知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

実用新案権の移転登録手続請求

2007-07-31 06:15:36 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)1623
事件名 実用新案権確認反訴請求事件
裁判年月日 平成19年07月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一

『(2) 実用新案法(以下「法」という。)は,考案者がその考案について実用新案登録を受ける権利を有するとし(法3条1項柱書),また,冒認出願は先願としては認めず(法7条6項),冒認出願者に対して実用新案登録がされた場合,その冒認出願は無効理由となる(法37条1項5号)と規定している。また,法は,考案者が冒認出願者に対して実用新案権の移転登録手続請求権を有する旨の規定をおいていない。そして,実用新案権は,出願人(登録後は登録名義人となる。)を権利者として,実用新案権の設定登録により発生するものであり(法14条1項),たとえ考案者であったとしても,自己の名義で実用新案登録の出願をしその登録を得なければ,実用新案権を取得することはない。
 このような法の構造にかんがみれば,法は,実用新案権の登録が冒認出願によるものである場合,実用新案登録出願をしていない考案者に対し実用新案登録をすることを認める結果となること,すなわち,考案者から冒認出願者に対する実用新案権の移転登録手続請求をすることを認めているものではないと解される。

(3) 上記のような法の構造と同様の構造をもつ特許法に関する事案において,特許を受ける権利の共有者(真の権利者)から,特許権者(当該特許権に関する登録名義人)に対する移転登録手続請求を認めた最高裁判決(最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決・民集55巻4号793ページ)は,次に述べる理由により,本件のような事案についてその射程が及ぶものではないと解される。
すなわち,上記最高裁判決における事案は,真の権利者が他の共有者と共同で特許出願をした後に,冒認出願者が,真の権利者から権利の持分の譲渡を受けた旨の偽造した譲渡証書を添付して,出願者を真の権利者から冒認出願者に変更する旨の出願人変更届を特許庁長官に提出したため,冒認出願者及び他の共有者に対して特許権の設定登録がされたという事案である。このような事案においては,真の権利者から冒認出願者に対する特許権の共有持分移転登録手続請求を認めたとしても,当該特許権は,真の権利者がした特許出願について特許法所定の手続を経て設定登録がされたものであって,真の権利者が有していた特許を受ける権利と連続性を有し,それが変形したものであると評価することができるから,真の権利者が行った特許出願に対して特許がされたとみることができ,特許法の構造と整合性を欠くことにはならない。これに対し,本件は,真の権利者と主張する反訴原告自身は実用新案登録出願を行っていないのであるから,このような自ら出願手続を行っていない者に対し実用新案権を付与する結果を導くことは,(2)記載のような法の構造に反するものである。したがって,本件における反訴原告による本件実用新案権の共有持分権移転登録請求については,上記最高裁判決の射程は及ばないといわざるを得ない。』

ある構成を省略できるかどうかの判断

2007-07-30 07:43:47 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成18(行ケ)10247
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『 原出願当初明細書等の上記①の記載からは,(b)成分が重要な意義を有することが認められるものの,(c)成分に比べて(b)成分の重要度がより強く認識されているからといって,(c)成分を含有しない発明が記載されていることにはならない。
また,確かに,実施例の組成物が含有する(d)成分やマレイン酸が任意成分であることは,原出願当初明細書等に明示的に記載されているが,任意成分であるとの記載がない(c)成分を,これらと同列に扱うことができないことは明らかである。
そして,原出願当初明細書等の上記③の記載は,(a)成分,(b)成分となり得る化合物の例を列挙するものであるが,原出願当初明細書等には,(a)成分及び(b)成分を含有し,(c)成分を含有しない組成物について記載されていないことは,前記イのとおりであり,かかる組成物の各成分となり得る化合物の例が記載されているということはできない。
 なお,原告が指摘するとおり,審決は,原出願当初明細書等に(a)成分と(b)成分とを含有することによる効果が示唆されているとしているが,すでに説示したとおり,原出願当初明細書等では,(c)成分が課題との関係で重要な役割を果たすものとされており,(c)成分を含まない組成物が課題を解決するに足る充分な性能を有することは,原出願当初明細書等から把握することができない。』

