知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

補正前後の請求項の対応関係の判断事例

2009-08-31 00:00:01 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10432
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・
 以上,要するに,本件審決は,本件補正が自動装着機の発明についての旧請求項5を同じく自動装着機についての新請求項5及び6とするものであることを前提としているのに対して,原告は,新請求項6は,旧請求項5を補正したものではなく,旧請求項7を補正したものであると主張していて,ここに本件補正についてのとらえ方の相違がある。
・・・

(2) 手続補正書の記載からみた新旧請求項の対応関係
ア ・・・
 また,本件補正に係る手続補正書と同時に提出された補正対象を審判請求書とする「手続補正書(方式)」(甲9の2)には,補正の根拠として,「a.・・・。/b.・・・。/c.請求項5,7は,請求項1に基づき補正をしました。」との記載がある

イ 上記アの記載によると,旧請求項の数は9つであり,新請求項の数は7つであるところ,旧請求項1ないし4と新請求項1ないし4とは,いずれもそれぞれ自動装着機の作動方法についての発明,旧請求項9と新請求項7とは,いずれもシステムについての発明であるから,それぞれが対応する関係にあるものと認められる。
 したがって,さらに対応関係を検討しなければならないのは,旧請求項については5ないし8,新請求項については5及び6であるところ,前記「手続補正書(方式)」において,旧請求項8の発明特定事項である「コンポーネント(3,5,17)」を「装着ヘッド(5)」に限定した旨及び「請求項5,7」を補正した旨が記載されていることからすると,本件補正に当たっては,旧請求項6及び8が削除されているものと認められる

 そうすると,・・・,旧請求項の5及び7のいずれも削除されていないこと,その間の旧請求項6が前記のとおり削除されていることにかんがみると,旧請求項5が新請求項5に,旧請求項7が新請求項6に対応する関係にある,すなわち,その対応関係は原告主張のとおりのものであると認めることができる
 旧請求項7が新請求項6となっているのは,旧請求項6が削除されているため,その番号が繰り上がったものにすぎず,また,そうであればこそ,前記のとおり,旧請求項8が削除された後の旧請求項9が新請求項7と対応関係にあると認められるのである。新旧請求における番号の違いは,以上の対応関係の認定を左右するものではない。

ウ この点につき,被告は,旧請求項7記載の発明は,記憶装置がコンポーネントに直接接続されているメモリとして構成されていることを発明特定事項としていることが明らかであるのに対して,新請求項6記載の発明は,記憶装置がメモリとして構成されていることを発明特定事項としているものの,該記憶装置がコンポーネントに直接接続されていることについては発明特定事項とはしていないから,新請求項6が旧請求項7を補正したものであるということはできないと主張する。
 しかしながら,被告の主張は,新請求項6が旧請求項7を補正したものであること,すなわち,前記認定の旧請求項7と新請求項6との対応関係を前提として,補正の内容がその目的要件の1つである限定的減縮の場合に当たるということができない旨を指摘しているにすぎないのであり,このような主張は,旧請求項7と新請求項6との対応関係を否定した上で本件補正を却下した本件審決にはその前提となる補正内容の認定に誤りがある,との原告の取消事由1に係る主張に対する反論としては,当を得ないものといわざるを得ない。

特定の用途の組成物の実施可能要件の判断事例

2009-08-24 07:29:05 | 特許法36条4項
事件番号 平成20(行ケ)10304
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴
裁判長裁判官 滝澤孝臣


ア 特許法36条4項に定める実施可能要件
 特許法36条4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と定めるところ,本件発明のように,特定の用途(樹脂配合用)に使用される組成物であって,一定の組成割合を有する公知の物質から成るものに係る発明においては,一般に,当該組成物を構成する物質の名称及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当業者が当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該組成物を当該用途に容易に実施することができないから,そのような発明について実施可能要件を満たすといい得るには,発明の詳細な説明に,当該用途の有用性を裏付ける程度に当該発明の目的,構成及び効果が記載されていることを要すると解するのが相当である
 さらに,本件発明は,その用途として,単に「樹脂配合用」と規定するのみであるから,本件発明について実施可能要件を満たす記載がされるべきである以上,発明の詳細な説明に,酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明の酸素吸収剤を適用することが有用であること,すなわち,当該樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解すべきである

