知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

均等論第5要件(請求項の明確化についての判断事例)

2008-01-28 06:59:52 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)11981
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年01月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一

『3 争点3(被告製品の構成は,本件特許発明の構成要件ハ-2と均等か)について
 当裁判所は,次に述べるとおり,本件特許発明の特許出願手続における手続補正等の経緯に照らし,被告製品の構成が,特許請求の範囲から除外されたものに当たるとみるべき特段の事情があり,均等論のいわゆる第5要件により,原告の均等の主張は理由がないと判断する。

(1) 本件特許の出願中の補正の経緯
ア原告は,平成10年7月15日に本件特許の出願をした。その願書に添付された明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載は,次のとおりであった。(甲7)
「・・・」
イこれに対して,特許庁審査官は,平成11年2月22日に拒絶理由通知書を起案し,同年3月23日に同通知書を発送した。(甲8)
ウ原告は,平成11年6月15日に手続補正書を提出し,明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載を補正した。補正後の請求項1の記載は,次のとおりであった(下線部が補正部分である。)。(甲10)
「・・・」
エ これに対して,特許庁審査官は,平成12年1月11日に拒絶査定を起案し,同年2月8日に査定の謄本を発送した。(甲11)
オ原告は,平成12年5月2日に拒絶査定不服審判を請求した。(弁論の全趣旨)
併せて,原告は,平成12年5月31日に手続補正書を提出し,明細書の「特許請求の範囲」の記載を補正した。補正後の「特許請求の範囲」請求項1の記載は,次のとおりであった(下線部が補正部分である。)。(甲12,乙2)
「・・・」
カ 本件特許の出願は,平成12年9月25日に特許査定された。(甲1)

(2) 特段の事情について
 前記(1)の手続補正の経緯を踏まえて検討するに,本件特許の出願時の明細書と平成12年5月31日に手続補正書を提出して補正した後の本件明細書の「特許請求の範囲」請求項1の記載内容を比較すると,「キャップ」について,
 当初は「前記おから槽本体を覆うキャップ」というのみの記載であり,「リテンションカップ」と「キャップ」との関係について具体的に何も規定されていなかったものであるのに対し,
 上記補正後は「前記おから槽本体の上部を覆い,前記おから槽本体と分離可能に結合され,前記リテンションカップに固定的に取り付けられたキャップ」という記載に補正され,「キャップ」を「リテンションカップ」に固定的に取り付けることを明記したものであることが認められる。

 このようなも明記し,「リテンションカップ」とは別の部材として存在し,手続補正の経緯にかんがみると,原告は,本件明細書の記載を補正することにより,「キャップ」について,「おから槽本体」との関係を明記したのみならず,「リテンションカップ」との関係これに固定的に取り付けられるものであることを明示したのであるから,被告製品のように「リテンションカップ」が「キャップ」の機能を奏するもの,すなわち,「リテンションカップ」とは別に「キャップ」に相当する独立した部材を有しないものを含まない趣旨を明確にしたものということができる。

 なお,本件特許発明の出願時の明細書の「特許請求の範囲」請求項1においては,「リテンションカップ」と「キャップ」との関係については具体的に何も規定していなかったのであるから,当初から,両者が独立した別個の部材の場合のみを限定して規定していたのか,両者が一部材として一体成形されたようなものも包含して規定していたのかについては必ずしも明確ではない

 しかし,均等論のいわゆる第5要件については,禁反言の法理に照らし,均等を主張することが許されない特段の事情が存在するかどうかを判断すべきであるから,当初の特許請求の範囲に明確に包含されていたものが補正により意識的に除外された場合のみならず,当初の特許請求の範囲に包含されているかどうかが不明確であったものが補正により包含されないことが明確にされた場合にも,禁反言の法理に照らし,第5要件により,特段の事情が存在するというべきである。』

新規事項の追加の判断例(課題が想定されていない発明の抜き出しの可否)

2008-01-27 22:35:50 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10177
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『(6) 原告は,当初明細書の段落【0018】,【0020】及び【0036】に,ネガは顧客に返却されるものであることが記載されており,段落【0019】には,ネガ返却後に行うサービスが記載されているとし,結局,当初明細書に記載されている一連の技術の中から,ネガを返却した後,画像ファイルを保存しておいた場合に行うサービスに関する部分,すなわち,「低解像度の画像ファイルをデータ転送の対象とし,高解像度の画像ファイルから印画を行うという発明」を取り出して,画像ファイルの由来によらない発明であると主張しているものということができる

 ところで,発明は,技術的思想の創作であるが(特許法2条),ここに「技術」とは,一般に,「①物事を巧みにしとげるわざ。技芸。②自然に人為を加えて人間の生活に役立てるようにする手段。また,そのために開発された科学を実際に応用する手段。科学技術。」(大辞林第3版),「①物事をたくみに行うわざ。技巧。技芸。②(technique)科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し,人間生活に役立てるわざ。」(広辞苑第5版)などとされているとおり,科学を現実に応用して人間生活に役立てるという目的を達成するための具体的手段であるから,発明における創作は,所期の目的すなわち技術課題を達成するための手段としての技術的思想でなければならないものと解すべきである

