知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

著作権登録の際の説明義務

2013-05-01 22:15:09 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)40129
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久 ,裁判官 三井大有,志賀勝

第3 当裁判所の判断
1 争点1(文化庁長官の行為が国家賠償法上違法であるか否か)について
(1) 原告は,原告が本件各登録申請を行った際,文化庁長官は,本件担当職員をして,原告に対し,本件各登録をしたからといって著作権の権利者という地位は保証されない等の説明をさせるべき職務上の法的義務を負っていたのに,これを怠った違法があると主張する。

 しかしながら,文化庁長官がかかる義務を負うことにつき定めた法令はないし,仮に文化庁長官が「著作物でないもの」や「著作物かどうか不明なもの」を著作権登録しているという事実を認識しているとしても,これにより文化庁長官が上記のような義務を負うこととなるわけではなく,その他文化庁長官がかかる義務を負うことを認め得る根拠もない。したがって,原告の主張は,前提を欠くものであって,採用することができない。

コンビニコミックの原稿料と利用許諾の範囲

2013-04-14 23:16:52 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)35951
事件名 損害賠償
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾

(1) 被告が本件各作画を掲載した本件各コミックの増刷を発行したことは,前記争いのない事実等(3)アのとおりである。
 被告は,原告と被告は,原告が被告の依頼に基づいて本件各作画を制作し,被告において本件各作画を本件各コミックに掲載して利用することを許諾し,被告がその対価として本件コミック1については原稿1枚当たり1万円の原稿料を,本件コミック2ないし6については原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を原告に支払う旨の各合意(本件各合意)をし,本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力が,本件各コミックの増刷分についても及んでいる旨主張するので,以下において判断する。
・・・
(3)ア そこで検討するに,前記(2)ア及びイの認定事実によれば,被告は,B執筆の書籍「Bの都市伝説」シリーズを原作とする漫画版として,複数の漫画家が作画した漫画各話を掲載したコンビニコミックである本件各コミックの出版を企画し,被告主張の本件各合意のそれぞれの合意の時期に,本件コミック1については作画原稿1枚当たり1万円の原稿料を,本件コミック2ないし6については作画原稿1枚当たり1万3000円の原稿料を支払うとの条件で,原告に対し,本件各作画の制作を順次依頼し,原告は,その都度これを了承したものであり,被告の上記各依頼の趣旨は,原告に対し,原告が本件各作画の制作を行うとともに,被告が本件各コミックに本件各作画を掲載して出版及び販売することについての利用許諾を求めるものであるから,原告が被告の上記各依頼を了承することにより,原告と被告との間で,本件各合意が成立したものと認められる。
 そして,前記(2)アないしウの認定事実及び弁論の全趣旨を総合すれば,
① 本件各コミックと同種のコンビニコミックは,雑誌扱いの不定期の刊行物として,主にコンビニエンスストアで発売後約2週間程度販売された後,売れ残ったものが返品されるのが通常であり,初版の発売時にはあらかじめ増刷することは予定されていないが,これは事実上の取扱いであり,初版が返品された後であっても,需要があれば,増刷して発行することもあり得るものであり,コンビニコミックであるからといって,流通期間が性質上当然に限定されているとまではいえないこと,
② 被告は,上記各依頼に際し,原告に対し,上記原稿料以外の条件の提示をしていないのみならず,原告と被告との間で,原稿料以外の条件や本件各コミックの発行予定部数,流通期間等について話題となることはなかったこと
が認められる。

 上記①及び②の事情に照らすならば,本件各合意に基づく原告の利用許諾の効力は,本件各コミックの初版分に限定されるものではなく,その増刷分についても及ぶものと認めるのが相当である。

ホームページの著作物性を否定した事例

2013-02-17 22:34:38 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)47569
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎,裁判官 高橋彩,石神有吾

b 原告は,本件画面1の画面構成は,画面上中央に「大道芸研究会」と黒い太文字のタイトルを,タイトルの下に更新内容の掲載欄を,画面中央やや上,赤色の四角い枠内に大道芸研究会・事務局への連絡先を掲載した点,タイトルの背景は桃色で電話とFAX欄の背景は黄色である点,画面下中央部に大きく写真を貼っている点,背景に花柄模様の画像を使用している点において,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり,画面全体として創作性がある旨主張する。

