知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標中のハングル文字の評価

2011-01-31 22:23:36 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10336
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第5 当裁判所の判断
1 本件商標は,アルファベット(欧文字)の大文字のみからなる「YUJARON」,片仮名からなる「ユジャロン」,ハングル文字からなる「xxx」を概ね同じ大きさ,明朝体ないしこれと同等の書体で,横三段書きしてなる外観を有するものであり,上記アルファベット文字部分,片仮名部分,ハングル文字部分との間で格別の体裁の差は存しない。
・・・
 他方,「xxx」がハングル文字であること自体は我が国の需要者の間でも一般的認識となっていると推測され,この部分を独立の図形として商標の構成を評価するのは相当でなく,この部分も,称呼は判然としないものの何らかの文字を表すものとして,本件商標からは,「YUJARON」と「ユジャロン」の部分を合わせて一体として「ユジャロン」との称呼が生じると解される一方,これは被告株式会社ビュウの代表者が創作した造語であるから(弁論の全趣旨),そこからは特段の観念は生じない。
・・・
 そして,原告及び被告ビュウが遅くとも平成22年3月ころまで使用していたホームページには,「こうみゆずちゃ/香味柚子茶/YUJARON/ユジャロン」と横書きした標章が使用されている(甲6,7 )。
・・・
 そして,商標として使用されたと認められる前記各使用標章からは,「ユジャロン」の称呼が生じることが明らかであるし,本件商標のアルファベット部分又は片仮名部分の一方又は双方と同一の文字列をその構成部分としているものであるから,前記各使用標章と本件商標とは社会通念上同一の商標であると評価することができる。

 なお,「xxx」の部分については前記のとおり図形として評価するよりも文字として評価するのが相当であるから,前記各使用標章と本件商標の外観の相違は,上記評価を左右するものではない

具体的表現が相違するが普遍的な課題を対象としているとして組み合わせを認めた事例

2011-01-31 22:06:32 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10034
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・
(イ) 引用例においては,引用発明の実施例として,一対のロボットを搬送チャンバ内に配置する構成について開示しており,かかる実施例においては,チャンバ内の床と天井が,アームが取り付けられる支持部材に相当するものということができる。
 また,引用発明の特許請求の範囲においては,アーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除されているものではなく,引用例にも,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能が明示されているものである。

 そうすると,当業者が,引用例の記載から,引用例の実施例において開示された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,支持部材を介して周知技術であるコラム型の上下昇降機構に組み合わせることは,容易であるということができる。

 この点について,被告は,引用発明は,ロボットを横方向に2台並べることによる基板処理装置の大型化という課題を解決するために,ロボットのアームを搬送チャンバの天井と床とにそれぞれ対向するように設けたにすぎず,支持部材を上下に移動させてチャンバ以外において使用することを想起することは困難であるなどと主張する。

 しかしながら,本件明細書及び引用例における課題に関する具体的表現が相違するとしても,本件発明及び引用発明は,いずれも産業用ロボットにおいて普遍的な課題というべき省スペース化や可動範囲の拡大を目的とするものである。
 また,周知例3においても,同様の課題が明示されており,シングルアーム型ロボットであっても,ダブルアーム型ロボットであっても,かかる課題は共通であるから,本件審決のように,引用発明について,「二組のアームを有する特別な用途」のものと理解し,シングルアーム型ロボットに適用するための「特別な動機」が必要となるものではない

 さらに,先に指摘したとおり,引用例にも,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能が明示されている以上,被告の主張はその前提を欠くものである。
 被告の主張は採用できない。

過度の試行錯誤を強いるとして実施可能性を否定した事例

2011-01-31 21:42:33 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10105
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判 塩月秀平

 そうすると,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うことの変形例として等容積プロセスの終了点における圧力に対する80%や90%の圧力を設定して,本願明細書に開示されている実質的等容積プロセスの後に等温(燃焼)プロセスの燃焼サイクルに用いられている条件や式を用いて,上記圧力を維持して最高燃焼温度3300゜Rまで増加させる「定圧力プロセス」を行い,次に最高燃焼温度3300゜Rにおける「等温(燃焼)プロセス」を行うための導入タイミングや導入燃料量,各プロセスの開始前,終了後のT(温度),圧力(P),V(容積)といった具体的な条件を設定することが,本願明細書に開示されているということはできない