 本件についてみると,ネガ又はスライドを返却した後の,画像ファイルを保存しておいた場合に行うサービスに関する部分,すなわち,原告が「低解像度の画像ファイルをデータ転送の対象とし,高解像度の画像ファイルから印画を行うという発明」と主張するものは,前記のとおり,当初明細書中に,従来技術との関係で技術課題が設定されているわけではないから,単に,そのサービスに関する部分のみを取り出しても,そこに出願人による技術的思想の創作である発明が存在すると認めることはできない。当初明細書の上記記載からいえることは,ネガを返却した後の,画像ファイルを保存しておいた場合に行うサービスに関する技術が当業者に開示されているというのみであって,それ以上のものではない

 この点について,原告は,本願補正発明に関して,当初明細書の段落【0029】を挙げ,画像送信時間や費用の抑制という課題が開示もしくは示唆されており,また,作用効果も開示もしくは示唆されている旨主張する。

 確かに,当初明細書には,「低解像度画像のパレット化および圧縮は,送信されるべきデータを最小にするために行われる。画像送信の時間と費用が最小となるなら,いかなる手段も望ましいものとして用いることが理解できよう。」(段落【0029】)との記載があるが,上記記載は,段落【0027】から始まる,実施例3における図2についての説明の一部であるところ,上記のとおり,段落【0027】の説明を併せみれば,段落【0029】の「低解像度画像のパレット化」とは,ネガ12の画像が走査装置で走査され,次に,この情報を適切なパレット化アルゴリズム(palettization algorithm)のブロック42に通し,画像に対する最適なパレットが作成されたものである。結局,ネガ又はスライドのスキャンによって作成された低解像度画像のパレット化及び圧縮をすることが,画像送信の時間と費用を最小とするために行われることを説明しているものであって,それ以上のものではない。まして,原告主張の「低解像度の画像ファイルをデータ転送の対象とし,高解像度の画像ファイルから印画を行うという発明」の技術課題として記載されているものでないことは,明らかであるまた,上記発明の作用効果が当初明細書に記載されていないことも明らかである。

( 7) したがって,ネガ又はスライドをスキャンすること以外の工程により作成された画像ファイルをも包含する本件補正が当初明細書に記載した事項の範囲ではないとした審決の判断に誤りはない。』

訂正審判における「一体説」と「請求項基準説」

2008-01-06 12:20:04 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10425
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『10 結論
(1) 上記に検討したところによれば,本件各訂正発明は,いずれも引用発明及び刊行物2~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであり,同法126条5項の規定に適合しないことは,審決の判断のとおりである。

(2) ところで,昭和62年法律第27号による特許法の改正により導入された,いわゆる改善多項制の下において,複数の請求項について訂正審判が請求された場合における訂正の許否については
  改善多項制導入前と同様に訂正審判請求全体を一体のものとして,一部の請求項に係る訂正につき特許法所定の要件を満たさない点があれば,他の請求項に係る訂正について要件充足の有無を判断するまでもなく,請求に係るすべての請求項についての訂正を許さないものとすべきか(以下,「一体説」という。),あるいは,
  請求項ごとに訂正が特許法所定の要件を満たすものかどうか判断した上で,訂正審判請求のうち,要件を満たさない請求項に係る部分のみについて訂正を許さないものとし,要件を満たす請求項に係る部分については訂正を許すものとすべきか(以下,「請求項基準説」という。)
という点で,検討すべき問題が存在する。

(3) 審決は,本件において,本件訂正発明1に係る訂正が許されないと判断したにもかわらず,このことのみをもって審決の結論を導くことをせず,進んで本件訂正発明2,3に係る訂正の許否についての検討を行っている
 このような審決の措置は,前記第2,1記載のとおり,本件訂正請求に先だって特許庁によりされた無効審決(無効2004-80102号)において本件特許の請求項1ないし3に係る特許が無効とされ,特許権者(原告)により審決の取消しを求めて提訴された訴訟(当庁平成18年(行ケ)第10031号)が当庁に係属していることに照らし,本件訂正審判請求人(原告)において,本件特許の請求項1ないし3について,一部の請求項に係る訂正であっても,これを許す旨の審決を求めていると善解する余地があることを配慮しての措置と理解することが可能である。
 本件における審判合議体のこのような措置は,改善多項制の下における訂正審判請求のあり方について,前記の請求項基準説を採用したものと即断することはできないにしても,適切な措置と評価することができる。』

次の判決も同趣旨。
事件番号 平成18(行ケ)10426
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

「頒布された刊行物に記載された発明」の解釈

2008-01-06 11:31:36 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10316
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『(1) 特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けることができない。」と規定している。そして,特許発明又は特許を受けようとする発明(以下「特許発明等」という。)の進歩性を否定するための公知発明のうち,同法29条1項3号に該当する発明についていえば,同項3号にいう特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りると解するのが相当である。
 例えば,特許発明等が「物」の発明の場合にあっては,特許発明等と対比される刊行物の記載としては,その「物」の構成が,特許発明等の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その「物」を入手又は製造し,使用することができれば,必ずしも,当該刊行物にその「物」を製造する具体的な方法が開示されている必要はなく,また,当該刊行物に記載された具体的な「物」それ自体でなくても,特許発明等の内容との対比に必要な限度でその「物」と同一性のある構成の「物」を入手又は製造し,使用することが可能であれば,それで足りる というべきである。

