知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

足裏電極事件(控訴審)

2008-06-08 18:58:31 | 特許法100条
事件番号 平成20(ネ)10087
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年06月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

原審はここ


(当事者は、構成要件を充足するかに加えて、次のように補正制限違反についても争っていた。原審は両者に対して判示していた。)
2 控訴人の主張の要点
・ 補正制限違反について
 原判決は,本件発明(請求項14の特許発明)につき,補正制限違反により特許無効であるとする。しかし,原判決の上記認定判断は,本件発明を正しく理解しないところからくる誤ったものである。
・・・
・ 願書に添付した特許請求の範囲
 願書に添付した特許請求の範囲は,原判決が認定するとおり,請求項1ないし請求項7から成るが,請求項1は,従来公知の足裏用電極を有する脂肪計付体重計に本件出願発明の特徴的部分を成す「第2の電極」(靴,靴下の無い足上部に接触する電極)を付加・配設することによって,従来装置同様に「足裏用電極」によってインピーダンス測定を行ったり,あるいは「第2の電極」によってインピーダンス測定を行うことができるような「体内脂肪重量計」として,以下のとおりの構成を採用したものである。
 ・・・
 そして,請求項2は,第2の電極を設けるアタッチメントとして「足用アタッチメント」を,請求項3及び請求項7は,それぞれ第2の電極をインピーダンス測定装置に電気的に接続する方法として,上記○ア及び○イの二つの電気的接続方法をクレームしているのである。

 上記○アの電気的接続方法をクレームする請求項3の記載によれば「・・・」とあるように,足部に接触する第2の電極からの電気的信号は,「裏面電極」及びこれと接触できる「足裏用電極」を介してインピーダンス測定装置に送られる。
 この場合,被測定者の足部に接触して生体インピーダンスの電気的信号を得るのは「第2の電極」であり,この電気的信号をインピーダンス測定装置まで送る役割を担う「裏面電極」及び「足裏用電極」は上記電気的信号の単なる通り道となるのであるから,いわば,「裏面電極」及び「足裏用電極」は「第2の電極」と「インピーダンス測定装置」を結ぶ電気的回路の途中にある「電気的接点」又は「導線」の役割しか果たしていない


 また,上記○イの電気的接続方法をクレームしている請求項7の記載によれば,「足裏用電極と第2の電極とは切換装置で選択可能に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の体内脂肪重量計」とあるように,切換装置によって「第2の電極」を選択した場合,従来装置である「足裏用電極」によるインピーダンス測定は行わず,「第2の電極」によってインピーダンス測定を行う外,「第2の電極」で測定された電気的信号は請求項3とは異なり,「足裏用電極」を介することなく,直接インピーダンス測定装置に送られることになる
 換言すれば,この場合,「足裏用電極」は何の役割も機能も有さない存在ということになり,いわば,輸入自認物件が行っているように,「足裏用電極」は載置台上に設けられてはいるが,その上を蓋等で覆い「足裏用電極」の存在を隠し,かつ,使用を凍結しているに等しい状態となっているのである。

 上記のとおり,本件出願発明の特徴的部分は,「靴,靴下を着用したままで」生体インピーダンスを測定するための「第2の電極」にあるのであるから,正に,「足裏用電極」の使用も存在も必要としない体内脂肪重量計の構成こそが本件出願発明を具現するものといえる。』

(ところが、控訴審では補正制限違反については言及されなかった。大合議判決の基準を当てはめる格好の事例であると思うのに残念だ。)
『第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。

2 争点3(構成要件Bの充足)について
 当裁判所も,輸入自認物件が本件発明の構成要件Bを充足するものではないと判断する。その理由は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3「当裁判所の判断」の2のとおりであるから,これを引用する
・・・

ア 控訴人は,原判決が,
①本件発明の構成要件Bの「足用アタッチメント」は「付属品」であり,体重測定装置に取付け,取外し可能であるものを意味すると解すべきであり,
②輸入自認物件は,足首用電極支柱4が体重測定装置1の上面1 a に固定されているから構成要件Bを充足しないとしたことにつき,余りにも形式的「用語」(部材の名称)にとらわれた誤ったものであると主張する

 そして,控訴人は,本件発明における構成要件において重要なのは,靴,靴下を着用したままで生体インピーダンスを測定する非拘束性の「足用電極」(靴下の無い足上部に接触する電極)の有無であって,この電極が体重測定装置への着脱自在な「足用アタッチメント」に設けられているか,あるいは体重測定装置の上面に固定された部材上に設けられているかは,大した問題ではないなどと主張する

イ しかしながら, 「アタッチメント」とは,「器具・機械の付属品」を意味する(広辞苑第4版)ところ,本件明細書には,「足用アタッチメント」をこれと異なる意味で使用する旨の明示又は黙示の定義はされておらず,構成要件Bの「足用アタッチメント」とは,体重測定装置の使用時に,使用者が自由に着脱して使用するような「付属品」をいうものであって,これを取り付けると体重測定装置の固定的な一部材を構成することになるということはできない
・・・
5 結論
 以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,本件製品1ないし8が本件特許権を侵害していると認めることはできず,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,原判決は相当であって,本件控訴は理由がない