知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標権の行使を権利の乱用であるとした事例

2010-04-29 19:40:39 | 商標法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

イ上記認定事実によれば,コンセプト商標1,2は,先願に係る上記②,③の商標(②登録第3174405号,③登録第3219965号)と同一であるが,上記②,③の商標に係る商標権は,もともとファモティクないしアシュラジャパン(ファモティクの100%子会社)が,我が国における原告アシュラの代理店として,Vellum に関する事業を遂行するために取得したものであると認められる。

 原告アシュラとファモティクとの間で締結された販売代理店契約(甲1)によれば,Vellum に関するすべての権利(特許権,著作権,商標権を含む。)は原告アシュラの独占的財産権であると定められており(6条(a)),同規定の趣旨からすれば,ファモティクは,破産によりVellum 事業の継続をすることができなくなった以上,アシュラ商標権(上記①)とともに,上記②,③の商標権を原告アシュラに移転する義務を負っていたものというべきである。
 そして,ファモティクの代表取締役であったBは,ファモティクの破産後,原告コンセプトの取締役に就任しているのであるから(乙18,乙24の4),原告コンセプトは,上記経緯を当然認識していたことが認められる。すなわち,Bはファモティクの代表者として上記②,③の商標権の原告アシュラへの移転を履行すべきであったのにあえてこれを履行せず,他方,Bが取締役を務める原告コンセプトは,上記移転が履行されていないことに乗じて,これらの商標について不使用取消審判請求をし,その取消審決(・・・)を得た上,コンセプト商標権1,2の取得に及んだものであり,原告コンセプトのコンセプト商標権1,2取得に至る経緯は,原告アシュラとの関係において著しく信義に反するものと認められる

 したがって,原告コンセプトが,上記のような経緯で取得したコンセプト商標権1,2に基づき,原告アシュラの代理店である被告コムネットに対して,別紙標章目録記載1,2の標章の使用の差止めや,その使用(不法行為)による損害賠償を求めることは,著しく信義に反するものであり,権利の濫用として許されないというべきである。

プログラム著作権を侵害する製品の差止めを認めた事例

2010-04-29 18:49:19 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(5) 差止めの必要性,許容性
 前示のとおり,別紙「被告コムネット商品目録」記載1~3,5,6のソフトウェアは,Additions を含むものであり,原告コンセプトがAdditions について有するプログラム著作権を侵害するものであるから,Additions のプログラム著作権を有する原告コンセプトは,被告コムネットに対し,著作権法112条の規定に基づき,その侵害行為の差止めを求めることができる。

 この点,被告コムネットは,別紙「被告コムネット商品目録」記載1,2のソフトウェアに含まれるAdditions の部分はわずかであり,しかも,実際にAdditions の機能を利用することはできないとして,同目録記載1,2のソフトウェア全体の差止めを認めることは被告コムネットに過大な不利益を与えるものであると主張するが,仮に被告コムネットが侵害するAdditionsの部分がわずかであり,また,実際にAdditions の機能を利用することができないとしても,ソースコードの具体的記述を同一にする部分が現に存在する以上,複製権,翻案権を侵害するものということを妨げないし,また,本件において,Vellum3.0 コードからAdditions の部分が可分であることについて適切な立証がされていないから,Additions の侵害部分がわずかであったとしても,これを利用するソフトウェア全体の使用を差し止めざるを得ないというべきである。
また,被告コムネットは,Vellum2.7 コードの二次的著作物であるVellum3.0 コードに係るプログラム著作権に基づき,原著作権者(原告アシュラ)から適法に許諾を受けている被告コムネットに対して権利行使をするのは権利の濫用であるとも主張するが,二次的著作物であっても,原著作物とは独立した著作権の保護を受けるものであるから,被告コムネットの上記主張は失当である。

著作権法61条2項の推定が覆った事例

2010-04-29 18:19:23 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

4 争点(4)(Vellum2.7 コード,Extensions コードのプログラム著作権の帰属)について
(1) 前示のとおり,Vellum3.0 コードは,本件修正契約に基づき,ファモティクがVellum2.7 コードに依拠して開発したものであるから,本件修正契約(甲2,18)及びソースコードライセンス契約(乙5の1,2)の規定により, 基本Vellum2.7 コード及びExtensions コードのプログラム著作権は,原告アシュラにおいて取得することになる。

