知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

一体的かつ有機的に結合した発明に複数引用例を用いることはできないか

2008-09-28 22:39:26 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10013
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) 取消事由1(本願発明を分割して把握した誤り)について
ア 原告は,本願発明には,「本件一体構成は一体的かつ有機的に結合されており,これを分割することはできない」という技術的思想が内在しており,これを分割すると本願発明の本質が変わり,目的を達成することができなくなるから,本願発明の進歩性を判断するに当たっては,本件一体構成を一体的かつ有機的に結合した発明が開示された引用例を用いるべきであり,これを用いずに進歩性を肯定した審決は違法である旨主張する

 しかし,特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けることができない。」として,ある発明が,一定の構成を組み合わせて特定の技術的意義を獲得するに至る場合であると否とにかかわらず,既存の発明(特許法29条1項各号に定める発明)からみて容易想到であれば進歩性に欠けることになる旨を規定するのであって,その進歩性の判断において,進歩性が問題とされる発明の構成と既存発明の構成とが一致することは必須の前提とされるものではない

そうすると,前記2に認定したとおり,本願発明は本件一体構成が一体となっている点に特徴を有し,これにより前記認定の効果を奏するものであるとしても,本願発明の進歩性を判断するに当たっては,必ずしも常に本件一体構成を一体的かつ有機的に結合した発明が開示された引用例を用いるべきものでもない

また,本願発明における構成(B)はラッチの形状・機構等の構成を規定し,構成(D)はラッチに一体形成された突部の形状・機構等の構成を規定し,構成(G)はレバーハンドルを固設するためにラッチに設けられる構成を規定するとともに本願発明の機能上の特徴を述べたものであるが,これらは,いずれも一体形成されたラッチに関するものである点で共通するものの,技術的思想としてはいずれも別個独立のものとして観念することが可能なものである以上,そのようにして切り離された一部の構成に相当する引用例(既存発明)を選択し,これとの組合せの関係で進歩性を論じることができないということはない

もとより,ある発明の進歩性を検討するに当たり,当該発明における一部の構成のみが開示された引用例を用いた場合には,当該引用例に係る既存発明の構成と残余の構成との組合せが容易想到であるか問題となるが,このような意味における審決の容易想到性の判断に誤りがないことは,後記イのとおりである。

 したがって,原告の上記主張は失当といわざるを得ず,取消事由1に係る原告の主張は採用することができない。

本願請求項に記載の事項と引用文献との対比

2008-09-28 11:58:36 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10090
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

3 本件発明1の被覆層部
(1) 本件発明1の粒状の排泄物処理材は,上記第2の2のとおり,「・・・ことを特徴とする」ものであるところ,発明特定事項中「糊料」が粘着力を有することは明らかであるから,本件発明1において,「紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部」は,被覆層部が含有する糊料の粘着力によって「粒状芯部」に付着するものであると推認することができるものの,上記付着の仕組みについては,特許請求の範囲の記載のみから一義的に明らかであるとまではいえない。そこで,以下において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する。

(2) ・・・
 上記各記載によると,本件明細書に記載された発明において,被覆組成物は・・・被覆層部を粒状芯部に付着させるために,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」のような接着剤層を必要とするものではないと認められる。
 そうすると,本件発明1に係る被覆層部及び被覆層部と粒状芯部の付着についても上記のとおりのものであると理解することができる


 この点に関して,原告は,本件明細書には「本発明において,接着剤としては,例えばα澱粉等の糊料」(段落【0026】)を使用することが記載されているから,本件発明1において,被覆層部に含有された「糊料」が粒状芯部の水分を吸収すると,必然的に溶解して粒状芯部と被覆層部の界面に「水溶性接着剤層」を形成し,粒状芯部に被覆層部を一体に結合する構造となると主張する

 確かに,本件明細書には,「・・・」(段落【0039】)との記載があることから,本件発明1において,粒状芯部と被覆層部の界面付近に存在する「糊料」が被覆層部の粒状芯部への付着に何らかの寄与をするものと推認することもできるが,
 「糊料」は・・・被覆組成物が含有する混合物の一要素となっているものであり,少なくとも,被覆層部とは別の「水溶性接着剤層」を形成するものでないことは明らかであるし,また,
 「糊料」は,尿で濡れた粒状の排泄物処理材同士が,被覆層部を介して,互いに結着するために混合されるものであり,「水溶性接着剤層」を形成するためのものではないことは,本件明細書の前記各記載に照らし明らかである
から,原告の主張を採用することはできない。

引用文献の請求項に記載の事項の認定

2008-09-28 11:55:54 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10090
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
 原告は,審決が,本件発明1と甲1発明の相違点として,「被覆層部」が,本件発明1では,粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものである点を,相違点1として認定したことは誤りであると主張するので,以下において検討する。

