知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

原告商品陳列デザインは「商品等表示」に該当するか

2010-12-29 14:17:29 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)6755
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二

1 争点1(原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか)について
(1)ア 原告は,原告商品陳列デザイン1ないし3は,いずれも他店にない独自のものであって本来的な識別力があり,またベビー・子供服販売の業界トップの原告が長年にわたり使用してきたことから,二次的出所表示機能も十分獲得しているとした上で,主位的にはそれぞれ独立して,第1次予備的に原告商品陳列デザイン1及び2の組み合わせにより,第2次予備的に原告商品陳列デザイン1ないし3の組み合わせにより,原告の営業表示として周知又は著名であることを前提に,被告の行為が不正競争防止法2条1項1号又は2号に定める不正競争に該当する旨を主張している。

 本件における原告の不正競争防止法に基づく主張が認められるためには,主張に係る原告商品陳列デザインが,不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう商品等表示(営業表示)であることがまず認められなければなないが,そもそも商品陳列デザインとは,原告も自認するとおり「通常,・・・,などの機能的な観点から選択される」ものであって,営業主体の出所表示を目的とするものではないから,本来的には営業表示には当たらないものである(・・・。)。

イ しかし,商品陳列デザインは,・・・,本来的な営業表示ではないとしても,顧客によって当該営業主体との関連性において認識記憶され,やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは一概に否定できないはずである。
 したがって,商品陳列デザインであるという一事によって営業表示性を取得することがあり得ないと直ちにいうことはできないと考えられる。

ウ ただ,商品購入のため来店する顧客は,売場において,まず目的とする商品を探すために商品群を中心として見ることによって,商品が商品陳列棚に陳列されている状態である商品陳列デザインも見ることになるが,売場に居る以上,・・・など,売場を構成する一般的な要素をすべて見るはずであるから,通常であれば,顧客は,これら見たもの全部を売場を構成する一体のものとして認識し,これによって売場全体の視覚的イメージを記憶するはずである。

 そうすると,商品陳列デザインに少し特徴があるとしても,・・・,それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられるから,商品陳列デザインだけが,売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくいといわなければならない。

 したがって,もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら,それは商品陳列デザインそのものが,本来的な営業表示である看板やサインマークと同様,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。

商法512条の規定に基づく報酬金の請求を否定した事例

2010-12-29 12:06:46 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)8813
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(2)(原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか)について

(1) 商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において,その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず,委託がない場合であっても,商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には,第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが,後者の場合には,その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず,上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁,同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁,同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
 そこで,上記見地に立って,本件について検討する
・・・

(3) 上記(2)の認定事実によれば,原告は,ネズミの防除を専門とする業者としての立場から,被告製品について様々な意見を述べ,被告も,原告の意見を参考にし,その相当部分を取り入れて,被告製品を開発したことが認められる。しかしながら,上記(2)ウのとおり,被告製品は,そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。),Aによる上記の様々な意見やアドバイスも,共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって,必ずしも被告に利益を与える意思で,被告のために行われたものと認めることはできない

 したがって,本件において,原告は,客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから,被告に対し,商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。

 原告は,本件において,特許法35条3項ないし5項との均衡からしても,商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが,特許法35条3項ないし5項は,いわゆる職務発明についての規定であり,本件とは前提とする状況が全く異なるから,原告の上記主張も採用することができない。

出願後に領布された刊行物で出願当時の技術水準を認定することの是非

2010-12-29 11:23:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

原告らは,本件審決が,本願出願後に頒布された刊行物D(甲17)に基づいて,引用例1記載の「Rテルミールソフト」の粘度を認定したことは誤りであると主張する。

 しかしながら,発明の進歩性の有無を判断するに当たり,上記出願当時の技術水準を出願後に領布された刊行物によって認定し,これにより上記進歩性の有無を判断しても,そのこと自体は,特許法29条2項の規定に反するものではない(最高裁昭和51年(行ツ)第9号同年4月30日第二小法廷判決・判例タイムズ360号148頁参照)。
 よって,本願発明の進歩性の有無を判断するにあたって,引用発明である「Rテルミールソフト」が持つ粘度を認定するために,本願出願後に頒布された刊行物Dを参酌したことは,特許法29条2項に反するものではない。