 この点,原告コンセプトは,著作権法61条2項により,Extensions コードのプログラム著作権のうち,同法27条(翻訳権,翻案権等),28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に規定する権利はファモティクに留保され, 原告アシュラに譲渡されないと主張する

 しかし,Extensions コードに係るプログラム著作権の譲渡を定めたソースコードライセンス契約は,その準拠法をカリフォルニア州法及び米国法と定めているから,我が国の著作権法61条2項の規定が適用されることはなく,また,カリフォルニア州法及び米国法に我が国の著作権法61条2項に相当する規定が存在するとは認められない。
 さらに,本件において,仮に我が国の著作権法の規定が適用されるとしても,上記ソースコードライセンス契約(乙5の1,2)2.6条には「原告アシュラは,・・ライセンシーに提供されるソースコードその他の品目(items)について,そのすべての特許,著作権,営業秘密及びその他あらゆる知的財産権を単独で有し,今後も依然としてそうあり続ける。」,「ライセンシー(判決注・ファモティク)は,原告アシュラに対し,Vellum Extensions に関するすべての権利,権限及び権益を譲渡する。」,「この契約期間中,ライセンシーは,特許,著作権,営業秘密の譲渡又は申請など,Vellum Extensions に関するあらゆる文書に署名して原告アシュラに交付する。」旨の規定があるところ,これらの条項は,原告アシュラにおいて,Extensions コードに係る翻案権等を含めた著作権を全面的に保有することを当然の前提とする趣旨と解されるから,著作権法61条2項の推定は覆され,Extensions コードに係る著作権法27条,28条所定の権利についても,ファモティクに留保されることなく,原告アシュラに譲渡されたものと認めるのが相当である。

国際裁判管轄の有無と時機に後れた防御方法

2010-04-29 17:25:51 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(国際裁判管轄の有無)について
 原告(*ブログ作者注 第1事件原告・第2事件被告)コンセプトは,第2事件について,ソースコードライセンス契約(乙5の1,2)5.4条の定めを根拠として,我が国に国際裁判管轄が認められないと主張し,訴えの却下を求めている。原告(*同 第2事件原告)アシュラは,この主張に対し,時機に後れた防御方法であり,民事訴訟法157条1項により却下されるべきである旨の申立てをするが,国際裁判管轄の有無は裁判所が職権で調査すべき事項であるから,その主張が時機に後れたことを理由として,これを却下することはできない

 そこで,第2事件について我が国の国際裁判管轄を検討する。第2事件は,前記第2の1(2)のとおり,原告アシュラが,原告コンセプトに対し,プログラム著作権及び商標権に基づき,原告コンセプトが販売する製品,マニュアルの販売等の差止め,廃棄等を求めるとともに,不法行為(著作権侵害,商標権侵害)による損害賠償又は不当利得返還を求める事案である。

 原告アシュラとファモティクとの間に締結されたソースコードライセンス契約(乙5の1,2)5.4条には「この契約に基づくいかなる訴訟も,カリフォルニア州の連邦又は州裁判所に起こされるものとし,ライセンシーは,この契約により対人裁判管轄権に服する。」旨の規定があるが,同契約の当事者は原告アシュラとファモティクであるから,上記規定は,原告アシュラがファモティクに対し,又はファモティクが原告アシュラに対し,同契約上の紛争に基づく訴訟を提起する場合の裁判管轄について合意したものであって,契約当事者以外の第三者との間に係属すべき訴訟の管轄について定めたものであるとは解されない
 そして,同契約5.8条によれば,ファモティクは,原告アシュラの書面による事前同意なしに同契約上の地位を譲渡することができないものとされているから,原告コンセプトが同契約上のライセンシーとしての地位をファモティクから適法に譲り受けたものということはできず,原告コンセプトとファモティクを同視することはできない以上,上記5.4条の規定を理由として,第2事件について我が国の国際裁判管轄が否定されるということはできない