そこで検討するに,著作権法が保護の対象とする「著作物」は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)をいい,アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現など表現上の創作性がないものには,同法による保護は及ばない

 ところで,団体に関する各種の情報を掲載し,広報等の目的で開設された団体のウェブサイトのホームページ(ウェブページ)の画面構成においては,
① 団体名を画面の上に太文字で配置すること,
② 各ページの掲載内容を示すタイトル欄をページごとに設けること,
③ 各記載内容にタイトルを設けること,
④ タイトルを枠や図形の中に配置すること,
⑤ 画面上に,各種の大きさの枠を設けてその中に,あるいは枠を設けずに,更新内容,団体の連絡先,団体の説明,団体の活動内容及び入会に関する情報等の団体のホームページとして必要な内容を掲載すること,
⑥ 写真を中央に大きく掲載したり,小さめの写真複数枚を並べて掲載すること,
⑦ 写真に近接して写真の説明等を配置すること,
⑧ 画面内に他のページへのリンクの案内ボタンを複数並べて配列し,あるいは,単独で配置すること,
⑨ 図柄の背景や単色の背景を使用すること,
⑩ 文字・枠・背景に各種の色や柄を用いること
は,いずれも一般的に行われていることであり(乙11ないし15,弁論の全趣旨),ありふれた表現であるといえる。

 しかるところ,原告が本件画面1に表現上の創作性があることの根拠として挙げる上記諸点は,上記①,⑤,⑥,⑨及び⑩のとおり,団体のウェブサイトのウェブページの画面構成としては,一般的なものであって,ありふれたものであり,表現上の創作性があるものと認めることはできない。また,原告が挙げる本件画面1の色合いの点については,これを認めるに足りる証拠はない(本件においては,モノクロの書証しか提出されていない。)。

 したがって,原告の上記主張は,理由がない。

著作物に該当しないものの利用行為と不法行為の構成

2013-02-17 22:27:49 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)47569
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎,裁判官 高橋彩,石神有吾

(2) 検討
ア 前記(1)の認定事実によれば,被告は,本件ウェブサイトのウェブページから,本件各画面の画像データ及び本件ソースコードをそのままダウンロードして自己のパソコンに取り込んで,これらをアップロードして,被告ウェブサイトを開設し,その後,本件各画面及び本件ソースコードを利用して被告各画面を作成し,被告ウェブサイトに掲載したことが認められる。

 そこで検討するに,著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決民集65巻9号3275頁参照)。

 これを本件についてみるに,本件各画面及び本件ソースコードが原告を著作者とする著作物に該当しないことは前記1(1)及び(2)において判示したとおりであるところ,原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益は,著作権法が規律の対象とする独占的な利用の利益をいうものにほかならないから,原告が多大な時間と労力を費やして本件各画面及び本件ソースコードを作成したとしても,被告の上記一連の行為は,原告に対する不法行為を構成するものとみることはできないというべきである。

ソフトウェアのプログラムの著作物性

2013-02-03 16:43:47 | 著作権法
事件番号 平成24(ワ)5771
事件名 著作権侵害差止請求権不存在確認等請求事件
裁判年月日 平成24年12月18日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 高 橋 彩,上 田 真 史

1 争点1(本件ソフトウェアのプログラムの著作権侵害の成否)について
(1) 著作権法が保護の対象とする「著作物」は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)をいい,アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現など表現上の創作性がないものは,著作権法による保護は及ばない。また,著作権法上,「プログラム」とは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法2条1項10号の2)をいい,「プログラムの著作物」(同法10条1項9号)に対する著作権法による保護は,その著作物を作成するために用いる「プログラム言語」(プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系),「規約」(特定のプログラムにおけるプログラム言語の用法についての特組合せの方法)には及ばない(同条3項)