 そこで,以下,上記観点に立ち,発明の詳細な説明に,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載があるか否かについて検討する。

イ発明の詳細な説明の記載
・・・

ウ実施可能要件の検討
(ア) 以上の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明が所期する作用効果は,酸素吸収剤を樹脂に適用した際の樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生を抑制すること(以下「本件作用効果」という。)であると認められる。
 もっとも,発明の詳細な説明には,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂をエチレン-ビニルアルコール共重合体とした場合,対照品と比較して,メルトインデックス,加熱揮発生成物(加熱発生ガス)の量及びフレーバー性能において優れている旨の各実施例の記載があるにすぎない。第1図及び第2図に記載された結果も,エチレン-ビニルアルコール共重合体を用いた場合のものである。
 しかしながら,発明の詳細な説明には,本件発明の酸素吸収剤を適用するのに特に好適な樹脂(エチレン-ビニルアルコール共重合体を除く。)の例として一定の数のアミド基を有するポリアミド類が,本件発明の酸素吸収剤を適用することができるその他の樹脂の例としてオレフィン系樹脂等がそれぞれ記載されているのであって,それにもかかわらず,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂(酸素吸収剤の適用の対象となるもの。以下同じ。)については,前記したとおりであって,本件発明が本件作用効果を奏するものと確認された旨の直接の記載は一切存在しないのである。

(イ) そこで,発明の詳細な説明に,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているといえるか否かについてみると,発明の詳細な説明には,・・・・・・旨の記載(同(ケ))があるにとどまり,それ以上の記載はない。

 しかしながら,①,③及び⑥の各記載の実質は,単に結論(相違点に係る構成を採用した本件発明が本件作用効果を奏する旨)を述べるものすぎない。また,②,④及び⑤の各記載をみても,これを,酸素吸収剤を適用する樹脂の特性(化学構造等)を念頭に置いたものとみることはできないから,当業者において,これらの記載の内容が,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般についても,そのまま妥当するものと容易に理解することができるとみることはできない
さらに,発明の詳細な説明には,当業者において,銅及び硫黄が過大に存在することによる樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生を考える上で,エチレン-ビニルアルコール共重合体とそれ以外の樹脂一般とを同視し得るものと容易に理解することができるような記載は全くない。

 以上からすると,発明の詳細な説明に,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。

特許法157条2項の趣旨に照らして審決書の説示が十分でないとされた事例

2009-08-02 11:12:18 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10338
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年07月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 審決に記載された理由の概要
 審決が法29条2項に該当すると判断した理由は,前記第2の3の(1)のとおりである。すなわち,
① 本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの③において一致する。
② 他方,本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの①,②において相違する,
③ 相違点の中の,前記(1)のアの②の「案内体が1本であること」に関しては,周知例1ないし4に開示されている,
④ 相違点の中の,前記(1)のアの②の「片持ち梁であること」及び前記(1)のアの①の「直交」については,引用例発明2に開示されている,⑤ 引用例発明1と引用例発明2とは,発明の対象が共通しているから,組み合わせることが容易である,
したがって,本願発明は,特許法29条2項に該当するというものである。

(3) 判断
 本願発明は,前記(1)のアの①,②,③の各構成のすべてを備えた,一つのまとまった技術的思想からなる発明である。これに対し,引用例発明1は,その中の一つの構成である③のみを共通にする発明にすぎず,①及び②(「直交」,「案内体の本数」,「片持ち梁」)の3点については,構成を有しない。
 審決は,本願発明中の各相違点に係る構成は,周知例や引用例発明2に示されている技術であると説示している。

