奏した場合には,当該演奏者等が管理著作物の著作権を侵害することになる。
 (イ) しかしながら,本件店舗においてライブを開催させるというのは,本件店舗の基本的な営業方針であり,・・・本件店舗のこのような営業方針が不可欠の要素となっているものといえる。そしてまた実際にも,本件店舗は,ちらしを作成してライブの開催を宣伝するほか,チケットの販売,予約の受付等の事務を行い,求めがあった場合の楽器の提供を行うなど,ライブが順調に開催されるための種々の支援も行っているのであって,ライブ開催に対する被告の関与は決して小さなものではないというべきである
 また,被告は後記6(1)のとおり,平成13年6月末までには本件店舗において管理著作物を演奏するには,原告との音楽著作物利用許諾契約を締結する必要があることを認識していたのであるから・・・ ライブ主催者が原告と音楽著作物利用許諾契約を締結していない場合は,自ら同契約を締結しない限り無許諾で管理著作物の演奏がなされることになり,管理著作物の著作権が侵害されることとなることを認識していたものである。
 したがって,被告ないし本件店舗は,事前に主催者である演奏者等に対し,演奏曲目が管理著作物である場合には,原告からの利用許諾を得ているか否かを確認することが期待し得たものであり,確認した結果によっては,本件店舗でのライブの開催を断ることができるという意味では,著作権侵害行為を予防し得る立場にあったものである。
 加えて,本件店舗は,ライブ開催時には,メニューは簡素なものであるが客に有料で飲食物を提供しており,この売上げは本件店舗の営業収入となるから,ライブ演奏をそのレストラン営業の一部として取り込んでいるものといえる。また,本件店舗は,ライブを開催することによって,「音楽を楽しめるレストラン」という本件店舗のイメージを定着させるのに役立っているということもできる。
(ウ) 以上のような演奏者等の第三者が主催するライブにおける被告の関与の状況及び営業上の利益の帰属状況等にかんがみれば,被告がライブ主催者に対して,原告からの管理著作物の利用許諾を得たか否かを確認もせずに,本件店舗で原告からの管理著作物の利用許諾を得ないままライブを行うことを黙認して,著作権侵害行為をする場を提供することは,いわば,ライブ主催者による著作権侵害行為を利用して,自らの営業上の利益を得ることを図るものであるから,著作権法の規律の観点からは,ライブ主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権を侵害する行為に該当するというべきである。また,主催者である演奏者等と共同して管理著作物の著作権侵害行為を行うことについて過失も認められる。
 よって,この形態のライブ演奏については,本件店舗の経営者である被告も演奏の主体であると評価するのが相当である。

(3) 貸切営業における演奏について
 前記2(1)イ(ウ)において認定したとおり,貸切営業において,被告は,場所及び楽,音響装置及び照明装置を提供しており,本件店舗における演奏を勧誘しているのである,・・・,そもそも演奏するか否か,さらにいかなる楽曲を演奏するか,備付けの楽器を使用するか否か,音響装置及び照明装置の操作等について上記招待客等の自由に委ねられているものであり,その演奏形態は一様ではないといえる。
 また,前記認定事実のとおり,本件店舗のウェブサイトには、貸切営業の際に通常営業も行うこともできるとの記載があるが,本件において提出された証拠によっては,貸切営業が実際にいかなる場合に通常営業と並行して行われているのかは明らかではなく,むしろ多くの場合,貸切営業においては本件店舗を訪れる不特定多数の客ではなく,専ら当該結婚披露宴の二次会などの招待客に聴かせることを目的とするものであることが認められる。これらの事情にかんがみれば,貸切営業における招待客や参加者が行う演奏行為は,被告によって管理されていると認めることはできず,むしろ被告とは無関係に行われる場合が多いと認められ,また,被告がその演奏自体を不特定多数の客が来訪する店の雰囲気作りに利用するなどして,これによる収益を得ているとは認められない
 したがって,貸切営業における演奏については,管理著作物の利用主体は本件店舗の経営者たる被告であると認めることはできない。

(4) 小括
以上によれば,本件店舗におけるピアノ演奏及びライブ演奏については,被告が演奏の主体であることから,被告による演奏権侵害の余地がある。』


『4 争点4(本件店舗における演奏に著作権法38条1項が適用されるか否か。)
について
管理著作物であっても,営利を目的とせず,かつ,聴衆又は観衆から料金を受けない場合には,公に演奏することができるが,実演家に対し報酬が支払われる場合はこの限りではない(著作権法38条1項)。そこで,本件店舗における各演奏態様ごとに同条項の適用の有無を検討する。なお,原告が主張する貸切営業(前記第3,2【原告の主張】(1)のシ,ソ,タ,チ参照)における演奏及び「サッカーワールドカップ第2回観戦会」における演奏は,前記3(4)のとおり,被告が演奏主体となって管理著作物を使用しているものとは認められないから,これを前提とする同条項の適用の有無は検討するまでもない。
(1) ピアノ演奏について
ピアノ演奏については,前記3(1)において説示したとおり,被告がピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上,それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図っているものと評価できるから,営利を目的としないとはいえない。
したがって,ピアノ演奏について著作権法38条1項は適用されない。
(2) 平成17年5月31日の「P1ライブ」について
・・・上記ライブは,間接的にではあれ本件店舗の宣伝を兼ねて開催されたものであって,営利を目的としないものということはできない。よって,その他の要件について検討するまでもなく,著作権38条1項の適用はなく,被告の上記主張は採用できない。
(3) 平成18年6月17日について
前記3(4)において認定したとおり,当日開催されたライブは客からライブチャージを徴収して行われたものと認められ,聴衆から料金を受けない場合に当たらないし,営利を目的としないものであるとはいえないから,著作権法38条1項の適用はなく,被告の主張は採用できない。』