1 甲第1号証の記載
・・・
2 甲1発明の水溶性接着剤層
 上記1によると,甲第1号証の特許請求の範囲の請求項6に関する記載から認定することができる甲1発明における「水溶性接着剤層」は,吸水性粒状体に水溶性接着剤をスプレーして形成される「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」であり,
 このような非連続水溶性接着剤層を介して吸水性粒状体と吸水性表層が強固に層着されるため,吸水性表層の成分の剥落が防止され,吸水性粒状体と吸水性表層の複合構造が健全に維持されるとともに,
 排尿時には接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透することにより,非水溶性顔料粉末により吸水性表層を発色させて,使用部分と未使用部分を的確に判別することができるという効果を奏するものであるということができる。

 そして,甲第1号証において,「水溶性接着剤層」に「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」でないものが含まれることを示唆する記載は認められない。

 なお,原告が主張するとおり,上記請求項6は単に「水溶性接着剤層」と規定しているが,甲第1号証の発明の詳細な説明において,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」に限定されない「水溶性接着剤層」についての記載やそのような限定されない「水溶性接着剤層」の奏する効果についての記載は存在しない(・・・。)から,甲第1号証から認定することができる粒状形の動物用排尿処理材の発明において,「水溶性接着剤層」が「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」に限定されないものであると理解することはできない

本願発明に含まれる一部の実施例は記載されている場合

2008-09-21 15:56:30 | 特許法36条4項
事件番号 平成20(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

イ検討
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の記載(前記第2,2)及び段落【0032】の記載(前記ア(カ))によれば,本願発明1ないし4において,「複数のブロック単体を係合により結合させて構成され特定の意味を持つ対象物」は,発明の詳細な説明に実施例(前記ア(エ),(オ))として記載された「うさぎ」や「鳥」に限定されていない

(イ) 対象物を「うさぎ」とする実施例に関する記載(前記ア(エ))において,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形成されている」(段落【0019】)と説明されている。
 しかし, 「うさぎ」の各部分と「R 」, 「A 」, 「B 」, 「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係については,単に1つの例(・・・ ) が示されているにとどまり, ① 「うさぎ」の各部分と「R」,「A」,「B」,「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,②各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。

(ウ) 対象物を「鳥」とする実施例に関する記載(前記ア(オ))においても,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形成されている」(段落【0028】)と説明されている。
 しかし,「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体の対応関係については,単に1つの例(・・・)が示されているにとどまり,①「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,②各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。

(エ) 発明の詳細な説明の記載を検討しても,「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外の場合について,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない

(オ) 以上によれば,少なくとも「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外の場合には,発明の詳細な説明において,①「対象物の名称の綴りから構成されアルファベットからなる」各々の「ブロック単体」を「対象物」のどの部分に対応させるのか,②「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係をどのように決定するのか,ということについて,何ら具体的な指針が示されていないから,当業者が本願発明1ないし4を実施しようとすれば,過度の試行錯誤が必要となるといわざるを得ない

そうすると,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできず,これと同旨の理由(1)アに係る審決の認定判断に誤りはない。

商標法4条1項8号の解釈-人格的利益を有するか否か

2008-09-21 15:55:36 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10142
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
1 取消事由について
(1) 商標法4条1項8号は,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を含む商標について,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとするものであるが,この規定の趣旨は,人が,自らの承諾なしに,その肖像,氏名,名称等を商標に使われることがない人格的利益を有していることを前提として,このような人格的利益を保護することにあるものと解するのが相当である(最高裁平成17年7月22日判決・集民217号595頁)。

 そして,かかる見地からすれば,肖像,氏名,名称のほか,これらと同様,特定人の同一性を認識させる機能を有する雅号,芸名,筆名について,また,氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称についても,同号による保護を及ぼす必要が生ずるが,氏名,名称が,ほとんどの場合に,出生届出や登記申請等の所定の手続を経て決定され,戸籍簿や登記簿等の公簿により確認することができるのに対し,雅号,芸名,筆名や上記各略称は,無方式で決定され,これを確認する定まった手段等もないのが通常であって,このような意味で恣意的ないし曖昧な部分を残し,当人の認識と周囲の認識との間に食い違いが生ずるような場合もあり得ることを考慮して,同号は,雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称については,同号による保護の要件として,著名であることを必要としたのに対し,氏名,名称については,著名であることを要しないものとしたと解することができる

 もっとも,同号の適用に当たり,他人の氏名,名称等を含む商標について,当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは,著名性を要する雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称に関して,著名性の有無を判断する際の1要素となり得ることは格別,同号の規定上,人格的利益の侵害のおそれそれ自体が,独立した要件とされているものではない

(2) しかるところ,上記第2の1の(1)のとおり,本件商標の構成中の漢字部分のうち,第1字目は「霊(靈)」の,第3字目は「会(會)」のそれぞれ異体文字と認められるから,同部分は実質的に「霊友会」と書されているのと同じというべきであり,この点は,原告も争っていない。
 そして,「霊友会」は,本件の登録異議申立人である霊友会の名称(フルネーム。甲第15号証の1,2)の表記そのものであるから,本件商標が,他人の名称を含むものであることは明らかであり,かつ,当該「他人」である霊友会の承諾を得ていないことは,原告も自認するところである。そうすると,本件商標は,商標法4条1項8号により商標登録を受けることができないものであるといわざるを得ない


