知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

法17条の2第4項4号の解釈-「明瞭でない記載」とは、拒絶理由に示す事項に限る意義

2011-05-29 11:03:20 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10325
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(1) 補正事項1は法17条の2第4項各号に該当するか
ア 法17条の2第4項4号につき
(ア) 法17条の2第4項4号は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定している。
 ここで「明りょうでない記載」とは,それ自体意味の明らかでない記載など,記載上不備が生じている記載であって,特に特許請求の範囲について「明りょうでない記載」とは,請求項の記載そのものが文理上意味が不明りょうである場合,請求項自体の記載内容が他の記載との関係において不合理を生じている場合,又は請求項自体の記載は明りょうであるが請求項に記載した発明が技術的に正確に特定されず不明りょうである場合等をいい,その「釈明」とは,記載の不明りょうさを正してその記載本来の意味内容を明らかにすることをいうものと解される。

 ところで,補正事項1は,前記のとおり,本願に係る発明のうち,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という記載を削除するものである。したがって,補正事項1が「明りょうでない記載の釈明」に該当するためには,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」との記載が上記明りょうでない記載と認められ,それを削除することによってその記載の本来の意味内容が明らかになるものであることを要する

 しかし,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」の記載のうち,「僅かに」の部分を除く・・・記載は,生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度と混練温度との高低の関係をいうものであることが明白であるから,その記載自体の意味は明りょうであって,当該記載を除くことが,特許請求の範囲について明りょうでない記載をその記載本来の意味内容を明らかにするものであるとはいえず,むしろ,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」全体を削除すると,生分解性天然樹脂(A)と生分解性合成樹脂(B)との「混練」に関し,補正前発明と本件補正後の発明とではその実質に相違が生ずる可能性があると認められる。
 したがって,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」との記載全体を削除することを内容とする補正事項1は,そもそも「明りょうでない記載の釈明」を目的としたものと認めることはできない

(イ) 法17条の2第4項4号括弧書き該当性
 法17条の2第4項4号に該当するためには,補正事項が「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」(同項4号括弧書き)ところ,同括弧書きの意義は,拒絶理由通知で指摘していなかった事項について「明りょうでない記載の釈明」を名目に補正がされることによって,既に審査・審理した部分が補正されて,新たな拒絶理由が生じることを防止するために,「明りょうでない記載の釈明」は最後の拒絶理由通知で指摘された拒絶の理由に示す事項についてするものに限定されるという趣旨と解される。
 前記3の本件出願の手続の経緯のとおり,
 最後の拒絶理由通知(甲2の4)においては,まず,
 [理由1]において,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」混練する旨は当初明細書等(甲1)に明示的に記載されていないし,自明でもないと指摘して,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとし,さらに,
 [理由3]において,「(2) 請求項1における『僅かに』なる記載は多義的に解され不明瞭である」として,「僅かに」という記載に限って法36条6項2号に規定する要件を満たしてない旨指摘していることが認められる。

 以上によれば,最後の拒絶理由通知において明りょうでないと指摘された記載は,文中の「僅かに」という記載のみであることは明らかであるから,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という記載全体を削除する本件補正は,審査官が「拒絶の理由に示す事項」の範囲を超え,むしろ[理由1]で指摘された新規事項の追加についての拒絶理由を回避するためになされたものと認めるのが相当である。

 したがって,補正事項1は,法17条の2第4項4号括弧書きの「拒絶の理由を示す事項についてするもの」に該当しないというべきである

へんしんふきごま事件-折り図の複製・翻案についての判断事例

2011-05-29 10:07:09 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)18968
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年05月20日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大鷹一郎

(ア) 以上を前提に,本件折り図の著作物性について判断する。
 折り紙作品の折り図は,当該折り紙作品の折り方を示した図面であるが,その作図自体に作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該折り図は,著作物に該当するものと解される。
 もっとも,折り方そのものは,紙に折り筋を付けるなどして,その折り筋や折り手順に従って折っていく定型的なものであり,紙の形,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向,折り手順は所与のものであること,折り図は,折り方を正確に分かりやすく伝達することを目的とするものであること,折り筋の表現方法としては,点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば,その作図における表現の幅は,必ずしも大きいものとはいい難い。また,折り図の著作物性を決するのは,あくまで作図における創作的表現の有無であり,折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない

(イ) そこで検討するに,
 ・・・本件折り図を全体としてみた場合,上記説明図の選択・配置,矢印,点線等と説明文及び写真の組合せ等によって,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができるから,本件折り図は,著作物に当たるものと認められる。

(2) 複製ないし翻案の成否
 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照),著作物の再製は,当該著作物に依拠して,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成することを意味するものと解され,また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁参照)。
 以上を前提とすると,被告折り図が本件折り図の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,被告折り図において,本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある。
・・・

イ 被告折り図と本件折り図の対比
(ア) 被告折り図と本件折り図は,別紙3のとおり,
 (1)32の折り工程からなる・・・折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点, (2)各説明図でまとめて選択した折り工程の内容, (3)各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通している。

(イ) しかし,他方で,
 本件折り図は,別紙1のとおり,・・・矢印,・・・点線(谷折り線・山折り線),・・・実線,・・・仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,・・・読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,
 被告折り図は,・・・,折り工程の大部分(・・・)について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点で相違している。 このような相違点に加えて,・・・点において相違する。

(ウ) 以上のとおり,被告折り図と本件折り図は,前記(イ)の相違点が存在することから,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があるものであって,前記(ア)の共通点を最大限勘案してもなお,被告折り図から,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現した本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものとは認められない

 したがって,被告折り図は,本件折り図の複製物又は翻案物のいずれにも当たらないというべきである。

法律に違反しなくても公序良俗を害するとした事例

2011-05-22 23:10:17 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10003
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告が主張するところによっても,原告は教育施設を擁するものではないから,「大学」という名称を用いても直ちに学校教育法135条1項の規定に違反するとはいえないかもしれない
 しかしそうだとしても,学校教育法に基づいて設置された大学を表示するものと誤認されるおそれのある本願商標をその指定役務に含まれる「技芸・スポーツ又は知識の教授」の役務に使用することになれば,これに接した需要者に対し,役務の提供主体があたかも学校教育法に基づいて設置された大学であるかのように誤認を生じさせることになり,教育施設である「学校」の設置基準を法定した上で,この基準を満たした教育施設にのみその基本的性格を表示する学校の名称を使用させることによって,学校教育制度についての信頼を維持しようとする学校教育法135条1項の趣旨ないし公的要請に反し,学校教育制度に対する社会的信頼を害することになるというべきである

 したがって,本願商標は公の秩序を害するおそれがある商標というべきであり,本願商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。

廃墟を作品写真として取り上げた先駆者の営業上の諸利益

2011-05-15 21:03:32 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平


3 法的保護に値する利益侵害について
 控訴人が原告各写真について主張する法的保護に値する利益として,まず廃墟を作品写真として取り上げた先駆者として,世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益が挙げられている

 しかし,原告各写真が,芸術作品の部類に属するものであることは明らかであるものの,その性質を超えて営業上の利益の対象となるような,例えば大量生産のために供される工業デザイン(インダスリアルデザイン)としての写真であると認めることはできない
 廃墟写真を作品として取り上げることは写真家としての構想であり,控訴人がその先駆者であるか否かは別としても,廃墟が既存の建築物である以上,撮影することが自由な廃墟を撮影する写真に対する法的保護は,著作権及び著作者人格権を超えて認めることは原則としてできないというべきである。

 そして,原判決60頁2行目以下の「3 法的保護に値する利益の侵害の不法行為の成否(争点5)について」に記載のとおり,「廃墟」の被写体としての性質,控訴人が主張する利益の内容,これを保護した場合の不都合等,本件事案に表れた諸事情を勘案することにより,本件においては,控訴人主張の不法行為は成立しないと判断されるものである。控訴人が当審において主張するところによっても,上記判断は動かない。

