知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法8条の解釈

2007-04-28 22:09:08 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10506
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 本件審決の適否
(1) 本件審決は,別添審決写し記載のとおり,いずれも平成12年1月24日に出願された本件商標と日清食品商標とは,商標も類似し指定商品も抵触しているのであるから,法8条2項・4項・5項に基づき,特許庁長官の協議命令・当事者間の協議・特許庁長官の行うくじの手続を経なければならなかったが,審査官がこれらの手続を経ずに商標登録をさせるに至ったときは,法46条1項により商標登録を無効とすべきものとはいえないとしたものであり,原告はその違法を主張するので,以下検討する。

(2) 商標法は,その8条1項において「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なった日に2以上の商標登録出願があったときは,最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。」と定めて,先願主義の立場をとることを明らかにしている。
 もっとも,この先願主義の立場は,日を単位として適用されるのであって,同一日に複数の出願が競合した場合については,各出願相互間に優劣を設けずにこれを同一順位と扱い,その後になされる当事者間の協議(法8条2項)又は特許庁長官が行うくじ(法8条5項)により,複数出願相互間の優劣が決せられる仕組みとなっている。
 一方,法46条は,商標登録の無効審判における無効理由について定めていて,何らかの事由により商標法の規定に反する商標登録がなされた場合にこれを無効にすることにより,商標制度の適法性を担保しようとしたものである。

 本件においては,前記のように,被告(東洋水産株式会社)からなされた本件商標登録出願と日清食品株式会社からなされた日清食品商標登録出願とは,商標が類似し指定商品も抵触するのであるから,上記各出願を受けた特許庁審査官としては,法8条2項・4項・5項に基づく協議・協議命令・くじの手続を執るべきであったのにこれを看過し,両出願につき商標登録させてしまったものであるが,これらの手続違背が当然に法46条1項の商標登録の無効審判事由に該当するかどうかが,本件訴訟の中心的争点である

 思うに,法46条1項の無効審判事由該当性の有無の解釈に当たっては,違反した手続の公益性の強弱の程度,及び無効事由に該当すると解した場合の法制度全体への影響等を総合的に判断してこれを行うべきものである

 法46条1項の規定のうち本件に関係があるのは,その1号の「その商標登録が…第8条第1項,第2項若しくは第5項…の規定に違反してされたとき」との部分であるが,法8条は,前記のように,商標法における先願主義の立場を明らかにし,先願と抵触する重複登録はこれを避けようとした規定であると解される。そして,法8条の定めるこの先願主義ないし重複登録禁止の立場は,商標が商品の出所の同一性を明らかにするという意味での公益性に寄与するためのものであることは明らかであるが,その公益性の程度は,法47条が商標権の設定登録の日から5年を経過したときは無効審判請求をすることができないことを定めていることからして,重複した商標登録の併存を法が絶対に許容しない程の強い公益性を有するものと解することはできない(設定登録後5年を経過すれば,重複登録は適法に並存できる。)のみならず,商標法は,類似の規定を持つ特許法(39条)及び意匠法(9条)においてはいわゆる後願排除効がある(同一内容の後願は,先願が拒絶されても,受理されることはないという効力。特許法29条の2,意匠法3条の2)のと異なり,後願排除効がない(法8条3項)から,仮に平成12年1月24日に出願がなされた本件商標及び日清食品商標につき法8条2項若しくは5項違反により無効審判をすべきものと解することになると,それよりも後願の者(例えば原告)の商標登録出願を許容することになり,その後願者にいわゆる漁夫の利を付与することになって,法8条1項の先願主義の立場に反する結果になる。

 そうすると,法8条2項,同5項に違反し商標登録が無効となる場合(法46条1項1号)とは,本件審決(9頁20行~24行)も述べるように,先願主義の趣旨を没却しないような場合,すなわち出願人の協議により定めたにも拘わらず定めた一の出願人以外のものが登録になった場合,くじの実施により定めた一の出願人でない出願人について登録がなされたような場合をいうものと解するのが相当である
 したがって,これと同旨の審決が法8条2項,同5項の解釈を誤ったということはできず,審決に違法はない。』

(筆者注)
事件番号 平成18(行ケ)10458
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
も同趣旨をいう。

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2 コメント

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私もコメントしました (Mendoza)
2007-05-01 22:02:30
 はじめまして。これは前から追っていた件でしたが、ついに判決が出たという感じです。
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コメントありがとうございます。 (Gori)
2007-07-01 19:16:41
コメント下さる方がいらっしゃるとは思いもよらなかったので、ずーっと気がつきませんでした。失礼いたしました。
 私はこの事件のことは、判決まで知りませんでした。判決を見たときは、このような事態が生じたことに驚くとともに、判示内容になるほどと思いました。
 ところで、まだ複製を終えておらず、抜けがありますが
 http://ip-hanrei.sblo.jp/
では更に細分化したカテゴリで、判決を参照できます。良かったら、こちらもご参照下さい。
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