 ところで,国際裁判管轄については,これを直接規定する法規もなく,また,よるべき条約も,一般に承認された明確な国際法上の原則も,いまだ確立していないのが現状であるから,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理に従って決定するのが相当である(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁参照)。そして,我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。
 これを第2事件についてみると,同事件は,外国法人である原告アシュラが進んで我が国の裁判権に服するとして我が国の裁判所に提起した訴訟であるところ,他方,被告である原告コンセプトは東京都千代田区を本店の所在地とする日本法人であるから,我が国に普通裁判籍(民事訴訟法4条4項)があるが,我が国の国際裁判管轄を否定すべき上記特段の事情があるとは認められない

 したがって,第2事件に係る訴えについては,我が国に国際裁判管轄を認めるのが相当であり,原告コンセプトの上記本案前の主張は理由がない。

阻害事由を認めた事例

2010-04-16 06:25:47 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10215
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一


 そうすると,引用発明の圧電駆動体20と甲6発明の熱応動素子33とは,伸縮する原理も果たす役割も異なる上,前者は流体とは隔離された状態に配置される必要があるのに対し,後者は流体と接触することに意味があるから,両者は相反する要求のある部材であるといえる。

 したがって,引用発明の圧電駆動体20に関する構成に,甲6発明の熱応動素子33に関する構成を適用することには阻害事由があるといえ,当業者がこれを容易に想到し得るものとはいえない。

特許法36条4項の要件を満たさないとした事例

2010-04-15 07:01:28 | 特許法36条4項
事件番号 平成21(行ケ)10158
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 判断
ア 本願発明に係る「補助エステル」の特定
 本願明細書には,本願発明による課題解決をするに当たり,当業者において,本願発明で規定したLogP値の範囲内の化合物群の中から,どのような補助エステルを選定すべきかについて,明確かつ十分な記載がされていないと解される。その理由は,以下のとおりである。

 すなわち,エステル化合物については,原告が書証として提出する皮膚外用剤に関する文献について見ただけでも,例えば,・・・が示されているように,多種多様なものを含む
 ・・・

 ところで,発明の詳細な説明の【0020】では,「栄養素をヒトに送達する」という解決課題を達成するためには,補助エステルは,①プロ栄養素の角質層からのフラックス(透過性)が類似するという性質と,②生物変換に関してプロ栄養素と効果的に競合するという性質の両者が必要であると記載されている。
 このうち,②の生物変換に関して微量栄養素(プロ栄養素)と効果的に競合するという性質は,請求項1,11で規定されたLogP値の範囲の補助エステルのすべてが当然に備えているものではなく,当業者が,試行錯誤を繰り返して,生物変換に関して微量栄養素と効果的に競合する補助エステルを選別しない限り,本願発明の目的を達成することができず,本願明細書には,その選別を容易にするための記載はない

 この点について,原告は,補助エステルが,LogP値の範囲内であれば,すべて,前記②の性質を有するように主張するが,同主張は根拠を欠くものであって,採用できない。

阻害要因の存在と示唆の有無の判断事例

2010-04-15 06:46:29 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10144
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 容易想到性判断の誤り〔阻害要因の存在〕(取消事由2)について
・・・
・・・の記載に照らすならば,引用例1発明は,・・・,心血管系に作用して,ストレスを予防,軽減する発明であり,自律神経系に作用して血圧又は心拍数の上昇を抑制することによりストレスの予防・軽減を図るものである。

 これに対し,前記1(2)によれば,引用例2発明は,脳のα波を増強してリラックス状態を発生させる発明であり,同発明は,中枢神経系である脳に作用して脳のα波を増強させ,リラックス状態を発生させるものであると解される点で,両者に相違がある。

 ところで,前記(1)の記載によれば,自律神経系の作用と中枢神経系の作用は区別して認識されるのが技術常識であり,証拠を総合するも,自律神経系に作用する食品等が,当然に中枢神経系にも作用 するという技術的知見があることを認めることはできない。

 そうすると,自律神経系に作用する引用例1発明は中枢神経系に作用する引用例2発明とは技術分野を異にする発明であることから,当業者は,引用例1発明に引用例2発明を適用することは考えないというべきであって,両発明を組み合わせることには阻害要因があるというべきである。
 ・・・

4 容易想到性判断の誤り〔示唆の有無〕(取消事由2)について
・・・
イ次に,引用例1の記載からα波を利用することについての示唆を得ることができるかについて,検討する。
 被告は,本願当時の技術常識からみれば,引用例1の記載からα波の利用についての示唆を得ることができると主張する。