(3) 原告は,商標の使用により他人の人格的利益を侵害するおそれがある場合に初めて,当該商標が商標法4条1項8号の「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を含む商標に該当するものと解すべきである旨主張する
 しかしながら,同号の立法趣旨が,氏名,名称等を,承諾なく商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあるものとしても,上記のとおり,同号の規定上,他人の氏名,名称等を含む商標が,当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは,同号適用の要件とされているものではない。すなわち,同号は,他人の肖像,氏名,名称を含む商標,並びに他人の著名な雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の著名な略称を含む商標については,そのこと自体によって,上記人格的利益の侵害のおそれを認め,商標登録を受けることができないとしているものと解されるのである
したがって,原告の上記主張は失当である。


(4) 仮に,他人の氏名を含む商標であっても,その使用が当該他人の人格的利益を侵害するおそれが全くない場合には,商標法4条1項8号の適用がなく,当該商標の登録を受けることができると解するとしても,本件においては,本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれが全くないとの事実を認めるに足りる証拠はない。

 この点につき,原告は,天理教事件最高裁判決を引用,・・・,本件商標の登録が霊友会の人格的利益を侵害するものということはできないと主張する。

 しかしながら,天理教事件最高裁判決の原告の引用する判示部分は,宗教法人が,その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,人格権に基づきその侵害行為の差止めを求め得ることを一般的に肯定した上,他方で,宗教法人は,その名称に係る人格的利益の1内容として,名称使用(教義を簡潔に示す語を冠した名称の使用を含む。)の自由を有するから,甲宗教法人の名称と同一又は類似の名称を乙宗教法人が使用している場合において,当該行為が甲宗教法人の上記権利を違法に侵害するものであるか否かは,乙宗教法人の名称使用の自由に配慮し,甲宗教法人の名称の周知性や乙宗教法人が当該名称を使用するに至った経緯等の諸事情を総合して判断すべきであるとし,当該事案に係る具体的事情の下では,乙宗教法人に相当する被上告人の名称使用が,甲宗教法人に相当する上告人の名称を冒用されない権利を違法に侵害するものではないと判断したものである。

 すなわち,天理教事件最高裁判決が,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)について判示したものであることはそのとおりであるとしても,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)を違法に侵害するか否かが問われているのは,他の宗教法人の名称の使用行為であり,当該他の宗教法人も,その人格的利益の1内容として,名称使用(教義を簡潔に示す語を冠した名称の使用を含む。)の自由を有するゆえに,当該名称使用行為が違法な侵害行為とされるか否かの判断に当たっては,その名称使用の自由に配慮し,上記諸事情を考慮すべきものとしているのである

 これに対し,本件において,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)を侵害するおそれがないといえるかどうかが問題となるのは,商標の登録ないしその使用行為であり,かかる行為は,商標を使用する者の業務上の信用(商標法1条参照)という,取引社会における経済的利益に係るものであって(現に,本件商標に係る指定商品及び指定役務の大部分は,宗教法人の本来的な宗教活動やこれと密接不可分な関係にある事業と直接の関係を有するものではない。),宗教法人の名称の使用がその人格的利益に基づくのと比べ,法的利益の性質を全く異にするものであるといわざるを得ない。

 そうすると,天理教事件最高裁判決が指摘したのと同様の諸事情により,本件における,本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれがないといえるか否かの判断をなし得るというものでないことは明らかであり,かかる意味で,天理教事件最高裁判決は,本件と事案を異にするものである。

次も同趣旨を判示。
事件番号 平成20(行ケ)10143
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟

拒絶査定の「備考」で言及しない請求項の拒絶審決の手続違背の有無

2008-09-21 15:54:57 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10340
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 取消事由1(意見書提出の機会が与えられなかった手続上の違反)について
 原告は,本件拒絶査定には,請求項1が容易想到であるとの判断のみ記載され,請求項31についての判断は記載されていなかったから,本件の審判手続において,請求項31に関する拒絶理由通知を発するべきであるにもかかわらず,そのような手続をしなかった点において,審判には,意見書及び補正書の提出の機会を与えなかった手続上の瑕疵があり,審決は違法であると主張する
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
・・・


(2) 判断
 上記認定した手続経緯に基づいて判断する。
 拒絶理由通知においては,その「理由1」において,「請求項1-5,9-15,17-20,24-33について」と明示しているのであるから,審査官が,出願時の請求項31に係る発明について,「理由1」に記載した拒絶理由が存在する旨を通知したことは明らかである

 原告は,請求項31に係る発明についても,同拒絶理由に対して,補正と意見書を提出しているのであるから,拒絶理由に,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかについて,不明確な点はない。

 次に,拒絶査定においては,「この出願については,平成16年4月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」と明示しているのであるから,審査官が,請求項31に係る発明についても,拒絶理由通知(「理由1」)と同一の拒絶理由が存在すると判断したことは明らかであり,拒絶査定には,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかについて不明確な点はない

