知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の用語の解釈事例

2009-07-26 19:35:55 | 特許法70条
事件番号 平成19(ワ)27187
事件名 特許権侵害差止等
裁判年月日 平成21年07月15日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

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(エ) 以上のとおり,本件発明1ないし3においては,「テレビジョン番組リスト」は,「個々の番組単位の番組情報」あるいは「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
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(ウ) 以上のとおり,本件発明4及び5においては,「テレビジョン番組リスト」は,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。

エ 以上のとおり,本件明細書の各記載及び図面によると,本件明細書における「番組リスト」(・・・。),「TVリスト」,「リスト」の文言は,個々の番組の番組情報を含み,画面上は行の中に表示され,あるいは,マイクロプロセッサにより処理されたりメモリに記憶されるものとして使用されているから,これらの文言は,「個々の番組単位の番組情報」を意味していると解するのが相当である。そして,上記のような本件明細書の記載及び図面を考慮すると,本件特許の「特許請求の範囲」に記載された「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈については,これを「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」と解することが,本件明細書の記載等とも整合しているというべきである。
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カ 被告は,本件明細書の段落【0011】及び【0031】の「番組リスト」,段落【0022】の「TVリスト」,段落【0065】,【0019】,【0024】の「リスト」という各文言の意味を考慮すると,いずれも「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」と解されるから,本件発明の「特許請求の範囲」の「テレビジョン番組リスト」の文言についても,同様に解されると主張する。
 ・・・

 しかしながら,本件明細書の「番組リスト」,「TVリスト」,「リスト」の各文言が,上記各段落においては「番組表」を意味すると解され得るとしても,上記ウのとおり,本件明細書の他の段落においては「番組情報」を意味すると解されることや,「特許請求の範囲」に記載された「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈との関係において,同文言を「番組表」と解釈すると,複数の「テレビジョン番組リスト」のそれぞれが個々の番組を特定するための番組情報を含むものとされていたり(本件発明1,2,4,5),「テレビジョン番組リスト」が,個別に選択され,目立たさせられる対象となるものとして規定されていること(本件発明2ないし5)等と整合性のある解釈をすることはできないから,本件明細書に被告の主張するような記載があるとしても,「特許請求の範囲」における「テレビジョン番組リスト」の文言を「番組表」と解することはできないと言わざるを得ない。したがって,被告の主張を採用することはできない。

キ 被告は,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取消訴訟手続では,原告が,「テレビジョン番組リスト」の用語を「個々の番組単位における番組情報」の意味では使用しておらず,各手続における特許庁の主張及び裁判所の判決においても,「テレビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組のタイトルのリスト,すなわち,テレビジョン番組のタイトルが並んだものと解されているから,本件発明における「テレビジョン番組リスト」の文言についても,「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」を意味すると解すべきであり,分割出願に係る本件特許権による権利行使の際に,同用語の意義を違えて主張することは,信義則に基づく禁反言法理から許されないと主張する。
 しかしながら,分割出願制度は,一つの出願において二つ以上の異なる発明の特許出願をした出願人に対し,出願を分割する方法により,各発明につき,それぞれ元の出願の時に遡って出願がされたものとみなして特許を受けさせるものであるから,原出願で特許出願された発明と,分割出願で特許出願された発明は,本来,内容を異にするものであり,分割出願された発明の「特許請求の範囲」に記載された文言の解釈が,原出願の手続における文言の解釈と必ずしも一致する必要はないというべきである。したがって,本件特許の「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈において,仮に,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取消訴訟手続において使用された「テレビジョン番組リスト」の文言の意味とは異なる解釈をしたとしても,禁反言法理から許されないとはいえず,被告の上記主張は採用できない。

CAD図面の著作物性の判断事例

2009-07-20 18:01:57 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)13494
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年07月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

1 争点1(本件CAD図面の著作物性)について
(1) はじめに
 著作権法は,「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定めており(2条1項1号),思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作権法によって保護することはできず,これを著作物ということはできない。
 原告は,創作1ないし11eを具備することを根拠として本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であると主張しているので,まず,上記観点に照らして創作1ないし11eが本件CAD図面の著作物性を根拠づけるものといえるかについて総括的に検討し,続いて,個別の本件CAD図面について,その著作物性を判断するために必要な検討を加えることとする。

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(3) 本件CAD図面の著作物性の検討方法
ア 以上に検討したとおり,原告が主張する創作作1,5ないし10,11b,11c,11d,11eは,いずれもアイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎず,それ自体として創作性のある表現であることを基礎づけるものとはなり得ないものである。
 しかし,創作2ないし4及び11aに関しては,その表現内容いかんによっては,創作性を認める余地がある。そこで,以下,個別の本件CAD図面を確認して表現上の創作性の有無を判断することとする。