 確かに,前記(1)イ,ウには,α波について述べた部分があるが,同部分が体内への食品や薬剤の投与によりストレス状態を解消・軽減してリラックス状態に至ることを示しているものということはできないから,α波に関する記載があったからといって,引用例1の記載から,α波を利用することについての示唆があると判断することはできない

引用例独自の用語の意義を認定した事例

2010-04-15 06:23:30 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10144
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


2 引用例2発明の認定の誤り(取消事由1)について
(1) 前記1(2)の記載によれば,引用例2記載発明は,音響装置や映像装置などの特別の機器を必要とせず,また睡眠薬や鎮静剤のような副作用や習慣性のない,日常的に摂取可能で,嗜好性にも優れた,α波を効果的に増強してリラックス状態をもたらすことのできるα波増強剤及びα波増強用食品を提供することを課題とするものである。

 引用例2には,「ストレス」という語が数多く用いられている。すなわち・・・との記載がある。これらの記載からは,ストレスの解消・低減がリラックスと同義に用いられており,α波が増強してリラックスした状態を指すものとして用いられていると合理的に理解される。また,実施例1の実験(脳波の記録)の内容をみても,実験開始時あるいはそれより前に,被験者にストレッサーが負荷されているのと記載はない。
・・・

 そうすると,引用例2発明は,マラクジャ果汁を含有する増強剤等により,脳のα波を増強させ,人の精神状態をリラックスさせる発明であり,そこにストレスの解消,低減という語が用いられているとしても,それは,単に,リラックスした状態を表すために用いられているにすぎないのであって,引用例2がストレスの解消,低減に係る技術を開示していると認定することはできない。
・・・

(2) 以上のとおり,引用例2発明に関する審決の認定は誤りである。
審決は,引用例1発明及び引用例2発明の「ストレス」の意義についての誤った理解を前提として,両者の解決課題が共通であり,引用例1発明には引用例2発明を適用する示唆があると判断した点において,審決の上記認定の誤りは,結論に影響を及ぼす誤りであるというべきである。

動機付けがないとした事例

2010-04-14 07:33:44 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10142
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


そうすると,甲3公報及び甲2公報のいずれにおいても,本件訂正発明2における上記課題について開示・示唆するところがないから,そのレベル計の部分のみを取り出して両者を組み合わせる必然性はないといわざるを得ず,甲3発明のレベル計を,受部から更に上部に位置する混合ホッパーへと変更することについて動機付けがあるということはできない。

オ(ア) これに対し原告は,甲3発明と甲2装置発明の技術分野の同一性,技術内容の密接性,甲3発明と甲2装置発明が後者は前者を従来技術とするものであり,両者の目的も機能も同じであるから,甲3発明のレベル計の位置を甲2装置発明のレベル計の位置に置換することに困難性がないと主張する。

 しかし,たとえ技術分野や技術内容に同一性や密接な関連性や目的・機能の類似性があったとしても,そこで組み合せることが可能な技術は無数にあり得るのであって,それらの組合せのすべてが容易想到といえるものでないことはいうまでもない。その意味で,上記のような一定の関連性等がある技術の組合せが当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において容易想到というためには,これらを結び付ける事情,例えば共通の課題の存在やこれに基づく動機付けが必要なのであって,本件においてこれが存しないことは前記エのとおりである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また原告は,甲3発明と甲2装置発明では材料を貯留する箇所が一時貯留ホッパー内に限られる必要はなく,かえって,貯留量という観点や装置のコンパクト化の観点からは,当業者が,甲2装置発明のレベル計の位置を参考に,甲3発明のレベル計の位置につき混合ホッパー内への変更を試みる動機付けがあるとか,レベル計の位置を一時貯留ホッパー内に設けるか流動ホッパー内に設けるかは設計的事項にすぎないと主張する。

