知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用発明と本願発明の製品としての違い

2007-05-27 09:33:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10443
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『原告は,審決が,本願補正発明は片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引用発明は両足用のおしめ替え補助具であることを顧慮することなく,一致点の認定に及んだ誤りがあると主張する
・・・
そして,本願補正発明及び引用発明が,両足用のおしめ替え補助具であるにせよ,一対のうちの一方を取ってみれば,いずれも仰向けに寝た人間のおしめを交換するために持ち上げた片足を保持するためのものであって,その点で,引用発明は,本願補正発明に対応するものである。したがって,審決が,本願補正発明の要旨に合わせて,引用発明についても一対のうちの一方を取り上げて本願補正発明との構成の対比を行い,一致点及び相違点の認定をしたことに,何らの誤りもない。
本願補正発明が,片足用のおしめ替え補助具であるのに対し,引用発明は,両足用のおしめ替え補助具であることを前提として,審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は,その前提自体が失当である。』

(感想)
 進歩性の判断においては、「技術思想」を評価するのであるから、引用発明の製品の違いを主張しても技術的に共通するあるいは同質ものであれば、適用可能と言うことになろう。

相違点中のビジネスの方法的要素の扱い

2007-05-27 09:20:56 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10003
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『(4) 引用例1発明は,本願発明とは,
本願発明では,処理手段が売上額を累計する売上額累計手段を備え,処理手段が売上額の累計が特典を発生させる条件を満たしたときに特典の内容を付与するのに対し引用例1発明では,処理手段が来客者をカウントして累計人数を計算する手段を備え,処理手段が来客者の累計人数が特典を発生させる条件を満たしたときに特典の内容を付与する点」において相違する(相違点3)。

 しかし,前記2のとおり,引用例2には,売上金額を累計し,その累計額が一定の条件を満たした場合に所定の処理を行うことが記載されている。引用例2に記載されているのは,前記2(1)のとおり,商品販売データ処理装置であるが,本願発明の「サーバ」も,売上額を累計するものであるから,商品販売データを処理する点において引用例2に記載されている装置と同じである

 そうすると,引用例1発明と引用例2に記載されている事項により,「処理装置が売上金額を累計し,売上金額の累計額が購入条件テーブルに格納されている予め設定したボーナスポイントを発行する条件を満足したときには,処理装置が購入者に対してボーナスポイントを発行する点数管理システム」を,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,容易に想到することができるというべきである。したがって,相違点3に係る本願発明の構成については,引用例1と引用例2から容易に想到することができる。』

(感想)
 所定の処理をボーナスポイントの発行とすること、については引用文献1,2には記載されていない。しかし、この点はビジネス手法としてありふれたもので適宜採用し得るものにすぎない。したがって、この判断は支持できると思う。
 思うに、進歩性について評価する場合、発明は技術思想の創作なのであるから、構成要素中の技術的意義を見いだせない純粋ビジネス要素については、原則として、実質的な相違点とするべきではなく、設計事項として処理されるべきであろう。

外国のみで周知である商標に類似する商標

2007-05-27 09:03:40 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10301
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘


『3 本件商標の法4条1項19号該当性
(1) 原告商標の周知著名性について
ア証拠(甲3~10,16~24,26,32,34,35)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・

イ 以上の認定事実を総合すれば,原告ないしジェイマセドグループの「Dona Benta」商標は,ブラジル国内において,1979年(昭和54年)から原告ないしジェイマセドグループの業務に係る小麦粉等の商品を表示するものとして使用されるようになり,本件商標の出願がなされた平成10年〔1998年〕の時点で,原告は,小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位の企業となり,その間,新聞や雑誌等において「Dona Benta」商標を使用した広告も行い,その業務を紹介する記事も新聞等に掲載されていたのであるから,遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには,ブラジル国内で需要者の間に広く認識されるようになり,その周知性は,本件商標の登録査定時(平成11年11月5日,甲2)に至るまで継続していたものと認められる。』