『特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった公知事実を主張することは許されず,拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟においても,同様に解すべきものであるから(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),拒絶査定不服審判において特許法29条1項各号に掲げる発明に該当するものとして審理されなかった事実については,取消訴訟において,これを同条1項各号に掲げる発明として主張することは許されない。しかしながら,審判において審理された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合わせにつき審決と異なる主張をすることなどは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許されないとすることはできない。

 出願に係る発明につき,審判手続において公知事実から当業者が容易に想到することができるとして特許法29条2項に該当するものとして拒絶査定が維持された場合に,当該審決に対する取消訴訟において,被告が出願に係る発明は当該事実との関係で同条1項に該当すると主張することは,審判官が,出願に係る発明と当該公知事実との相違点を特に指摘し,そのために出願人が補正を行う機会を逸したことが認められるなどの特段の事情が存在しない限り,許されるというべきである。けだし,特許法が,特許出願に対する拒絶査定の処分が誤ってされた場合における是正手続として,一般の行政処分の場合とは異なり,常に審判官による審判の手続の経由を要求するとともに,取消訴訟は拒絶査定不服審判の審決に対してのみこれを認め,審決訴訟においては審決の違法性の有無を争わせるにとどめる一方で,第一審を東京高等裁判所の専属管轄とし(知的財産高等裁判所設置法により,東京高等裁判所の特別の支部である知的財産高等裁判所がこれを取り扱う。),事実審を一審級省略している趣旨は,出願人に対し,専門的知識経験を有する審判官による前審判断経由の利益を与えつつ,審判手続において,出願人の関与の下に十分な審理がなされることを期待したものにほかならないところ,上記の場合には,出願に係る発明と審判手続において審理された公知事実については,既に,出願人の関与の下に,審判官による判断がなされているからである。そして,この場合には,取消訴訟において新たな相違点についての判断が必要となるものではなく,出願に係る発明と既に審判手続において審理された公知事実との同一性を判断することは,改めて専門知見の下における判断を経る必要があるものとはいえない。』

設計事項の例

2007-07-30 07:40:05 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10395
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一


(5) ところで,前示2(2)のとおり,引用発明2の螺合の容易さ,かじり防止に関する上記技術を引用発明1に適用して,引用発明1の始端の切り欠き角度について,適正な角度設定を行うことは,本件出願時,当業者が容易に想到し得ることであり,その際,最適な角度を求めて試行錯誤をすることは,当業者において日常的な設計的な業務にすぎないものというべきである。

「創作的に表現したもの」ということはできない例

2007-07-30 07:38:33 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)7324
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成19年07月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節


著作権法による保護の対象となる著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)ところ,「創作的に表現したもの」というためには,作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが,言語からなる作品においては,表現が平凡かつありふれたものである場合や,文章が短いため,その表現方法に大きな制約があり,他の表現が想定できない場合には,作成者の個性が現れておらず,「創作的に表現したもの」ということはできないと解すべきである。

無効審判で提起された訂正審判での訂正の確定

2007-07-30 07:36:18 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10099
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『1 当裁判所は,当事者の意見を聴いた上,本件特許に係る各発明の関連性,本件訂正の内容,本件審決が判断した無効理由の内容,訂正審判における訂正内容,その他本件に関する諸事情を検討した結果,本件特許の新請求項1,3,4,7ないし10,14,17,18及び20に係る発明についての特許を無効にすることについて,特許無効審判においてさらに審理させることが相当であると考える。
したがって,事件を審判官に差し戻すため,特許法181条2項の規定により,本件審決中「特許第3650796号の請求項1,3,4,7ないし10,14,17,18および20に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消すこととする。』

『2 本決定により差し戻された事件について,今後行われる審判における審理に資するため,本件審決中「訂正を認める。」との部分の確定効の範囲等に関し,以下のとおり補足して述べる(以下では,審決の結論の一部を「審決部分」ということがある。)。