原審

廃墟写真の本質的な特徴

2011-05-15 20:39:12 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平
 
1 翻案権侵害を中心とする著作権侵害の有無について
(1) 著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる

 本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。

(2) 被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,・・・。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
 しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない
・・・

原審
 本件において,原告は,「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち,原告写真1ないし5の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨主張しているので,被告写真1ないし5の作成がこれに対応する原告写真1ないし5の翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,原告が主張する原告写真1ないし5における被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が上記のような表現上の本質的な特徴に当たるかどうか,被告写真1ないし5において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある
・・・
 そこで検討するに,原告が主張する原告写真1において旧丸山変電所の建物内部を被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく,また,その建物内部を,逆ホームベース状内壁の相当後方から,上記内壁に対して斜めに,上記内壁に接する内壁とほぼ平行の視点から撮影する撮影方向としたことのみから,原告が主張するような「旧丸山変電所の,打ち捨てられてまさに廃墟化した」印象や見る者に与える強いインパクトを感得することができるものではない。
 したがって,原告が主張する原告写真1における被写体及び構図ないし撮影方向そのものは,表現上の本質的な特徴ということはできない
・・・
 これらの相違点によって,原告写真1と被告写真1とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており,被告写真1から原告写真1の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

著作権法76条、75条の登録では著作物性を有することについて推定が及ばないとした事例

2011-05-15 19:36:38 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)35800
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告の商品台紙(・・・)の裏面に掲載した取扱文及び写真(・・・)並びに同商品のリーフレット(・・・)は,いずれも原告の著作物である「手続補正書」(・・・)を 複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行為は,原告の有する本件手続補正の著作権(複製権,翻案権)及び著者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円,合計300万円の損害賠償の支払を求める事案である。
・・・

第3 当裁判所の判断
・・・
(3) 著作権法75条3項の推定
 原告は,本件手続補正書は,本件願書と実質的に同一の著作物であるところ,本件願書は著作物として登録がされているから,著作権法75条3項により著作物と推定されると主張する。
 しかし,本件願書について登録がされているのは,著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって,同法75条の登録(実名の登録)ではない
 また,著作権法75条3項で推定されるのは当該登録に係る著作物の著作者であること,同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって,登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるのではない
 原告は,著作物として認められないのであれば却下理由になるはずであると主張するが,著作権に関する登録は,いわゆる形式審査により行われ,法令の規定に従った方式により申請されているかなど却下事由に該当しないかどうかを審査するものである(同法施行令23条参照)から,著作権に関する登録により著作物性を有することについて事実上の推定が及ぶと解することもできない

数値限定の意義の判断事例

2011-05-08 15:49:15 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10365
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 本願発明は,所定機器を停止してからこの所定機器を動作状態に復帰させるまでの時間である第二設定時間について,「前記第二設定時間は,15~30秒に設定される」と特定されており,本願明細書(甲3)を参照すれば,「第二設定時間は,電力消費(過負荷)のピーク持続時間を考慮して定められ,本実施例では通常,15~30秒に設定される。」(段落【0034】)と記載され,電力消費(過負荷)のピーク持続時間を考慮して定めることは示されているものの,下限を「15秒」,上限を「30秒」とした根拠は記載されておらず,第二設定時間を「15~30秒」に限定した技術的意義については示されていないというべきである。

 他方,引用例1には,本願発明の第二設定時間に対応する時間を「3分」としたことが,また,引用例2には,同じく「15秒」としたことがそれぞれ記載されており,いずれの引用例にも,前記時間を特定した根拠については明示されていないことからして,前記時間は,少なくとも15秒ないし3分の範囲であれば,当業者が適宜設定できる値であると考えるのが自然である。