「刊行物に記載された発明」の解釈

2010-12-29 11:21:43 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 「刊行物に記載された発明」について
 特許法29条2項は,特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明は,特許を受けることができない旨を規定している。そして,発明が技術的思想の創作であることからすると(特許法2条1項),特許を受けようとする発明が同条1項3号にいう特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それをもって足りるとするのが相当である。

 これを,特許を受けようとする発明が物の発明である場合についてみると,特許を受けようとする発明と対比される同条1項3号にいう刊行物の記載としては,その物の構成が,特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度で開示されていることが必要であるが,当業者が,当該刊行物の記載及び特許出願時の技術常識に基づいて,その物ないしその物と同一性のある構成の物を入手することが可能であれば,必ずしも,当該刊行物にその物の性状が具体的に開示されている必要はなく,それをもって足りるというべきである。
・・・
イ 上記の記載によると,引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「Rテルミールソフト」が記載されていることが認められる。
 また,「Rテルミールソフト」は,本件出願前からテルモ株式会社が販売する栄養剤であるところ,引用例1に記載されている上記テルミールソフトと同じ製品がテルモ株式会社により販売され,容易に入手可能であったものと認められる(甲6,弁論の全趣旨)。
そうすると,刊行物である引用例1には,胃瘻から注入する半固形状食品の「Rテルミールソフト」の発明が記載されているということができる。

当業者にとって当然の技術的課題にすぎない事項について動機付けを認めた事例

2010-12-26 20:28:34 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10147
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について
(1) 引用発明のバイオセンサは血液中のグルコース等の化学物質を測定する機器であり(刊行物1の段落【0001】),刊行物2のセンサーも水溶液中のグルコース等の化学物質を測定する機器であって(1頁右下欄下から2行~2頁左上欄上から4行),両者は技術分野が共通するところ,化学物質の有無や濃度を検出する分析機器であるバイオセンサにおいて,正確な測定,分析を行うことは当業者にとって自明の事柄であり,正確な測定,分析を行うための機器の実現は当業者にとって当然の技術的課題にすぎない
 そうすると,上記技術的課題を解決するために,刊行物2の「モート」の構成を引用発明に組み合わせる動機付けがあるということができる

(2) この点,原告は,引用発明においては,反応層の厚さについての認識も,反応層の厚さを制御するために他の構成を設けることの認識もないし,引用発明では,構造を簡単にしてバイオセンサを安価にすることが目指されているのみで,正確な分析を可能にするため,試薬の厚さを均一にするべく凹部を設けることが示唆されていない等と主張する。
・・・
 しかしながら,化学物質の有無や濃度を検出する分析機器であるバイオセンサにおいて,正確な測定,分析を行うことは当業者にとって自明の事柄であり,正確な測定,分析を行うための機器の実現は当業者にとって当然の技術的課題にすぎない

 また,電極上の試薬の厚さが均一でなく,例えば反応域ないし反応層の一部にこれらが広がっていないような極端な場合には,当該センサを用いた正確な測定,分析を行うことができないのは明らかであるから,引用発明の発明者や刊行物1に接した当業者において,電極上の試薬の厚さを考慮しないとは考え難い
・・・
 そうすると,仮に刊行物1に試薬の厚さについての記載が明示されていないとしても,当業者において当然に考慮すべき事柄であって,電極上の試薬の厚さを均一にするべく,引用発明のバイオセンサに刊行物2の「モート」を組み合わせて,電極の周囲に凹んだ部分すなわち「凹部」を設ける動機付けに欠けるところはないというべきである。

権利能力なき財団の権利義務を承継する原告への商標権の移転登録請求が認容された事例

2010-12-26 17:21:13 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)2400
事件名 商標権移転登録手続請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