(1) 訂正を認めた審決と形式的確定等について
ア まず,特許が2以上の請求項に係るものであるときには,その無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らすならば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに形式的に確定するというべきである。そして,審決の形式的な確定は,当該審決に対する審決取消訴訟の原告適格を有するすべての者について,出訴期間が経過し,当該審決を争うことができなくなることによって生ずる(特許法178条3項)。
 そうすると,2以上の請求項に係る特許についての無効審判において,一部の請求項に係る特許について無効とし,残余の請求項に係る特許について審判請求を不成立とする審決がされた場合には,それぞれ原告適格を有する者(審決によって不利益を受けた者)が異なるため,各請求項に係る審決部分ごとに,形式的確定の有無及び確定の日等が異なる場合が生じ得る

イ 次に,特許無効審判の手続において,訂正請求がされ,「訂正を認める。」とした上で,審判請求を不成立とする審決がされた場合,「訂正を認める。」とした審決部分のみについて独立して取消訴訟を提起することはできないというべきである
 けだし,特許無効審判における訂正請求の制度は,無効審判が請求された場合等において,特許権者側の対抗手段としてなされることが多い当該特許に係る特許請求の範囲,明細書及び図面の訂正(以下「特許の訂正」という。)について,無効審判が係属している場合であっても,別途訂正審判を請求しなければならないという従来の制度の下で,無効審判と訂正審判がともに係属した場合に,訂正審判の審決が確定するまで無効審判の審理が中止されるなどして審理が遅延するという問題が生じていたことに鑑み,無効審判が係属している場合は独立して訂正審判を請求することはできないものとする一方,当該無効審判の手続において特許の訂正を行うことを認めたものであって,無効審判の審理の迅速性及び的確性を確保する観点から,平成5年法律第26号による特許法の改正により設けられた制度にすぎないからである
 したがって,「訂正を認める。」との審決部分は,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決部分が形式的に確定することに伴って,形式的に確定することになる。そして,無効審判請求を不成立とした審決は,請求人側のみが取消訴訟を提起する原告適格を有するのであるから,請求人側に係る出訴期間の経過によって,「訂正を認める。」との審決部分もまた形式的に確定することになる(なお,「訂正を認める。」との審決部分について独立して取消訴訟を提起することはできない結果,無効審判における訂正請求が特定の請求項の削除を伴うものである場合に,無効審判の請求人に不利益があるか否かについて,念のため検討すると,「訂正を認める。」との審決部分が形式的に確定すると,当該請求項が削除された特許請求の範囲に基づいて,特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は特許権の設定の登録がされたものとみなされるため,請求人に対し,固有の不利益,不都合を及ぼすことはないと解される。)。

ウ さらに,2以上の請求項に係る特許無効審判において,訂正請求を認めた上で,一部の請求項に係る特許を無効とし,残余の請求項に係る無効審判請求を不成立とする審決がされた場合に,審決取消の判決又は決定により,審判手続が再開され,特許法134条の3第1項若しくは2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされたときは,特許法134条の2第4項の規定によるみなし取下げの効果もまた,請求項ごとに生じることになる(知的財産高等裁判所平成19年6月20日決定・平成19年(行ケ)第10081号審決取消請求事件参照)。そして,審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分について取消訴訟が提起されず,特許を無効とした請求項に係る審決部分について取消訴訟が提起された場合に,特許法181条2項の規定による審決の取消しの決定により,特許を無効とした請求項に係る審決部分が取り消されて,審判手続が再開され,特許法134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされたときには,同法134条の2第4項の規定により訂正請求が取下げられたものとみなされるが,当該審決において認められた訂正のうち無効不成立とされた請求項に関する部分(当該審決において認められた訂正が請求項の削除を伴う場合は,無効不成立とされた請求項及び削除された請求項に関する部分)については,「訂正を認める。」との審決部分は形式的に確定しているので,確定したことを前提として手続を進めるべきことといえる

守秘義務と公知性の判断

2007-07-30 07:29:16 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10539
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘

『(2) 上記認定事実によれば,Bは,Aから先願明細書等のファックスを受領した当時,カノウ商事の代表者として内蔵を除去した白さばふぐ等を中国から輸入することを業として行うとともに,自身でもそれら内蔵除去を含めた白さばふぐ等の加工方法に関する専門知識を有しており,また被告ないし被告が代表者を務める栄水貿易株式会社とは競業関係にあった。そして,Bが被告との関係で,社会通念上ないし商慣習上,先願に関し守秘義務を負う関係にあるとも認められない。
そして,本件発明と先願発明は,前記各記載のとおりのものであって,実質的に同一であると認められる。
そうすると,本件発明は,実質的に同一の発明である先願発明に関し,Bが先願明細書及び添付の図面等のファックスをAから受領してその内容を了知した時点で公知となり,新規性を喪失したと認めるのが相当である。
そうすると,審決が,AからBに対するファックスの転送に関しても守秘義務が課せられているものとして本件発明が公知となったとはいえないとした認定・判断は誤りというほかない。』

阻害要因がないことについての検討を欠き、違法であるとされた事例

2007-07-22 22:01:32 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10488
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することが困難であるとして原告が主張する「電源の破壊」等についての技術的説明は必ずしも首肯するに足りる説得力を有するものとは言い難い。しかしながら,その趣旨は,引用発明のLEDランプは流れる電流が一定となるように制御されるのに対し,本願発明が採用するPWM調光駆動ではLEDに流れる電流をオン・オフさせる制御を行うのであるから,制御の方法において両者はなじまないという阻害要因を原告が指摘しているものと善解することが可能である。したがって,原告が主張するように「電源の破壊」に至らないとしても,審決が引用発明にPWM調光技術を適用することを妨げる事情について十分な検討をしないまま,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することに困難はないと判断したことは誤りである

 以上のとおり,発光強度を調節するという一般的要請があり,かつ,その手段としてPWM調光技術が周知であったとしても,引用例の第2又は第3実施形態のLEDランプ装置にPWM調光技術を適用することを妨げる事情があるから,引用例の記載に接した当業者が引用発明にPWM調光技術を適用しようとする動機付けも弱く,相違点に係る構成に容易に想到することができたとはいえない。』

(感想)
 この判決は、審判官に、阻害要因がないこと(適用がどのようにして可能であるか)についての、より細密な立証を責任を課したように受け取れる。今後の審決取消訴訟の動向が注目される。

周知例といえない場合、及び、周知例の適用の可否の検討が必要な場合

2007-07-22 21:37:44 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10062
事件番号 平成18(行ケ)10062
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『審決は,刊行物5のほかに,「等」として周知技術をも考慮すると記載しているところ,これは,審決記載の特開平4-31557号公報(乙第4号証),特開平4-31558号公報(乙第8号証),特開平4-31560号公報(乙第9号証),実願平2-55492号(実開平4-14642号)のマイクロフィルム(乙第10号証)を意味する(以下,乙第4及び第8ないし第10号証をまとめて「乙4等」という。)。
 乙4等には,審決の認定するとおり,「何れにも,ダイニングキッチンの天袋部に設けた天袋回転収納装置に対して寝室側から収納物を出し入れでき,寝室の床下部に設けた床下回転収納装置に対してダイニングキッチン側から収納物を出し入れできる住宅」が記載されている。

 しかし,乙4等は,同一の発明者,同一の出願人による同日の出願であり,乙4等に記載された技術が当業者に広く知られていたことの証拠とはいえない。また,乙4等には,建物ユニットを組み合わせて建物を構成する旨の記載がなく,本件訂正発明と技術分野の共通性に乏しい。また,審決が刊行物1ないし3から認定した「周知のスキップフロア型建物」は,いずれも建物ユニットを組み合わせて建物を構成するものであるから,乙4等記載の技術を「周知のスキップフロア型建物」に適用するためには,この見地から適用の可能性を検討する必要があるところ,審決において,この見地からの検討はみられない。』

組み合わせ後に構成が不足又は異なる事例

2007-07-22 21:32:23 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10062
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『(2) 審決は,周知のスキップフロア型建物の「各構造体」における「第1建物ユニット」の構成に,刊行物4発明の技術を適用し,その際に,刊行物5等に記載の周知の技術を考慮して,本件訂正発明における相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到しえたと判断するのに対し,原告は,相違点3について,収納スペースの出入口を水平方向に隣り合う空間に開口させることは当業者に自明ではないと主張する