審尋への回答書の当否を示さず、補正案による補正の機会を与えないことは裁量権の逸脱か

2011-05-08 15:03:36 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10190
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 裁量権の逸脱,濫用について
 原告は,審判合議体が,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)の当否について審理せず,これに対する理由を示さなかった点において,審判合議体の有する裁量権を逸脱,濫用したものであり,違法であると主張する。
 しかし,原告の主張は失当である。特許法158条には,・・・。同規定によれば,拒絶査定不服審判は,審査における手続を有効なものとした上で,必要な範囲で更に手続を進めて,出願に係る発明について特許を受けることができるか否かを審理するものであり,審査との関係では,いわゆる続審の性質を有する。そして,審判手続の過程で請求人の提出した書面に記載された意見の当否について,審決において,個々的具体的に理由を示すことを義務づけた法規はない。したがって,審決において,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)について,その当否について,個々的具体的な理由を示さなかったとしても,当然には裁量権の濫用又は逸脱となるものではない。・・・。
・・・
(1) まず,請求人が審判長に提出した回答書(・・・)は,審判長が請求人宛てに送付した・・・「審尋」と題する書面(・・・)に応じて回答したものである。
・・・
 上記「審尋」と題する書面によれば,同書面は,
① 前置報告書の内容を示して,審判手続は,同報告書の内容を踏まえて実施する方針を伝え,
② 請求人に対して意見を求めた書面
である
と認められる。

 したがって,上記書面に沿って,請求人が,補正案の記載された回答書を提出したからといって,審判合議体において,請求人の提出した補正案の記載された回答書の内容を,当然に審理の対象として手続を進めなければならないものではなく,また,審決の理由中で,請求人の提出した回答書の当否を個別具体的に判断しなければならないものではない。審判手続及び審決に,上記の点に関する裁量権の濫用ないし逸脱はない。

(2) 次に,原告の提出した回答書に添付された「補正案」の手続上の意義について検討する。
 特許庁のウエブサイトには,「前置審尋を受け取った場合の審判請求人の対応」中の「(注3)補正案について」の項目において,
「・・・補正の機会が与えられるものではありません。・・・,審判合議体が補正案を考慮して審理を進めることは原則ありません。ただし,補正案が一見して特許可能であることが明白である場合には,迅速な審理に資するので,審判合議体の裁量により,補正案を考慮した審理を進めることもあります。」
と記載されている(甲12)。
 原告は,上記ウエブサイトの「ただし書き」の記載を根拠として,請求人の提出した回答書に添付された「補正案」に記載された発明が一見して特許可能であるにもかかわらず,補正の機会が与えられなかったのは,裁量権の逸脱又は濫用に当たるかのような主張をする

 ・・・,拒絶査定不服審判請求を審理判断する審判合議体は,①・・・,他方,②拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をする権能を有するが,後者の場合には,請求人に対して,新たな拒絶理由を通知して,意見書提出の機会を与えなければならない旨規定されている(特許法159条2項,3項,50条。なお,特許法50条,159条2項については,平成14年法律第24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の法をいうものである。)。
 したがって,同規定によれば,請求人が補正をすることができるのは,審判請求の日から所定の期間内の補正をする場合を除いては,審判合議体において,拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をしようとする場合に限られるのであって,上記ウエブサイトに記載されたような,「補正案が一見して特許可能であることが明白である」場合や「迅速な審理に資する」場合等が,これに該当するとはいえない

 そうすると,本件において,審判合議体が,請求人の提出した補正案を記載した回答書に基づいて補正の機会を与えなかったこと,及び審決の理由において,その点に関する判断を個別的具体的に示さなかったことが,審理及び判断における裁量権の逸脱,濫用に当たるということはできない。また,補正案に記載された発明が一見して特許可能でありさえすれば,補正の機会が当然に与えられるとの原告の主張は,その前提において採用することができないので,補正案に記載された発明が一見して特許可能であるか否かについて検討するまでもなく,原告の主張は採用できない。