 この点,拒絶査定では,「備考」として,原告が意見書に記載した点のうち,特に「引用文献1には,・・・請求項1記載の発明の特徴点が記載も示唆もされていない・・・」との主張に対して,上記の拒絶理由で指摘した引用文献1,引用文献2を根拠として,原告の述べた意見書の主張が失当である理由を具体的に記載することによって,原告の主張を排斥している
 しかし,拒絶理由において,このような判断内容が「備考」欄において記載されたからといって,その体裁,内容に照らして,拒絶査定の理由が,請求項1に対する拒絶理由に限定され,他の請求項に対する拒絶理由が解消されたと読まれる合理的な根拠はない
すなわち,拒絶査定の備考欄の記載は,「初期値から1組の疑似ランダムパターンを生成する」「動作の決定論的段階において,テスタから1組の圧縮された決定論的テストパターンを供給する」(判決注下線部は補正箇所)などとの事項を補正した請求項1についてもなおかつ拒絶理由通知に記載された「理由1」と同じ拒絶の理由が存在し,これにより拒絶されるべきものであるとの判断を示したものと理解するのが自然であるから,そのような判断が備考欄に追加付記されたことによって,その余の請求項についての拒絶理由が解消したと理解される余地はない。)。

 のみならず,原告は,審判手続において,請求項31を含む他の請求項13,17,33について,補正をし,各請求項について,進歩性について意見を述べているのであって,原告自身も,拒絶理由が請求項1に限られたものでないと理解していたことが推認される

 以上の経緯に照らすならば,審判手続において,意見書等提出の機会を与えなかったために,実質的に原告の利益保護を欠いたとする手続違背はない。

周知事項認定の根拠の記載

2008-09-21 15:54:07 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10340
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 取消事由2(相違点2の容易想到性判断の誤り)について
 原告は,審決には,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づいて周知事項を認定したか明示していない点において理由不備があり,また,・・・旨を主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。

・・・

(4) 周知技術の認定及び容易想到性の誤りについて
 以上のとおり,甲10ないし甲12には,いずれも「1組の決定論的テストパターンを生成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手段」を「回路」内に設ける技術が開示されている。
 原告は,審決には,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づいて,上記の周知事項を認定したかを明らかにしていない理由不備の違法があると主張する

 しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,審決は,
「『・・・』する手段を用いること,および,『・・・』を回路に設けることは,優先日前に頒布された刊行物である特開平11-174126号公報(特に,段落【0015】~【0017】および図1における,『アドレスカウンタ119』と『補助パターン記憶メモリ116』とからなる構成,および「セレクタ108」についてそれぞれ参照)(判決注甲10),・・・, pages 1188-1200(判決注甲11),および・・・, PAGE(S) 426-433(判決注甲12) に示されているとおり周知のことであり,」
と記載して,周知事項の根拠を説示している(審決書11頁5行目以下)。

 そして,甲11及び甲12については,論文集の一部を特定,抜粋することにより,説示したものであるが,前記(3),(4)で検討したとおり,特定抜粋部分は,図面を含み,全体の論旨を明確に示したものであること,特定抜粋部分の分量も,それぞれ13頁,8頁であって,出願人に大して過大な検討を強いるものではないこと,甲10の具体的な説示部分と相まって,審決の指摘した趣旨が十分に把握できるものであること等に照らすならば,審決における周知事項の説示が不明確であるとの原告の主張は理由がない



防御権行使の機会の有無の判断事例

2008-09-14 11:18:38 | 特許法50条
事件番号 平成20(行ケ)10045
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹


2 取消事由2(手続的瑕疵)について
(1) 原告は,本件特許出願の審査をした審査官は,本願発明の原料ガスであるフロンガスと,刊行物1の原料ガスであるCF4とが相違すると認めていたとした上で,審決が,原告の主張に対し,
「出願人(判決注・原告)は塩素を含まない単なるフッ化炭素と,塩・フッ化炭素とで化学プロセスが異なる旨主張するが,フロンには,これら両者が含まれるので,この主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用できない。」
と説示したことを捉え,審判官は,拒絶査定の理由とは異なる特許法36条6項1号の拒絶の理由を発見したということになるから,審判において拒絶理由を通知すべきであったにもかかわらず,審判段階で拒絶理由通知はなされていないから,審決は同法159条2項,50条に違背すると主張する


 しかしながら,同法50条の「審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。」との規定,及び同法159条2項の「第五十条・・・の規定は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。」との規定によれば,拒絶査定不服審判において,拒絶査定による拒絶の理由とは異なる拒絶の理由により,拒絶査定を維持し,審判請求を不成立とする審決をする場合には,審判請求人に対し改めて拒絶理由通知をする必要があるものの,仮に,審判合議体が,拒絶査定による拒絶の理由のほかに,これと異なる拒絶の理由を発見したとしても,その異なる拒絶の理由を,審決における拒絶の理由とするのでなければ,審判請求人に対し,その異なる拒絶の理由を改めて通知する必要がないことは明らかである