ア 審決が認定した刊行物4発明は,「複数の住宅ユニットが建設現場に搬送され,前後,左右,上下に組み合わせることによりユニット工法で建設される工業化住宅であって,上部に収納等に有効活用できる天井裏空間23,下部に居室空間24を有する収納庫付住宅ユニット10の上に,他の住宅ユニット10Aを設置してなる工業化住宅」というものであり,住宅ユニットを組み合わせて住宅を構成する点において,本件訂正発明と技術分野が共通する。
 しかし,刊行物4には,「・・・。」(段落【0032】)との記載があり,収納庫の利用は,居室からみて天井裏,上階の居室からみて床下及びこれらの併用の3通りがあるだけで,収納庫と水平方向に隣接する居室から出し入れする技術は開示されていない。また,刊行物4発明は,スキップフロア型建物を前提としない発明であり,天井裏空間の収納庫としての利用方法もスキップフロア型建物と有機的な関係を持っていない。したがって,審決の認定した「周知のスキップフロア型建物」に刊行物4発明を組み合わせただけでは,相違点3に係る本件訂正発明の構成に至ることはできない。』

『 仮に,建物ユニットの点を除いたとしても,乙4等では,床面の高さが異なる居室を隣接させ(これだけで,スキップフロア型建物ということができる。),床面が低い方の居室の天井裏に相当する部分及び床面が高い方の居室の床下に相当する部分をいずれも収納スペースとして隣の居室から利用可能にしたものと解することができるが,隣接する部屋の構造(上下に隣り合う居室スペースと収納スペースの配置)が同一になることはない(構造が同一であれば,スキップフロア型建物ではないことになる。)。

エ 以上の検討結果によれば,周知のスキップフロア型建物の「各構造体」における「第1建物ユニット」の構成に,刊行物4発明の技術を適用し,その際に,刊行物5及び乙4等記載の周知技術を考慮しても,本件訂正発明における相違点3に係る構成に至ることはできない。したがって,当業者が容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。』

クレームの作用効果的構成は引例の作用効果で対比

2007-07-22 21:31:27 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10339
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『そうすると,引用発明のロールスクリーンの巻上げ制動装置は,抵抗隆部14により,粘性ダンパ23の制動力が回転速度の増加に対応して増加し,この制動力の増加は,巻き取るべきスクリーンの重さ(長さ)の変化による回転速度の増加(スクリーンを巻き取るに連れて,更に巻き取るべき長さが短くなり,軽くなるので,回転速度が増加すること)に対抗して,巻上げの回転速度を減速させ,結局,ほぼ一定の巻取速度でスクリーンを巻き取るものということができる。そして,その結果,引用発明は,「粘性ダンパ23は,スクリーンSの巻終わりに向かって加速される巻取筒Pに対してブレーキとして作用するのであり,スクリーンSの急速な巻上げに起因する巻終わりの衝撃力や騒音等の発生を防止し各部材の損傷や静粛な雰囲気,情緒の破壊を防ぎ,スクリーンSの静粛且つ緩調な巻上げを可能とするのである。」という作用効果を奏するものと認められる。

 したがって,引用発明の粘性ダンパは,「スクリーン巻取り初期段階から最終段階までの間,一貫して巻取筒の加速を抑圧するように減速させる事によって,ほぼ一定の巻取速度でのスクリーンの巻取りを実現するもの」ということができ,その旨の審決の認定に誤りはないというべきである。』

阻害要因があり設計事項といえない事例

2007-07-22 21:03:28 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10339
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『(2) 「容易想到判断の誤り」との主張について
ア 相違点1についての審決の判断は,「スクリーン巻取り初期段階から同様の減速を行っても最終段階で充分な巻取筒の減速特性が得られないような特性のブレーキを用いた場合に,言い換えれば,<ins>スクリーン巻取り初期段階からブレーキを作動させても,スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキを用いた場合,スクリーン巻取り最終段階で所望の減速特性が得られるようにするために,スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速させるようにすべき事は,当業者が必要に応じて適宜採用することができる設計的事項</ins>」であるというものである