2(1) 上記認定のとおり,
① 旧協会は,本件出願がされた当時,既に20年以上にわたって本件検定試験を実施し,同試験の受験料を主な原資とする,総額1億円以上の銀行預金を旧協会の基本財産として有していたこと,
② 上記預金の名義は,「日本中国語検定協会」,「日本中国語検定協会代表 B」などとされ,預金通帳や銀行届出印は旧協会の事務局において管理されていたこと,
③ 旧協会は,旧協会規則及び旧協会諸規則を定め,これらの規則にのっとり,理事や理事長を選出し,本件検定試験の実施等の事務を行うための事務局及び各種委員会を設け,理事会において収支予算及び収支決算の承認等がされていたこと,
④ 旧協会は,昭和63年ころに民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)39条,37条所定の各項を含む寄附行為(本件寄附行為)を作成し,財団法人設立認可を申請したものであり,本件出願当時も同申請手続を推進していたこと,
が認められる。
 したがって,本件出願当時,旧協会は,個人財産から分離独立した基本財産を有し,かつ,その運営のための組織を有していたものといえ,いわゆる権利能力なき財団として,社会生活上の実体を有していたものと認められる(最高裁判所第三小法廷昭和44年11月4日判決・民集23巻11号1951頁参照 。)。

 また,上記認定事実に照らすと,本件出願及び本件商標権の登録に係る費用を負担したのは旧協会であり,本件出願前に「中検」という標章(本件標章)を使用していたのも,本件商標権の登録後に本件商標を使用していたのも旧協会であって,Bが個人として本件標章ないし本件商標を使用したことはなく,本件商標権がBを商標権者として登録されたのは,本件出願当時,旧協会が財団法人の設立認可を申請中で法人格を取得していなかったため,旧協会を出願人とすることができなかったことから,商標登録出願手続を進めるに当たっての便宜上,Bを出願人としたことの結果にすぎないものと認められる。

(2) そうすると,Bは,本件出願に当たり,旧協会が財団法人として設立後は本件商標権を同法人に帰属させる趣旨で本件出願をすることを了解していたといえるから,旧協会が財団法人として設立したとき,又は,Bが旧協会の代表者の地位を失ってこれに代わる新代表者が選任されたときは,財団法人ないし新代表者に対して本件商標権を移転登録する義務を負っていたものと認められる。
したがって,Bは,同人が旧協会の理事長を退任し,Cが新理事長に選任された時点で,本件商標権をCの名義に移転登録する義務を負っていたものであり,この義務は,Bの相続人である被告に承継されたものと認められる。また,上記認定事実に照らすと,原告は,旧協会によって設立されたものであり,旧協会の権利義務を承継したものと認められるから,被告は,現在,原告に対して本件商標権の移転登録義務を負っているものと認められる。

商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」

2010-12-26 16:59:34 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10013
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 商標法2条3項1号に基づく本件商標の使用の有無について
(1) 商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」とは,同号に並列して掲げられている「商品に標章を付する行為」と同視できる態様のもの,すなわち,指定商品を現実に包装したものに標章を付し又は標章を付した包装用紙等で指定商品を現実に包装するなどの行為をいい,指定商品を包装していない単なる包装紙等に標章を付する行為又は単に標章の電子データを作成若しくは保持する行為は,商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」に当たらないものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,本件請求登録日以前から,本件容器に本件商標を付して販売するための準備を進めていたところ,被告が平成21年4月10日に外部会社から受領したものは,本件容器のパッケージデザインの電子データであるにすぎない。したがって,被告が上記電子データを受領し,これを保持することになったからといって,これをもって商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」ということはできない。

「具体的な取引状況」として審決後の不使用取消審判の結果を参照した事例

2010-12-26 16:17:45 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10171
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


1 請求の原因
イ 取消事由2(手続の違法)
・・・
b なお,本願の指定商品/役務の補正は,譲受交渉の後半段階において,引用商標権者が引用商標について第35類に係る指定役務については使用しているが,第43類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」に対しては使用していないことが判明したことに基づくもので,本願から第35類の指定役務を削除訂正し,第43類の上記指定役務に対する不使用取消審判請求を前記時期に予定していた。原告は,前記取消審判の審決確定により,本願商標は登録されると確信していた。
・・・

