事件番号 平成19(ワ)11981
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年01月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一
『3 争点3(被告製品の構成は,本件特許発明の構成要件ハ-2と均等か)について
当裁判所は,次に述べるとおり,本件特許発明の特許出願手続における手続補正等の経緯に照らし,被告製品の構成が,特許請求の範囲から除外されたものに当たるとみるべき特段の事情があり,均等論のいわゆる第5要件により,原告の均等の主張は理由がないと判断する。
(1) 本件特許の出願中の補正の経緯
ア原告は,平成10年7月15日に本件特許の出願をした。その願書に添付された明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載は,次のとおりであった。(甲7)
「・・・」
イこれに対して,特許庁審査官は,平成11年2月22日に拒絶理由通知書を起案し,同年3月23日に同通知書を発送した。(甲8)
ウ原告は,平成11年6月15日に手続補正書を提出し,明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載を補正した。補正後の請求項1の記載は,次のとおりであった(下線部が補正部分である。)。(甲10)
「・・・」
エ これに対して,特許庁審査官は,平成12年1月11日に拒絶査定を起案し,同年2月8日に査定の謄本を発送した。(甲11)
オ原告は,平成12年5月2日に拒絶査定不服審判を請求した。(弁論の全趣旨)
併せて,原告は,平成12年5月31日に手続補正書を提出し,明細書の「特許請求の範囲」の記載を補正した。補正後の「特許請求の範囲」請求項1の記載は,次のとおりであった(下線部が補正部分である。)。(甲12,乙2)
「・・・」
カ 本件特許の出願は,平成12年9月25日に特許査定された。(甲1)
(2) 特段の事情について
前記(1)の手続補正の経緯を踏まえて検討するに,本件特許の出願時の明細書と平成12年5月31日に手続補正書を提出して補正した後の本件明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載内容を比較すると,「キャップ」について,
当初は「前記おから槽本体を覆うキャップ」というのみの記載であり,「リテンションカップ」と「キャップ」との関係について具体的に何も規定されていなかったものであるのに対し,
上記補正後は「前記おから槽本体の上部を覆い,前記おから槽本体と分離可能に結合され,前記リテンションカップに固定的に取り付けられたキャップ」という記載に補正され,「キャップ」を「リテンションカップ」に固定的に取り付けることを明記したものであることが認められる。
このようなも明記し,「リテンションカップ」とは別の部材として存在し,手続補正の経緯にかんがみると,原告は,本件明細書の記載を補正することにより,「キャップ」について,「おから槽本体」との関係を明記したのみならず,「リテンションカップ」との関係これに固定的に取り付けられるものであることを明示したのであるから,被告製品のように「リテンションカップ」が「キャップ」の機能を奏するもの,すなわち,「リテンションカップ」とは別に「キャップ」に相当する独立した部材を有しないものを含まない趣旨を明確にしたものということができる。
なお,本件特許発明の出願時の明細書の「特許請求の範囲」請求項1においては,「リテンションカップ」と「キャップ」との関係については具体的に何も規定していなかったのであるから,当初から,両者が独立した別個の部材の場合のみを限定して規定していたのか,両者が一部材として一体成形されたようなものも包含して規定していたのかについては必ずしも明確ではない。
しかし,均等論のいわゆる第5要件については,禁反言の法理に照らし,均等を主張することが許されない特段の事情が存在するかどうかを判断すべきであるから,当初の特許請求の範囲に明確に包含されていたものが補正により意識的に除外された場合のみならず,当初の特許請求の範囲に包含されているかどうかが不明確であったものが補正により包含されないことが明確にされた場合にも,禁反言の法理に照らし,第5要件により,特段の事情が存在するというべきである。』
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年01月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一
『3 争点3(被告製品の構成は,本件特許発明の構成要件ハ-2と均等か)について
当裁判所は,次に述べるとおり,本件特許発明の特許出願手続における手続補正等の経緯に照らし,被告製品の構成が,特許請求の範囲から除外されたものに当たるとみるべき特段の事情があり,均等論のいわゆる第5要件により,原告の均等の主張は理由がないと判断する。
(1) 本件特許の出願中の補正の経緯
ア原告は,平成10年7月15日に本件特許の出願をした。その願書に添付された明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載は,次のとおりであった。(甲7)
「・・・」
イこれに対して,特許庁審査官は,平成11年2月22日に拒絶理由通知書を起案し,同年3月23日に同通知書を発送した。(甲8)
ウ原告は,平成11年6月15日に手続補正書を提出し,明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載を補正した。補正後の請求項1の記載は,次のとおりであった(下線部が補正部分である。)。(甲10)
「・・・」
エ これに対して,特許庁審査官は,平成12年1月11日に拒絶査定を起案し,同年2月8日に査定の謄本を発送した。(甲11)
オ原告は,平成12年5月2日に拒絶査定不服審判を請求した。(弁論の全趣旨)
併せて,原告は,平成12年5月31日に手続補正書を提出し,明細書の「特許請求の範囲」の記載を補正した。補正後の「特許請求の範囲」請求項1の記載は,次のとおりであった(下線部が補正部分である。)。(甲12,乙2)
「・・・」
カ 本件特許の出願は,平成12年9月25日に特許査定された。(甲1)
(2) 特段の事情について
前記(1)の手続補正の経緯を踏まえて検討するに,本件特許の出願時の明細書と平成12年5月31日に手続補正書を提出して補正した後の本件明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載内容を比較すると,「キャップ」について,
当初は「前記おから槽本体を覆うキャップ」というのみの記載であり,「リテンションカップ」と「キャップ」との関係について具体的に何も規定されていなかったものであるのに対し,
上記補正後は「前記おから槽本体の上部を覆い,前記おから槽本体と分離可能に結合され,前記リテンションカップに固定的に取り付けられたキャップ」という記載に補正され,「キャップ」を「リテンションカップ」に固定的に取り付けることを明記したものであることが認められる。
このようなも明記し,「リテンションカップ」とは別の部材として存在し,手続補正の経緯にかんがみると,原告は,本件明細書の記載を補正することにより,「キャップ」について,「おから槽本体」との関係を明記したのみならず,「リテンションカップ」との関係これに固定的に取り付けられるものであることを明示したのであるから,被告製品のように「リテンションカップ」が「キャップ」の機能を奏するもの,すなわち,「リテンションカップ」とは別に「キャップ」に相当する独立した部材を有しないものを含まない趣旨を明確にしたものということができる。
なお,本件特許発明の出願時の明細書の「特許請求の範囲」請求項1においては,「リテンションカップ」と「キャップ」との関係については具体的に何も規定していなかったのであるから,当初から,両者が独立した別個の部材の場合のみを限定して規定していたのか,両者が一部材として一体成形されたようなものも包含して規定していたのかについては必ずしも明確ではない。
しかし,均等論のいわゆる第5要件については,禁反言の法理に照らし,均等を主張することが許されない特段の事情が存在するかどうかを判断すべきであるから,当初の特許請求の範囲に明確に包含されていたものが補正により意識的に除外された場合のみならず,当初の特許請求の範囲に包含されているかどうかが不明確であったものが補正により包含されないことが明確にされた場合にも,禁反言の法理に照らし,第5要件により,特段の事情が存在するというべきである。』