(2) 上記の観点から,引用例には引用発明に係る1-1Rガソリンの成分組成が記載されているものの,その製造方法の記載がないから,1-1Rガソリンを製造することは困難であった旨の原告主張について,検討する。
ア 証拠(甲1,16,乙1,5,7,16,17)及び弁論の全趣旨によれば・・・

イ 上記アによれば,引用例記載の1-1Rガソリンの成分組成を厳密に再現することはともかく,本件明細書の特許請求の範囲の記載により特定される本件発明の内容との対比に必要な限度で前記1-1Rガソリンと同一性のある構成を有するガソリンについて,当業者が,これを引用例の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づいて入手又は製造し,使用することが可能であったと認めるのが相当である。』

審判の審理構造及び審理対象

2008-01-06 11:11:25 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10209等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『3 付言(審判の審理構造及び審理対象に関して)
 意匠登録出願に係る拒絶査定に対する審判の審理の対象は,意匠法17条所定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かである。審判の対象は,審査の過程で審査官が発した「拒絶理由の通知」の当否でもなく,また,拒絶査定に係る拒絶理由の当否でもなく,さらに,請求人の主張の当否でもない
 この点は,審判体において,自ら意匠登録をすべき旨の審決ができること(意匠法50条2項),拒絶査定の理由と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をすることができること(同条3項)等の法条が設けられていることから明らかである

 審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論を導くためには,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)のいずれかに該当する理由(該当するとの判断に至った論理の過程)を明示することを要する。
 そして,同条項に該当すると判断するに至った論理の過程を明示するということは,
審判体において,
①前提となる法律の解釈に疑義がある場合には,当該法条の解釈を示すこと,
法条の要件に該当する事実が存在することを明らかにすること,
事実を法条に適用した結果として,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)に該当するとの論理の過程が成り立つ点を明示すること
を含む。審判体は,この論理過程を説明する責任を負担し,文書をもって明示することを要する(意匠法52条,特許法157条)。

 ところで,審決書(1)及び(2)を見ると,その「理由」には,「原審の拒絶理由」欄で,拒絶査定に係る拒絶理由の要旨が記載され,「請求人の主張」欄で,拒絶査定を不服とする請求人の主張が記載され,「当審の判断」欄の「請求人の主張の採否について」との項目で,請求人の主張の当否が記載され,同欄の「原審の拒絶理由の妥当性について」との項目で,拒絶理由の当否が記載されてはいるものの,審判体の判断の論理過程を直接的に示した記載部分はなく,結論として,同欄の「本願意匠の創作の容易性について」との項目において,「以上の検討によれば,請求人の主張は採用することができず,原審の拒絶理由は妥当であるから,本願意匠は,出願前に当業者が公然知られた形状に基づいて容易に創作をすることができなものであるといわなければならない」との記載がされているのみである。
 このような審決書(1)及び(2)の理由記載は,その体裁だけで直ちに審決の違法を来すとの結論を導くものであるか否かはさておき,審判体が,本願部分意匠又は本願全体意匠が意匠法3条2項に該当すると判断した論理の過程を的確に示したものということはできない
 すなわち,審決書(1)及び(2)の理由は,論理付けの根拠とは無関係かつ不要な事項を含み,審判体の判断の基礎となる論理付けが明りょうでなく,審判の構造に対する誤った認識に基づいた判断であるとの疑念を生じさせるという意味において,妥当を欠くものといえる(特に本件では,少なくとも拒絶理由通知における理由部分は,僅か5行ないし7行からなる,ごく簡単で定型的な記載にすぎないから〔甲13の1,2〕,審判体において,そのような理由が妥当であるとの判断に至ったからといって,当然に,審判体としての結論に至る論理付けとして十分であるとすることはできない。)。

 上記の趣旨は,一般の審決書における理由記載においても,同様に留意を要すべき点であるといえる。』

意匠法3条2項の容易性の判断

2008-01-06 10:59:26 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10209等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『・・・
イ 意匠1及び意匠2によれば,包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器が,本願(2)の出願前より公然知られていたことが認められる。
 しかし,本願全体意匠と意匠3を対比すると,前記(1)ウのとおりの美観上の相違があり,また,本願全体意匠は上記アのとおりの各特徴を備えている点に照らすならば,本願全体意匠は,多様なデザイン面での選択肢から,創意工夫を施して創作したもの であるから,意匠3を基礎として,意匠1及び意匠2(容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな公知の包装用容器に係る意匠)を適用することによって,本願全体意匠を容易に創作することができたはいえない。』

先願とその優先権基礎出願との記載事項の違いの評価事例

2008-01-06 10:27:15 | 特許法29条の2
事件番号 平成18(行ケ)10449
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『3 審決の理由等
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,
① 本願発明は,出願1及び出願2との関係において,適法な優先権主張の出願とはいずれも認められないから,国内優先の利益を享受できず,現実の出願日である平成7年11月29日が基準日となる。
特願平8-530899号(国際公開第97/11920号,優先権主張日:平成7年9月28日,甲6。以下,「先願」という。)は,適法な優先権主張の出願であるから,先願の出願日は,優先権主張の基礎となる出願(特願平7-276760号,出願日:平成7年9月28日,甲7。以下,「優先権基礎出願」という。)の出願日である平成7年9月28日となる。
本願発明と,優先権基礎出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明とを対比すると,両者の発明は実質同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない
というものである。
そして,原告は,本件訴訟において,審決の上記判断中,①は争わず,②及び③を争っている。』