 そうすると,プログラムにおいて,コンピュータ(電子計算機)にどのような処理をさせ,どのような機能を持たせるかなどの工夫それ自体は,アイデアであって,著作権法による保護が及ぶことはなく,また,プログラムを著作権法上の著作物として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であるが,プログラムは,その性質上,プログラム言語,規約及び解法による表現の手段の制約を受け,かつ,コンピュータ(電子計算機)を効率的に機能させようとすると,指令の組合せの具体的記述における表現は事実上類似せざるを得ない面があることからすると,プログラムの作成者の個性を発揮し得る選択の幅には自ずと制約があるものといわざるを得ない。

 一方,複製とは,・・・(著作権法2条1項15号参照),著作物の再製は,・・・(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁参照)。

 以上の諸点に鑑みると,原告ソフトウェアのプログラムが本件ソフトウェアのプログラムの複製又は翻案に当たるかどうかを判断するに当たっては,まず,本件ソフトウェアのプログラムの具体的記述における表現上の創作性を有する部分と原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述とを対比し,原告ソフトウェアのプログラムの具体的記述から本件ソフトウェアのプログラムの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要があるというべきである。
・・・
 しかしながら,被告が主張する本件ソフトウェアのプログラムにおける表現上の工夫は,いずれも本件ソフトウェアの機能を述べるものにすぎず,それらは,プログラムの具体的記述における表現それ自体ではないアイデアであって,著作権法による保護が及ぶものではないから,その主張自体,本件ソフトウェアのプログラムの具体的記述における表現上の創作性を基礎付けるものではない。
 また,別紙1ないし12から明らかなとおり,被告が主張する本件ソフトウェアのプログラムのソースコードの記述における表現上の創作性を有する部分と原告ソフトウェアのプログラムのソースコードの具体的記述とは,一部分において共通する箇所があるものの,一致しているとはいえない。
 さらに,上記共通する箇所は,原告が主張するように,第三者(Baidu社)が提供しているオープンソースソフトウェアを利用した記述や,マイクロソフト社の「Visual Studio」が自動生成するソースコードを利用した記 述 , マ イ ク ロ ソ フ ト 社 が 公 開 し て い る 関 数 の 名 称 ( ・・・)の記述,コンピュータプログラムの文法上一般的に使用される表現を用いたもの(「While」文等)など,いずれもありふれた表現であって(甲8ないし20,22,弁論の全趣旨),作成者の個性が表れているものとはいえない

図面に従った製品の製造と、「複製」や「翻案」への当否

2012-12-24 22:35:12 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)2283
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成24年12月06日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾

(2) 原告製品図面の著作物性
 本件で原告製品図面であるとして提出された設計図面(甲13)は,通常の作図法に従って記載されているところ(甲13,弁論の全趣旨),原告は,上記設計図面のうちどの部分が著作物性を有するのか,また,その理由について,具体的な主張をしていない(・・・。)。したがって,原告製品図面は,著作権法上の著作物といえない。 

(3) 原告製品図面の複製,翻案
 また,原告は,被告製品又はその構成部品の製造が,原告製品図面の複製又は翻案であると主張しているが,著作物たる「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)であっても,これに従って製品を製造することは,建築物の場合(著作権法2条1項15号ロ)を除き,複製や翻案には当たらないと解される。
 したがって,被告が被告製品又はその構成部品の製造,販売をすることが,図面に係る原告の著作権(複製権,翻案権)を侵害すると見る余地はない。

研究成果と指導者の取得する権利

2012-12-24 22:33:47 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)15588
事件名 著作権侵害差止等請求事件,共著名削除等請求事件
裁判年月日 平成24年12月06日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾

 これら,論文及び論文の基礎となった研究成果や,引用された論文が,原告が被告大学を退職する以前,原告研究室に在籍する学生や研究者によって,形成されたり,作成されたりしたことから(弁論の全趣旨),原告が,これらの研究成果の形成や,論文の作成について,主導的な役割を果たしたことは十分に窺える。そして,原告が被告大学を退職したのは平成21年3月であるところ,論文の発表は平成18年に,論文の発表は平成21年に行われており,これらが原告の指導の下,作成された可能性は否定できない。