『(2) 商標の類否について
 本件商標は「DonaBenta」から成るものであるのに対し,原告商標は「Dona Benta」の文字から成る商標であり,これらは,構成する欧文字に相応していずれも「ドナベンタ」の称呼を生じる。
 そして,本件商標と原告商標は,「Dona」と「Benta」の間に1字分のスペースを置くか否かの相違にすぎず,構成する欧文字は共通であるから,外観においても類似する。

 なお,「Dona Benta」は,ブラジル国においてはポルトガル語で「ベンタおばさん」という意味であり,同名の料理の本の題名として知られていることが認められるが(乙1,2,6の1),ポルトガル語についてなじみの薄い我が国においてそのように認識されると認めるに足る証拠はなく,「DonaBenta」ないし「Dona Benta」から,特定の観念が生じるものとは認められない。

 以上によれば,本件商標と原告商標は,称呼が同一であり,外観も類似するものであるから,本件商標は,原告商標に類似する商標と認められる。』

『(3) 不正の目的による使用について
ア 証拠(甲12,甲29,乙4,9,11,17,18。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる
・・・

イ (ア) 原告の「Dona Benta」商標がブラジル国内において遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには需要者の間に広く認識されていたものと認められることは上記(1)のとおりであるところ,上記アに認定したところによれば,被告は日本在住の日系ブラジル国人向けのブラジル国食品を製造販売していたものであり,上記出願時より前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍していたのであるから,被告は,上記出願当時,「Dona Benta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることを認識していたものと認めるのが相当である

 そして,被告が本件商標を使用する商品の主な需要者は,在日の日系ブラジル国人であり,原告商標の上記周知性にかんがみると,これらの需要者の多くは,原告ないしジェイマセドグループの業務に係る商品表示として原告商標を認識していること,及び,本件商標の出願当時,被告においてもこのことは認識していたものと推認される

 そうすると,それにもかかわらず被告において,原告商標と極めて類似する本件商標をあえて採用し,登録出願したのは,ブラジル国において広く認識されている原告商標の名声に便乗する不正の目的をもってしたものと認めるのが相当である。』


『(イ) また,被告は,「Dona Benta」とは,ベンタおばさんという意味で,著名な作家である「MONTEIRO LOBATO」の話の中に出てきた人物であり,ブラジル国おけるベストセラーの料理本(甲29の20,乙19)の題名も「DONA BENTA」であるから,「Dona Benta」は,原告商標が唯一の由来となっているものではなく,被告が本件商標を使用することは全く不自然なものではないと主張する。

 確かに,・・・,上記料理本の書名「DONA BENNTA」も,被告が本件商標を採用した理由の一つになっていることは否定できないかもしれない。
 しかし,被告は,前記のとおり,本件商標の出願当時,「DonaBenta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることをも認識していたと認められるのであるから,被告が本件商標を採用した理由の一つに上記料理本の存在があるとしても,本件弁論に顕出された一切の事情を考慮すると,このことが,原告商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を採用したとの上記認定を妨げるものということはできない。』


『(エ) さらに,被告は,仮に原告商標がブラジル国内において一定の知名度があったとしても,複数の国で著名であるいうほどでもない商標に関しては,本件商標の出願時において,当該主体(原告)が当該商標の下で現に日本に進出中であるか,近々日本に進出することを計画しているということを出願人(被告旧会社)が認識していない限りは,法4条1項19号に該当することはないと主張する

 しかし,法4条1項19号の「不正の目的」とは,同号括弧書きにあるように,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正な目的をいうのであり,これを被告主張のように限定して介さなければならない理由はない。そして,被告は,原告商標の名声に便乗する目的をもって本件商標を採用したことは上記認定のとおりであるところ,これが不正の利益を得る目的に該当することは明らかというべきであるから,被告の上記主張は採用できない。』



無効の抗弁に対する再抗弁の取り扱い

2007-05-27 07:34:19 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)27193
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設楽隆一