 しかし,審決では,本願発明と一つの技術的構成においてのみ一致し,複数の技術的構成において,実質的相違が存在し,その課題解決も異なる引用例発明1を基礎として,本願発明に到達することが容易であるとする判断を客観的に裏付けるだけの説示は,審決書に記載されているとはいえない
 とりわけ,審決は,相違点1(前記(1)のアの②の「案内体が1本であること」)に関する判断においては,「身長計」,「自動車リフトの支柱」,「燭台」等を挙げているのに対して,相違点2(前記(1)のアの②の「片持ち梁であること」,及び前記(1)のアの①の「直交」)に関する判断においては,引用例発明2を挙げているが,引用例発明2は,「2本の円柱体のガイドポスト」を必須の構成要件とするものであって,相違点1に関して容易であるとする判断の基礎として用いた周知例と相反するものであるため,周知例と引用例の相互の矛盾を説示することが求められるが,審決では,その点の矛盾に対する合理的な説明は,されていない

 以上のとおり,本件における審決書に記載された具体的な理由は,特許法157条2項が審決書に理由記載を求めた趣旨,すなわち,審決における判断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,客観的な証拠(技術資料)に基づかない認定や論理性を欠いた判断をする危険性を排除するとの趣旨に照らして,十分な説示がされているとはいえない

引用例に代わり周知例を提出する予備的主張を排斥した事例

2009-08-02 10:23:47 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10338
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年07月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

ウ なお,被告は,仮に,引用例2(甲3)が,相違点2における「案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交」する点を開示するものではないとしても,予備的に,プレス加工の技術分野においても,案内体の案内面が平面であって,その平面を,可動側型形成体が前記案内体からの張出し面に概ね直交させることは,周知であると主張し,乙4(周知例8),乙5(周知例9),乙6(周知例10)を提出する。
 しかし,被告の予備的主張は,以下のとおり採用できない。

 審決においては,本願発明と引用例発明1との相違点2に係る構成については,①引用例2発明には,「・・・」するとの技術事項が開示されているとした上で,②引用例1発明と引用例2発明を組み合わせることが容易である旨を理由中において述べているのみであって,他の引用例を示した上で,各引用例の組み合わせが容易であるか否かについて,理由を述べているわけではない。被告の予備的な主張について,本件取消訴訟の審理の対象とすることは,結果として,原告に対し,意見を述べる機会や補正をする機会を奪うことになり,妥当とはいえない。この点,乙4ないし乙6が,周知技術を示した文献であるという被告の主張を前提としたとしても,上記判断を左右するものとはいえない。

 したがって,被告の予備的主張は,採用の限りでない。

特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」の適用

2009-08-02 10:06:59 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10237
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年07月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 取消事由21(委任省令要件違反に関する判断の誤り)について
 ・・・
 当裁判所は,委任省令違反があるとした審決の判断は誤りであると判断する。以下,その理由を述べる。

 審決は,特許法36条4項1号に規定する委任省令要件について,「本件の明細書,段落0007~0009には,本件発明が解決しようとする具体的な課題が記載されている。」とした上で,「請求項1~9,11,13~14に係る発明は,段落0007~0009に記載された課題の何れにも該当しないものである。」とし,「本件の明細書は,請求項1~9,11,13~14に係る発明について,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものではないから,経済産業省令で定めるところにより記載したものであるとは認められない。」と判断した(審決書57頁30行~58頁32行)。
 しかし,委任省令違反があるとした審決の上記判断は,誤りである。

 すなわち,特許法36条4項は,「発明の詳細な説明の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と定め,同条同項1号において,「一経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。そして,上記の「経済産業省令」に当たる特許法施行規則24条の2は,「特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定めている。

 特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。
 ところで,そのような,いわゆる実施可能要件を定めた特許法36条4項1号の下において,特許法施行規則24条の2が,(明細書には)「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとしたのは,特許法が,いわゆる実施可能要件を設けた前記の趣旨の実効性を,実質的に確保するためであるということができる。そのような趣旨に照らすならば,特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」は,実施可能要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって,実施可能要件と別個の独立した要件として,形式的に解釈適用されるべきではない

