知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

判決の拘束力の意義-安定した法的地位を速やかに確立させることによって得られる公共の利益

2007-02-11 18:56:53 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10716
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『4 結論
 本件は,本件発明1,2について,進歩性を肯定する旨の判断をした前審決に対して,進歩性を否定すべきである旨判示して,取り消した前判決(確定判決)を受けて,同判決の認定判断に沿って認定判断した本件審決に対する取消訴訟である。前記のとおり,原告が本件審決を違法とする主張の中核は,取消事由1,2に係る主張であるが(取消事由3は,付加的,補足的な主張にすぎない。),そのいずれもが,前判決の拘束力に従ってした本件審決の認定判断を,ただ単に違法であるとして,繰り返し批難するものにすぎず,前判決の拘束力に抵触して許されない主張である。したがって,原告の請求はいずれも理由がないことになり,原告の請求は棄却されるべきことになる。
 しかし,さらに進んで,本件訴えの特異性も含めて検討することとする。
 原告訴訟代理人は,本件訴訟において,「本件審決は,前判決の文言をそのままなぞって理由を構成している。」,「本件審決に違法が生じた原因は,前判決に違法が存在していたことによる。」,「本件審決の違法を指摘することは,前判決の違法を指摘することに直結するので,理解を容易にするため前判決の違法性の要点を説明する。」との趣旨を準備書面に記載し(平成17年11月19日原告準備書面,ただし不陳述),取消判決の拘束力の意義を無視した,独自の見解を前提として,その後の主張を繰り返している。本件訴えは,専ら確定判決の拘束力に抵触する失当な主張から構成されているが,裁判所がこのような訴えを適法な訴えとして許容することになれば,特許が無効として確定する時点を徒に遅らせる結果を招き,安定した法的地位を速やかに確立させることによって得られる公共の利益を害することになる
 このような本件訴えの特異性等に鑑みれば,本件訴えは,確定した前判決による紛争の解決を専ら遅延させる目的で提起された訴えであるというべきであって,その訴えの提起そのものが,濫用として許されないものと訴訟上評価するのが相当である。
 以上検討したとおり,本件訴えは不適法として却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。』