『6 原告の弁論再開申請について
原告は,本件の弁論終結後,平成19年5月9日付け準備書面及び甲39,40の写しを提出し,平成19年2月9日付けで,本件特許2の請求項1について訂正審判を申し立てたこと,及び,これにより近々訂正審決がなされる予定であるので,弁論の再開を希望する旨の上申をしている

確かに,この訂正審判の申立ては,本件特許2の無効の抗弁に対する再抗弁として主張することが可能な事由ではある(平成19年3月6日の口頭弁論期日においても主張し得る事由ではあった。)。しかし,この訂正審判の申立ては,本件訂正請求2に加え,特許請求の範囲に,①「前記所定のタイミングから計時を開始するタイマが所定時間計時する間に遊技媒体が投入されないときに,遊技がされていない状態であることを検出する状態検出手段」,②「遊技媒体が投入されると前記特別の遊技音を復して出音させる」を追加するものであるにすぎず,これにより前記無効理由が解消されるとはいえないと思料される

すなわち,・・・のであるから,

これらの訂正は,遊技メダルの投入が一定時間なければゲームをしていないと判断する,あるいは,遊技メダルを投入した時点でゲームをすると判断する点を強調しただけにすぎないものである(・・・。)。

結局のところ,この訂正後の本件訂正特許発明2も,乙18発明も,ゲームの進行に必要な動作が一定時間ない場合に,ゲームを行っていないと判断し,その音量を下げる点に差異はなく,前記のとおり,スロットマシンとパチンコ機とは互いに技術の転用が可能なものであることなど,上記3,4で述べたことを考えると,上記訂正後の本件訂正特許発明2も,前記の乙37発明及び乙18発明等から容易に想到し得たものと思料される。したがって,本件においては,弁論を再開する必要性は認められない。』

(筆者感想)
 裁判所は、通常、「明らかである」とか、「言うべきである」とか、断定調に記載するところ、ここでは、「思料する」に留めている。この後、特許庁で行われる訂正審判に過度に鑑賞しないように配慮したものと思われる。
 一体的に早期に解決するには、訂正審判の訂正内容について、侵害訴訟の方である程度踏み込んで判断せざるを得ないのであるから、両者が併走する場合においては、訂正審判の重みは軽くなっていくことだろう。

 ここ数年、判決の品質は向上しているように感じる。裁判所においては量・質ともに両立して体制の充実が図られ、それが奏功しているようだ。代理人(弁理士)、行政(審査・審判官)は、良いお手本から学び、あるいは、議論を深めることができるだろう。

 それにしても、時代の流れを感じる。今後、特に中間に存在する行政は、その在り方を問われることになるかもしれない。

引用例の図面の認定、無効審判時に提出されなかった周知例の扱い

2007-05-25 07:32:35 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10342
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

甲1は,特許公告公報であり,甲1図面は,当該公告に係る特許出願の願書に添付された図面であるところ,一般に,特許出願や実用新案登録出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許(実用新案登録)を受けようとする発明(考案)に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるものであって,設計図と異なり,当該図面に表示された寸法や角度,曲率などは,必ずしも正確でなくても足り,もとより,当該部分の寸法や角度,曲率などがこれによって特定されるものではないというべきである
 そうすると,仮に,原告主張のとおり,甲1図面に描かれたゴルフクラブの上記凹部に係る表示上の曲率が,当該表示上のゴルフクラブに対応するゴルフボールの外径曲率として想定される範囲の曲率より大きいとしても,そのことのみから,甲1考案の上記凹部の曲率が,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率であると即断し得るものではない特許実。(用新案)公報等の記載から,そのようにいうことができるとするためには,本件考案がそうであるように,明細書(特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲を含む)に,当該凹部の曲率がゴルフボールの外径曲率よりも大曲率である旨が記載されているか,又は,少なくとも,明細書に記載された発明(考案)の課題,目的又は作用効果(例えば「フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを防止すること)等から,そのような構成を採用していると理解」されるものであることを要するというべきである。』

『(3) 被告は,上記甲号各証につき,審判において証拠として提出されたものではなく,そのような証拠を,審決取消訴訟において新たに提出して,審決取消しの理由とすることは許されないと主張するところ,審判において,上記甲号各証が提出された形跡がないことは主張のとおりである。
 しかしながら,しかしながら,原告が「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知であるとの主張をし,この主張につき審決の判断を経ていることは上記のとおりであり,本訴において,上記甲号各証は,当該周知技術の存在を裏付ける補強資料として提出されたにすぎないものであるから,これを本訴における証拠資料の一部とすることが許されないものではない。

(4) また,被告は,乙2~5によれば,フェース部とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側のホーゼル部のフェース部側との間に関する構成には,各種の形状のものが知られているから,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成することが周知技術であるとの主張は,根拠がないと主張する
 ・・・
 そうすると,凹部の有無が定かではない乙2記載のものを除き,上記乙3~5によると確かに被告主張のとおりゴルフクラブアイアンのフェース部とホーゼル部の間に関する構成には各種の形状のものが知られているということができその中には,乙3,乙4記載のもののように「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」こととは相容れない構成のものも存在する。
 しかしながら,一般に,ある技術が周知技術といえるために,これと相容れない技術が存在しないことを要するものではなく,乙3~乙5に上記のような技術が記載されているからといって,上記のとおり,多数の周知事例に基づいて認定することができる周知技術の周知性が否定されるものではない。』

上記周知技術は,ゴルフクラブ(アイアン)において,一般に見られるものであり,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにつき,阻害事由も見当たらないから,甲1考案に上記周知技術を採用することは,当業者であれば,格別の動機付けがなくとも適宜試みる程度のものというべきである
 したがってフェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題の認識いかんに関わらず,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。』

特許権が後に無効となった場合に先立つ侵害の警告は、虚偽の事実の告知,流布に当たるか

2007-05-21 05:45:30 | Weblog
事件番号 平成17(ネ)10119
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成19年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『3 争点5(原審原告が,原審被告らによる被告製品の製造販売が本件特許権の侵害である旨の虚偽の事実を告知,流布するという,不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争行為をしたか。また,これについて,原審原告に故意又は過失があるか。)について

(1) 上記第2の1の(1)の事実によれば,原審原告にとって,原審被告らは「競争関係にある他人」に当たるものと認められる。
 また,同(7)の事実に,乙第26,第28,第49,第50号証,第53号証の1,2及び弁論の全趣旨を総合すれば,原審原告は,本件特許権の登録後である平成16年10月以降,原審被告らの被告製品販売先である日本生活協同組合連合会,コープ九州事業連合,コープきんき事業連合及び千趣会に対し,直接書面により,又は他者を介して,被告製品が本件特許権を侵害するものである旨の告知をしたことが認められるところ,上記1のとおり,本件発明に係る特許は,無効審判において無効とされるべきものであって,被告製品が本件特許権を侵害するということはできない。

(2) しかしながら,原審原告による上記行為が,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められるのは,本件発明に係る特許が,無効審判において無効とされるべきものであるという点にある。そして,特許権者において,特定の者の製造する物品が当該特許権の侵害品である旨を第三者に対し警告する場合には,その製造者に対し警告する場合と比べ,より一層の慎重さが要求されるとしても,上記1の本件特許に係る無効事由の内容に照らし,また,上記2のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属すると認められることにかんがみると,本件においては,特許権者である原審原告が具体的な無効事由につき出願時又はそれ以降にその存在を疑って調査検討をすることを期待することができるような事情は認め難いから,原審原告による上記行為につき,故意過失があったとまでは直ちに認めることはできない
 なお,上記第2の2の(7)の事実に上掲証拠を総合すれば,原審原告は,上記行為において,日本生活協同組合連合会,コープきんき事業連合などに対し送付した書面に,本件特許に係る特許証と,本件特許出願に係る公開公報(特開平11-300130号)を添付したことが認められ,この事実によれば,送付を受けた日本生活協同組合連合会等は,原審原告が,上記公開公報記載の発明について特許権を取得したかのように誤認するおそれがあるものと推認されるが,そうであるからといって,本件発明に係る特許が,無効審判において無効とされるべきものであるという事由により,被告製品が本件特許権の侵害品に当たらないという点に関する原審原告の故意過失を基礎付けるということはできない。