(2) 原告が主張するように本願発明の燃焼サイクルの各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が計算できたとしても,依然として,各プロセスを生じさせる燃焼噴射タイミングや,各噴射タイミングにおける燃料噴射量をどのように決定するのかが不明である。
 ・・・
 すなわち,本願発明の各プロセスでの容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)については,所望する値を算出することは窺い知ることができたとしても,そのような値となる各プロセスを実現するための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することについては,当業者に過度の試行錯誤を強いる

(3) 以上より,発明の詳細な説明に当業者が容易に本願発明を実施をすることができる程度に発明の構成が記載されているとはいえないとした審決の判断に誤りはない。

複製の主体の判断

2011-01-25 22:05:08 | 最高裁判決
事件番号 平成21(受)788
事件名 著作権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日 平成23年01月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
裁判長裁判官 金築誠志
裁判官 宮川光治、櫻井龍子、横田尤孝、白木 勇

 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。

 すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
 ・・・

<金築誠志裁判官 補足意見>
 法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。
 ・・・
 さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。もっとも,本件は,親機に対する管理,支配が認められれば,被上告人を本件録画の主体であると認定することができるから,上記利益の帰属に関する評価が,結論を左右するわけではない。

原審

(所感)
 この判断基準は何が枢要な行為かきわめてあいまいで、複製の主体が不明確になりすぎると感じる。
 例えば、電源を供給しないと機器は動作しないが、電源を供給することは枢要な行為となるのだろうか。複製に必要な行為の一部でも欠けると複製はできないところ一部実行の全部責任ともできる。そうであれば、あまりに厳しすぎる論理であるように思う。

 アンテナによる信号の入力と入力した信号の複製とは直接的には関係のないことである。また被上告人のサービスが放送されたテレビ番組なくして成り立つかどうかは、誰が複製しているかにはまったく関係のないことではないか。

 原審の認定した事実関係の元では、機器を設置させてもらい複製をしているのは利用者であるとするのが常識的な見方だと思う。常識から乖離した複製権の侵害となる範囲をあまりに広げすぎた論理であると感じるし、「複製」の文言の通常の意味からかけ離れた解釈であると感じる。

自動公衆送信の主体の定義を示し、1対1の送信を公衆送信とした事例

2011-01-19 07:13:18 | Weblog
事件番号 平成21(受)653
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月18日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
裁判長裁判官 田原睦夫
裁判官 那須弘平, 岡部喜代子, 大谷剛彦

(1) 送信可能化権侵害について
ア 送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
 自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。

イ そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。

ウ これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。

 そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。

原審

(疑問点)
「単一の機器宛てに送信する機能しか有しない」場合は仮想的に一本の線で繋がっているに等しいから、そのような状態での送信を「公衆送信」としてよいか。サービス利用者は被上告人と自由に契約できるので不特定の者として公衆にあたるというが、一本の線(専用線)を張り送信する場合でも、不特定の者と張る契約ができる状態であれば公衆送信に当たるというに等しく、行き過ぎではないか。

意匠法4条の解釈-期間外に提出された新規性喪失の例外証明書

2011-01-16 15:56:44 | Weblog
事件番号 平成22(行コ)10004
事件名 異議申立棄却決定取消請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第2 事案の概要(略称は,原判決の略称に従う。)
1 本件は,原審において,控訴人が,意匠登録出願に関し,意匠法4条3項に規定する新規性喪失の例外証明書を,同条項に規定する「意匠登録出願の日から30日以内」の最終日の翌日に提出したところ,特許庁長官から,・・・,平成21年2月20日付けで手続却下の処分(本件却下処分)を受けたので,これに対する異議申立てをしたが,同年8月28日付けで異議申立てを棄却する決定(本件棄却決定)を受けたため,本件却下処分の違法を主張して,本件棄却決定の取消しを求めた事案である。