特許法29条2項所定の要件の立証責任

2011-05-07 11:38:42 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10246
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 取消事由1(容易想到性判断の誤り)について
 特許法29条2項所定の「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」との要件は,無効審判を請求する請求人(本件では原告)において,主張,立証すべき責任を負う
 そして,本件各発明について,当業者(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が同条1項各号に該当する発明(以下「主たる引用発明」という場合がある。)に基づいて容易に発明をすることができたかは,通常,引用発明のうち,特許発明に最も近似する引用の発明から出発して,主たる引用発明以外の引用発明(以下「従たる引用発明」という場合がある。)及び技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を考慮することにより,特許発明の主たる引用発明と相違する構成(特許発明の特徴的な構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものである。
・・・
 上記の観点から,以下,本件各発明が特許法29条2項に該当する発明であるとの要件に該当する事実を,原告において主張,立証できたか否かについて,検討する。
 この点,原告の審判手続における主張等を総合しても,原告は,単に,甲5ないし7,18ないし21,特開2002-29994号公報等は挙げるものの,
① どのような先行技術を「主たる引用発明」として,同項の要件充足性の主張,立証を試みようとしているのか,
② 特定の先行技術を「主たる引用発明」として選択した場合に,本件各発明と当該先行技術との一致する構成及び相違する構成は何か,
③ 本件各発明における「主たる引用発明」との相違する構成が,解決課題及び解決手段との関係でどのような技術的な意義を有するのか,
④ 「主たる引用発明」と「従たる引用発明」を組み合わせることに支障があるか否か
について,合理的な主張,立証をしていると評価することはできない


 以上の点にかんがみると,「(本件各発明)は,請求人が提示したいずれの刊行物を組み合わせても,当業者が容易に発明できたものではない」とした審決の理由は,本訴における個別的具体的な検討をするまでもなく,正当であるといえる。

請求項の構成を明確であるとした事例

2011-05-07 11:32:50 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10246
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 上記のとおり,請求項1の「水分を加え粒子状に加工する」との構成について,本件明細書には,10~数100μの粉末状にある米糠を用い,米糠を蒸す前に,米糠を100とし,湿度状態などによって水分量を調整しながら40~50重量%の水を加え,略2~4mm(直径)の大きさの粒子状に加工することが記載され,また,その技術的意義について,栄養価の高い米糠を単体,基質として麹菌を培養するとき,米糠は,粉状であるため,空気の流通性が悪く,麹菌が増殖できず,腐敗菌が増殖してしまうという問題があったことから,米糠を,粒状にすることにより,保水性を高めるとともに,培養段階においては,空気の流通性を良くし,麹菌を働きやすくするということが記載され,当業者の通常の理解の範囲を超えるものとはいえない。

上記のとおり,請求項1の「水分を加え粒子状に加工する」との構成は,当業者において,用語の通常の理解によりその意味を解釈できるから,特許発明が明確性を欠き,第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない

サポート要件を満たさないとした事例

2011-05-07 09:54:24 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁大合議部判決平成17年11月11日平成17年(行ケ)10042号〕参照)。

 本願発明は,音響波方式タッチパネルに用いられるガラス基板の成分の含有量の数値範囲を特定している発明であるから,本願発明において,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲に記載された当該成分の含有量の数値範囲が,発明の詳細な説明に記載されており,当該成分の含有量の数値範囲により,発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が音響波減衰等の抑制等の課題を解決できると認識できるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし音響波減衰の抑制等の課題を解決できると認識できるか否かを検討して判断すべきと解される。

・・・
4 BaOの含有量について
(1) 原告は,本願明細書の段落【0030】,【0009】及び【0026】の記載に,従来のバリウム含有ガラス基板においてはBaOが2重量%程度含有されていたことを考え合わせれば,実質的にバリウムを含有しないと評価するためにはBaOの含有量が1.5重量%以下である必要があり,実施例において確認された効果が請求項1に係る発明の範囲で得られることが,当業者には理解されると主張する。