 しかし,甲3発明におけるレベル計は,・・・,受部の存在を必須とする技術思想を有するものであるのに対し,甲2装置発明は,材料混合タンクに混合済み材料の貯留タンクとしての機能をも保持させるものであって,これ以外の貯留タンクの構成を必須とするものではない(段落【0063】参照)。このように,両者はその技術思想を明らかに異にするから,単に貯留量の増加や装置のコンパクト化という観点のみをもって,甲3発明において,レベル計の位置を受部以外の混合ホッパー内に変更を試みる動機付けがあるということはできないし,レベル計の位置を混合ホッパー内へと変更することが単なる設計的事項ということもできないのであって,混合済み材料の貯留場所に係る両者の構成は容易に置換可能ということはできない

動機付けを認めた事例

2010-04-14 07:06:09 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10142
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(4) 原告は,レベル計の位置に関する上記相違点4-2について,甲4発明に甲2公報に開示されたレベル計を組み合せることの容易想到性を否定した審決の判断に誤りがあると主張するので,この点について判断する。

本件特許発明4においてレベル計を設置する技術的意義をみると,特許請求の範囲の記載(請求項4)には「…○○○…」と特定されており,本件訂正発明2ないし3と同様,未混合材料が一時貯留ホッパーに落下することを防止することを目的とするものと一応は解することができる。
しかし,供給管については,「…△△△…」と特定するのみで,これが縦向きに連通する場合に限定されているものではなく,かえって,段落【0051】(甲1)の記載によれば,縦向き管の下方の開口部が塞がっている形状,すなわちエルボ管(L形管)からなるものも開示されている。
そして,供給管がエルボ管から構成される場合には,未混合材料が一時貯留ホッパーに落下することは想定できないから,その場合のレベル計の位置には,もはや未混合材料が一時貯留ホッパーに落下することを防止するとの技術的意義を見出すことはできず,単に混合済み材料の充填レベルを検出するという意味を有するにすぎないこととなり,その位置について「前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上方位置」とする特定にも格別の技術的意義はないというべきである。

他方,甲4公報の前記(1)の記載によれば,・・・,同検知器の位置が有する技術的意義も,混合済み材料の充填レベルを検出するためのものということができる。したがって,甲4発明においてレベル検知器を設ける位置は甲4発明が解決すべき課題とは無関係であり,当業者において適宜設定すべき事項ということができる

そして,混合済み材料の充填レベルを計るという観点からすれば,レベルの検知器は混合済み材料を貯留する場所,すなわち甲4発明においては案内ホッパー25に設置するのが通常であるし,しかも,案内ホッパーは混合済み材料を一時的に必要な量貯留するために設けられているものであって,案内ホッパー内の貯留量が十分な量に達していないにもかかわらずエアー吸引手段の運転を停止する必要性は見出し難いことからすれば,案内ホッパー内におけるレベル検知器を同ホッパーの下部に設けることは考え難く,むしろ同ホッパー上部付近に設ける動機付けがあるということができる。

そうすると,甲4発明において,充填レベルを検出するためのレベル検知器の設置位置を,供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置又は該延長線より上方位置に変更することは容易というべきである。

商標法4条1項16号の判断事例

2010-04-13 07:18:29 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

4 商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無(取消事由3)について
(1) 前記3(1)ア認定のとおり,エチオピア国において産地によってコーヒーの風味が異なることからすると,産地に由来する本件商標をエチオピアのシダモ地方産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあるというべきである
 そして,審決書記載のとおり,特許庁における平成20年10月28日の第1回口頭審理の結果によれば,指定商品中の「コーヒー」は「焙煎後のコーヒー豆及びそれを更に加工した粉状,顆粒状又は液状にした商品(コーヒー製品)」のことであり,「コーヒー豆」は「焙煎前のコーヒー豆」のことである。

 したがって,本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号が規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとの審決の判断に誤りがあるということはできない。また,このように解することが,前記3(2)エ(ア)bのTRIPs協定の規定にも適合するというべきである。

 なお,前記3(2)イ認定のとおり,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方産」ではなく,単に「エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒー」を指すものと認識することがあり得るが,そうであるとしても,本件商標を「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方産以外のコーヒー,コーヒー豆」に使用した場合には,やはり品質誤認を生じるというべきであって,上記判断が左右されることはない

(2) 原告の主張に対する補足的判断
 原告は,本件商標は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」という商標法3条2項(特別顕著性)の要件を満たしているとも主張するが,商標法3条2項は,商標法3条1項3号~5号に該当するとしても商標登録を受けることができる要件であって,品質誤認について定めた商標法4条1項16号に適用されるものではない
 ・・・