原判決は,本件棄却決定の取消しを求める本件訴えにおいては,行政事件訴訟法10条2項の規定により,本件棄却決定の違法事由として控訴人が主張し得るのは,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)に限られるところ,控訴人は,本件却下処分の違法を理由として本件棄却決定の取消しを求めるものであって,本件棄却決定に取消しの理由となるべき違法事由があるとは認められないから,本件棄却決定は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。
 なお,原判決は,念のため,控訴人の主張する本件却下処分の違法についても検討し,これを適法であるとした。
 控訴人は,これを不服として控訴するとともに,当審において,原審における主張を踏まえて,本件却下処分の取消しを求める請求を追加した。
・・・

第4 当裁判所の判断
・・・
2 争点2(本件却下処分は取り消されるべきものか否か)につい
・・・
 この点について,控訴人は,当審において,旧規則41条は,例外証明書の提出期間を出願時と定めたものであって,旧特許法,旧規則においても,例外証明書の提出期間等が明文で定められていたものである,最高裁昭和45年判決は,「最長想定出願期限」,「最長想定証明書提出期限」なる概念を前提としている,例外証明書の提出期限が,旧特許法ではなく,旧規則により規定されているとの一事をもって,最高裁昭和45年判決を無視し,意匠法4条に関し,杓子定規の文理解釈をすると,意匠法4条改正による出願人の保護強化の趣旨を没却させるなどと主張する。
 しかしながら,旧規則41条は,例外証明書を願書に添付することを定めたのみで,その提出期限まで明文で定めていなかったからこそ,最高裁昭和45年判決が指摘するとおり,出願自体が許される期間までであれば,上記証明書の追完を認める余地があるにすぎず,最高裁昭和45年判決は,意匠法4条のように,出願自体に一定の期間を設けた上で,さらに出願時から一定期間について例外証明書の提出期間を定めた場合において,出願が許される期間と例外証明書の提出期間とを通算して,明文規定により許された期間を逸脱した「最長想定証明書提出期限」なる概念を前提としたものということはできない
 また,意匠法4条は,6か月の出願期間に加え,出願から30日の例外証明書提出期間を設けているところ,出願期間の範囲内において,出願人自らが出願日を任意に選択し得るのであるから,その出願日から30日以内に例外証明書の提出を要求したからといって,出願人の保護に欠けることはない。

容易想到性の判断手法

2011-01-16 15:02:02 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10229
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 審決は,刊行物1(甲1)を主引用例として刊行物1記載の発明を認定し,本願発明と当該刊行物1記載の発明とを対比して両者の一致点並びに相違点1及び2を認定しているのであるから,甲2及び甲3記載の周知技術を用いて(・・・),本願発明の上記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であるとの判断をしようとするのであれば,刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用して(・・・),本願発明の前記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くことが必要である。

 しかし,審決は,相違点1及び2についての検討において,逆に,刊行物1記載の発明を,甲2及び甲3記載の周知技術に適用し,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの論理づけを示している(審決書3頁28行~5頁12行)。
・・・ そうすると,審決は,刊行物1記載の発明の内容を確定し,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点を認定したところまでは説明をしているものの,同相違点に係る本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るか否かについては,何らの説明もしていないことになり,審決書において理由を記載すべきことを定めた特許法157条2項4号に反することになり,したがって,この点において,理由不備の違法がある。

 これに対し,被告は,審決では,・・・,刊行物1記載の発明と上記従来周知の金型とを組み合わせて1つの発明を構成するに当たり,刊行物1記載の発明を上記金型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に相違はないから,理由不備の違法はないと主張する。
 しかし,被告の上記主張は,採用の限りでない。
 すなわち,仮に,審判体が,本願発明について,当業者であれば,金型に係る特定の発明を基礎として,同発明から容易に想到することができるとの結論を導くのであれば,金型に係る特定の発明の内容を個別的具体的に認定した上で,本願発明の構成と対比して,相違点を認定し,金型に係る特定の発明に,公知の発明等を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易であったといえる論理を示すことが求められる
 金型に係る特定の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合は,刊行物1記載の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合と,相違点の認定等が異なることになり,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到できたか否かの検討内容も,当然に異なる。
 そうすると,刊行物1記載の発明を主引用例発明としても,従来周知の金型を主引用例発明としても,その両者を組み合わせた結果に相違がないとする被告の主張は,採用の限りでない。