3 被告の反論
・・・
 なお,審理終結通知後に,原告代理人から,電話にて審理の再開の打診があったが,その理由は,引用商標に対して不使用取消審判を請求するとのことであったため,かかる対応は,審理を再開するための合理的な理由に該当するものではなく,時機に後れた対応であることから,審理の再開は行わずに審決をすることにしたものである。
 ・・・
オ 不使用取消審判につき
 商標法4条1項11号にいう「先願の登録商標」は,後願の商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していれば足りると解すべきところ,本件の場合,審決時(平成22年4月19日)において,不使用取消審判の請求がされている事実は認められないから,引用商標が本件の審決時に有効に存続していた事実は何ら影響を受けることがない
 ・・・そして,審決が維持され,本願商標の拒絶が確定した場合であっても,原告は,事後指定による再出願を行うことができるものであり,原告に多大なる不利益が生ずるものとはいえない



第4 当裁判所の判断
1 ( 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯), ( (2) 商標の内容),(3) 審(決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
 また,証拠(甲2,14)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件審決後である平成22年5月10日付けで,引用商標である商標登録第4558717号の指定役務のうち第42類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,権利者・・・を被請求人として,商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求し,同年5月21日(処分日)にその旨の予告登録がなされ,同年8月31日に認容審決(甲14)がなされ,同年11月2日(処分日)に確定登録がなされたことが認められる。
 上記事実によれば,上記予告登録がなされた平成22年5月21日の3年前である平成19年5月21日から,引用商標の商標権者である株式会社ほるぷ出版ないし株式会社ブッキングは,指定役務第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,引用商標を使用していなかったことになる

2 本願商標と引用商標の類否について(取消事由1)
 商標の類否は,・・・,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照 。)

 一方,甲33(引用商標に係る公報)及び甲15(本願商標に係る出願・登録情報の検索結果)の各指定役務欄を比較すると,本願商標(35類は取り除かれ,39類及び43類はそれぞれ変更された後のもの)と引用商標(上記不使用取消審判事件の審決により,第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」が除かれた後のもの)では,その指定役務の抵触関係はないものと認められる。
 そこで,以上の観点に立って,本願商標と引用商標の類否につき検討する。

・・・
(5) 以上の(1)ないし(4)からすれば,本願商標と引用商標とは,外観は相当異なり,観念は「予約」との部分で一部共通し,称呼は原則として「ブッキング」との共通部分があり,これらの諸要素に,前述した取引の実情,とりわけ不使用取消審判により認められた平成19年5月21日からの引用商標不使用の実情を総合考慮すると,本件審決時(平成22年4月19日)において本願商標と引用商標とが類似するとはいえないと認めるのが相当であり,本願商標は商標法4条1項11号には該当しないというべきである。


*事後指定による再出願は、商標法68条の三十二に基づく出願か

同一の機能・作用効果を有するが構成が異なるものは特許発明の技術的範囲に属するか

2010-12-26 14:20:11 | 特許法70条
事件番号 平成21(ワ)35184
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年12月06日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

エ 検討
(ア) 前記ウの「車載」及び「装置」という語の一般的な意義からすれば,「車載ナビゲーション装置」とは,車両に載せられたナビゲーションのための装置(ひとまとまりの機器)をいい,ひとまとまりの機器としてのナビゲーション装置が車両に載せられていることを意味すると解するのが,自然である。そして,本件各特許の特許請求の範囲の記載のように,A,B,C,Dとの「手段を含むことを特徴とする車載ナビゲーション装置」というとき,「ナビゲーション装置」がA,B,C,Dという手段を備えるとともに,そのような手段を備えたナビゲーション装置が「車載」,すなわち,車に載せられていることが必要であると解するのが,その文言上,自然である

 また,本件各明細書に開示されている「車載ナビゲーション装置」の構成は,前記イのとおり,各構成要素から成る一体の機器としての「車載ナビゲーション装置」であって,被告装置における被告サーバーと本件携帯端末のように,車両内の機器と車両外の機器にナビゲーション装置の機能を分担させ,両者間の交信その他の手段によって情報の交換を行い,全体として「ナビゲーション装置」と同一の機能を持たせることは開示されていない。したがって,各機器をどのように構成し,また,各機器にどのように機能を分担するか,各機器間の情報の交換をどのような手段によって行うかについても,本件各明細書には何らの開示もされていない。