 ・・・したがって,審決における拒絶の理由は,拒絶査定による拒絶の理由に含まれるものであって,これと異なる拒絶の理由ということはできない。

(2) もっとも,上記拒絶査定には,「備考」として以下の記載がある。「・・・。」
 この記載は,刊行物1発明のCF4(フルオロカーボン)を,「フロンCFC-113」に転用(置換)することの容易性について言及するものと認められ,この記載のみからすれば,原告主張のとおり,拒絶査定においては,フルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであると認識していたと考えられないでもない

 しかるところ,拒絶理由通知の制度趣旨は,審査官又は審判官が出願を拒絶すべき理由を発見したときに,出願人に対してその旨を通知することにより,出願人に意見を述べる機会及び手続補正をする機会を与えて,特許出願制度の適正妥当な運用を図ることにあるから,拒絶査定において,フルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであるとされていたと仮定して,そのことにより,フルオロカーボンもクロロフルオロカーボンと同様「フロン」に含まれるものであることを前提とする審決の判断が,原告にとって全く予期し得ぬ不意打ちに当たり,その旨を通知するのでなければ,原告の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるものとすれば,上記(1)のとおり,審決の拒絶の理由が,拒絶査定における拒絶の理由に含まれるものであるとはいえ,改めて拒絶理由の通知をすることが必要であったと解する余地もある

 しかしながら,上記拒絶理由通知書(甲第7号証)には,「・・・。」との記載があり,この記載によれば,審査官(・・・)は,フルオロカーボンガスを,CFC-113,CFC-12(クロロフルオロカーボンガス)と「同じフロン類であるフロンガス」と認識していたことが認められるから,そもそもフルオロカーボンが本願発明の「フロン」とは異なるものであると認識していたということ自体が疑わしくなる

 また,その点は措くとしても,本件特許出願当時,単に「フロン」といった場合,通常,フルオロカーボンを含む意味で用いられていると解するのが当業者の技術常識であったものと認められることは,上記1(2)イのとおりであり,・・・。
 上記意見書(甲第8号証)の記載によれば,原告が,本願発明の「フロン」を「分子中にフッ素の他,塩素を含」むもの,すなわち,クロロフルオロカーボンとしていることが認められるが,そうであるならば,上記のとおり,本件特許出願当時,単に「フロン」といった場合,通常,フルオロカーボンを含む意味で用いられており,上記拒絶理由通知書にもその旨の記載がある以上,原告としては,意見書の提出と併せて,本願明細書の「フロン」との記載を,原告自身の意図するところに合わせて改めるべく,手続補正をすべきであったのであり,そのようにすることに格別の障害があったと認めることはできない

 そうすると,フルオロカーボンもクロロフルオロカーボンと同様「フロン」に含まれるものであることを前提とする審決の判断が,原告にとって全く予期し得ぬ不意打ちに当たり,その旨を通知するのでなければ,原告の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に欠けることになるものとは到底いうことができず,この点からも,審判合議体が,改めて拒絶理由の通知をすることが必要であったということはできない

(3) 以上によれば,審決に,拒絶理由通知の懈怠の手続的瑕疵があった旨の原告の主張を採用することはできないから,取消事由2は理由がない。

サポート要件の立証責任

2008-09-14 10:40:36 | 特許法36条6項
事件番号 平成19(行ケ)10401
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

(2) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時(本件では優先権主張日)の技術常識に照らし,当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高裁特別部平成17年11月11日判決(平成17年(行ケ)第10042号)24~25頁参照)。

 そこで,本件発明1が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるかどうかが問題となる。
・・・
 このようなフロン代替品に求められる性質を踏まえ,上記(4)で認定した本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容を見ると,本件発明1の物品清浄化方法における溶剤であるフッ素化エーテルは,フロン代替品として共通に求められる性質(オゾン層に長期の悪影響を及ぼさないという点を含めて環境への影響上良好であり,安定性があり,低毒性であり,不燃性であるという性質)を満たすことを前提として,清浄化機能に優れ,特にアルミニウムに対して安定的である点に特徴があるものであるということができる。・・・
 そうすると,本件発明1がサポート要件を満たすというためには,本件発明1の物品の溶剤清浄化方法による清浄化機能が従来の溶剤であるフロンを使用したものとおおむね同等か,それ以上のものであること,及び,アルミニウム存在下において安定していることが,発明の詳細な説明に記載されている必要があるというべきである(なお,原告は「フロン代替物としてのオゾン層破壊防止効果」が本件発明の効果であるかのように主張するが,上記に説示したところに照らし,採用することはできない。)。

 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明に実施例として記載されている例1~11のうち,例1~9は,上記(4)のエのとおり,使用されているフッ素化エーテルが本件発明1のフッ素化エーテルの構成を備えていないものであり,また,例10,11は,これに使用されているフッ素化エーテルが本件発明1のフッ素化エーテルの構成を備えているものであるとしても,上記(4)のカのとおり,清浄化試験及びアルミニウム存在下における安定性試験の結果がいずれも記載されていないのであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明1の実施例に相当する例の記載を欠いたものといわざるを得ない。そして,本件明細書の他の記載において,本件発明1が上記の作用効果を奏することについて具体的に触れた部分はない。



事件番号 平成17(行ケ)10042
裁判年月日 平成17年11月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である。

商標法4条11項の取引者,需要者の扱いと判断基準時

2008-09-14 10:20:36 | 最高裁判決
事件番号 平成19(行ヒ)223
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月08日
裁判所名 最高裁判所第二小法廷
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
(裁判長裁判官 古田佑紀,裁判官 津野修,今井功,中川了滋)

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。

(2) これを本件についてみるに,本件商標の構成中には,称呼については引用各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが,本件商標は,「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない

 また,前記事実関係によれば,引用各商標は平成3年に商標登録されたものであるが,上告人の祖父は遅くとも昭和56年には堤人形を製造するようになったというのであるから,本件指定商品の販売業者等の取引者には本件審決当時,堤人形は仙台市堤町で製造される堤焼の人形としてよく知られており,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名,人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても,本件審決当時,それを超えて,上記「つつみ」の文字部分が,本件指定商品の取引者や需要者に対し引用各商標の商標権者である被上告人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず,他にこのようにいえるだけの原審認定事実は存しない。
 さらに,本件商標の構成中の「おひなっこや」の文字部分については,これに接した全国の本件指定商品の取引者,需要者は,ひな人形ないしそれに関係する物品の製造,販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても,「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから,新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そうすると,上記部分は,土人形等に密接に関連する一般的,普遍的な文字であるとはいえず,自他商品を識別する機能がないということはできない。

 このほか,本件商標について,その構成中の「つつみ」の文字部分を取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから,本件商標と引用各商標の類否を判断するに当たっては,その構成部分全体を対比するのが相当であり,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分だけを引用各商標と比較して本件商標と引用各商標の類否を判断することは許されないというべきである。

(3) そして,前記事実関係によれば,本件商標と引用各商標は,本件商標を構成する10文字中3文字において共通性を見いだし得るにすぎず,その外観,称呼において異なるものであることは明らかであるから,いずれの商標からも堤人形に関係するものという観念が生じ得るとしても,全体として類似する商標であるということはできない。

サポート要件の判断事例

2008-09-13 10:41:06 | 特許法36条6項
事件番号 平成19(行ケ)10307
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
 事案にかんがみ,取消事由2から判断する。
1 取消事由2(サポート要件の具備についての判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件について
ア(ア) 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号が規定するいわゆるサポート要件に適合するものであるか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,発明の詳細な説明の記載が,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否か,又は,その程度の記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識に照らし,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。

(イ) また,発明の詳細な説明の記載が,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでなく,かつ,特許出願時の技術常識に照らしても,当業者において当該発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでない場合に,特許出願後に実験データ等を提出し,発明の詳細な説明の記載内容を記載外において補足することによって,その内容を補充ないし拡張し,これにより,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するようにすることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度に趣旨に反し許されないと解すべきである。

イ ところで,本件発明1は,前記第2の2のとおり,本件組成を有する無鉛はんだ合金であって,「金属間化合物の発生を抑制し」との構成(以下「本件構成A」という。)及び「流動性が向上した」との構成(以下「本件構成B」という。)を含むものであるところ,一般に,合金に係る発明を,その組成に加え,その機能ないし性質を用いて特定する場合,当該発明は,その機能ないし性質を必要とする用途に用いられる合金であり,当該組成を有する当該合金が当該機能ないし性質を備えることにより,当該発明の課題が解決されるものと理解されるのであるから,上記ア(ア)において説示したところに照らせば,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであるか否かについて判断するに当たっては,本件「発明の詳細な説明」が,当業者において,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより,本件構成A及びBの機能ないし性質が得られるものと認識することができる程度に記載されたものであるか,又は,本件出願時の技術常識を参酌すれば,当業者において,そのように認識することができる程度に記載されたものであることを要すると解するのが相当である。

ウ 以上の観点から,以下,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであるか否かについて検討する。

(2) 本件「発明の詳細な説明」の記載
ア 本件「発明の詳細な説明」には,次の各記載がある。

(3) 検討
ア(ア) 上記(2)のとおり,本件「発明の詳細な説明」には,本件構成A及びBに関する記載として,・・・との各記載,すなわち,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより本件構成A及びBの機能ないし性質が得られたとの結果の記載並びにその理由として「CuとNiは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあるため,NiはSn-Cu金属間化合物の発生を抑制する作用をする」との趣旨の記載があるにすぎず,本件構成A及びBの機能ないし性質が達成されたことを裏付ける具体例の開示はおろか,当該機能ないし性質が達成されたか否かを確認するための具体的な方法(測定方法)についての開示すらない

・・・
イ上記アにおいて検討したところによれば,本件「発明の詳細な説明」が,当業者において,無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより,本件構成A及びBの機能ないし性質が得られるものと認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであり,かつ,本件出願(優先日)当時の技術常識を参酌しても,当業者において,そのように認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであるといわざるを得ない。
 したがって,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認めることはできない。


設計事項の判断事例-技術的意義を有するか

2008-09-11 07:19:42 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10327
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

a 相違点1について
 原告らは,相違点1に係る本願補正発明の構成は,当業者が容易に想到できた事項であるとはいえないと主張する

しかし,以下のとおり,原告らの主張は失当である。

 引用例発明においても,複数の商品情報(商品カタログのイメージデータ)と商品の標準イメージがCD-ROMに格納され,これらの情報は通信回線を介して利用者に提供されるものであることは,既に検討したとおりである。
 そして,「デジタル化されたイメージを含む複数の商品情報」に「標準イメージ」を組み込んだものを1つのデータとして利用者に提供するかどうかは,通信販売における単なるサービスの仕方の問題であって,当業者が適宜行うことができる設計的事項にすぎないというべきである。

 したがって,相違点1に係る本願補正発明の構成は当業者が容易に想到できたというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。

・・・

c 相違点4について
 原告らは,相違点4に係る本願補正発明の構成は,当業者が容易に想到できた事項であるとはいえないと主張する。
 しかし,以下のとおり,原告らの主張は失当である。

 前記アで検討したとおり,引用例1に記載されたイメージデータの色調・濃淡の補正表示方法と本願補正発明の色補正方法とは,商品カタログの複数のデジタル画像を同じ補正値に基づいて色補正して表示する点では変わるところがないというべきであって,両者が相違するのは,引用例1に記載された方法では,補正値を設定した後に,CD-ROMからデジタル画像を順次読み出し,色補正をした上で表示するようにしているのに対し,本願補正発明では,複数のデジタル画像を表示した状態で,設定した補正値により同時に色補正をしている点である。

 そして,「基準色を示す画像が印刷等により表示された部材と,画面に表示された基準色を示す画像とを目視で比較して,手動で一致させることで色の調整を行う技術」や,「色の補正の対象となる画像と基準色を示す画像を同時に表示させ,前記基準色を示す画像にもとづいて色を調整することで,同時に表示されている画像の色を補正する技術」が,本願の出願前の周知技術であったことに照らせば,相違点4に係る本願補正発明の構成は,技術的には何ら見るべきものがあるとはいえず,単なる色補正のタイミングの問題というべきであって,当業者が適宜行うことができる設計的事項にすぎないというべきである。

設計事項の判断事例-課題解決のための具体的手段における実質的な差異

2008-09-11 06:48:05 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10282
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

3 本願発明と引用発明の構成の相違は設計上の微差にすぎないとした相違点の判断の誤り(取消事由3)について

(1) ア 甲2,3,甲8の1,2及び弁論の全趣旨によれば,2つの剛性フレームを相対回動可能に結合するために金属クラウンを用いることは,本願発明及び引用発明と同じ,乗り物シート用ピボット機構の技術分野に属する周知技術又は慣用技術であることが認められる。

イ 前記2(1)のとおり,本願発明は,ピボット機構の強度を上げることを目的としているが,ばねの構成によりその目的を実現しようとするものである。前記2(3)のとおり,本願発明が,金属クラウンによって第1及び第2の剛性フレームが実質的にその全周にわたって面外方向に相互に拘束されるものであり,そのような構成を採ることにより,引用例構成のように片持ち梁状態で支持するよりも強度が増加し互いに離間しにくくなるとの効果が得られたとしても,その効果は,周知技術を適用したことにより必然的に得られる効果にすぎず,本願発明により新たに得られた作用効果ということはできない
 したがって,本願発明において,金属クラウンを使用したことによってピボット機構の強度が増加し互いに離間しにくくなるとの効果が得られたとしても,その点をもって,本願発明と引用発明との間の,課題解決のための具体的手段における実質的な差異であるとはいえない

ウ 前記アのとおり,2つの剛性フレームを相対回動可能に結合するために金属クラウンを用いることは,乗り物シート用ピボット機構の技術分野に属する周知技術又は慣用技術である。

 そして,引用例構成は,2つの剛性フレームを相互に回動可能に結合することを実現する手段であり,他方,本願発明における金属クラウンを使用する構成も,2つの剛性フレームを相互に回動可能に結合することを実現する手段である。
 そうすると,2つの剛性フレームを相互に回動可能に結合することを実現するために,引用例構成を,周知技術である金属クラウンを使用する構成とすることは,当業者が普通に採用すると認められる程度の技術的手段の一態様であり,課題を解決する手段を具体化するに当たっての設計的事項にすぎない

エ したがって,本願発明と引用発明は実質的に同一と認められ,審決の相違点の判断に誤りがあるとは認められない

特許法104条の3の射程

2008-09-10 07:36:39 | 特許法104条の3
事件番号 平成20(ネ)10019
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 付言---事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求について
・・・
(2) 当裁判所の見解
ア まず,上記各訂正審判請求の内容を検討すると,平成20年7月17日の各訂正審判請求は,本件各特許の無効理由を解消するものとは認められず(原告も,同訂正審判請求を取り下げている。),上記平成20年8月20日の各訂正審判請求は,これが認められる蓋然性は極めて低いものと判断できる。
また,上記各訂正審判請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1を前提として,被告製品が,同請求項1に記載された各発明の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものであるかを検討すると,本件記録に照らして,被告方法が上記各発明の技術的範囲に含まれることを認めるに足りる証拠は見当たらない。そして,技術的範囲に含まれるか否かの点について,原告に主張立証を補充する機会を与えるとするならば,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである。

イ 仮に,上記平成20年8月20日の各訂正審判請求が認められ,訂正審決が確定するという事情が生じることを想定した場合には,当審のした判断を覆す主張をする余地が生じ,また,たとえ判決が確定した後においても,民訴法338条1項8号所定の再審事由に当たる余地が生じ得ることになる。
しかし,仮にそのような事情が生じたとしても,原告が,そのような事後的事情変更を理由として,当審のした判断を覆す主張をすることは,特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されないというべきである


その理由は,特許法104条の3第1項の規定が,特許権侵害訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められることを特許権の行使を妨げる事由と定め,無効主張をするのに特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要しないものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で解決すること,しかも迅速に解決することを図ったものと解され,また,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしているのは,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され,このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきであるからである(最高裁判所平成18年(受)第1772号事件・平成20年4月24日第1小法廷判決)。

そして,本件においては,第1次無効審決A及びB,原判決,第2次無効審決A及びBにおいて採用された被告の無効主張は,いずれも乙40文献に開示された発明及び乙7文献に開示された発明との関係での進歩性の欠如であったことに照らすならば,原告は,被告の当該無効主張を排斥し又は覆すための対抗主張として,単に平成20年3月28日の訂正請求に基づく訂正A発明及び訂正B発明における無効理由の解消等を主張するばかりでなく,当審の口頭弁論終結前に,第2次無効審決A及びBの取消訴訟を提起し,本件各特許について特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をするなどして,これに基づく対抗主張を行うことが可能であったというべきである。したがって,仮に,上記のような事情変更を想定したとしても,そのことを理由とした対抗主張を,適法な主張として審理をすることは,原告と被告との間の本件各特許権の侵害に係る紛争の解決を著しく遅延させることとなると解すべきである

設計的事項の判断事例

2008-09-09 07:01:58 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(ネ)10019
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 そして,前記のとおり,本件A特許権の優先日当時,建築用コンクリートの湿式吹付け施工方法に関し,先端に直管形状の吹付けノズルを接続したノズル配管中を圧縮空気と急結剤注入後の混漿状のコンクリートが通過する技術は周知であり(乙73ないし78,弁論の全趣旨),湿式吹付け施工方法において湿式吹付け材が圧送される配管の途中に急結剤を圧縮空気を注入して,圧縮空気と急結剤を注入後の湿式吹付け材を,ノズルにつながる配管(ノズル配管)中を通過させて,急結剤を配管において湿式吹付け材中に良好に分散させることも,慣用されている技術にすぎないことが認められる(乙31,32,74,77,弁論の全趣旨)。
 なお,吹付け材へ急結剤を添加する技術的意義は,上記のとおり,吹付け材の流動性を急速に低下させ,施工箇所において,付着性を向上させ吹付け材が流れ落ちること(ダレ)を防止したりすることにあるから,コンクリートやモルタルや不定形耐火物など吹付け材が異なることによって,上記技術的意義に相違が生ずることはない。

 そうすると,坏土に急結剤を良好に分散させる必要があることが自明な乙40発明において,急結剤及び圧縮空気を注入するに当たり,湿式吹付け材中に急結剤を良好に分散させるために,圧縮空気と急結剤を注入後の坏土を「ノズル配管中を通過させ」るようにすることは,当業者が必要に応じ適宜なし得る程度の設計事項であると認められる。

・・・

 前記(ア)のとおり,乙40発明に乙7発明Aを組み合わせて,上記相違点1及び3に係る訂正A発明の構成に想到することは,当業者には容易であったところ,乙40発明に乙7発明Aを組み合わせるに当たり,坏土に加える水の量を,不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8~10重量部程度とし,相違点2に係る訂正A発明の構成とすることも,容易であったというべきである。

 ところで,訂正A発明は,混練時に添加する水の割合を不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8~10重量部と規定しているが,訂正A明細書(甲43)によれば,同明細書の発明の詳細な説明の欄における,不定形耐火物用粉体組成物に加えるべき水の量の上記の数値の説明については,「・・・。」(【0024】),「・・・。」(【0025】)と記載されるのみであり,同明細書には,上記数値の技術的意義や,上記数値の裏付けとなる実験についての記載がないことが認められる。かえって,訂正A明細書の【0015】には,「特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5~7%)で施工されるので不定形耐火物で発生する粉塵量を低下させうる。」との記載があることが認められ,訂正A明細書は,5ないし7%の水分量が好ましいとしている。

 したがって,訂正A発明の相違点2に係る構成に特段の技術的意義があるとは認められず,この点からも,同構成は,当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項というべきである。