イ ところで,前記前提事実のとおり,P 1は,被告から交付された本件カタログ及び一部被告製品の現物に依拠して本件CAD図面を作成したものである。そうすると,本件カタログに描かれている被告製品の図面が図形の著作物に当たるか否かはともかく,本件CAD図面のうち上記図面を通常の作図方法に従って再現した部分には創作性を認める余地がなく,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生ずるものと解される。

 したがって,本件CAD図面が本件カタログに描かれている被告製品の図面の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したものにすぎないものであるか,又は何ら創作的な部分を付与したものでなければ,本件CAD図面が著作権による保護の対象とはならない。また,P 1は,一部被告製品にも依拠して本件CAD図面を作成したものである。したがって,本件CAD図面のうち被告製品の現物を通常の作図法に従って再現した部分にも創作性が認められず,これに新たに付与された創作的部分のみについて著作権が生じることは,上記同様である

 この点,原告は,本件CAD図面は,プリント出力される以前にコンピューター内で完成しているコンピューター創作物であり,本件カタログとは表現形式が全く異なるから,本件カタログは本件CAD図面の著作物性の有無を判断する対象とはならないと主張する。
 しかし,本件において創作性を認める余地のある創作2ないし4及び11aは,いずれもCAD図面に係るデータ構成上の創意工夫ではなく作図上の創意工夫であることが明らかであり,P 1は本件カタログの被告製品の図面に依拠して本件CAD図面を作成したのであるから,本件CAD図面と本件カタログの図面を対比するのは当然というべきである。

ウ また,本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要があるから,具体的な表現に当たってP 1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。
 そうすると,本件CAD図面と本件カタログの図面に相違部分があったり,本件CAD図面に本件カタログにはない図が追加されていたとしても,当該相違部分や追加された図が通常の作図法とは異なる方法で表現されているなど,P 1の個性の現れを基礎付ける具体的な事実が立証されない限り,その部分に表現上の創作性を認めることはできないというべき
である。
エ 以下,個別の本件CAD図面について,上記イ,ウの観点に照らして創作2ないし4及び11aに関する原告の主張を検討し,著作物性を判断することとする。

組み合わせを肯定した事例

2009-07-02 19:08:00 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10242
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年06月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

引用発明1と引用発明2とは,貫流ボイラの始動方法という共通の技術分野におけるものであり,また,その主たる目的は異なるものの,その始動時における水管の焼損防止という共通の課題をも含むものであるから,両発明を組み合わせることに困難性はないというべきである。

冒認出願を理由とする特許無効審判における主張立証責任

2009-07-02 18:56:34 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10428
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年06月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 冒認出願に係る事実の主張立証責任ないし主張立証の程度について特許法は,29条1項に「発明をした者は,‥‥‥特許を受けることができる。」と,33条1項に「特許を受ける権利は,移転することができる。」と,34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の承継は,その承継人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」と,それぞれ規定していることから明らかなとおり,特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定している。このような,いわゆる「発明者主義」を採用する特許制度の下においては,特許出願に当たって,出願人は,この要件を満たしていることを,自ら主張立証する責めを負うものである。このことは,36条1項2号において,願書の記載事項として「発明者の氏名及び住所又は居所」が掲げられ,特許法施行規則5条2項において,出願人は,特許庁からの求めに応じて譲渡証書等の承継を証明するための書面を提出しなければならないとされていることによっても,裏付けられる。

 ところで,123条1項は特許無効審判を請求できる場合を列挙しており,同項6号は,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)と規定する。同規定を形式的にみると,「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実につき,無効審判請求人において,主張立証責任を負担すると読む余地がないわけではないが,このような規定振りは,あくまでも同条の立法技術的な理由に由来するものであって,同規定から,29条1項等所定の発明者主義の原則を,変更したものと解することは妥当でない。したがって,冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担すると解すべきである。

 もっとも,冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任を,特許権者が負担すると解したとしても,そのような解釈は,すべての事案において,特許権者において,発明の経緯等を個別的,具体的に主張立証しなければならないことを意味するものではない(むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認する重要な間接事実である。)。
 特許権者の行うべき主張,立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって大きく左右される。仮に無効審判請求人が,冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付け証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りる。これに対して,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的詳細に指摘し,その裏付け証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないといえる。・・・

次の判決も同趣旨を判示。
平成20(行ケ)10429