 さらに,本件各特許発明はナビゲーション「装置」に関する特許発明であるから,「装置」の構成が特許請求の範囲に記載された構成と同一であるか否かが問題となるのであって,同一の機能,作用効果を有するからといって,構成が異なるものをもって,本件各特許発明の技術的範囲に属するということはできないことはいうまでもない。

 以上のことからすれば,本件各特許発明にいう「車載ナビゲーション装置」とは,一体の機器としてのナビゲーションのための装置が車両に載せられていることが必要であり,車両に載せられていない機器は,「車載ナビゲーション装置」を構成するものではないと解される。

(イ) 原告の主張について
 原告は,「車載」の通常の意義,本件明細書1の段落【0002】の記載及び本件特許発明1の作用効果等に照らして,その構成の一部を両に載せた状態にする必要はあるが,その構成のすべてを車両に載せることまでは要求していないと解すべきであると主張する

 しかしながら,原告は,その前提として「車両用ナビゲーション装置」と「車載ナビゲーション装置」とを同一のものとしているが,「車両用」のナビゲーション装置と「車載」されたナビゲーション装置とは必ずしも同義ではない(例えば,車両外にナビゲーション装置を設置し,その経路探索結果や進路等をドライバー等に連絡する等,車両用のナビゲーション装置であっても,車載されないものもあり得る。)。
 また,特許請求の範囲の記載や本件各明細書の記載に照らして,その構成のすべてが車両に載せられた状態にある必要があること,作用効果又は機能が同一であれば,機器の全部が「車載」されている必要はないということはできないことは,前記(ア)のとおりである。

 したがって,原告の前記主張は,採用することができない

明瞭でない記載の釈明として補正が許される場合

2010-12-19 23:06:49 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 原告は,上記(1)②の補正部分につき,図形模様と構造体とは一体のものであって,図形模様を30度回転させるということは,構造体を30度回転させることと実質的に同一であるので,変更には当たらないとした上,「構造体」を「図形模様」に補正することは,図柄の組合せ状態を明確にしたものであって,明瞭でない記載の釈明に該当するものであると主張する。

(3) しかしながら,法17条の2第4項は,拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求と同時にする特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定しているのであって,明瞭でない記載の釈明として補正が許されるのは,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限られるところ(法17条の2第4項4号),
 平成20年7月4日付け拒絶査定(乙11)の理由となる同19年10月1日付け拒絶理由通知(乙7)は,引用文献との関係で進歩性の欠如を指摘するものであって,上記(1)②の補正部分の補正前の規定について指摘するものではなく,同部分の補正は,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものではないから,明瞭でない記載の釈明に該当するということはできない

* 拒絶査定も「拒絶理由通知」(法17条の2第4項4号)に当たるのではないか?
事件番号 平成18(行ケ)10055
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

行政事件訴訟法10条2項が適用された事例

2010-12-19 22:39:35 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)276
事件名 決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月14日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(1) 原告が,本件出願について
 平成20年11月27日付けで本件拒絶査定を受けた後,本件補正書及び本件意見書を提出したこと,
 特許庁長官が原告に対し平成21年6月8日付けで本件補正書及び本件意見書に係る各手続を却下する旨の本件各却下処分をしたこと,
 原告が本件各却下処分について本件異議の申立てをしたこと,
 特許庁長官が原告に対し同年11月20日付けで本件異議の申立てを棄却する旨の本件決定をしたこと
は,前記第2の1のとおりである。

 そして,原告主張の本件決定の違法事由は,別紙「2 請求の原因について」記載のとおりであり,要するに,原告の本件出願に係る発明は,特許法29条1項各号,2項のいずれにも該当せず,特許要件を充足するのに,これを充足しないとした特許庁の判断に誤りがある,すなわち,本件出願を拒絶すべきものとした本件拒絶査定の判断に誤りがあるというにあると解される。

(2) ところで,行政事件訴訟法3条3項は,「この法律において「裁決の取消しの訴え」とは,審査請求,異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決,決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。」と規定し,同法10条2項は,「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定している。
 これらの規定によれば,処分の取消しの訴えとその処分についての不服申立てを棄却した「裁決」(異議申立てを棄却した決定を含む。)の取消しの訴えのいずれも提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいて主張し得る違法事由は,裁決固有の瑕疵に限られると解される

 前記(1)によれば,本件決定は,特許庁長官がした本件各却下処分に対する行政不服審査法による異議申立てを棄却する決定であるから,本件各却下処分を「処分」とする「裁決」に該当するものと解されるところ,特許法その他の法令において,本件各却下処分の取消しの訴えと本件決定の取消しの訴えのいずれか一方しか提起することができないとする定めはなく,上記訴えのいずれも提起することができる場合に該当するものと解される。
 そうすると,本件決定の取消しを求める本件訴訟において,本件決定の違法事由として原告が主張し得るのは,本件決定の固有の瑕疵に当たる違法事由に限られるというべきである。

 これを本件についてみるに,前記(1)のとおり,原告が主張する本件決定の違法事由は,本件拒絶査定の判断の誤りであって,これが本件決定の固有の瑕疵に当たらないことは明らかであるから,原告の主張は,その主張自体理由がないといわざるを得ない。

引用例の従来の技術は,引用発明としての適格性を欠くか

2010-12-19 21:57:35 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10125
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 引用発明の認定の誤りについて
原告は,引用例の発明の詳細な説明欄に記載の従来の技術(【0002】)は,引用発明としての適格性を欠く旨を主張するほか,本件審決による引用発明の認定を争っている

イ そこで,引用例の記載を見ると,引用例が特許出願をしている発明(以下「甲1発明」という。)は,「・・・」(【0001】)ものであるが,本件審決が引用発明として認定したものは,甲1発明に先行する従来の技術であって,「・・・。」(【0002】)というものである。
・・・
特許法29条2項は,同条1項各号に掲げる発明に基づいて特許出願に係る発明が容易に発明をすることができたか否かを判断する旨を規定しているところ,同条1項3号は,「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」と規定しているにとどまり,それ以上に,「刊行物に記載された発明」の適格性について何ら制限をしていない
 そして,引用例(甲1)は,特許 庁作成の公開特許公報(・・・)であるから,本件出願日(平成12年6月30日)の前に日本国内において頒布された刊行物であり,引用例記載の前記従来の技術(引用発明)は,このような刊行物に記載された発明であるから,これに基づいて本願発明及び本件補正発明の容易想到性を判断することに何ら妨げはないというべきである。

 この点について,原告は,平成14年法律第24号により先行技術文献の開示を義務化した特許法36条4項2号が立法される前である平成9年8月15日に引用例が特許出願されており,引用例にいう従来の技術には裏付けがないから引用発明としての適格性を欠く旨を主張する。
 しかしながら,特許法36条4項2号は,出願人の有する先行技術文献情報を有効活用するために出願人による積極的な情報開示を促すものであって,そのことから,反対に,平成14年法律第24号による改正前に出願された発明の明細書であれば,そこに従来の技術として記載された発明に裏付けがないというわけではなく,平成9年8月15日に特許出願された引用例の発明の詳細な説明欄に従来の技術として記載されている引用発明をもって,本件補正発明の容易想到性について判断する根拠としての適格性を欠くということはできない。

実施可能要件を充たさないとした事例

2010-12-19 20:41:24 | 特許法36条4項
事件番号 平成22(行ケ)10125
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(実施可能要件を充たさないとして本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 本件補正発明は前記第2の2(2)に記載のとおり,商品データ及び商品属性データが記録された商品データベース並びに来店者の個人情報を含む来店者データを取得する手段を有し,当該個人情報と商品属性データとの関連性等を点数化することで来店者が各商品に抱く関心の大きさに関する訴求点を計算し,Webページ上に陳列すべき商品(陳列対象商品)を,その「陳列占有面積に応じた数だけ選出する手段」と,その「陳列位置を,各商品の訴求点と,商品データの画像の大きさ又は色とに基づいて決定し,各商品を前記決定した陳列位置に割り当てた電子商店」を生成する手段を備えることを特徴とする商品の陳列決定装置である

