知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

臨界的意義のない本願発明の数値と技術的意義の異なる引用例の数値の対比

2013-07-03 22:11:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10165
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌


エ 相違点2の容易想到性
 前記のように,引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,その大きさも異なるものである。そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数についても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲を定めた意義とは全く異なるものである。このような静摩擦係数の意義の相違に鑑みれば,引用発明に,引用例2に記載された「ティシュペーパーと板紙との静摩擦係数0.4~0.5」を組み合わせて,本件補正発明における「ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数0.20~0.28」を導き出すことは,困難である
・・・
(ウ) 被告は,本願明細書の表2によれば,静摩擦係数と使用途中の落ち込みとの関係は明らかでなく,さらに,0.20を下限値とする根拠はなく,出願人が感覚的に設定したものであると主張する。
 本件補正発明において,ティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数を0.2~0.28とする技術的意義は,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とした取出し性に基づくものであるが,当該取出し性の改善は,静摩擦係数のみによって達成されるものではなく,本件補正発明が規定するその他の数値限定との連係によって達成されるものである。したがって,静摩擦係数単独で,機能性評価の結果と比較することに意味はない

 また,本件補正発明において,静摩擦係数の下限値0.20及び上限値0.28にどの程度の臨界的意義があるかは明らかとはいえないものの,引用例2の静摩擦係数とは技術的意義が異なる以上,引用例2に基づき相違点2に係る本件補正発明の構成を容易に想到することができるということはできない

周知例の追加を手続違背としなかった事例

2013-05-28 22:08:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10199
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実

3 取消事由3(手続違背)について
 前記2のとおり,引用文献1記載発明に,審判長が拒絶理由通知で引用した引用文献2,3に記載の周知技術を適用することによっても,本願発明の容易想到性を肯定できる。なるほど,審決は,当業者が容易に相違点3を解消することができるとの判断を示す過程で,拒絶理由通知で引用していなかった引用文献4を引用したが,これは周知技術の認定の裏付けの一つとして掲げたにすぎず,上記のとおり引用文献2によっても同一の周知技術を認定することができる

 したがって,原告に対し引用文献4についての反論の機会を付与せずに,引用文献4を周知技術の認定の裏付けとして掲げた審決に手続違背の違法があるとはいえない。よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。

明示的示唆がない場合に組み合わせの動機づけを認めた事例

2013-05-26 22:53:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10183
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
特許法29条2項 動機付け

 また,原告は,エンコーダ自体は周知技術ではあるが,引用例にはエンコーダ等によりバンドの位置を自動的に測定することについて特段の示唆はないから,引用発明に,胸部圧迫装置に係る引用発明とはその機能が本質的に相違する周知例1ないし5の周知技術を適用する動機付けを認めることはできないと主張する。

 しかしながら,引用例には,引用発明の電気モータをマイクロプロセッサ回路により制御することを示唆する記載があるところ,自動的な制御を実現するためにはバンドの位置情報を把握することが必要であることは明らかであるから,エンコーダ等の測定機器を用いることについて,動機付けを認めることができる

 また,周知例1ないし5は,胸部圧迫装置に係る文献ではないが,エンコーダに係る周知技術は,幅広い技術分野にわたるものである上,人体の一部に巻き付ける帯状物の巻付け状態を把握するという目的において共通しており,当該目的のために胸部圧迫装置に適用することを妨げるものではないし,原告が主張する機能の相違も,引用発明と周知例1ないし5との技術分野の相違に伴う用途の相違にすぎないものである。

引用例の組み合わせを否定した事例

2013-05-26 22:11:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10181
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎
特許法29条2項

 また,甲2公報に開示された上記(1)の式は,甲1発明とは異なり,電流の条件に応じた式の使い分けをするものではないから,甲2公報に開示された式を甲1発明に適用するためには,甲1発明について,電流変化の状態に応じた条件分岐を取り除く変更を行う必要があるが,このような変更を行うと,甲1発明が対象とするアーク放電による発熱についての計算を行う(3)式の適用ができなくなり,甲1発明の果たしていた機能(・・・)を達成することができなくなる

 以上検討したところに照らすと,甲2公報に開示された式を甲1発明に適用することが容易に想到し得たとはいえない。

阻害要因を認めた事例

2013-05-19 20:51:54 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
特許法29条2項 阻害要因

イ 引用発明の吊り下げ部について
 他方,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,開口以外の部分についてシールすることが記載されていないだけでなく,そもそも,不要の構成と理解される。また,仮にその不要の構成が残されているとしても,フィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋の直方体の上面上に沿うとされているから,吊り下げのために,不要な構成をあえて残し,さらに直方体の上面に沿わない構成として,吊り下げ用の空間を形成することは,引用発明における阻害要因となる。