(3) したがって,原審原告に対し,謝罪広告及び損害賠償を求める原審被告らの請求は理由がない。』

組み合わせの可否の判断例

2007-05-20 12:09:08 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10678
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『原告は,甲第5号証発明と,レンジフードの分野における,「フード内の排気口の位置に,剛性で四角形板状の金属フィルタを着脱自在に設け,かつ,その金属フィルタの表面側に不織布からなるフィルタで覆う」本件特許出願前の周知慣用技術とは,発明の構成及び作用が大きく相違し,上記周知慣用技術を甲第5号証発明と関連付けることは困難であるから,「甲第5号証発明の『不織布からなるフィルタと,該フィルタの周縁部に設けられ,かつ上記周縁部を収縮可能な環状紐状体とを有するレンジフード用換気扇カバー』・・・でレンジフードのフード内の排気口に着脱自在に配置された金属フィルタを覆うようにすることは当業者であれば直ちに想到することができる。」とした審決の判断は誤りであると主張し,また,甲第5号証発明及び周知例によっては,不織布フィルタによって金属製フィルタを被包することまでは導き出すことができないと主張する。』

『審決の説示のとおり,甲第5号証発明のフィルタ(換気扇用カバー)を,「同じ目的で用いられかつ同じ繊維材料からなる」上記周知慣用技術に係るフィルタに替えて用いること(筆者注:周知技術のフィルタを用いること)は,当業者であれば直ちに想到することができるものというべきである。
・・・
周知慣用技術の金属製フィルタに甲第5号証発明のフィルタを取り付ける場合には,金属製フィルタが薄板状であることから,その裏面に,甲第5号証発明のフィルタの収縮紐状体を挿通した開口部を位置するようにしなければ取り付けることができないことは明らかである。そうすると,甲第5号証発明のフィルタを上記周知慣用技術に適用する場合に,フィルタによって金属製フィルタを被包することは,当業者が当然に想到することであるにすぎない。』


関連事件
事件番号 平成18(行ケ)10278
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

事件番号 平成17(ネ)10119
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成19年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

特許請求の範囲の明確性の判断手法

2007-05-12 22:46:43 | 特許法36条6項
事件番号 平成18(行ケ)10420
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一
重要度(3段階):☆☆☆

『1 「システムパラメータ」について
(1) 本願明細書(甲1,2)では,「システムパラメータ」について特に定義されていない。そうすると,一般に,パラメータとは,システムの性質(属性)を与える物理的な量を意味し(茂木晃「電気電子用語大辞典」(平成4年8月25日発行,オーム社)1061 頁),システムを制御しようとする場合には,その対象となるシステムのパラメータを同定する作業が必ず必要となるものであるから,本願の特許請求の範囲においても,「システムパラメータ」は,このような一般的な意味で用いられていると理解すべきものである

(2) また,本願明細書(甲2)には次の記載があり,その内容は,上記の理解するところと整合する

(3) そして,「システムパラメータ」に温度を含めるか,あるいは湿度を含めるかといったことは,制御対象の性質やユーザーのニーズに応じて決めることであり,「システムパラメータ」に含まれる個々の量があらかじめ特定されていなければ,本願発明が把握できないというものでもない。』

『2 「フレキシブルな濃度設定値を計算する処理手段」について
(1) 原告は,「フレキシブルな濃度設定値を計算する」とは,システムパラメータに基づいて濃度設定値の補正値を計算することと理解でき,その内容は明らかであると主張する

(2) そこで,検討すると,「フレキシブルな濃度設定値」について,請求項1には,
「前記タイマー手段(20)および前記確認手段(10)に結合され,前記クロック信号,前記ユーザー設定入力,および前記システムパラメータに基づいてフレキシブルな濃度設定値を計算する前記処理手段(10)」
と記載されている。この記載から認識できることは,「フレキシブルな濃度設定値」が,クロック信号,ユーザー設定入力,及びシステムパラメータに基づいて計算されるということだけである
他の請求項をみても,洗浄装置の操作履歴に基づいて計算されること(請求項2)や,連続的に更新されること(請求項3~6)が認識できる程度である。
(3) 本願明細書(甲2)の発明の詳細な説明をみると,「フレキシブル」に関し,次の記載がある。 
ア「・・・。」(4頁19行~5頁2行)
イ「・・・。」(5頁下から6行~6頁6行)

(4) 「フレキシブル」あるいは「フレキシビリティ」の一般的な意味は,柔軟なさま,融通のきくさま,柔軟性,融通性(広辞苑第5版)というものであり,クロック信号,ユーザ設定入力,システムパラメータとの用語は,いずれも柔軟性(融通性)とは直接結びつかない
さらに,上記(3)の記載は,本願に係る発明がユーザーのニーズに応じた設定値を選択できるという利便を与えること,並びに「フレキシブルな濃度設定値」が,クロック信号,ユーザー設定入力,及びシステムパラメータに基づいて計算されることを意味する

「フレキシブル」あるいは「フレキシビリティ」の一般的な意味を踏まえ,これらの記載と請求項1をあわせ読めば,「フレキシブルな濃度設定値」とは,クロック信号,ユーザー設定入力及びシステムパラメータに基づいて計算される,柔軟性のある(融通性のある)濃度設定値という程度の意味となり,「ユーザーが必要とする任意の濃度設定値」との違いを読み取ることはできない。

(5) ところで,請求項に記載された技術的事項から一の発明が明確に把握できるためには,当該発明の技術的課題を解決するために必要な事項が請求項に記載されることが必要である
上記(4)のとおり,「フレキシブルな濃度設定値を計算する処理手段」との記載では,技術的課題を解決するために必要な事項が特定できないから,本願の請求項1の記載は,特許を受けようとする発明を明確に規定したものということができず,特許法36条6項2号に違反する
(6) したがって,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載について,「システムパラメータを用いたフレキシブルな濃度設定値を計算する処理手段」の構成が不明であり,請求項1に係る発明の構成が明確であるとはいえないとした審決の判断は,是認することができる。』

(所感)
 36条6項2号については判例の蓄積が少なく、また、平成5・6年法制定後に多様な法解釈及びそれに基づいた教育がなされ、弁理士実務・審査審判実務において、例えば出願人の特定したいことを特定すれば明確だという理解や、実施例を関連する構成まで含めて読み込んで明確であればよいとする理解などが、未だ有力である。

 そのような説は、仮に、権利行使の際に発明した範囲よりも広く権利行使がなさるとすれば、出願人の責任で、代理人・審査官の責任ではなく、裁判所がとがめるはずだとする。

 しかし、審査主義は、それを導入することで無用や争い(訴訟等)を避け、社会コストを下げることをねらっているはずであるし、そもそも、発明した範囲より広く権利行使をし得る特許請求の範囲を特許するのは、常識からいってすでにおかしい。

 筆者は、この判決は、支持できると思うし、前記有力説に対しては、審査主義等を採用していることや法36条6項の解釈を、原点に戻って再認識した方が良いと思う。

反論の機会-推論過程において参照される技術かどうか

2007-05-05 21:42:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10281
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一


『(2) 審決の認定判断の仕方
これに対し,審決は,つぎのように判断した。
ア 審決は,拒絶理由として通知し,かつ,拒絶査定においても挙示した理由A(特許法29条1項柱書違反)及び理由B(同法36条6項2号違反)に言及することなく,本件補正発明1に係る発明の独立特許要件としての進歩性(容易想到性の不存在)の検討に入った。

 まず,引用例としては,拒絶理由通知で引用文献2として挙示した国際公開第97/22073号パンフレット(実際にはこれと同旨である甲1の特表2002-515991号公報に依拠した。)を引用例1とし,拒絶理由通知で引用文献1として挙示した特開2001-125958号公報を引用例2とした(もっとも,審決は,引用例2については,その推論において特にこれを用いているわけではない。)。そのうえで,本件補正発明1と引用例1に記載された発明とを対比して,相違点2として次のとおり認定した。
「・・・点。」