 しかるところ,スクリーンの下端には,通常,ウエイトバー等が横向きに固定されているから,スクリーンの巻取速度が巻取り最終段階において加速してしまうような場合には,ウエイトバー等が許容速度以上の速度で収容部材に衝突し,不快音を発したり破損の原因となったりするような不都合が生ずることは,例えば,特公昭56-39453号公報(乙2)に,「巻取最終時に於てスプリングの力によってスクリーン下端に固定した係止杆が巻取ドラムに激突し,これにより取付ビスが弛んだり,巻取ドラムやスクリーンを破損せしめたりし,又不快な騒音が発生したりする等の欠点がある」(2欄6ないし11行)との記載があり,容易に認識し得るところである。

 そうであれば,このような不都合を解消するため,スクリーン巻取り最終段階で,巻取速度を所望の速度とするために減速する手段を採用することは,設計事項に属する事柄というべきであり,他方,上記特公昭56-39453号公報及び実公昭58-21919号公報(乙1)には,それぞれ,スクリーンの巻取り最終段階で回転速度の加速を抑制する構成が記載されているから,本件出願当時,巻取り最終段階で巻取速度を減速するための技術手段も周知であったということができる(本件補正発明に係る特許請求の範囲は,「スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速する」ための具体的構成を規定するものではないから,減速のため,どのような技術手段を用いることも可能である。)。

イ しかしながら,審決自身も認定するとおり,上記アの不都合や,かかる不都合を解消するため,スクリーン巻取り最終段階で,巻取速度を所望の速度とするために減速する必要などは,いずれも,「スクリーン巻取り初期段階から同様の減速を行っても最終段階で充分な巻取筒の減速特性が得られないような特性のブレーキ・・・言い換えれば,スクリーン巻取り初期段階からブレーキを作動させても,スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」を用いた場合に生ずるものである

 他方,<ins>引用発明のブレーキ(粘性ダンパ)は</ins>,審決が認定するとおり,「スクリーン巻取り初期段階から最終段階までの間,一貫して巻取筒の加速を抑圧するように減速させる事によって,ほぼ一定の巻取速度でのスクリーンの巻取りを実現するもの」であり,その「粘性ダンパ23は,スクリーンSの巻終わりに向かって加速される巻取筒Pに対してブレーキとして作用するのであり,スクリーンSの急速な巻上げに起因する巻終わりの衝撃力や騒音等の発生を防止し各部材の損傷や静粛な雰囲気,情緒の破壊を防ぎ,スクリーンSの静粛且つ緩調な巻上げを可能とする」という作用効果を奏するものと認められることも上記(1)のとおりであるから,<ins>これをもって,上記「スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」ということができないことは明らかである</ins>。』

与那国島の海底遺跡の商標

2007-07-22 20:43:24 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10013
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


『第2 事案の概要
 本件は,原告が有する後記商標登録につき,第三者から商標法43条の2に基づき登録異議の申立てがなされ,特許庁が指定役務の一部について商標登録の取消決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。』