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(先願の優先権主張を適法とした誤り)について
当裁判所は,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということができないから,本願との関係で,先願発明を特許法29条の2所定の発明として同条の規定を適用することはできないと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。
 ・・・
(2) 検討
 優先権基礎出願先願について,各特許請求の範囲(請求項1)の記載を対比すると,
CaO含有量については,前者が「0~10.0%」であるのに対し,後者が「0~8.0%」であり,
SrO含有量については,前者が「0~10.0%」であるのに対し,後者が「0.1~10.0%」であり,
いずれも,先願における含有量は,優先権基礎出願における含有量の範囲に含まれる

 このうち,SrO含有量については,優先権基礎出願明細書に「好ましくは0.1~10.0%である」との記載があることに照らすならば, 「0.1~10.0%」の含有量については,優先権基礎出願明細書に開示されているとみることができる。

しかし,CaO含有量については,優先権基礎出願明細書には ,「10.0%より多いと,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない」と記載され,同記載部分によれば,優先権基礎出願明細書においては,「10.0%」なる数値に上限としての技術的意義を有するものとして開示されているといえるが,「0~8.0%」の範囲の数値については,何ら技術的な意味を示唆する記載はない
そして,優先権基礎出願明細書の実施例及び比較例によればCaOの含有量は,2.1~7.5%の範囲にあることが示されており,CaOを「8.0%」含有させたガラス組成物についての開示はない
 そうすると,優先権基礎出願明細書には「8%」を上限とする「0~8%」のCaO含有量範囲について,何らかの技術的意義を示した記述はないと理解するのが自然である。
 以上によれば,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということはできない。』

『(3) 被告の主張について
ア 被告は,ガラス組成物は,誤差が生ずることは避けられず,特定の数値で規定することが難しく,ある程度の幅を持った概数値で論じられざるを得ない分野であること(乙2,乙3)に鑑みれば,先願明細書に記載されたCaO含有量「0~8.0%」は,優先権基礎出願明細書に実施例に最大値「7.5%」の記載があることに照らすと,同数値は,概数として「8.0%」の値を示したものと理解できるから,優先権基礎出願明細書の記載から自明な事項であると主張する。
 しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。

 すなわち,乙2には,「成分の安定性:大量生産のガラスでは製品の物理的・化学的性質の安定や機械成形の安定性が望まれるため,製品のガラス組成において各成分は一般に0.05%以内の範囲で一定でなければならない」(282頁7~9行)と記載され,乙3には,第4・3表(31頁)に,ガラス原料を配合した場合の誤差として,CaO成分については「0.008%」という小さい数値が例示されている。

 そうすると,ガラス技術分野において,ガラス組成物の含有量が「ある程度の幅を持った概数の値」で示さざるを得ないとしても,その幅は,せいぜい「0.05%」のような小さな程度をいうのであって,「7.5%」の概数として「8.0%」まで包含するような大きさであるとは,到底認められない

イ また,被告は,先願明細書の記載は,優先権基礎出願明細書における実施例の「7.5%」を考慮し「0~10.0%」を「0~8.0%」まで単に減縮したものであるとも主張する。
 しかし,被告の上記主張も失当である。

 すなわち,優先権基礎出願明細書には,ガラス組成物の組成範囲が記載されているだけであって,組成範囲の誤差に関する記載はなく,また,CaO含有量が「7.5%」を超える具体例も記載されていない
そして,ガラス分野における「7.5%」の含有量が「8.0%」まで包含するものでないことは上記アで説示したとおりである。

 そうすると,数値的には,「0~10.0%」を減縮すれば,「0~8.0%」になり得るとしても,優先権基礎出願明細書において上限値の「10.0%」を「8.0%」という特定の数値に変更する理由が見当たらないから「0~8.0%」は, 「0~10.0%」を単に減縮したものであるとは認められない。』

経過規定中の「この法律の施行の際現に」の解釈

2008-01-04 07:30:01 | 最高裁判決
事件番号 平成19(受)1105
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年12月18日
裁判所名 最高裁判所第三小法廷
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
(裁判長裁判官 藤田宙靖,裁判官 堀籠幸男,裁判官 那須弘平,裁判官 田原睦夫,裁判官 近藤崇晴)

『3 原審は,本件改正後の著作権法54条1項が適用されるのは,本件改正法の施行日である平成16年1月1日において本件改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物であるところ,本件映画は平成15年12月31日の終了をもって著作権の存続期間が満了しているから,本件改正後の著作権法54条1項の適用を受けないとして,上告人らの請求をいずれも棄却した。これに対し,上告人らは,本件経過規定中の「この法律の施行の際現に」という文言は,当該法律の施行の直前の状態を指すものと解すべきであるのに,これを「この法律の施行の日において」と同義に理解し,本件改正後の著作権法54条1項の適用を否定した原審の判断には,本件経過規定の解釈適用を誤った法令違反があると主張する。