(3) さらにいうならば,商標法46条1項ただし書は,商標登録の無効審判請求について,「商標登録に係る指定商品又は指定役務が2以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」と規定していることからすると,商標登録の無効審判請求は,指定商品又は指定役務ごとにすることができるところ,ここでいう「指定商品又は指定役務」は,出願人が願書で記載した「指定商品又は指定役務」に限られることなく,実質的に解すべきである。
 本件においては,既に述べたとおり,「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」とそれ以外の「コーヒー豆,コーヒー」では,商標法4条1項16号該当性において違いがあり,「指定商品」としても異なると解することができる。したがって,「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に係る部分には無効事由はないが,それ以外の部分には無効事由があるとの判断をすることができるというべきである

5 小括
以上によれば,
・・・
③ 本件商標は,指定商品「エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆,エチオピア国SIDAMO(シダモ)地方で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」の限度では商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)に該当しないが,上記「SIDAMO(シダモ)地方」以外の地域については同号に該当する。
ということになる。

以下の判決も同趣旨
平成21(行ケ)10229
平成21(行ケ)10228
平成21(行ケ)10227

商標法3条1項3号の判断事例

2010-04-13 06:45:38 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2)ア ところで,商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁参照)。

イ そして,前記(1)認定の事実によれば,
① 我が国においては,「SIDAMO」又は「シダモ」は,これが「コーヒー,コーヒー豆」に用いられる場合,コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類を指すものとして用いられることが多いこと,
② 我が国において,「シダモ」が,エチオピアにおけるコーヒー豆の産地として用いられる場合があるが,その場合でも,上記銘柄又は種類としての「SIDAMO」又は「シダモ」の産地として用いられていることが多いこと,
③ 上記銘柄又は種類としての「SIDAMO」又は「シダモ」は,エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることが認められる(・・・)。

一方,証拠・・・によれば,エチオピアの「シダモ」(「SIDAMO」)という地名は,・・・,一般に我が国においては,エチオピアの「シダモ」(「SIDAMO」)という地名の認知度は低いものと認められる。

 そして,この事実と上記①~③の事実を総合すると,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,コーヒー豆の産地そのものというよりは,コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類,すなわち,エチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーを指すものと認識すると認められる。そうすると,本件商標は,自他識別力を有するものであるということができる。

 また,前記(1)認定の事実によれば,上記銘柄又は種類としての「SIDAMO」又は「シダモ」は,いろいろな業者によって使用されているのであるが,それがエチオピア産(又はエチオピアのシダモ地方産)の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り,原告による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられていることになるから,商標権者が原告である限り,その独占使用を認めるのを公益上適当としないということもできない

ウ したがって,本件商標登録が商標法3条1項3号が規定する「商品の産地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するということはできないから,取消事由1は理由がある。

以下の判決も同趣旨
平成21(行ケ)10229
平成21(行ケ)10228
平成21(行ケ)10227

商標登録無効審判請求の請求人適格

2010-04-12 21:29:10 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


2 被告に無効審判請求人適格が有るか(取消事由4)について
(1) 原告は,その取消事由4において被告には本件商標登録無効審判請求を請求する資格(請求人適格)がないと主張し,被告はこれを争うので,事案に鑑み,まずこの点について判断する。

 商標登録無効審判請求については,商標法46条が定めているが,その請求人たる資格については明示するところがない。
 しかし,商標登録の取消審判請求をすることができる者に関し同法50条1項が「何人も」と定めていること,商標登録無効審判請求に類似した制度である特許無効審判請求の請求人に関し特許法123条2項も「何人も」と定めていること,商標に関する審判手続を定めた商標法56条は特許法148条(参加)を準用しているところ,同審判手続に補助参加人として参加することができる者は「審判の結果について利害関係を有する者」に限られると定めていること,無効審判請求と類似した制度である民訴法の一般原則として,「利益なければ訴権なし」と考えられること等を考慮すると,商標法46条に基づき商標登録無効審判請求をする資格を有するのは,同条の解釈としても,審判の結果について法律上の利害関係を有する者に限られると解するのが相当である。