『第4 当裁判所の判断
 ・・・
 本件決定は,与那国島「海底遺跡及びその周辺は,本件商標の登録査定時(平成16年(2004年)10月29日)には,海底遺跡観光やスキューバダイビングの名所として,この種分野に属する役務の取引者,需要者間に広く知られたものとなっていた」(本件決定8頁6行~9行)から,前記のとおりの図形と文字を有する「本件商標に接する者は,これよりは,全体として,海底遺跡観光やスキューバダイビングの名所として広く知られた沖縄県与那国島の海底で発見された海底遺跡(本件遺跡)を,文字と図形とをもって表したと容易に認識し,理解するもといわなければならない」(同頁13行~16行),したがって,本件商標を本件役務について使用するときには,「これに接する者は,単に,当該役務の質(内容),役務の提供の場所等を表示したものと認識,理解するにすぎず,自他役務の識別標識としては機能し得ない」(同頁27行~29行)としたが,原告は,本件商標は特定の海底遺跡を想起させるものではないと主張するので,以下この点について検討する。
(2) 本件商標は,前記第3の1(1)に述べたとおり,下記のような形状を有し,これを子細にみれば,台形状矩形の右上部分を2段に階段状に切り取って成る図形(階段状図形)と,その階段状図形に向かって,両腕を広げた女性ダイバー図を黒塗りにシルエット風に表し,女性ダイバー図の下部に「海底遺跡」の漢字を配した構成より成るものである。
ところで,階段状の構造物は,世界的に著名なピラミッドを想起すれば明らかなように,遺跡の形状としてきわめて一般的なものであるから,上記図柄が「女性ダイバーが海底にある遺跡(階段状の構造物)を見学している状態」を想起させるものであると理解することは容易であるものの,上記図柄に「海底遺跡」との漢字が配されているだけで「与那国島海底遺跡」ないし「沖縄海底遺跡」等の表示はなされていないのであるから,それ以上に,上記遺跡が与那国島海底遺跡であるとまで想起させることはできない
 ・・・
以上によれば,本件商標が,全体として,与那国島海底遺跡を文字と図形とをもって表したと容易に認識,理解されると判断し,それに基づき法3条1項3号該当性を論じた本件決定の取消し部分は誤りというほかなく,他の理由を示していない本件にあっては,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすというべきであって,原告主張の取消事由1は理由がある。
特許庁は,本件商標が与那国島海底遺跡のみを想起させるものではなく,熱海海底遺跡やアレクサンドリアの海底遺跡を含む海底遺跡一般を想起させるものであることを前提として,改めて本件登録異議の申立ての当否につき判断すべきである。』

機能的な表現の技術的範囲は明細書を参酌するか

2007-07-17 06:36:36 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10635
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『2(1) 原告は,「燃焼面積増加用」が機能的な表現であることから,発明の技術的範囲に含まれるかについては明細書及び図面を参酌し,そこに示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて考察されるべきである,と主張する。
しかし,特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。
そして,本件明細書(乙15添付の全文訂正明細書)の特許請求の範囲の【請求項1】には「固体燃料ロケットの燃焼室に燃焼面積増加用の複数のドーナッツ形の横溝を設けたことを特徴とする固体燃料ロケット燃焼室の形状」と記載されているところ,この記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は認めることができないから,本件発明の要旨を認定するに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されないというべきである。』

引用形式の請求項の訂正で独立特許要件の検討を要する場合

2007-07-14 10:38:37 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10485
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『(2)アところで,平成3年1月28日に出願された本件特許の訂正に適用される平成6年法律第116号による改正前の特許法126条によれば,

1項:特許権者は,第123条第1項の審判が特許庁に係属している場合を除き,願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることについて審
判を請求することができる。ただし,その訂正は,願書に添付した明
細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,か
つ,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
 1 特許請求の範囲の減縮
 2 誤記の訂正
 3 明りょうでない記載の釈明

2項:前項の明細書又は図面の訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない。

3項:第1項ただし書第1号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特
許を受けることができるものでなければならない。
 とされていることから,本件訂正に係る(新)請求項5ないし11(訂正事項2~8)が「特許請求の範囲の減縮」に該当すれば上記独立特許要件(上記126条1項3項)が訂正の可否の審査要件となるが「誤記の訂正」又は「明りょうでない記載の釈明」であれば独立特許要件が訂正の可否の審査要件となることはないことになる。』