特許法195条2項(別表11)の規定の趣旨

2011-01-16 14:44:32 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10208
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 原告は,本願の請求項2は,請求項1に従属しない独立した請求項であるから,これを審理の対象外とする合理的な理由はなく,また,審判請求時に請求項の数に応じた審判請求料の納付を求める特許法195条の立法趣旨からみても,請求項2に係る発明に対する審理,判断をすべきであるのに,審決は本願の請求項1に係る発明に対してのみ審理判断をし,請求項2に係る発明に対する審理,判断を遺脱したから,誤りであると主張する

 しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用の限りでない。
 すなわち,拒絶査定を受けた出願人が,基本手数料額に,請求項数に一定額を乗じた額を加えた額の手数料を納付しなければ拒絶査定不服審判を受けることができないとの特許法195条2項(別表11)の規定は,特許がされる場合にはすべての請求項について審理判断がされることに対応するものであると解すべきである。同規定があるからといって,特許出願に係る発明中に特許をすることができないものがあるときに,その特許出願を全体として拒絶することについて,妨げとなるものではない(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10020号平成20年6月30日判決,最高裁判所平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 本願の請求項1に係る発明が特許法29条2項の規定に該当して特許を受けることができないものであるときは,本願の請求項2に係る発明がたとえ独立の請求項であって特許性を有する場合であったとしても,その請求項2に係る発明について審理判断するまでもなく,本願は,全体として拒絶されるべきものといえる。

無効審判事件の訂正請求が確定していない場合の法104条の3第1項の判断

2011-01-11 21:51:54 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)3409
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

1 第2の1「争いのない事実等」(7)に記載のとおり,被告方法は本件発明の技術的範囲に含まれると認められる(なお,この点については,当事者間に争いはない。)。

 被告は,第3「争点に関する当事者の主張」1ないし4の〔被告の主張〕に記載のとおり,本件発明は進歩性を欠き特許法29条2項に違反して特許されたものである(争点1-1),本件発明は先願発明と同一であり特許法29条の2に違反して特許されたものである(争点1-2),本件発明に係る本件明細書の記載は改正前特許法36条4項に違反するものである(争点1-3),並びに,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に違反するものである(争点1-4)として,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると主張する

 ところで,本件特許については,その無効審判事件(無効2009-800082号)において,本件訂正の請求がされており,同訂正はいまだ確定していない状況にある。このような場合において,特許法104条の3第1項所定の「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」とは,当該特許についての訂正審判請求又は訂正請求に係る訂正が将来認められ,訂正の効力が確定したときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。

したがって,原告は,被告が,訂正前の特許請求の範囲の請求項について無効理由があると主張するのに対し,①当該請求項について訂正審判請求又は訂正請求をしたこと,②当該訂正が特許法126条又は134条の2所定の訂正要件を充たすこと,③当該訂正により,当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること,④被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属すること,を主張立証することができ,被告は,これに対し,訂正後の請求項に係る特許につき無効事由があることを主張立証することができるというべきである

相違点の解決課題を想定しない副引用例

2011-01-10 21:26:35 | Weblog

事件番号 平成22(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


・・・本願発明は,上記問題を解決するため,トラクションシーブの被覆材が消失したり,損傷を受けたりするという異常事態となった場合,エレベータを最適な形で長時間運転させるということではなく,必要な期間だけ安全に動作させることを目的として,トラクションシーブと巻上ロープとの間に十分な把持力が得られるように選択された材料のペアを形成する(段落【0004】【0006】)。かかる材料のペアによれば,トラクションシーブの被覆材が消失したり,損傷を受けたりするという異常事態においても,巻上ロープは,トラクションシーブに食い込むため,トラクションシーブと巻上ロープとの間に十分な把持力が得られ,エレベータの機能及び信頼性が保証される上,トラクションシーブに使用する材料を巻上ロープの材料より柔軟にすると,巻上ロープ自体が損傷を受ける可能性が相当小さいため,多くの場合,トラクションシーブを交換すればよく,巻上ロープを交換する必要がないため,相当にコストが削減できるという効果を奏する(段落【0006】【0007】)。
・・・
 他方,前記(2)によれば,引用文献1記載の発明2は,トラクションシーブの表面の被覆材が失われた場合に,巻上ロープがトラクションシーブに入り込んで把持力を確保し,トラクションシーブと巻上ロープが共同して安全確保手段を形成する点では,本願発明と一致しているものの,その構成は,U字形ないしV字形のトラクションシーブ溝の接触部で,くさび効果により,ロープとの強い摩擦力を得ることにより,エレベータの落下事故などを防止するものであって,「材料のペア」及び「即時のトラクションシーブの変形」に関する技術思想の記載又は開示はない
 また,前記(3)によれば,引用文献2記載の技術においては,トラクションシーブの表面に被覆材がなく,トラクションシーブの溝の側面のみが,常にロープと接触する溝形状としたエレベータにおいて,巻上ロープ外層線がシーブとの繰り返し接触により徐々に塑性変形し,表面層が加工硬化してもろくなり,やがて断線に至ることを防止し,より耐摩耗性を高めることを解決課題として,シーブ及びロープの硬度を所定以上のものとする等の構成を採用したものである。

 以上のとおり,本願発明は,異常事態が発生した場合に,巻上ロープをトラクションシーブに食い込ませ,シーブとロープとの間に十分な把持力が得られるようにして,エレベータの機能及び信頼性を保証させるものであり,異常事態が発生したときにおける,一時的な把持力の確保を図ることを解決課題とするものである。また,引用文献1記載の発明2も,本願発明と同様に,何らかの原因よって高摩擦材が欠落するような異常事態が生じた場合を想定し,その際,ワイヤロープがU字形またはV字形のトラクションシーブ溝の接触部で接触し,この部分で摩擦力を得ることによって,エレベータ積載荷重を確保させることを解決課題とする発明である
 これに対して,引用文献2記載の技術は,上記のような異常事態が発生した場合における把持力の確保という解決課題を全く想定していない。そうすると,本願発明における引用文献1記載の発明2との相違点に関する構成に至るために,引用文献2記載の技術を適用することは,困難であると解すべきである。

新規事項の追加であるとされた事例

2011-01-10 21:20:57 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

1 取消事由1(本件補正の適否に係る判断の誤り)について
 本件補正は,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)について,
「該材料のペアによって,前記トラクションシーブの表面の被覆材が失われた後に,前記巻上ロープは前記トラクションシーブに食い込むことを特徴とするエレベータ」を
「該材料のペアは,前記トラクションシーブの表面の被覆材が失われた場合,該トラクションシーブが前記巻上ロープによって少なくとも部分的に破損して該巻上ロープを把持する材料の組み合わせであることを特徴とするエレベータ。」
とするものである。
 そこで,本件補正における付加変更された部分が,旧特許法17条の2第3項所定の「明細書又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かについて判断する。

(1) 当初明細書等には,以下の記載がある。
・・・
 そして,上記(1)の「トラクションシーブは,トラクションシーブ材料にロープを効果的に食い込ませる材料で作られる。」,「巻上ロープの材料より柔軟で,巻上ロープをトラクションシーブに食い込ませる材料より柔軟な材料をトラクションシーブに使用すると,巻上ロープを保護する効果が得られる。巻上ロープ自体が損傷を受けることはまずないため,巻上ロープはその特性を維持しながらトラクションシーブ材料に食い込む。」などの詳細な説明部分を前提とするならば,当初明細書等に記載された「前記巻上ロープは前記トラクションシーブに食い込む」とは,せいぜい,巻上げロープがトラクションシーブの内部に,入り込むことを意味するものであって,トラクションシーブを欠損させたり,亀裂を入れたり,傷つけたりするなどの態様で変化させることを含む意味として,説明されていると理解することはできない。

 そうすると,本願補正において「該トラクションシーブが前記巻上ロープによって少なくとも部分的に破損して」と付加変更された部分は,巻上ロープがトラクションシーブを部分的にこわすことを意味し,トラクションシーブが欠損したり,亀裂が入ったり,こわれたりする状態に至ることを含むものと理解すべきであるから,本件補正は,本件補正前の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものというべきである。

私的録音録画補償金制度の趣旨に妥当しない「特定機器」

2011-01-10 20:25:37 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)40387
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(b) また,被告の上記主張が,地上デジタル放送において著作権保護技術(平成20年7月4日以降はダビング10)による複製の制限が行われている現状を前提に,そのような現状の下におけるデジタル放送のみを録画することが可能なアナログチューナー非搭載DVD録画機器には,私的録音録画補償金制度の趣旨は妥当しないから,アナログチューナー非搭載DVD録画機器は法30条2項及び施行令1条2項3号の特定機器には含まれない旨を述べるものであるとすれば,そのような主張は,法令解釈の枠を超えたものというほかない

 すなわち,施行令1条2項3号が規定する特定機器の範囲は,同号を施行令に追加した平成12年改正政令が公布された平成12年7月14日の時点において客観的に定まっていなければならないのであり,同号は,このように特定機器の範囲を客観的に特定するための要件を,当該機器に係る録画の方法,標本化周波数,記録媒体の技術仕様等の技術的事項によって規定していることは明らかである。

 ところが,被告の上記主張は,平成15年12月1日に地上デジタル放送が開始され,その中で,地上デジタル放送について平成16年4月5日からはコピー・ワンス,平成20年7月4日からはダビング10による複製の制限が行われているという事実,すなわち,施行令1条2項3号制定後に生じた事実状態のいかんによって,同号が規定する特定機器の範囲が定まるとするものにほかならないものであり,結局のところ,被告の上記主張の実質は,施行令1条2項3号が規定する特定機器の要件(上記技術的事項)に該当するものであっても,同号制定後の地上デジタル放送における著作権保護技術の運用の実態の下では,私的録画補償金の対象とすべき根拠を失うに至ったから,同号の特定機器からこれを除外するような法又は施行令の改正をすべきである旨の立法論を述べるものにすぎないといわざるを得ない

アナログチューナー非搭載DVD録画機器は,施行令1条2項3号の特定機器に該当するか

2011-01-10 20:12:47 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)40387
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告各製品の特定機器該当性)について
(1) 施行令1条2項3号の特定機器
 原告は,被告各製品は,・・・特定機器(・・・)に該当する旨主張する。
 これに対し被告は,・・・,アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品は,施行令1条2項3号の特定機器に該当せず,また,同号柱書きの・・・「アナログデジタル変換が行われた影像」とは,デジタル方式の録画の機能を有する機器の内部でアナログデジタル変換(AD変換)が行われた影像に限定されるから,アナログチューナーを搭載していない・・・被告各製品は,・・・,同号の特定機器に該当しないなどと主張して争っている。
・・・

(2) 施行令1条2項3号柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義
ア 法30条2項は,・・・と規定し,私的録音録画補償金の対象となる「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」は,「政令で定めるもの」として,その具体的な機器の指定を政令への委任事項としている。
 このように法30条2項が私的録音録画補償金の対象となる「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」の具体的な機器の指定を政令への委任事項とした趣旨は,私的録音録画補償金を支払うべき機器の範囲を明確にするためには,・・・客観的・一義的な技術的事項により特定することが相当であり,しかも,・・・技術開発により新たな機能,技術仕様等を備えた機器が現れ,普及することが想定され,このような機器を私的録音録画補償金の対象とするかどうかを適時に決める必要があること,逆に,・・・適時に除外する必要があることなどを考慮し,具体的な特定機器の指定については,法律で定める事項とするよりも,政令への委任事項とした方がより迅速な対応が可能となるものと考えられたことによるものと解される。
 このような法30条2項の趣旨に照らすならば,法30条2項の委任に基づいて制定された「政令」で定める特定機器の解釈に当たっては,当該政令の文言に忠実な文理解釈によるのが相当であると解される。
・・・
 施行令1条2項3号は,上記のとおり,同号に係る特定機器において固定される対象について,「アナログデジタル変換が行われた影像」と規定するのみであり,特に「アナログデジタル変換」が行われる場所についての文言上の限定はない。
 ・・・
 このように施行令1条の文言においては,同条2項3号の特定機器において固定される対象について,「アナログデジタル変換」すなわち「アナログ信号をデジタル信号に変換する」処理が行われた「影像」であることが規定されるのみであり,当該変換処理が行われる場所的要素,すなわち,当該変換処理が当該機器内で行われたものか,それ以外の場所で行われたものかについては,何ら規定されていない。
・・・
 してみると,特定機器に関する法30条2項及び施行令1条の各文言によれば,施行令1条2項3号の「アナログデジタル変換が行われた影像」とは,変換処理が行われる場所のいかんに関わらず,「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと解するのが相当である。
・・・
イ 前記第2の3(4)アのとおり,被告各製品は,いずれもデジタルチューナーを搭載しており,地上デジタル放送,BSデジタル放送及び110度CSデジタル放送の各デジタル放送を受信し,その影像をDVDに録画する機能を有する機器である。他方,デジタル放送においてデジタル信号として送信される影像の大部分は,もともとアナログ信号であったものについて,撮影から放送に至るいずれかの過程においてデジタル信号に変換する処理が行われているものと考えられる(デジタルビデオカメラで撮影された影像の場合には,当該デジタルビデオカメラ内において,アナログビデオカメラで撮影された影像の場合には,放送局内の設備において,アナログ信号からデジタル信号に変換する処理が行われているものと考えられる。)。
 したがって,被告各製品は,「光学的方法により,アナログデジタル変換が行われた影像を,連続して固定する機能を有する機器であること」(施行令1条2項3号柱書き)の要件を満たすものといえる。

廃墟写真の先駆者の営業上の利益は法的保護に値する利益か

2011-01-10 13:43:23 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)451
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

原告は,廃墟写真において被写体となった「廃墟」が,一般には(少なくとも作品写真の被写体としては)全く知られておらず,それらの存在を認識し,かつ,それらに到達して作品写真に仕上げるまでに,極めて特殊な調査能力と膨大な時間を要していること,このノウハウと作品写真に仕上げるまでに要した多大な労力を根拠に,廃墟写真において被写体となった「廃墟」が,最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されることによって生ずる営業上の利益,すなわち,当該廃墟を作品写真として取り扱った先駆者として,世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益は,法的保護に値する利益であり,具体的には,・・・こととなるが,そのような原告の地位は,多大な費用と労力をかけて被写体たるに相応しい廃墟を発掘するプロの写真家たる原告にとって,投下資本の回収可能性を支えるものであり,このような意味での営業上の利益である旨主張する。

 しかしながら,「廃墟」とは,一般には,「建物・城郭・市街などのあれはてた跡」をいい(広辞苑(第六版)),このような廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体は,当該廃墟が権限を有する管理者によって管理され,その立入りや写真撮影に当該管理者の許諾を得る必要がある場合などを除き,何人も制約を受けるものではないというべきである

 このように廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体に制約がない以上,ある廃墟を最初に被写体として取り上げて写真を撮影し,作品として発表した者において,その廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても,そのことから直ちに他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限したり,その廃墟写真を作品として発表する際に,最初にその廃墟を被写体として取り上げたのが上記の者の写真であることを表示するよう求めることができるとするのは妥当ではない

 また,最初にその廃墟を被写体として撮影し,作品として発表した者が誰であるのかを調査し,正確に把握すること自体が通常は困難であることに照らすならば,ある廃墟を被写体とする写真を撮影するに際し,最初にその廃墟を被写体として写真を撮影し,作品として発表した者の許諾を得なければ,当該廃墟を被写体とする写真を撮影をすることができないとすることや,上記の者の当該写真が存在することを表示しなければ,撮影した写真を発表することができないとすることは不合理である。

 したがって,原告が主張するような,廃墟写真において被写体となった「廃墟」を最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されるこによって生ずる営業上の利益が,法的保護に値する利益に当たるものと認めることはできない。