 そして,上記特許請求の範囲の記載によれば,本件補正発明が販売対象商品とするデジタルコンテンツについては,いずれも一定の大きさを有する商品データの画像が存在することを前提としており,かつ,当該画像の大きさが陳列位置を決定する条件となっていることから,各販売対象商品ごとに陳列位置を割り当てることができるものであると認められる。

 したがって,本件補正発明を実施する上では,商品の陳列決定装置が,そのような商品データの画像の大きさに関する情報をいかなる形態で保存・管理し,また,どのようにWebページ上に陳列される商品を選出し,かつ,陳列位置を決定するのかが明らかにされる必要がある

 しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲の記載からは,商品データの画像が何をいうかを含め,これらの点は,一義的に明らかとはいい難い。

(2) そこで,本件補正明細書の発明の詳細な説明欄の記載を参酌すると,本件補正明細書には,・・・と記載されている。

(3) しかしながら,本件補正発明は,販売対象商品をデジタルコンテンツに限定しているところ,そもそも,そのような無体のデジタルコンテンツについて,Webページ上に陳列されて視認可能となるような「商品の外観など」(【0008】)に関する画像データを観念することは,それ自体困難である。しかも,本件補正明細書は,ここにいう「商品の外観など」と販売対象商品であるデジタルコンテンツとの関係について何ら説明を加えていないから,本件補正明細書の記載によっても,本件補正発明の請求項に記載された「商品」であるデジタルコンテンツに関する「データの画像」という技術的意義は,明らかではない

 そのため,本件補正明細書は,商品データの画像の大きさに関する情報をいかなる形態で保存・管理しているかや,陳列対象商品として選出された商品(の画像データ)の占有面積(【0013】)に応じてどのように陳列される商品数を決定し,更に最終的な商品の陳列位置を決定する(【0014】)に当たり,商品データの画像の大きさをどのように要素として考慮しているのかを,当該商品であるデジタルコンテンツを対象としてみた場合に,いずれも明らかにしているとはいえない

 よって,デジタルコンテンツに関する「商品データの画像」を前提にして本件補正発明をどのように実施することができるのかは,本件補正明細書の発明の詳細な説明欄の記載を参酌しても不明確であるといわざるを得ず,したがって,同欄の記載は,当業者が本件補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

意見書を提出する機会に関する判断事例(特許法159条2項,50条)

2010-12-19 09:28:46 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

当裁判所は,以下のとおり,審決には,新たな拒絶理由通知をして原告に意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,同手続を怠った瑕疵があり,審決は,特許法159条2項,50条に違反するものと判断する。
 ・・・
拒絶査定の記載内容
 審査官がした平成19年3月5日付け拒絶査定(甲13)の記載内容は,次のとおりである。
「・・・上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図5】や,・・・号公報の【図3】や,・・・号公報の【図5】には,流量計と信号処理回路との間に保護回路を設けることが示されている。また,上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図2】や段落・・・には,信号処理回路の流量計と反対側の回路接続部に,ツェナーバリアユニット等の保護回路を設けることが記載されている。
 よって,拒絶理由通知に対する補正後の請求項45~50の六発明は,上記公知技術の寄せ集めの域を出ていない。」
・・・

2 判断
 本件では,審決において,本願発明と引用発明との相違点1に係る「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術的構成は,周知技術であり(甲2ないし4),本願発明は周知技術を適用することによって,容易想到であるとの認定,判断を初めて示している

 ところで,審決が,拒絶理由通知又は拒絶査定において示された理由付けを付加又は変更する旨の判断を示すに当たっては,当事者(請求人)に対して意見を述べる機会を付与しなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情がある場合はさておき,そのような事情のない限り,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項,50条)。
 そして,意見書提出の機会を与えなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情が存するか否かは,容易想到性の有無に関する判断であれば,本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ,重要性,当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して,判断すべきである。