『『(イ) 訂正事項4
この訂正は,前記認定のとおり,旧請求項7を新請求項7とするものであって,訂正前の旧請求項1または旧請求項6を引用する請求項の形式から旧請求項6のみを引用する請求項の形式に変更するものであるから,内容が実質的に減少しており,特許請求の範囲の減縮に該当するというほかない
被告は,旧請求項7と新請求項7,8とを対比すれば,その技術的内容に変更がないのであるから,特許請求の範囲の減縮に該当しないと主張する。しかし,平成6年法律第116号による改正前の法36条5項の規定等から明らかなように,特許請求の範囲は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した項である請求項に区分して記載しなければならず,同発明の有効性(新規性,進歩性等)についてもかかる各請求項毎に独立して判断され,放棄も各請求項毎にできるものであることに照らせば,減縮の有無も各請求項毎に判断されるべきものであるから,被告の上記主張は失当である
(ウ) 訂正事項5
この訂正は,前記認定のとおり,訂正前の旧請求項1又は旧請求項6を引用する旧請求項7から旧請求項1を引用する請求項を独立請求項に変更するとともに,請求項の項番を新たな新請求項8とするものであって,上記(イ)に照らし,特許請求の範囲の減縮に該当する。
・・・
(オ) 訂正事項7
この訂正は,訂正前の旧請求項1又は旧請求項8を引用する請求項の形式から,旧請求項8のみを引用する新請求項10に変更するものであって,上記(イ)に照らし,特許請求の範囲の減縮に該当する。
(カ) 訂正事項8
この訂正は,訂正前の旧請求項1又は旧請求項8を引用する請求項から旧請求項1を引用する請求項の形式を独立請求項の形式に変更するとともに,請求項の項番を新たな新請求項11とするものであって,上記(イ)に照らし,特許請求の範囲の減縮に該当する。』

『ウ上記イの検討によると,本件訂正の訂正事項4,5,7及び8については「特許請求の範囲の減縮」に該当するところ,審決は,前記のとおり「明りょうでない記載の釈明」に当たるとして,独立特許要件の判断をしないで本件訂正を認容したものであるから,違法というほかない
エもっとも,訂正に係る新請求項5ないし11について独立特許要件が具備されていると判断されるのであれば,上記判断の遺脱は審決の結論に影響を及ぼさないと解する余地がある。しかし,新請求項5ないし11が引用するのが新請求項1(訂正発明)であれば後記のとおり独立特許要件を具備していると解されるものの,前記のとおり新請求項5ないし11が引用しているのは実質的には旧請求項1であって,同請求項は,第1次審決(甲11)が指摘するように,特許要件を欠くと解されるから,結局,上記判断の遺脱は審決の結論に影響を及ぼすというべきである。』

特許法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」の意義

2007-07-08 20:29:36 | Weblog
事件番号 平成19(行ウ)56
事件名 特許料納付書却下処分取消請求事件
裁判年月日 平成19年07月05日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一

『2 特許法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」の意義について
(1) 特許法112条の2第1項にいう「その責めに帰することができない理由」は,本来の特許料の納付期間の経過後,さらに6か月間の追納期間が経過した後(特許法112条1項参照)の特許料納付という例外的な取扱いを許容するための要件であり,その文言の国語上の通常の意味,訴訟行為の追完を定めた民事訴訟法97条1項の「その責めに帰することができない事由」の解釈及び拒絶査定不服審判や再審の請求期間についての同種の規定(特許法121条2項,173条2項)において一般に採用されている解釈に照らせば,天災地変や本人の重篤のような客観的理由により手続をすることができない場合のほか,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお追納期間内に納付をすることができなかった場合を意味すると解するのが相当である
(2) この点,原告は,同条項は,当事者が社会通念上相当の注意を払っても避けることができなかった事情の存在と解釈すべきであり,かかる解釈をしても,特許権の回復のための追納ができる期間が制限されていること(特許法112条の2第1項),及び,回復された特許権の効力は,第三者保護のために制限されていること(特許法112条の3)からして,特段の不都合は生じないし,また,国際調和の観点にも合致すると主張する。

 しかし,回復が可能な期間や回復された特許権の効力が制限されているからといって,上記文言の意味と乖離した解釈が許容されるものではない。そして,「同盟国は,料金の不納により効力を失った特許の回復について定めることができる。」旨のパリ条約5条の2第2項の規定に照らせば,特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかは各締結国の判断に委ねられた立法政策の問題というべきであって,我が国の法規の文言を他国の法規の文言と同一の意義に解釈すべきとはいえない。したがって,原告の主張を採用することはできない。』