4(1) そこで検討すると,本件経過規定中の「・・・の際」という文言は,一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることもあり,「・・・の際」という文言だけに着目すれば,「この法律の施行の際」という法文の文言が本件改正法の施行日である平成16年1月1日を指すものと断定することはできない。しかし,一般に,法令の経過規定において,「この法律の施行の際現に」という本件経過規定と同様の文言(以下「本件文言」という。)が用いられているのは,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするため であるから,そのような本件文言の一般的な用いられ方(以下「本件文言の一般用法」という。)を前提とする限り,本件文言が新法令の施行の直前の状態を指すものと解することはできない。所論引用の立法例も,本件文言の一般用法によっているものと理解できるのであり,上告人らの主張を基礎付けるものとはいえない。
 したがって,本件文言の一般用法においては,「この法律の施行の際」とは,当該法律の施行日を指すものと解するほかなく,「・・・の際」という文言が一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることがあるからといって,当該法律の施行の直前の時点を含むものと解することはできない。

 本件経過規定における本件文言についても,本件文言の一般用法と異なる用いられ方をしたものと解すべき理由はなく,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」とあるのは,本件改正前の著作権法に基づく映画の著作物の保護期間が,本件改正法の施行日においても現に継続中である場合を指し,その場合は当該映画の著作物の保護期間については本件改正後の著作権法54条1項が適用されて原則として公表後70年を経過するまでとなることを明らかにしたのが本件経過規定であると解すべきである。
 そして,本件経過規定は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されないことは,この定めによっても明らかというべきである。
 したがって,本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである

 (2) 上告人らは,本件改正法の施行後においては「改正前の著作権法」はもはや存在しないのであるから,本件文言は当該法律の施行の直前の状態を指すものと理解しないと,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」という規定自体が論理破たんを来すこととなる旨主張する
 しかし,本件文言は,上記のとおり,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするために用いられるものであるから,何ら論理矛盾は存しない

 また,上告人らは,本件改正法の成立に当たり,昭和28年に公表された映画の著作物の保護期間の延長を意図する立法者意思が存したことは明らかであるとして,この立法者意思に沿った解釈をすべきであると主張する。
 しかし,本件経過規定における本件文言について,本件文言の一般用法とは異なる用い方をするというのが立法者意思であり,それに従った解釈をするというのであれば,その立法者意思が明白であることを要するというべきであるが,本件改正法の制定に当たり,そのような立法者意思が,国会審議や附帯決議等によって明らかにされたということはできず,法案の提出準備作業を担った文化庁の担当者において,映画の著作物の保護期間が延長される対象に昭和28年に公表された作品が含まれるものと想定していたというにすぎない のであるから,これをもって上告人らの主張するような立法者意思が明白であるとすることはできない。』

商標法4条1項8号判断事例

2008-01-03 21:20:47 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10113
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『1 取消事由4(商標法4条1項8号該当性判断の誤り)について
(1) 外観
 本件商標は,別紙1の構成から成るものであり,両端をぼかして描いた朱色の水平線を介して,その上部に「INTELLASSET」の文字(以下「本件商標の文字部分」という。)が等間隔に,その下部の中央部に本件商標の文字部分より小さく「GROUP」の文字が等間隔にそれぞれ配されている。また,本件商標の文字部分において,「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれている
 甲第15及び第16号証によれば,原告の名称は,「Intel Corporation」であることが認められる。
 ・・・
 これらを対比して考察すると,本件商標の文字部分はローマ字11文字から成り,英字引用商標はローマ字5文字から成るが,本件商標の文字部分「INTELLASSET」のうち冒頭の5文字が英字引用商標「INTEL」及び原告の名称の冒頭部分と同一である。すなわち,本件商標の文字部分の冒頭には,英字引用商標及び原告の名称の一部の文字が包含されている

(2) 称呼
 本件商標の「INTELLASSET」の文字部分において,「I」と「A」の文字は他の文字よりも大きく(高く)書かれ,「ASSET」は英語の既存の単語として存在することからすれば,「ASSET」の部分から,その単語の発音に従い,「アセット」の称呼が生ずることまでは直ちに認識される。次に,「INTELL」は既存の語ではないため,各表音文字の音に従い,「インテル」の称呼が生じる。

 そして,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はないから,「INTELLASSET」を連続して発音すれば,「インテラセット」の称呼が生じ得るが,「I」と「A」の文字が他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれている点に着目すれば,2語から構成されるものとして, 「INTELL」の後で一旦切って,次の「ASSET」を発音する称呼も生ずると考えられ,この場合は「インテルアセット」の称呼を生ずるものと認められる。

 甲第15及び第16号証によれば,原告の名称は「Intel Corporation」であり,「インテルコーポレーション」の称呼を生ずる。
 ・・・
 本件商標から「インテルアセット」との称呼も生じ得ることからすれば,本件商標の冒頭部分の称呼の4音が引用商標の称呼及び原告の名称の冒頭部分と同一である場合があり,この場合には,本件商標の冒頭には,引用商標及び原告の名称の一部の称呼が包含される

(3) 観念
ア 本件商標の文字部分「INTELLASSET」の「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれているから,本件商標は,「INTELL」と「ASSET」の2語から成るものとして,「ASSET」の部分を既存の英単語として認識することができ,「ASSET」の意味として一般に親しまれている「資産,財産」の観念が生じ得る。しかし,「INTELL」は,既存の英単語にないから,この部分から特定の観念が生ずるものとはいえない

イ ・・・

ウ 本件商標の文字部分「INTELLASSET」の「I」と「A」の文字は他の文字よりも大きく(高く)書かれ,かつ,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)がないことに着目すると,「INTELLASSET」は,「INTELL」と「ASSET」とを合わせて1語とした造語であると認識され,「ASSET」が「資産,財産」の意味の名詞であるから,需要者には,「INTELL」は「ASSET」の修飾語であると認識され,「INTELL」の意味が不明でも,「『INTELL』な資産,財産」という観念までは生ずると認められる