上記観点に照らして,検討する。
 本件においては,
① 本願発明の引用発明の相違点1に係る構成である「・・・」は,出願当初から・・・などと特許請求の範囲に,明示的に記載され,平成19年2月7日付け補正書においても,「・・・」と明示的に記載されていたこと(・・・),
② 本願明細書等の記載によれば,相違点1に係る構成は,本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成であるといえること,
③ 審決は,引用発明との相違点1として同構成を認定した上,本願発明の同相違点に係る構成は,周知技術を適用することによって容易に想到できると審決において初めて判断していること,
④ 相違点1に係る構成が,周知技術であると認定した証拠(甲2ないし4)についても,審決において,初めて原告に示していること,
⑤ 本件全証拠によるも,相違点1に係る構成が,専門技術分野や出願時期を問わず,周知であることが明らかであるとはいえないこと,
⑥ 原告が平成19年2月7日付けで提出した意見書においては,専ら,本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり,同相違点に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていなかったこと等の事実が存在する。

 上記経緯を総合すると,審決が,相違点1に係る上記構成は周知技術から容易想到であるとする認定及び判断の当否に関して,請求人である原告に対して意見書提出の機会を与えることが不可欠であり,その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があるというべきである。

特許法29条2項所定の要件の判断

2010-12-13 07:09:37 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10096等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1)特許法29条2項所定の要件の判断,すなわち,その発明の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が同条1項各号に該当する発明に基づいて容易に発明をすることができたか否かの判断は,通常,先行技術のうち,特許発明の構成に近似する特定の先行技術(以下「主たる引用発明」という場合がある。)を対比して,特許発明と主たる引用発明との相違する構成を認定し,主たる引用発明に,それ以外の先行技術(以下「従たる引用発明」という。),技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を組み合わせ,特許発明と主たる引用発明との相違する構成を補完ないし代替させることによって,特許発明に到達することが容易であったか否かを基準として判断すべきものである。

(2)ところで,審決は,前記第2の4のとおり,本件発明と先行技術とを対比し,相違点を認定することなく,
① 本件明細書に基づいて,本件発明の技術的意義について検討し,同意義を,構成要件C(・・・)と,構成要件E及びF(・・・)とを兼ね備える点にあるとした上で,
② 構成要件C,E及びFを兼ね備えた技術は,甲1ないし甲5のいずれにも記載されておらず,示唆もされていないと判断して,本件発明は,原告の主張に係る各引用発明から容易に想到することができないとの結論を導いている

 この点,特許法29条2項所定の容易想到性の有無を判断するに当たり,特定の引用発明と対比して,相違点を認定することをせずに,先に,当該発明の技術的意義なるものを設定した上で,各引用発明に当該発明の技術的意義が記載されているか否かを判断する手法は,判断の客観性を担保する観点に照らし疑問が残るといえる。

 しかし,本件においては,原告(無効審判請求人)は,無効審判手続において,甲1の図1,2には構成要件AないしEが記載又は示唆され,甲1の図4(A)には構成要件Fが示唆され,甲2には構成要件Fが示唆され,甲4の図2には構成要件D及び構成要件Bが示唆され,甲5には構成要件Fが示唆されているなどとの主張はするものの,特定の先行技術を主たる引用発明として挙げた上で,本件発明との相違点に係る構成を明らかにし,従たる引用発明等を組み合わせることによって,本件発明に至ることが容易であるとする論理的な主張を明確にしているわけではない。
 このような無効審判手続における原告の無効主張の内容に照らすならば,本件における審決の判断手法が,直ちに違法であるとまではいえない(なお,このような場合であっても,審判体としては,
① 原告に対して釈明を求めて,本件発明が容易想到であるとの原告の主張(論理)を明確にさせた上で判断するか,あるいは,
② 原告に対する釈明を求めることなく,原告の挙げた引用発明を前提として,それらの引用発明との相違点を認定した上で,本件発明の相違点に係る構成が容易想到であるか否かを,個別具体的に判断するか,いずれかの審理を採用するのが望ましい
といえる。)