まとまりのある1個の技術としての周知技術の認定、文言が明確でない特許請求の範囲の解釈

2013-05-01 22:38:26 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10126
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌

3 本件審決の理由の要旨
・・・
イ 周知技術2:ピストンリング手段がシリンダの噴射ノズルが取り付けられるリング領域を通過する直前の段階で,潤滑油を噴射すること(周知例3及び4)
・・・

第4 当裁判所の判断
・・・
そうすると,シリンダ油を注油することが噴射に相当するとしても,シリンダ油を噴射する時期については,ピストンリング手段がシリンダの噴射ノズルが取り付けられるリング領域を通過する直前の段階で潤滑油を噴射する構成が含まれているものの,その構成のみが独立して周知例3記載の技術の持つ課題を解決するものではないから,上記構成をまとまりのある1個の技術として周知であると認定することはできない
 したがって,周知例3によって,周知技術2を認定することはできない。
・・・
 また,被告は,本件補正発明の特許請求の範囲には「ピストンリング手段がシリンダの噴射ノズルが取付けられるリング領域を通過する直前の段階で,潤滑油を噴射する」とは記載されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではないとも主張する。

 特許請求の範囲の文言自体は,必ずしも明確ではないが,本件補正発明は,前記1のとおり,シリンダ油を特定の時間に各部に供給し,そのシリンダ油は,ピストンが上方向に移動する際,ピストンが潤滑箇所を通過する前にシリンダの表面上に分散されるようにして,シリンダ周面上にオイルを一層良く分散させ,オイルをより有効に利用することができるとともに,シリンダ寿命とオイル消費との関係を期待どおり改善することができるというものであるから,ピストンリング手段が前記シリンダの前記リング領域を通過する直前の段階でオイルミスト噴射を起動させるように制御手段が作動可能なものであると解することができる。したがって,被告の上記主張は理由がない。

動機付けや示唆がないとした事例

2013-04-10 23:14:25 | 特許法29条2項
事件番号  平成24(行ケ)10168
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文 、裁判官 岡本岳,武宮英子

すなわち,引用発明においては,・・・,使用される針は,皮下注射用の針ではなく,皮内注射に適した針であると理解される。また,引用発明は,注射器針の透過深度をコントロールするか調節するための装置を提供することを目的とし,それによって,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,主として,繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にする効果を奏するものであることが認められる。

ウ 上記の認定によれば,本願補正発明は,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,経済的合理性に対する要望にも対処することを目的(解決課題)として.皮下注射用の針を用いて皮内注射を行うニードルアセンブリであるのに対し,引用発明は,皮内注射に適した針を用いて注射器針の透過深度をコントロールするか調整することにより,皮内注射の際の患者の苦痛を緩和ないし除去することを目的とした装置であるということができる。そして,上記の引用発明の目的からすると,引用例に接した当業者が,引用発明の「皮内注射を行うのに使用する針」,すなわち皮内注射に適した針を,敢えて,本願補正発明の「皮下注射用の針」に変更しようと試みる動機付けや示唆を得るとは認め難いから,当業者にとって,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとはいえない

エ これに対し,被告は,①皮下注射用の針を皮内注射に用いることは,従来より慣用されており,「皮下注射用の針」が,大量生産され市場に広く流通しているのであれば,引用発明における「針3」として「皮下注射用の針」を選択することは,当業者が当然に試みることである,②引用発明において,内部に収容される内部円筒状ボディー6や針3の長さに合わせて,外部円筒状ボディー5の長さが決められるのであり,針3は,その全長に比して「短い長さ」分だけ表面20から突き出させて構成されるから,「針3」として,全長の長い「皮下注射用の針」を選択することの動機付けも存在する旨主張する。

 しかし,上記の引用発明の目的,及び,引用例に「・・・。」,「・・・。」と記載され(上記(1)イ ),注射を行う際の皮膚に対する押付け力はわずかなものとされていることにかんがみると,たとえ,皮下注射用の針を皮内注射に用いることが従来から慣用されている事実を認め得るとしても,引用発明の皮内注射に適した「針3」を,技術常識からみて皮膚への刺入に要する力がより大きいと理解される皮下注射用の針に変更する動機付けはなく,当業者が当然に試みることともいえない。このことは,皮下注射用の針が大量生産され市場に広く流通しているとしても同様である。よって,被告の上記主張は失当である。