(2) しかし,段落【0030】には
BaOを実質的に含まないとは,不可避的又は意図的であるか否かを問わず,ガラス基板中のBaOの含有量が,例えば,0~1.5重量%程度,・・・であることを意味する。
との記載があるが,BaOの含有量と本願発明の技術課題であるガラス基板の音響波減衰等との具体的な相関関係は開示されておらず,実質的にバリウムを含有しない含有量としての「1.5重量%以下」の数値範囲と得られる効果(音響波減衰の抑制等)との関係の技術的な意味が当業者に理解できる程度に記載されているということはできない
 ・・・

(5) 段落【0026】を含め,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例について検討するに,比較例1,比較例2,参考例1,参考例2及び実施例1において,BaOの含有量と減衰係数に着目し,それぞれ順に列挙すると以下のとおりとなる。
 ・ 比較例1は,  0重量%,0.57dB/cm
 ・ 比較例2は,  0重量%,0.30dB/cm
 ・ 参考例1は,  2重量%,0.24dB/cm
 ・ 参考例2は,  7重量%,0.21dB/cm
 ・ 実施例1は,0.2重量%,0.18dB/cm

 上記5つの具体例を照らし合わせると,比較例1及び比較例2は,BaOの含有量が1.5重量%以下の0重量%であるが減衰係数は大きい上,BaOの含有量(0重量%)が等しいにもかかわらず,その減衰係数の値はかなり異なっている。
 また,参考例1及び参考例2は,BaOの含有量が1.5重量%以上の2重量%及び7重量%であるが,減衰係数は小さく,本願明細書に記載の「低音響波損ガラス」である「0.25dB/cm以下」(段落【0025】)の条件を満足するものである。そして,比較例1,比較例2,参考例1及び参考例2によれば,BaOの含有量が大きいほど減衰係数が小さくなる傾向が見て取れる一方,実施例1は,BaOの含有量が1.5重量%以下の0.2重量%であるにもかかわらず,減衰係数は最も小さい。
 そうすると,BaOの含有量と減衰係数の関係については不明といわざるを得ない。さらに,この5つの具体例では,BaO以外の成分が異なることから,BaO以外の成分による影響が生じている可能性があり,・・・,BaOの含有量が請求項1で特定される所定の範囲であっても,他の成分等により所定の効果(音響波減衰の低減)を得られない場合があることを示唆する結果であるといえる。

 よって,ガラスの成分と音響波減衰係数との関係について,仮に,従来のバリウム含有ガラス基板において,BaOが2重量%程度含有されていたことが出願時の技術常識であったとしても,このような5つの具体例から,音響波減衰を低減できるという本願発明の効果が得られる範囲として,BaOの含有量が1.5重量%以下であることが裏付けられているとはいえない

実施可能要件を充たさないとした事例

2011-05-07 09:42:57 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10210
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 ところで,本願発明が前提とするパイプライン方式では,クロック・サイクルをずらした複数の命令を同時に実行しており,個々の電子モジュールは,その電子モジュールに割り当てられたステージの処理をするものであって,そのステージがどの命令におけるものなのかは当該電子モジュールでは判別できないから,各電子モジュールは,ステージの流れを特定の命令におけるものとして把握することができないことは自明である。
 そして,請求項1の「前記待ち時間(B)の挿入は,前記マイクロコントローラの命令を解読するための電子モジュール(ハードウェア)により非ソフトウェア的な実行により直接行なわれる」との構成は,・・・,上記認定の自明の事項にかんがみると,ここでいう「命令を解読するための電子モジュール」は,前段階のフェッチステージを処理すべき電子モジュールにその命令が流れてくることを事前に把握していないことになり,そのような解読ステージを処理すべき電子モジュールがフェッチステージの前と特定してそのステージに待ち時間を挿入するとの作用はそのままでは実施不能となる。

 この実施不能な事項を実施可能とするような技術的手段については本願発明が構成とするところではないし,解読ステージ以外のステージにおける待ち時間のランダムな挿入を「マイクロコントローラの命令を解読するための電子モジュール(ハードウェア)により」どのように実現するかについての本願明細書の記載もない。したがって,本願発明の電子モジュールがマルチタスク処理可能かどうかにかかわらず,本願発明について実施可能要件を充足しないものとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。