 しかし,研究成果自体について著作権は成立しない。論文の引用は,著作権法32条の範囲で許されており,同条の範囲内の引用である限り,引用を理由に何らかの権利を取得するわけではない

プログラムの著作物の「複製」とプログラム実行画面のスクリーンショットの印刷

2012-12-19 23:39:08 | 著作権法
事件番号 平成24(ワ)15034
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年11月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大 須 賀 滋,裁判官 西村康夫,森川さつき

(2) 原告は,本件プログラムは原告が創作した「プログラムの著作物」(法10条1項9号)であると主張する。
 プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法(法10条3項)に制約されつつ,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,法により保護されるべき作成者の個性(創作性)が表れることになる。
 したがって,プログラムに著作物性(法2条1項1号)があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,プログラム制作者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する知財高裁平成21年(ネ)第10024号平成24年1月25日判決・裁判所ウェブサイト)。

 原告は,本件プログラムのソースコード(甲6の1。A4用紙7枚(1枚当たり36行。全部で232行)のもの。)を提出するものの,本件プログラムのうちどの部分が既存のソースコードを利用したもので,どの部分が原告の制作したものか,原告制作部分につき他に選択可能な表現が存在したか等は明らかでなく,原告制作部分が,選択の幅がある中から原告が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現ではなく,原告の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものといえるかも明らかでない

(3) 仮に本件プログラムに原告の創作性が認められるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張には理由がない。
 原告は,被告がブラウザを用いて本件プログラムにアクセスし,その情報を被告のパソコンのモニタに表示させ,表示された情報のスクリーンショットを撮り,当該スクリーンショットの画像ファイルを紙である別件乙3(甲1の1,乙2)に印刷したことが,プログラムの著作物である本件プログラムの複製に当たると主張する。

 法にいう「複製」とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうが(法2条1項15号),著作物を有形的に再製したというためには,既存の著作物の創作性のある部分が再製物に再現されていることが必要である
 これを本件についてみると,紙である別件乙3(甲1の1,乙2)に記載されているのは画像であって,その画像からは本件プログラムの創作性のある部分(指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなる部分)を読み取ることはできず,本件プログラムの創作性のある部分が画像に再現されているということはできないから,別件乙3の印刷が本件プログラムの複製に当たるということはできない。

(4) したがって,別件乙3の印刷による複製権侵害は認められない。

映画の著作物であるCM原版に対する著作権法29条1項の適用

2012-10-30 23:31:55 | 著作権法
事件番号 平成24(ネ)10008
事件名 各損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成24年10月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治
著作権法29条1項

 著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・の著作権は,その著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と,また,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」旨規定する。
 本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上(当事者間に争いはない。),その製作目的が,商品の販売促進等であることを理由として,同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は,その主張自体失当であり,採用の余地はない。

 のみならず,以下のとおり,本件ケーズCM原版の具体的な製作目的,製作経緯等を検討してみても,本件ケーズCM原版について,映画の著作物の著作権に関して当該映画の製作者に帰属させる旨定めた同法29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はない。
 すなわち,同法29条1項は,映画の著作物に関しては,映画製作者が自己のリスクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと,多数の著作者全てに著作権行使を認めると,映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して,立法されたものである。

 ところで,本件ケーズCM原版についてみると,
  同原版は・・・短時間の広告映像に関するものであること・・・,
  他方,製作者たる広告主は,原告及び被告アドックに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,
  同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること
等を総合考慮するならば,同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。

 原告は,本件のような広告映像の場合,制作会社が,CM原版のプリント(複製)を受注し,その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立していることから,本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属すると解すべきである旨主張する。
しかし,制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても(甲26,28,46),本件において,原告が,当然に,そのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできない

ソフトウェアの翻訳したメニュー表示の著作物性

2012-10-23 22:15:14 | 著作権法
事件番号 平成24(ネ)10053
事件名 訂正公告掲載請求控訴事件
裁判年月日 平成24年10月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎

3 本件記事には,本件ソフトウェアの画面レイアウトの例が記載されている。控訴人の主張によれば,控訴人は外国語で作成されたソフトウェアである「EarMaster」の日本語版である本件ソフトウェアの作成に関与したものであって,控訴人が行ったのはメニューの日本語化とヘルプファイルの作成の一部であったというのである。しかしながら,本件記事中の日本語メニューは製品紹介として掲載されているのであり,本件記事は,メニューも含めて本件ソフトウェアの機能を普通に表現したにとどまる。メニューの日本語表示は小さく読み取り難く,かろうじて読み取れたとしても,日本語化において創作性のあるものとは認められない。また,ヘルプファイルの内容は本件記事には記載されていない。したがって,被控訴人が本件記事に本件ソフトウェアの画面レイアウトの例を記載することによって,控訴人の著作権又は著作者人格権が侵害されたということはできない。

ソフトウェア製品紹介記事の出版社の著作権等の権利帰属の調査義務

2012-10-23 21:59:57 | 著作権法
事件番号 平成24(ネ)10053
事件名 訂正公告掲載請求控訴事件
裁判年月日 平成24年10月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎


 控訴人は,本件記事の読者はイーフロンティアに本件ソフトウェアの販売をする権利があると信じると主張するが,製品をめぐる権利関係には契約関係を始めとする様々な事情があることも考えられるから,記事中に製品をめぐる権利関係について何ら記載がないにもかかわらず,新製品紹介記事の読者が,記事中に発売元として記載されている者に著作権等の特定の権利が完全に帰属し,他者の権利を何ら侵害していないと理解するのが通常であるということはできない

 控訴人は,本件記事を掲載するにあたり,被控訴人は本件ソフトウェアの権利関係について調査をすべきであったと主張する。しかし,記事中に製品をめぐる権利関係についての記述がない新製品紹介記事を掲載するに際し,記事中に発売元として記載される者に関する著作権等の権利帰属についての調査義務があるものと解することはできない

著作権法41条の適用対象

2012-10-21 21:47:36 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)9722
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成24年09月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大 須 賀 滋、裁判官 小川雅敏,森川さつき
著作権法41条

 著作権法41条は,時事の事件を報道する場合には,その事件を構成する著作物を報道することが報道目的上当然に必要であり,また,その事件中に出現する著作物を報道に伴って利用する結果が避け難いことに鑑み,これらの利用を報道の目的上正当な範囲内において認めたものである。このような同条の趣旨に加え,同条は「写真,映画,放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合」と規定するのであるから,同条の適用対象は報道を行う者であって,報道の対象者は含まれないと解するのが相当である。
 そうすると,被告は,本件記者会見を行ったことが認められるものの,本件記者会見についての報道を行った者ではないから,著作権法41条の適用はないというべきである。

著作権法32条1項の引用に当たるかどうかの判断事例

2012-10-21 21:31:13 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)9722
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成24年09月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大 須 賀 滋、裁判官 小川雅敏,森川さつき

 著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が,報道,批判,研究等の引用するための各目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
 ・・・
 このように,被告が名誉毀損と主張する部分が,本件各霊言の一部にすぎないことや,名誉毀損とは関係のない内容も多数含まれていることからすれば,本件各霊言全体を複製・頒布して利用した本件複製頒布行為について,上記の説明,批判,反論等の目的との関係で,社会通念に照らして正当な範囲の利用であると解することはできない
 ・・・
 本件DVD等は,被告の主張によれば,・・・本件記者会見の翌日に,原告の主張によれば本件記者会見の翌週に,記者会見に参加した報道関係者等に配布されたものである。しかも,・・・,被告は,・・・気がかりを生じ,その気がかりを解消するために本件DVD等を報道関係者等に送付する必要を感じ実行したものと認められるから,本件記者会見の席上においては,本件DVD等を,後日,記者会見における説明等に必要なものとして配布する旨を述べていなかったものと認められる。
 このような本件DVD等の配布の時期,本件記者会見当日における説明内容に照らせば,本件複製頒布行為が公正な慣行に合致するものと認めることもできない