・・・
「INTELL」が既製語にはないのに対して,「ASSET」は一般に「資産,財産」の意味であると認識されるから,「INTELLASSET」から生ずる観念としては,「ASSET」を軽視することはできず,何らかの「資産,財産」,少なくとも「資産,財産」に関する何らかの観念が生じるものというべきである

(4) 原告の略称としての「INTEL」の著名性
ア ・・・
イ 以上の事実関係からすると, 「INTEL」は,本件商標が出願された平成14(2002)年当時において,パソコンを日常生活や業務で使用するなどパソコンに何らかの関係を有する極めて広範囲の国民の間に,「INTEL」といえば原告(インテルコーポレーション)を表わす略称として広く知れ渡っていたものと推認することができる
・・・

(5) 「INTELL」が既製語にはなく,それ自体から特定の観念は生じないものの,上記(4)のとおり,「INTEL」は,原告の略称として広く認識されており,本件商標の文字部分「INTELLASSET」の冒頭には,原告の著名な略称である「INTEL」が包含されることは一見して明らかであるし,また,「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれ,「INTELL」と「ASSET」とを分けて認識させることから,「インテルアセット」の称呼も生じ得ることは,前記(2)に説示したとおりである。

 確かに,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はなく,「INTELLASSET」全体を1語として認識することができ,「INTELL」は上記著名な略称と完全には一致せず,本件商標には,文字部分のほかに,朱色の水平線及び「GROUP」の文字も配置されている。
 しかし, 「INTELL」と「INTEL」の相違は,最後の「L」1文字にすぎず,微差であり,いずれも「インテル」の称呼を生ずる綴りである。また,「GROUP」の部分は,企業又は人の集まりとの観念を生じるにすぎない し,朱色の水平線も本件商標の文字部分に比して目立つものではないから,出所識別に何ら寄与しない。
 ・・・
 これらを総合して判断すれば,本件商標に接した需要者は,その文字部分「INTELLASSET」から「資産,財産」の観念を感得するとともに,原告の著名な略称である「INTEL」をも認識し,ひいては原告を想起すると認められる

 被告が「INTEL」の使用につき,原告の承諾を得たと認めるに足りる証拠はないから,本件商標は,商標法4条1項8号の商標に該当する。したがって,この点に関する審決の判断は誤りである。』

周知例には阻害要因があるか動機付がないとされた

2008-01-03 20:35:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10148
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『(3) 引用発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することの容易想到性について
ア ・・・

イ 周知例2及び3には,マット加工が施された樹脂膜又はプラスチックシートが,熱と圧力をかけて容器等に成形されるとの記載も示唆もないところ,上記(2)イのとおり,本件特許出願当時の当業者において,マット加工面に熱と圧力を同時に加えると上記のようにマット加工の技術的意味が没却されると考えられていたことに照らすと,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため,引用発明に,周知例2又は3に記載されたマット加工技術を適用することについては,その動機付けがないばかりか,その適用を阻害する要因が存在したものというべきである。

ウ また,周知例4は,本件発明や引用発明が属する技術分野とは異なり,基板の製造方法等の技術分野におけるマット加工技術を開示するものであるほか,板状のコア部材の上面にプリプレグシートを挟んで銅箔シートを重ねた上,その上面に金属板を重ね,このように積層された積層部材を積層方向に圧縮・加熱することにより,銅箔シートをコア部材に接着させるという技術において,銅箔シートの一方の面に,あらかじめ帯電防止処理(マット加工処理等)が施された絶縁フィルムを配設しておくことにより,ロール状に巻き取られた銅箔シートを繰り出すときや,接着加工後に絶縁フィルムを剥離するときの静電気の発生を抑制するという技術を開示するものであって,複数枚の樹脂製ラミネートフィルムを重ねて金型に配置し,熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合に生ずる熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を開示し,又は示唆するものではない
 したがって,上記熱接着の問題を解決するため,引用発明に,周知例4に記載されたマット加工技術を適用することについても,その動機付けがないというべきである。

エ 他方,周知例1は本件発明や引用発明と同種の技術分野におけるマット加工技術を開示するものであるほか,同周知例には,「本発明の加熱調理用食品容器は,上記した食品容器材料を公知の成形法,例えば加熱圧縮法により所望形状に成形してなるものである」,「この食品容器材料を用いて加熱圧縮法により成形し,・・・カップ状の加熱調理用食品容器・・・を得た」との各記載があるところである。

 しかしながら,周知例1に記載された食品容器材料は,紙である基材の上に,ポリプロピレンよりも融点が高いポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート,ポリメチルペンテン等の耐熱性樹脂層を有するものであって,ポリプロピレン樹脂製フィルムのみから成る本件発明及び引用発明のラミネートフィルムとはその材質を異にするものであるほか,同周知例には,加熱圧縮法において用いられる加熱温度についての具体的な記載はみられないところ,
 紙である基材は,復元性の高い樹脂製フィルムとは異なり,折り込みのような機械的な作用のみでも成形が可能であることからすると,その加熱温度が,上記ポリブチレンテレフタレート等の耐熱性樹脂の成形温度(軟化温度)よりも相当低いことも想定され,また,食品容器材料から容器を形成する際の方法についても,複数枚の材料を積層して加熱圧縮するとの方法が示されているものではないから,
 結局,周知例1が,複数枚の樹脂製ラミネートフィルムを重ねて金型に配置し,熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合に生ずる熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題の解決方法を開示し,又は示唆するものということはできずしたがって,当該問題を解決するため,引用発明に,周知例1に記載されたマット加工技術を適用することについても,その動機付けがないといわざるを得ない。』