特許請求の範囲の明確性を否定した事例

2011-05-05 20:38:58 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10331
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 記載要件違反の有無の判断の誤り(取消事由4)について
(1) 記載要件違反の有無の判断の誤りについてまず判断する。
 本件発明1の特許請求の範囲においては,「肘掛け部」の「カバー部」につき,
「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている
と特定されている・・・。
 もっとも,図1,2,4,5,7で示される実施例の「肘掛け部25」の形状から,本件発明1の椅子型のマッサージ機に関する当業者の技術常識に照らして考察すれば,上記構成を備えることによって奏される作用効果は,審決が説示するとおり(12,14,15頁),「肘掛け部25」への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができるという点にあるということができる。

 ここで,上記構成のうち「第2部分における左右方向内側部分」については,図4からは「第2部分」のうち使用者(被施療者)から見て内側の部分であることは明らかであるものの,本件明細書及び図面のすべての記載に照らしても,内側のどの部分を指すのか判然としない

 ところで,上記の「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」という作用効果を奏することができるのは,・・・,「肘掛け部」(ないし「カバー部」)のうち被施療者の手の甲に連なる腕の部分(概ね上面)に対向する「第2部分」の長手方向(腕の長手方向)の長さ(寸法)が,左手であるならば被施療者の小指に連なる腕の部分(概ね側面)に対向する「第3部分」の長手方向の長さ(寸法)よりも有意に短くすることによるものであることが明らかであり,・・・。
 仮に,・・・,「肘掛け部」のうちの「第2部分」の手指側のみを先細りの形状とする場合には,「第2部分」の長手方向の長さが「第3部分」の長手方向の長さよりも短くなるものの,「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」との作用効果を奏することは困難であるし,また,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に僅かな差異しか設けない場合には,上記作用を奏することができないことは明らかである。

 上記構成は,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に差異を設けることしか特定しておらず,この差異を設ける「肘掛け部」の形状には種々のものが想定され得るのであって,その外延は当業者においても明確でないといわざるを得ない
 ・・・
 したがって,本件発明1の特許請求の範囲中,「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている」との構成は,明細書及び図面によっても明確でなく,当業者の技術常識を勘案しても明確でないというべきである。

組み合わせの際に施す必要な修正

2011-05-05 19:19:44 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10312
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平


第3 原告主張の審決取消事
・・・
(1)ア 審決は,相違点2に係る構成の容易想到性につき,次のとおり説示する(11,12頁)。
「・・・甲第3号証には,殻体の様々な箇所にエアーバッグを設けた点が記載されているが,甲第3号証に記載された殻体と甲1発明の椅子型マッサージ機とでは前提となる部分が大きく異なり,甲第3号証に記載された技術事項を甲1発明に適用する点に困難性がある。・・・」
・・・

第5 当裁判所の判断
・・・
 また,被告は,甲第3号証等のマッサージ器の具体的な構成と甲1発明の椅子型マッサージ機におけるマッサージ具の構成との違いを主張するが,前記のとおり判示した周知技術の内容の程度にかんがみれば,当業者において必要な修正を施して組み合わせることが容易な程度の違いにすぎない

同一文献に記載された複数構成の組み合わせ

2011-05-05 19:07:50 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10312
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(2) 審決は,甲第1号証の図1,7,8のマッサージ具41,42の構成に図11の突起体91,マッサージ具41,42の構成を追加して,両構成を兼ね備えた構成にする動機付けがない旨説示するが,上記の両構成は同一の文献に記載された実施例にすぎないのであり,両構成をともに採用したときに支障が生じることを窺わせる記載は甲第1号証中にもないし,当業者の技術常識に照らしても,そのような支障があるものとは認められないから,両構成を兼ね備えた構成にする動機付けに欠けるところはなく,審決の上記判断には誤りがある。