知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

冒認出願を理由として請求された無効審判における主張立証責任

2017-01-31 22:20:52 | Weblog
平成27(行ケ)10230  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟
平成29年1月25日  知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦, 裁判官 大西勝滋, 杉浦正樹


本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担するものと解するのが相当である。

もっとも,そのような解釈を採ることが,すべての事案において,特許権者が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならないことを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認させる上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特許権者の行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって左右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求人が冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付けとなる証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的に指摘し,その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないものと考えられる。