明確でない請求項に基づいて進歩性を否定

2008-01-03 19:06:55 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10537
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件の技術的意義について

ア (ア) 請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件の技術的意義については,原・被告間に前記のような技術的理解の相違があることからも明らかなように,請求項1の記載自体からは,これが,「構成部品が駆動手段からの接続を解かれて容易に動くことができる状態にすること」(原告の主張)を意味するのか,単に「装置を停止させることのみ」(被告の主張)を意味するのかにつき,これを一義的に明確に理解することはできないというべきである

(イ) 被告は,広辞苑の記載内容を引用し,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件が「装置を停止させること」を意味することは文言上明確である旨主張するが広辞苑の「解除」についての「ときのぞくこと。特別の処置をとりやめて,平常の状態に戻すこと。」との語義自体からみても原告の上記主張のような理解を一義的に排除し得るものと即断することは困難であり,一般的・汎用的な国語辞典の記載をもって,本願発明が属する技術分野(X線検査装置,産業用ロボット等)における「構成部品」(例えば,X線検査装置のC型キャリヤ)が「駆動手段」(例えば,モータ)から「解除」されることの技術的意義を一義的に明確に定義し得るものとは到底認め難いから,被告の上記主張を採用することはできない。

イ そこで,以下,本願明細書中の発明の詳細な説明の記載を参酌して,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件の技術的意義につき検討することとする。
・・・
そうすると,上記(a)ないし(c)の内容及び本願発明が検査対象物等との自由な接近を可能とするX線検査装置等における衝突防止装置の構成を技術的課題としていることに照らし,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件は,原告が主張するとおり,「構成部品が駆動手段からの接続を解かれて容易に動くことができる状態にすること」を意味するものと理解するのが相当である。』


『(2) 審決の判断について
ア(ア)  前記第2の3のとおり,審決は,本願発明と刊行物1発明の1との相違点1を「本願発明は,比較手段は,該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第1の駆動解除信号を発生するが,刊行物1発明の1は,サーボ異常は検出しているが,駆動解除しているかは不明である。」と認定した上,同相違点について,「装置の異常を検出した場合には,装置の作動を停止させることが一般的である(例えば,刊行物1,周知例1)から,この点に格別の技術的意義を見いだすことはできず,設計的事項にすぎない。」と判断したものである。

(イ)  審決の上記認定判断によれば,審決は,その認定した相違点にいう「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除を制御する第1の駆動解除信号を発生する」こと及び「駆動解除」を「装置の作動を停止させること」と限定的に理解し,その点(「装置の作動を停止させること」)についてのみ,「格別の技術的意義を見いだすことはできず,設計的事項にすぎない」と判断したものと解されるところ,上記(1)において説示したとおり,請求項1中の「該当する構成部品の前記駆動手段からの解除」との要件は,「構成部品が駆動手段からの接続を解かれて容易に動くことができる状態にすること」を意味するものであるから,審決には,相違点1について,判断を遺脱した違法があるものといわざるを得ない。』


商標の類否判断時に要部を抽出する場合

2008-01-03 18:23:38 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)6214
事件名 商標権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成19年12月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

『(3)一般に,商標の類否の判断については,商標を全体的に観察してするのが基本であるものの,常に一体として観察しなければならないものではなく商標のうちの特定の部分が注意をひきやすく,その部分が存在することによって初めてその商標の識別機能が認められるときは,全体的観察と並行して商標を機能的に観察し,その中心的な識別力を有する部分,すなわち要部を抽出して対比の判断をすることが必要である
 そして,いくつかの文字と文字,文字と図形又は図形と図形の結合などによって構成される結合商標の類否の判断をするに当たっては,結合の強弱の程度,結合した各構成部分の大小や意味内容等によって,構成部分の一部のみが要部となり,あるいは,各構成部分がそれぞれ要部となることがある。

 そこで,このような見地から,被告各標章との対比の前提として,本件商標を観察すると,本件商標は,「MACKINTOSH」と「Made in Scotland」の各文字と紳士の図形とから構成される結合商標であり,これらの各文字と図形については,外形的にみて,全体が不可分一体となって1個の統一的な外観,称呼や観念を形成しているとは特に認められないから,常に一体として観察されなければならないものではなく,各構成部分を各別に分離して観察することは何ら妨げられないというべきである。
 そして,上記の各文字及び図形のうち,「MACKINTOSH」の文字部分は,本件商標の中央部に大きな文字により全体の横方向の7割程度の大きさで横書きされており,小さい文字により書かれた「Made in Scotland」の文字部分や図形部分と区別されて,注意をひく部分であるということができるから,本件商標の要部となり得る構成部分として抽出することができる。』


『(4)本件商標と著名商標について
 被告らは,平成9年に他社が本件商標と同一の商品等区分についてした「Macintosh」の各商標登録出願について,それぞれ,米国アップル社のコンピュータに使用する同一の著名商標との商品出所の混同のおそれがあることを理由に拒絶査定がされていることを挙げて,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,米国アップル社の有する「Macintosh」(マッキントッシュ)の著名商標と類似するから,本件商標の要部でない旨を主張する

 被告らのこの主張は,元来,原告の本件商標は,「MACKINTOSH」の文字部分の単体では,米国アップル社の有する著名商標である「Macintosh」と類似するため,商標法4条1項15号によって拒絶されるべきものであったのを,紳士の図形及び「Made in Scotland」の文字と結合したことによって,はじめて登録を許されたものであるから,「MACKINTOSH」の文字部分だけを取り出して,これを識別力のある要部ととらえることはできない,との趣旨であると解することができる

 しかしながら,本件商標とは異なる他の商標登録出願についての特許庁による前記審査の判断があったことから,直ちに本件商標の登録が結合商標であるがゆえに登録をされたものであるということができないことは明らかである。仮に,原告が本件商標の文字部分の「MACKINTOSH」を単体で商標登録出願をしていたとすれば,登録を拒絶された可能性があったと考えられるとしても,被告らの前記主張は,本件商標について,無効事由の存在を指摘するものではなく,当該文字部分に関する識別力の有無を問題とするものであるから,侵害訴訟における類否判断のための基準時は,あくまでも口頭弁論終結の時であり,商標の登録審査の時と状況が異なることは十分にあり得るところである

 そこで,この点についてみるに,特許庁が「Macintosh」を米国アップル社の著名商標と判断した平成9年から既に10年が経過していること,平成9年から平成19年までの間における米国アップル社及びその日本法人による「Macintosh」のロゴの使用形態については,何ら主張,立証がなく,かえって,証拠(甲84~86)及び弁論の全趣旨によれば,現在,「Macintosh」のロゴは実際の商品に関して使用されておらず,汎用のパーソナルコンピュータの主たるブランドとして「iMac」が使用されていること,米国アップル社のロゴ戦略として,「iPod」,「iTunes」,「iPhone」などのように,「i」をキーワードにした統一ブランドの構築を企図しているものと窺えることがそれぞれ認められるから,米国アップル社の「Macintosh」が本件の口頭弁論終結時である平成19年の時点においても著名であると認めることはできない

 そうすると,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,米国アップル社の有する「Macintosh」の著名商標と類似しているとして,本件商標の要部でないとする被告らの主張は失当であり,採用することができない。』


『(5)本件商標と普通名称について
 次に,被告らは,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分について,ゴム引き防水布地又はゴム引き防水布地製コートを意味する普通名称であって,本件商標の要部でない旨を主張する

 商標法3条1項1号,26条1項2号にいう「普通名称」については,取引界において,その商品の一般的な名称と認められていることが必要であり,また,その判断にあっては,辞書,事典その他の刊行物で普通名称であるかのように使用されているだけでは足りず,商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である。結合商標から抽出された文字が普通名称性との関係で識別力のある要部であるか否かについても,その検討の方法は基本的に同様であると考えられる。

 そこで,前記第2の1の前提となる事実及び前記(2)の認定事実を総合して,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分が普通名称といえるか否かについて検討する。

・・・
しかしながら,我が国においては,英国におけるようにゴム引き防水布地製コートが国内に広く普及したことを示す証拠はない。
・・・
このようにしてみると,本件商標における「MACKINTOSH」の文字部分について,商品の一般的な名称であることを指す普通名称であるとまでいうことはできない

 以上のとおりであるから,本件商標のうちの「MACKINTOSH」の文字部分を,ゴム引き防水布地又はゴム引き防水布地製コートを意味する普通名称であるとして,本件商標の要部でないととらえることはできない。』


『4 争点(4)〔本件商標権の行使が権利濫用となるか否か〕について被告らは,原告の本件商標権の行使による被告各標章の使用差止請求について,原告において,第三者が商標出願した「Macintosh」の文字商標につき特許庁によって米国アップル社の著名商標との混同が生ずることを理由に拒絶査定された関係で,本件商標にも商標法4条1項15号の無効事由があることを熟知しながら,本件商標の一部にすぎない「MACKINTOSH/マッキントッシュ」の部分に基づいて請求するものであること,米国では,権利不要求の制度に基づいて「MACKINTOSH」につき単独で権利主張をしないことを条件に登録されていて,日本に権利不要求制度がないことを奇貨とする請求であることを理由に,権利の濫用である旨主張する

 しかしながら,これらの被告らの指摘のうち,現時点において,米国アップル社がコンピュータについて有する「Macintosh」の商標が著名であるとは言い難いことは,前記2(4)で述べたとおりであり,また,仮に,本件商標の登録時点において,何らかの無効事由に該当する瑕疵があったとしても,本件商標については,既に登録後5年間の除斥期間を経過し,もはや無効審判を請求することができないものであることは明らかであるから,これを権利濫用の抗弁の根拠とすることはできないというべきである。
 さらに,権利不要求の制度は,我が国においては,現行の商標法に改正された際,撤廃されて存在しない制度である上,米国で「MACKINTOSH」につき権利不要求としたことの理由は証拠上明らかでなく,米国での取扱いが英語を母国語としない我が国で直ちに通用するものでないことは明らかである。

 したがって,本件商標権の行使が権利濫用であるとの被告らの主張は,理由がない。』