 もとより,特許法施行規則24条の2の求める事項は,発明の詳細な説明中の「課題及びその解決手段」に記載される必要もなく,当業者が発明の技術上の意義を当然に理解できれば足りるのであって,明示的な記載は必要ない。
 ・・・

 審決は,請求項1ないし9,11,13及び14に係る発明が,本件特許明細書(甲18)の【発明が解決しようとする課題】の欄(段落【0007】~【0009】)に記載された課題のいずれにも該当しないことのみをもって,「経済産業省令で定めるところにより記載したものであるとは認められない。」と判断した。審決の上記判断は誤りである。
なお,本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,当業者であれば,サブリールの演出の趣向性を向上させるという課題を理解することができる。
 請求項1~9,11,13及び14について,委任省令違反があるとした審決の判断が誤りである旨の原告主張の取消事由21には,理由がある。

特許法36条6項2号の記載要件の判断事例

2009-08-02 09:28:07 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10237
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年07月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

6 取消事由24(特許請求の範囲の記載要件違反に関する判断の誤り)について
 当裁判所は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の要件に違反するとした審決の判断は誤りであると判断する。以下,その理由を述べる。
(1) 請求項17を見ると,「図柄の配置」が「図柄」と対応付けられているとの記載は,①「図柄の配置」が「図柄の配置」に対応すると記載すべきところの誤記であるか,②「図柄」が「図柄」に対応すると記載すべきところの誤記であるのか,その意味が不明確であり,その技術的意義を特許請求の範囲の記載のみからは一義的に明確に理解することができない

(2) 本件特許明細書の記載
そこで,請求項17の上記記載事項の技術的意義を理解するに当たって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌するに,本件特許明細書(甲18)には,次のような記載がある。
 ・・・
 このような本件特許明細書の詳細な説明の記載を参酌すると,請求項17における「前記各表示列の図柄の配置は,前記各メインリール毎に異なる種類の図柄と対応付けられている」との記載事項については,「図柄」が「図柄」に対応付けられているとの意味であると理解することができるから,特許を受けようとする発明が不明確であるとはいえない
 したがって,請求項17の上記記載事項の意味が不明確であるから請求項17及びそれを引用する請求項18及び19に係る本件発明は,特許法36条6項2号の要件に違反し,無効であるとした審決の判断は,誤りであるといえる。

特許法153条2項の「当事者が申し立てない理由」

2009-08-02 09:09:28 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10023
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年07月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


3 商標法56条が準用する特許法153条2項違反の有無について
 原告は,取消事由の主張イ(エ)において,「審決においては,他の食品が『元々,「コク(酷)」と「旨み」の要素が重視される商品であるのと異なり,本来的には,「辛さ」と「旨み」が主要な要素である』との独自な見解に基づく判断をし,これを理由として結論を出している。この理由は当事者が申し立てない理由であるから,商標法56条の準用する特許法153条2項により,審判長は,当事者に相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないところであるにもかかわらず,審決は,この規定に反してなされたものである。」と主張する

 ところで,商標法56条が準用する特許法153条2項において審判長が当事者に対し意見を申し立てる機会を与えなければならない「当事者が申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根拠法条の追加や主要事実の差し替えや追加等,不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなり予め告知を受けて反論の機会を与えなければ手続上著しく不公平となるような重大な理由がある場合のことを指すのであり,当事者が本来熟知している周知技術の指摘や間接事実及び補助事実の追加等の軽微な理由はこれに含まれないと解されるところ,
 審決の上記判断は,根拠法条や主要事実の変更ではなく,それまで審判手続の中で当事者双方の争点となっていた,本件商標が「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)に当たるかどうかを判断する中において,その理由付けの一つとして判断された間接事実にすぎないから,商標法56条が準用する特許法153条2項にいう「当事者が主張していない理由」について審理判断したものということできず,同項に違反するとする原告の上記主張は採用することができない。