相違点の数や適用すべき技術の数と容易性

2013-04-09 23:28:50 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10147
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明

4 取消事由4(本件発明の効果に係る判断の誤り)について
(1) 原告は,要旨次のとおり主張する
① 本件発明と刊行物1に記載された発明との相違点のうち,特に相違点3及び4に係る発明特定事項は容易に想到し得るものではない。したがって,それぞれの発明特定事項を採用したことによって得られる本件発明に特有な効果も予測できないものである。
② 仮に,審決がいうように,刊行物1(甲1)に記載された発明に,甲第2号証ないし同第7号証の各公報に記載の技術を適用することにより,本件発明に想到することが不可能ではないとしても,これほどまで多くの技術を適用しなければ本件発明に想到できないというのは,通常の能力を有する当業者にとっては想到が著しく困難であることにほかならない

(2) 原告の上記①の主張については,前示のとおり,相違点3及び4に係る発明特定事項は容易に想到し得るものであり,そうである以上,相違点3及び4に係る発明特定事項を採用したことによって得られる効果もまた,当業者の予測の範囲内のものというべきである。
また,上記②の主張については,そもそも,容易想到性の判断は,相違点の数や適用すべき技術の数に左右されるものではない
原告の上記主張はいずれも理由がない。

発明の奏する効果の認定事例

2013-03-31 23:00:12 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10111
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文,裁判官 西理香,知野明

(6) 本件発明1の効果について
 本件発明1は,前記(2)のとおり,反射層を白色顔料及びバインダー樹脂で形成することで,高い発光取り出し効率をほとんど減じることなく,鮮鋭性が飛躍的に向上するものである。甲1発明の拡散反射層は,前記(3)のとおり,二酸化チタン及び結合剤を溶剤中に混合分散して塗布液を調製した後,これを支持体上に塗布乾燥することにより形成するものであり,白色顔料及びバインダー樹脂で形成されているものである。
 そうすると,甲1発明も,本件発明1と同様に,高い発光取り出し効率をほとんど減じることなく,鮮鋭性が飛躍的に向上するものと認められる。

 なお,平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少ないという効果について,本件明細書には
なお,シンチレータパネルと平面受光素子面を貼り合せる際に,基板の変形や蒸着時の反りなどの影響を受け,フラットパネルデテイクタの受光面内で均一な画質特性が得られないという点に関して,該基板を,厚さ50μm以上500μm以下の高分子フィルムとすることでシンチレータパネルが平面受光素子面形状に合った形状に変形し,フラットパネルデテイクタの受光面全体で均一な鮮鋭性が得られる(【0062】)
との記載はあるが,本件発明1は,基板を厚さ50μm以上500μm以下の高分子フィルムとするものとしては特定されていない。したがって,本件発明1は,平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少ないという効果を奏するものとはいえない

 以上のとおり,本件発明1の効果と同様の効果を甲1発明も奏するものであるから,本件発明1は,当業者が予測し得ない格別の効果を奏するものであるとはいえない。

判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを必ずしも要しない場合

2013-03-31 22:54:08 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10111
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文,裁判官 西理香,知野明

(ア) 上記イの各種刊行物の記載内容から判断すると,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」は,当業者にとって常識的な事項であることが優に認められる
 原告は,審決は,何ら主張立証のないまま,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されることは,当業者にとって常識的な事項である」と認定し,これを相違点1に係る容易想到性判断の当然の前提としており,この点において理由不備の違法があるとと主張する。

 しかし,発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示す場合は,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを必ずしも要しない最高裁昭和59年3月13日第三小法廷判決裁判集民事141号339頁参照)ところ,「蒸着により膜形成を行う場合,蒸着させる対象の表面の材質,構造により膜の成長がうまくいくかどうかが左右されること」は,当業者にとって常識的な事項であるから,この点について判断を示す場合は,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することは必ずしも必要ではない。

課題が全く相違し、動機付けもないとした事例

2013-03-02 22:59:59 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10196
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,裁判官 武宮英子

 すなわち,引用発明の課題及びその解決手段は,異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で,エラストマー構成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセスに組み合わせるというものであって,本願発明の課題及びその解決手段である,エラストマーフィルムから剥離ライナーを分離,除去し,巻き上げるためのプロセスを促進する目的で,不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えることとは全く異なるというべきである
 また,引用刊行物1には,エラストマー材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と,エラストマー材を中間体の表面に配置した後,オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられるところ,前者の方法は,流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため,エラストマー層がブロッキングすることはな,後者の方法は,エラストマー材はいったん中間体の表面に配置されるものの,引き続き中間層ごと基材に圧着,転写されるため,やはりエラストマー層がブロッキングすることはないから,引用発明における伸縮性複合体の製造方法で,エラストマー構成成分を形成した後,基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはないといえる

 そうすると,引用発明における伸縮性複合体の製造方法において,エラストマー構成成分を形成後,基材に結合する前に,ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべきであり,これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは,当業者が容易に想到することではないから,引用発明から,相違点2に係る本願発明の構成である「当該エラストマー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得られ」との構成に至ることは,当業者にとっても容易ではないというべきである。

動機づけがないばかりか阻害事由があるとした事例

2013-02-27 22:33:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10166
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

 以上のとおり,引用発明1及び2と本願発明とは,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にするが,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,引用発明2及び本願発明は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたらそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反しているから,引用例1には,本願発明の本件相違点に係る構成を採用すること又は引用発明2を組み合わせることについての示唆も動機付けもないばかりか,引用発明1は,接地による荷重が掛かった際に上部辺が前後に揺れるような構成を採用しているため,これとは相反する本願発明の本件相違点に係る構成を採用することについて阻害事由があるということができ,さらに,仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,それによって本願発明の本件相違点に係る構成が実現されるものではない。
 したがって,引用例1に接した当業者は,これに引用発明2を適用して本願発明の本件相違点に係る構成を容易に想到することができたということはできない。

引用文献の組み合わせに動機づけを認めた事例

2013-02-24 20:46:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10414
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、荒井章光

 したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない
・・・
 したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

引用文献の組み合わせに動機づけを認めた事例

2013-02-24 20:46:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10414
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、荒井章光

 したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない
・・・
 したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

特許請求の範囲の解釈事例

2013-02-10 19:31:02 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

(3) 原告の主張に対して
この点について,原告は,構成要件C,G及びH,並びに本願明細書の記載を斟酌すると,本件補正発明は,外部の共通電極バイアス発生装置からのバイアス電圧と,内蔵の共通電極バイアス発生装置からのバイアス電圧をそれぞれ接続パッドに供給できるように,「接続パッド」と内蔵の「共通電極バイアス発生装置」が「第2のボンディング・パッド」に接続されるとの構成αを備えており,構成αは引用発明との相違点であるところ,審決にはこの相違点を看過した誤りがあると主張する。
 しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。

 前記のとおり,構成要件C,Gは,いずれも「第2のボンディング・パッド」と「接続パッド」との接続方法に関して規定する。構成要件Cは,「作用的に接続された」との何ら具体的な内容を有しない文言により記載されているのに対し,構成要件Gは,構成要件Cを,より具体的,詳細に規定したものと解されるから,構成要件Cと構成要件Gのそれぞれが,別個独立の特徴を持った接続方法を特定していると解することはできない。すなわち,構成要件Cと構成要件Gとは,「第2のボンディング・パッド」と「接続パット」との接続方法について,別個独立の方法を規定したものではない。したがって,本願補正発明が,構成αを要件としていると解釈することはできない。
 また,構成要件Hも,導電性被覆を駆動させる方法に関して,「前記共通電極バイアス発生装置」が「前記導電性被覆に対する一定のバイアス電圧を生成し,該導電性被覆を駆動する」と記載されているのみであり,構成αを要件としていると解釈する余地はない。
 ・・・
 なお,本願明細書の段落【0025】には,「接続パッド34は,ボンディング・パッド18の1つと作用的に接続され,先行技術の共通電極発生装置が継続して使用可能となる。それによって,超小型表示装置30が,超小型表示装置10の差し替え式代替品となる。」との記載がある。しかし,本件補正発明の内容は特許請求の範囲の記載に基づいて判断されるべきであり,前記のとおり,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載から,本件補正発明が構成αを要件とすると解することはできない以上,上記記載から,本件補正発明が構成αを要件とする旨の示唆がされていると解することはできない。また,段落【0025】の記載も,外部の共通電極バイアス発生装置も内蔵の共通電極バイアス発生装置も共に使用できるということまで開示するものではない。

 また,本願明細書の段落【0008】には,接続クリップを使用することにより発生する課題が,段落【0010】には,接続パッドをシリコン・ダイ上に配置したことにより接続クリップが不要になる旨が記載されているが,前記のとおり,本件補正発明は,接続パッドをシリコン・ダイ上に配置するとともに,共通電極バイアス発生装置をシリコン・ダイ上やその中に形成することにより,上記課題を解決しているのであって,上記各段落の記載をもって,本件補正発明が構成αを要件とする旨の示唆があると解することもできない