複製権及び譲渡権の取得時効

2012-10-20 22:24:42 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)36664
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年09月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、石神有吾

(2) 複製権及び譲渡権の取得時効について
 被告寿屋は,被告寿屋が,著作権の譲渡契約を原因として,昭和52年初めころから平成22年3月ころまで本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用し,自己のためにする意思をもって,平穏かつ公然に著作物である本件各イラストについて継続して複製権及び譲渡権を行使したから,上記使用開始時から10年を経過した昭和62年初めころ又は20年を経過した平成9年初めころ,上記複製権及び譲渡権の取得時効が成立した旨(前記第3の3(2))主張する。

 ところで,複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2第1項)は,民法163条にいう「所有権以外の財産権」に含まれるから,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と著作物の全部又は一部につき継続して複製権又は譲渡権を行使する者は,複製権又は譲渡権を時効により取得することができるものと解されるが,時効取得の要件としての複製権又は譲渡権の継続的な行使があるというためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利又は譲渡する権利を専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するものというべきであり,また,民法163条にいう「自己のためにする意思」は,財産権の行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであって,準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは,その財産権の行使は「自己のためにする意思」を欠くものというべきである(複製権につき,最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決民集51巻6号2714頁参照)。


 以上を前提に検討するに,被告寿屋は,被告紙パック又は被告寿屋が,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストを被告寿屋の商品のパッケージに継続して使用した旨主張するが,前記(1)認定のとおり,原告が本件各イラストの著作権について譲渡契約を締結したことは認められないから,被告紙パック又は被告寿屋が,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストの使用を開始し,これを継続したものということはできない。かえって,被告寿屋は,原告が,本件各イラストの原画(本件原画)を基に制作された被告イラスト・・・を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことに基づいて,被告紙パックから納品を受けた上記各イラストが付された本件カートン・・・に箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始し,これを継続したものであるから(前記1(2)ウ,(3)ア),被告寿屋においては,その性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権(複製権又は譲渡権)を行使したものであり,「自己のためにする意思」を欠くものといえる。
 また,被告寿屋が,本件各イラストについて他者に利用許諾をして許諾料を得たり,他者による本件各イラストの利用の差止めを求めるなど,外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他的に行使していたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。

釣りゲームに著作物性を認めなかった事例

2012-08-14 23:16:38 | 著作権法
事件番号 平成24(ネ)10027
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年08月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人,荒井章光

 また,三重の同心円を採用することは,従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが,弓道,射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって,釣りゲームに同心円を採用すること自体は,アイデアの範疇に属するものである。
 そして,同心円の態様は,・・・具体的表現において,相違する。しかも,原告作品における同心円の配色が,・・・,同心円が強調されているものではないのに対し,被告作品においては,・・・,同心円の存在が強調されている点,・・・,同一画面内でも変化する点,また,同心円の中心の円の部分は,コインが回転するような動きをし,・・・変化する点等において,相違する。そのため,原告作品及び被告作品ともに,「三重の同心円」が表示されるといっても,具体的表現が異なることから,これに接する者の印象は必ずしも同一のものとはいえない。

ウ 以上のとおり,抽象的にいえば,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面とは,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点,水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において共通するとはいうものの,上記共通する部分は,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず,また,その具体的表現においても異なるものである。

 そして,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について,・・・,同心円が占める大きさや位置関係が異なる。また,被告作品においては,同心円が両端に接することはない上,魚影が動き回っている間の同心円の大きさ,パネルの配色及び中心の円の部分の図柄が変化するため,同心円が画面の上下端に接して大きさ等が変わることもない原告作品のものとは異なる。さらに,被告作品において,引き寄せメーターの位置及び態様,魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係や,中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと,円の中心部分の表示に応じてアニメーションが表示され,その後の表示も異なってくるなどの点において,原告作品と相違するものである。その他,後記エ(カ)のとおり,同心円と魚影の位置関係に応じて決定キーを押した際の具体的表現においても相違する。なお,被告作品においては,同心円が表示される前に,水中の画面を魚影が移動する場面が存在する。

 以上のような原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると,被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が,その全体から受ける印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない