知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

部分意匠の図面の波線の意味

2007-02-01 22:31:33 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10317
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

『「物品の部分」の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」ということがある。)であって,視覚を通じて美感を起こさせるものも,「意匠」(意匠法2条1項)であり,部分意匠として,意匠登録を受けることができる。

 部分意匠においては,物品全体の形状等に係る意匠と同様,意匠登録出願の願書には,原則として,意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付する必要があり(意匠法6条1項柱書),願書に添付すべき図面は,意匠法施行規則の様式第6により作成しなければならない(同規則3条)。そして,上記様式第6において,物品の部分について意匠登録を受けようとする場合は,一組の図面において,意匠に係る物品のうち,「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き,「その他の部分」を破線で描く等により意匠登録を受けようとする部分を特定し,かつ,その特定する方法を願書の「意匠の説明」欄に記載するものとし(備考11),実線及び破線の太さ(備考5)などが定められている。

 そして,意匠登録を受けることができる物品については,意匠法施行規則7条において,別表第1の物品の区分が定められているものの,物品において,意匠登録を受けることができる「部分」についての規定はなく,出願人は,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等からなる部分については,願書の「意匠の説明」欄の記載及び添付図面を用いて(同規則3条所定の様式第6の備考11参照),自ら,意匠登録を受けようとする部分を定めることができると解される。

 ここで,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものなのであるから,破線で示された部分の形状等が,部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない

 しかし,物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。そして,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記2(2)のとおり,意匠登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,意匠登録を受けようとする部分がどのような用途及び機能を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである

 そして,部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。』

『被告は,部分意匠についての類否判断は,基本的には,通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである旨主張する。

 確かに,部分意匠の類否判断において,意匠登録を受けようとする部分の位置の差異を必要以上に考慮することは,実質的に,破線部分の形状等を部分意匠の内容に取り込んで類否判断等をすることにもなりかねず,部分意匠制度の趣旨を没却することになるものであるが,本件においては,前記(3)のとおり,本願実線部分は,その内容に照らし,それと相いれない,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーに位置するものを予定していないと解するのが相当であって,本願実線部部と本件相当部分の位置の差異は,本願意匠と引用意匠に異なった美感をもたらし,その類否判断に影響を及ぼすものであるから,被告の主張は採用できない。』

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