イ 審決は,上記相違点2について,容易想到性を認める判断をした。審決は,その際,拒絶理由通知に挙示した引用文献を用いることなく,次のとおり,「普通に用いられている手法」(周知技術と同義であると理解される。)及び「処理を短くするという要請は,一般常識に照らしてみれば,当然に内在していると考えられる」こと(業務の処理における周知の課題をいうものと理解される。)を適用することよって結論を導いた

① 「・・・ことは,業務処理の態様として,普通に取られている手法である(例えば,特開平10-254949号公報(本訴甲3)等参照)。」

② 「また,本件補正発明1のオンライン信用貸し可否通知方法においても,・・・引用例1に接した当業者が容易に発想しうる事項である。」

 審決の上記推論は,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成について,審決において初めて挙示した特定の周知技術を引用例として用いて行ったものというべきであり,周知技術を単に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたものということはできない

(3) 引用例1に記載された発明に基づく容易想到性
ア引用例1(甲1)には,次の記載がある。
・・・
イ 上記アの記載から明らかなように,引用例1に記載された発明は,・・・・するようにしたものである。そうであるから,・・・引用例1に記載された発明は,金融ネットワーク端末における入力データの集中管理を指向しているものである。

 そうすると,引用例1には,取引可否の審査に必要なデータを2つ以上のデータに分割してACAPS処理システム26に送信して順次審査,承認決定の処理を開始することについて,記載も示唆もないといわざるを得ない。

ウ したがって,当業者は,審決が認定したような特定の業務処理の手法を具体的に示されないで,引用例1の記載に接しただけの場合又は引用例1の記載のほか不特定の周知技術を参酌することが許されるとされるだけの場合には,引用例1に記載された発明について,「・・・」ことを想到することは考え難いものといわなければならない。

エ また,「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示す」との技術は,審決で認定したように周知技術であるとしても,審決は,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する判断過程において参酌するような周知技術として用いているのではなく,むしろ,審決の説示に照らすならば,実質的には,上記周知技術を容易想到性を肯認する判断の核心的な引用例として用いているといわざるを得ない

(4) 本件補正発明1における相違点2に係る構成の重要性
 甲4ないし6によれば,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と相違する「・・・」という構成は,本願の当初明細書においても,また,その後に提出された補正書等においても,出願人である原告が一貫して強調してきた最も重要な構成の一つであり,かつ,上記の本件審査及び審判手続においても明らかなように原告が強い関心を示して審査及び審判で慎重な審理判断を求めた構成であることが優に認められるところである

 他方,本件審査及び審判手続では,審査官及び審判官が,この構成が進歩性を有するか否かに対し必要な関心と思慮をもって審理し,判断したかについては,既に検討したように,遺憾ながらその痕跡を窺い知ることは困難である

 以上のような推移の下に,審決は,その後,拒絶理由通知では挙示しなかった甲3が上記構成を相当程度に開示していると考えるに至り,改めて拒絶理由通知をすることなく,唐突に甲3に開示された周知技術を引用例として用いたものと推認される。

(5) 審決の違法性
 以上検討したように,審決が認定した「・・・」は,たとえ周知技術であると認められるとしても,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく,容易想到性を肯認する判断の引用例として用いているのであるから,刊行物等に記載された事項として拒絶理由において挙示されるべきであったものである

 しかも,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成は,本願発明の出願時から一貫して最も重要な構成の一つとされてきたのであり,出願人である原告が,審査及び審判で慎重な審理判断を求めたものであるのに,審決は,この構成についての容易想到性を肯認するについて,審査及び審判手続で挙示されたことのない特定の技術事項を周知技術として摘示し,かつ,これを引用例として用いたものであるから,審判手続には,審決の結論に明らかに影響のある違法があるものと断じざるを得ない。』