以下の判決も同趣旨
平成21(行ケ)10229
平成21(行ケ)10228
平成21(行ケ)10227

商標法4条1項11号に係る商標の類否の判断事例

2010-04-08 06:34:39 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10306
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官滝澤孝臣

1 取消事由(本件商標と引用商標との類否判断の誤り)について
 本件商標は,平仮名で記載された「いなば」と漢字で記載された「和幸」とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件決定が,本件商標からその構成部分の一部である「和幸」の文字部分を抽出し,当該抽出部分だけを引用商標と比較して,両商標の類否を判断したものであることは,別紙異議の決定書(写し)の理由から明らかである。
 しかしながら,商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)から,以下,その見地から本件決定がした本件商標と引用商標との類否判断が許されるものであるか否かについて検討する。
・・・
上記イの記事によっても,「とんかつ和幸」の名称又は「和幸」の文字を含む名称の豚カツ料理店が本件3社ないし複数の別会社により経営されるものであるとの事実が,本件役務に係る取引者及び需要者に広く知られているとまで認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。
・・・

(2) 本件商標から「和幸」の文字部分を抽出して観察することの当否
ア 本件商標は,「いなば和幸」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「和幸」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない
イ また,本件商標の「和幸」の文字部分の出所識別機能についてみると,・・・,引用商標との関係でみると,本件商標の「和幸」の文字部分が,本件役務に係る取引者及び需要者に対し,引用商標の商標権者である補助参加人が当該役務の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,その他,そのようにいうことができるに足りる証拠はない。

ウ さらに,本件商標の「いなば」の文字部分についてみると,・・・,本件商標が本件役務について使用された場合に,当該文字部分に自他役務を識別する機能が全くなく,当該文字部分から出所識別標識としての称呼及び観念が全く生じないとまでいうのは相当でないというべきである。
・・・

(3) 本件商標と引用商標との類否
 前記(2)において説示したところによると,本件商標と引用商標との類否判断に当たっては,本件商標の構成部分全体を引用商標と比較すべきであるところ,本件商標と引用商標とは,外観上,「和幸」の文字において共通性を見いだし得るにすぎないし,また,引用商標の「とんかつ」の文字部分が同商標の指定役務(本件役務)の対象そのものを表す語から成るものであることから,同商標からは「和幸」の文字部分に対応した「ワコウ」の称呼及び「豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念が生じるとしても,本件商標からは,「イナバワコウ」の称呼及び「いなば(稲葉)に係る豚カツ料理店の名称としての和幸」の観念しか生じないのであるから,結局,両商標は,外観,称呼及び観念のいずれの点においても異なるものであるといわざるを得ず,これらが類似するということはできない。

実施可能要件の判断事例

2010-04-06 06:52:52 | 特許法36条4項
事件番号 平成21(行ケ)10042
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 そうすると,上記式36は,前提の異なる装置における具体的数値をそのまま利用する点において妥当ではなく,実験的にみても本願発明の原理が説明されているということはできない

c 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,外部から入力される熱をすべて又はこれに準じる程度の高効率で仕事に変換する原理に関し,理論的にも実験的にも,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。

(ウ)a 以上に対し原告は,本願発明は,・・・等に技術的特徴があり,これらの点において文献的な利用価値が高く,高度な技術的思想であるから,これにより改良発明の創作が促進され,技術の累積的進歩による産業の発展を図ることが可能となるにもかかわらず,審決が,相対的に利用価値が低い本願発明の実施上の利用に関する記載にのみ36条4項を適用して特許性を否定したことは,「…技術的思想のうち高度のもの」(特許法2条)である発明の「…保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与する」(同1条)ことを目的とする特許法1条,2条に違反する旨主張する。

 しかし,特許法等の定める日本の特許制度は,発明をした者にその実施につき独占的権利を付与する代わりにその内容を社会に公開するというものであるから,その制度の趣旨に照らして考えると,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解されるところ(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照),前記のとおり,本願発明は技術常識に照らして実現不可能とされる事項を内容とするにもかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明は,理論的・実験的に,当業者がこれを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえないのであるから,当業者が本願発明を理論的又は実験的基礎として新たな発明をすることもまた,不可能というべきである。